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聖女無双  作者: 水無月 黒
第二章 ドラゴンゾンビ

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勇者の実戦訓練2

 翌日の朝、勇者一行はアルムの村で訓練を行っていた。モンスター相手の戦闘訓練だけでなく、通常の訓練も当然継続して行っているのである。

 普段と違う点は、エルマギカの兵士と一緒に訓練していることであろうか。

 そしてもう一つ、普段と異なる光景も見られた。

 「フン、ハッ、ヤ!」

 「てい、やぁ、とりゃぁ!」

 優太の練習相手として、賢者ラウルが加わっていた。 聖女と賢者の肉弾戦。ぶつかり合う肉体と肉体。交わし合う拳と拳。考えてみるとすごい光景である。

 「素人っぽい動きも多いが、なかなかやるであるな。」

 玄人っぽい発言をしているが、この人いったい何の研究で賢者になったのだろう?

 「まあ、しばらく前まではほんとにただの素人だったからなぁ。」

 優太が召喚されてからまだ二ヶ月足らず。だが、トレーニングマニアから王宮騎士団との訓練を経て『死者の谷』での実線と、かなり濃密な経験を積んできた。今の優太は戦闘面でもただの力任せ以上の技術を身に付け始めていた。

 「ところで、普段から重量化(ヘビーウエイト)をかけているのであるか?」

 「ああ。それと速力低下(スロー)筋力低下(ウイークネス)も。」

 最近の優太のブームは、訓練時に大介にもかけている弱体化の魔法と、本来はノックバック防止用に自重を増加させる重量化(ヘビーウエイト)の魔法を常時自分にかける鍛錬だった。

 「ふむ、そういう訓練方法は、常時魔法をかけっぱなしだと弊害もあるのである。」

 「えっ、そうなの? 一応、体の負荷を考えてこまめに回復魔法もかけているのだけど。」

 「実際に試してみれば分かるのである。一度魔法を解除して、そうであるな、軽量化(ライトウエイト)身体強化(フィジカルブースト)を自分にかけて儂と競争してみるのである。」

 賢者ラウルは百メートルくらい先の木を指さしてそう言う。優太は言われた通りに魔法をかけ直し、百メートル走に挑む。

 用意、スタート。

 「のわぁ!」

 走り出した途端、勢い余って優太が宙に舞った。優太が空中で何もできないでいるうちに、賢者ラウルはとっとと走ってゴールしてしまう。

 「高負荷訓練でパワーやスピードは上がるが、たまには上がったパワーの使い方も練習しておかなければ、力に振り回されてしまうのである。」

 老練な賢者らしく、含蓄のある言葉だった。ほんと、普段何の研究をしているのだろう?

 「なるほど、いきなり力だけが強くなっても、使いこなせなければ意味がないのか。」

 大介が勇者の剣を使用して訓練しているのも同じ理由からだ。強い武器に持ち替えたからといって単純にその分強くなるわけではない。しっかりとその武器の特性を把握していなければ、自分や味方に害が及ぶ危険すらあるのだ。

 優太の身体能力にしても、弱体化から強化へと魔法を切り替えるような極端な変化だと、優太自身の理解が追い付かなくなる危険があるのだ。その結果が先ほどの、月面に降り立った宇宙飛行士みたいな状態である。

 「それに、重さは武器にもなるのである。気を付けないと、重さと言う武器に頼った戦い方になるのである。」

 拳を交えたせいか、ずいぶんと親しくなった聖女と賢者であった。


 その後、勇者一行はモンスター退治の訓練に出かけた。

 前回のグレイウルフが出没する森から場所を変え、今日は湖の近くにやって来ていた。ここもまたモンスターの出現する場所である。

 「モンスター、出ました! ジャイアントタートルです。」

 湖から這い上がって来たのは、大きな亀型のモンスターが十体ほど。その後方に、群れのボスであろう、体長五メートルはあるひときわでかい奴がいた。

 「周囲の小亀は我々が引き受けます。勇者様はあのでか物をお願いします!」

 ドラゴンゾンビの対策に、大介には大きくてしぶとそうなモンスターと戦ってもらおうという配慮である。

 王宮騎士団とエルマギカの兵士が素早く展開する。最近は合同で演習しているので、よく連携が取れていた。

 「それじゃ、こっちも行くか。『防御強化(プロテクション)』! 『身体強化(フィジカルブースト)』! 『速力上昇(クイック)』!」

 優太の補助魔法は、王宮騎士団、エルマギカの兵士及びボスの大亀に対してかけられた。

 「やっぱりかよ!」

 既に大介も予想済みの展開である。そうこうするうちに、小亀との戦闘が始まった。小亀と言っても体長一メートルはある。

 「今日は一味違うぞ。『防御強化(プロテクション)』! 『身体強化(フィジカルブースト)』! 『速力上昇(クイック)』! 『軽量化(ライトウエイト)』!」

 近付いてきたジャイアントタートルを蹴り上げてひっくり返しながら、優太は大介に補助魔法をかけた。賢者ラウルの助言を受け、強化した場合の訓練も必要だと考えた結果である。

