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聖女無双  作者: 水無月 黒
第二章 ドラゴンゾンビ

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ドラゴンゾンビ対策会議3

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 エルマギカとエルフィロソフィアの関係者が再び集まった。ただし場所はエルアカデミアではなく、アルムの村である。この先の活動はより現場に近いアルムの村が中心になるため、関係者はこちらに集まることにした。

 「記録に残る姿と能力から、聖竜は中位のドラゴンであったと推測されるのである。純白の鱗と、竜峰に出没するモンスターを退治してくれることから聖竜と呼ばれたようである。」

 この世界では、ドラゴンは上位、中位、下位の三段階に分類されている。

 下位のドラゴンは知能も低く、無茶苦茶強い猛獣的な扱いである。たまに人や家畜を襲って撃退されたりするのはだいたいがこの下位のドラゴンである。それなりの犠牲は覚悟しなければならないが、人の手で倒せない存在ではない。

 中位のドラゴンは高い知能と強大な力を持ち、人の手で倒すことはまず無理だが、あちらも人間には無関心なのでこちらからちょっかいをかけなければ襲ってくることはない。物凄い偶然が重なったり、卑怯な手段を用いたとしても倒しただけで英雄になれるが、中位のドラゴンに挑むと言っただけで愚か者になる。そんな存在である。

 上位のドラゴンは伝説伝承の存在で、神に近しい力と英知を持っていると言われている。目撃例も少なく、実態のつかめない存在だが、実在はするらしいというのがこの世界の共通認識である。

 ゾンビ化したことでどこまで能力が変化するかは不明だが、元が中位のドラゴンであれば、勇者が必要となるのも頷ける話である。

 「攻撃方法は、前肢の爪と口の牙、それから尾による一撃、炎のブレスも使うようであるが詳細は不明である。中位のドラゴンともなると、本気で戦った記録は皆無なのである。」

 中位のドラゴンが本気で暴れたら地形が変わると言われている。そんな戦闘記録の詳細が残っている方がどうかしているだろう。

 一方外見については色々と記録が残っていた。鱗は純白、大きな翼を持ち、体高は十メートルほど、尾の先まで含めた全長は三十メートルを超えると推測されていた。

 「大きいな。剣が届くのか、これ?」

 剣技特化型の勇者である大介にとっては、その大きさだけでやりにくい相手かもしれない。

 エルフィロソフィア側の調査報告が終わると、次はエルマギカ側の報告である。

 「避毒アミュレットの量産体制は整えたよ。輸送の時間を考えても、期日までに千個は届くはずサ。」

 部下にやらせたことを自分の成果のように報告するアッカーマン教授。世の中そんなものである。

 「千個分か……」

 アルベルト王子が微妙な顔をする。アルベルト王子だけでなく、エルマギカの軍関係者も微妙な顔だった。

 ドラゴンゾンビと直接対峙する兵士だけならば十分な数だろう。大きくてもドラゴンゾンビは一体だけだ。一度にそんな大人数で攻めることはできない。戦っていれば装備は破損するものだが、予備を考えても十分な数だろう。

 しかし問題となるのが、ドラゴンゾンビをその場で仕留めきれず、逃げ出された場合である。危険地域を封鎖するために広範囲に展開している兵士達、彼らの分の避毒アミュレットは圧倒的に足りなかった。ドラゴンゾンビが町の方へ向かわないように足止めすることも難しいだろう。

 「とりあえず、簡易封屍結界でドラゴンゾンビの移動を封じて、後は追加の避毒アミュレットができ次第軍の駐留地に直接送るようにするしかないか。」

 特に反対意見も出なかったので、アルベルト王子の案は採用された。

 「それじゃあ、避毒アミュレットの方はそう手配しておくワ。エルアカデミアから出荷するところで調整すれば行けるだろうサ。」

 「それでは、他の神殿にも応援を依頼して、主要な駐留地に解毒のできる神官を派遣してもらいましょう。」

 最後の発言はエルアカデミアの神殿長の者である。既にエルマギカとエルフィロソフィアの各神殿は今回の作戦に協力することが決まっていた。


 「さて、聖竜が戦った人造モンスターだが、それらしい記録があったヨ。」

 アッカーマン教授は次の資料を取り出した。こちらも実際に調査を行ったのは別のものだが、世界の危機という大義名分と、アッカーマン教授個人の権力も駆使して機密情報を吐き出させたのだった。

 「研究されていた人造モンスターはキメラ。それも、捕食した相手の能力や身体的特徴を自身に再現することで強くなって行くタイプだったようだネ。」

 「……」

 「……」

 「……」

 「それって、結構危ない奴じゃないか?」

 能天気な言動の目立つ優太でさえ危機感を覚えるほど、危険な香りのするモンスターであった。

 「そうさね、様々な動物やモンスターを取り込む度に際限なく強くなって行ったらしいネ。それで手に負えなくなって逃走を許したのか、それとも――」

 「ドラゴン相手に通用するか、あるいはドラゴンを取り込み再現できるかを試したくなってわざとドラゴンに嗾けたか、であるな。」

 やはり一番危ないのは人間の方であった。千年前の危ない研究者の思考が読めるアッカーマン教授や賢者ラウルも同じ穴の狢である。

 「ちょっと待てよ。じゃあ、ドラゴンゾンビの正体って、そのキメラの可能性もあるのか?」

 「十分あり得る話だネ。地の底に落ちた時に、キメラだけまだ生きていたら当然聖竜を捕食するだろうサ。その上で再現できるならば、全身を最強生物に変えるだろうネ。その後死んでゾンビになれば、勇者様の言う通り、正体がキメラのドラゴンゾンビの出来上がりだネ。」

 「どちらがましかは判断が難しいであるな。ゾンビ化して能力がどう変化しているか分からないであるし、キメラが再現できると言っても限度はあるであろう?」

 「能力の再現は元の六割から七割程度だったようだネ。ただ、複数の動物やモンスターの能力を組み合わせて元より強力な能力に変質することがあったらしいネ。」

 「すると最悪は、聖竜のパワーとゾンビのタフさ、それにキメラの持つ無数の能力を使ってくるであるか。」

 「勘弁してくれよ……」

 どこか楽しげに話し合うアッカーマン教授と賢者ラウルであったが、そんな相手と戦う大介にしてみれば堪ったものではない。

 「まあ、本当に最悪の場合サ。そんなに都合よく強化される方向にばかり働いたら苦労しないネ。」

 「そうであるな。たとえ能力はあっても、使いこなす知能が残っているとは思えないのである。」

 大介の不安はサラッと流された。

 「それより、毒がキメラ由来だとしても特定できないのが痛いネ。記録にあるだけでも毒持ちの動物やモンスターは沢山取り込んでいるし、逃走後に取り込まれたものは不明、千年間で絶滅した奴もいるから事前に解毒薬を作るのは無理だネ。」

 「それはどうしようもないであるな。やはりドラゴンゾンビの足を止めて被害が広がらないことに力を注ぐべきであるな。」

 「ではドラゴンゾンビの出現地点の特定を急ぐとしますかネ。早速フィールドワークのチームを編成しますか。」

 周囲の皆が、最悪を想像して恐々としている中、アッカーマン教授と賢者ラウルは淡々と次の行動を決めて行った。


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