対ドラゴンゾンビ戦1
「結局、最後に勝ったのは聖竜の方だったということか。」
大介がぼそりと呟いた。
作戦が決まってから三日間で竜峰と研究所跡の二ヵ所に罠を構築した。
その間もドラゴンゾンビの監視と追跡は行われていた。最初は相変わらず行ったり来たりを繰り返していたが、次第に竜峰側へ戻ることが多くなり、最終的には竜峰へ向かうと思われた。
最終的な目的地定まったと判断し、優太と大介は他の兵士と共に竜峰の中腹に来ていた。
千年前の聖竜とキメラの戦いは、詳細は不明だった。ただ、地力ではやはり聖竜の方が上だっただろうとアッカーマン教授も賢者ラウルも考えていた。
自分よりも強い相手に対し、キメラは複数の動物やモンスターの持っていた毒を再現して対抗したのであろう。
最終的には偶然も作用してキメラが生き残り、聖竜を捕食してその強靭な肉体を己のものとして再現した。だがその際に聖竜の意識まで再現され、キメラは聖竜に乗っ取られかけたのではないか。アッカーマン教授はそう推測した。
聖竜とキメラの戦いはゾンビになった後も続き、そしてついに聖竜が勝利したらしかった。竜峰の中腹、『竜の寝床』にドラゴンゾンビは姿を現した。
ドラゴンゾンビはフラフラと歩み寄ると、『竜の寝床』の中央で、ここが定位置とでもいうように、どさりと座り込んだ。
「今だ! 簡易封屍結界発動!」
アルベルト王子の号令と共に、仕掛けた罠が発動し、ドラゴンゾンビを簡易封屍結界の中に封じ込めた。
仕掛けた罠は単純なものだ。ドラゴンゾンビがやってきそうな範囲に細い溝を掘り、そこに結界具を付けたロープを埋設したのだ。あとは上に板を渡して蓋をし、土を被せて分からないようにした。
アッカーマン教授から提供された、簡易封屍結界を遠隔から起動するためのマジックアイテムを仕込んでおいたので、ドラゴンゾンビの毒の影響のない場所で待ち構えていた兵士がスイッチ一つで結界を発生させることができたのである。
ドラゴンゾンビが簡易封屍結界に捕らえられたところで、優太が即座に走り出し、簡易封屍結界の内側にまで入り込んで魔法を発動する。
「『聖域』!」
神聖魔法の結界術の中でも最上位の魔法であった。結界内の人間に対しては回復効果を及ぼし、毒の分解、呪いや瘴気、アンデッドの浄化効果もある。そして不浄なものの出入りを禁止する効果もあり、ドラゴンゾンビの発する猛毒を封じ込めることに成功していた。
この聖域だけでもアンデッドの出入りを封じることができるのだが、残念ながらこの魔法は効果時間が短い。優太が使っても十分ほどしか持たなかった。
その貴重な十分を無駄にはできなかった。
「総員、攻撃開始!」
アルベルト王子の号令の下、離れて隠れていた兵士が、魔導士が、神官達が飛び出す。そして簡易封屍結界の外からドラゴンゾンビを取り囲むと、一斉に攻撃を開始した。
魔導士が攻撃魔法を放ち、兵士が弓を射り、あるいは槍を投擲し、一基だけ持ち込まれた大型弩砲が手早くその場に固定され、撃ち込まれた。
攻撃のカウンターとして発動する呪いは、優太の祝福した装備が受け止め、それでも貫通してくるダメージは神官が回復して行った。結界の外に出た優太も回復役に回っている。
「Gyugaoooooo!」
全方位から雨霰と降り注ぐ攻撃に、ドラゴンゾンビは逃げることも避けることもできずに受け続ける。その間も聖域の効果で浄化され続け、さしものドラゴンゾンビも悲鳴を上げる。だがそれでも倒れない。
後先考えない猛攻も、やがて終わりを迎える。
「総員、退避!」
時間を計っていたアルベルト王子が、ギリギリ十分、聖域の効果が消える手前で退避命令を出した。
命令と同時に、全員一斉にその場を離れる。逃げ遅れれば毒にやられて大惨事である。手にした武器は投げ捨て、設置した大型弩砲も放棄して全力で逃げた。
残ったのは、勇者大介と聖女優太の二人のみ。
「ここからは、オレ達の出番だ。」
まだまだ元気そうなドラゴンゾンビを見上げて大介が言う。
「それにしても、でかいな。」
ドラゴンゾンビを見上げて、しみじみと言う優太。前回、ドラゴンゾンビの出現時には毒に倒れた人の治療をしていて、じっくりと見ている暇が無かったのだ。
「あれじゃあ、聖女ジャイアントスイングは無理だな、手が届かない。」
おい、手が届いたらやる気だったのかよ、聖女ジャイアントスイング!
「それに、あいつを見ていて改めて『世界の危機』だって実感したよ。」
「そうなのか?」
「『死者の谷』が終わっていなくて、この辺りまで影響範囲になったりしたら、あれが強化されるんだぞ。時間が経てば翼も回復して空を飛んだかもしれない。」
「うわぁ、それはヤバい。」
そしてドラゴンゾンビに殺された人もまたもれなくアンデッドとなって襲ってくる。
「じゃあ、行きますか。『防御強化』! 『身体強化』!」
そして、二人は簡易封屍結界の中へと入って行った。