 「おお、体が軽い!」

 「身体機能を数十倍に引き上げる強力な身体強化(フィジカルブースト)だ。その代り一分で効果が切れるから気を付けろ。」

 身体強化(フィジカルブースト)の魔法は、普通ならば身体能力を一割から二割程度引き上げるものだ。それ以上に引き上げることも可能だが、体への負担が大きくなるうえに持続時間も極端に短くなってしまう。それは優太が使用する魔法でも変わらない。

 優太や大介のように鍛えまくっていれば体への負担はどうにかなるが、戦闘中に突然強力な強化が切れると危険なので、通常はせいぜい二割増しで止めておくものなのだ。だが、優太はあえて超強力かつ短時間で効果が切れる魔法を使用した。

 「なんじゃそりゃ!」

 大介が大慌てで飛び出し、勢い余って空高く跳びはねた。そのままジャイアントタートルの群れを跳び越えて湖に落ちるコースである。

 「確かにぶっつけ本番でやったら危なかったな。『魔法盾(マジックシールド)』!」

 優太が、先ほどひっくり返したジャイアントタートルをメイスで殴って止めを刺しながら、大介の前方に魔法盾(マジックシールド)を出現させた。因みに、本日の優太の武器はメイスである。今回は棘付鉄球は付いていない。

 大介は、優太の作った盾を蹴って反転し、そのまま勢いをつけて大亀に勇者の剣を振るう。

 「ハッ!」

 しかし、大亀は一気に加速することで回避し、勇者の剣は尻尾を切るだけで終わった。

 「グギャアァァァァー!」

 大亀は尻尾を切られた痛みに悲鳴を上げつつ、反転して大介に向き合う。

 大介としても、硬い甲羅より頭を狙った方がやり易そうだと勇者の剣を構える。そして一気に詰め寄ろうとして、思わず踏みとどまる。

 「おいおいおい!」

 大亀の大きく開いた口に炎が灯った。そして大介に向かって一気に迸る。ブレス攻撃であった。

 「『魔法盾(マジックシールド)』! こっちの亀は火を噴くのか。ひょっとして、空も飛べるのかな?」

 優太は、別の兵士が戦っていたジャイアントタートルを甲羅ごとメイスで粉砕しながら、魔法盾(マジックシールド)を展開して大亀のブレスを受け止める。

 その隙に大介は大きく跳んで、大亀の背中に着地した。大亀の攻撃が一切届かない、ここが安全地帯だった。大介は既に、数十倍の身体強化を使いこなしていた。

 じたばたと暴れる大亀から振り落とされないように、片膝をついて結構凹凸のある甲羅を掴みながら、大介は勇者の剣を振り上げた。

 「くっ……」

 だが、そこで身体強化の効果が切れた。

 「追加の強化はいるか?」

 優太は、ジャイアントタートルを片端からひっくり返しながら、大介に聞いた。

 「いや、大丈夫だ!」

 大介は、勇者の剣を逆手に持ち直すと、大亀の甲羅に突き立てた。

 「ギャッギャッギャッギャアァァァァー!」

 暴れる大亀から振り落とされないように必死にしがみつきながら、大介は勇者の剣をさらに押し込んで行った。大亀の甲羅は強固であったが、勇者の剣の切れ味はそれ以上。

 勇者の剣がすっぽりと甲羅の中に埋まる頃には、大亀も動きを止めて事切れた。

 「お、そっちは終わったか。こっちももうすぐ終わるところだ。」

 大亀の動きが止まったのを見て、ジャイアントタートルの最後の一体の頭部を粉砕しながら、優太は声をかけた。

 大介は、勇者の剣を引き抜くと大亀の背中から飛び降りた。

 「ああ、終わったぞ。こいつらも持って帰るのか?」

 「はい。そちらの大きい奴と、状態の良いものを二、三体持ち帰りましょう。」

 答えたのはエルマギカの兵士であった。ドラゴンゾンビの影響を調べるとかで、アッカーマン教授から倒したモンスターのサンプルを持ち帰るように言われていたのである。グレイウルフも何匹か持ち帰っている。

 「そういや、こいつらは食えるのか?」

 倒したジャイアントタートルを見ながら、優太は暢気なことを聞く。

 「ええ、瘴気さえ抜けば食べられるそうですよ。ジャイアントタートルならば、結構美味いそうですよ。」

 「よし! 『浄化(ピュリファイ)』!」

 優太は最後までマイペースだった。


浄化(ピュリファイ)』は瘴気を浄化する魔法です。

アッカーマン教授がモンスターに残留した瘴気も調査対象にしていると困るので、優太が浄化したのは小亀一体だけです。

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