ドラゴンゾンビ対策会議1
学園都市エルアカデミア。そこはエルマギカとエルフィロソフィアが共同で作り上げた都市であり、両国の研究機関、教育機関、図書館等を集約した知の集大成と言うべき土地である。
場所的にもエルマギカとエルフィロソフィアの両国にまたがって存在しており、学術関係だけではなく二国共同の事業などの拠点として利用されることも多い。
今回の世界の危機、第二の危機の発生場所はエルマギカの国内になるが、エルフィロソフィアとの国境からもさほど離れていない。いつエルフィロソフィア側に被害が出るか分からないため、最初から二国共同で対処することになっていた。
そのため、学園都市エルアカデミアに対策本部が置かれることになった。
第二の危機の内容も神託によりおおよそ分かっている。
時期は今から一月半ほど先。
場所はエルマギカ共和国内に位置する北方山脈の麓近辺。
そこにゾンビ化したドラゴンから現れ、猛毒を振り撒きながら暴れまくる。
それが世界の危機の内容であった。
「俺が聖女の優太です。よろしくお願いします。」
エルマギカの面々に堂々とあいさつする優太。エルマギカの人々は一瞬びくりとするものの、パニックになったり固まったりすることもなく、優太の存在を受け止めた。どうやら優太のことは事前に周知されていたらしい。
そろそろ、優太でも聖女外交なども可能になって来たのだが、「聖女外交(物理)」とかなりそうな気がするので誰も言い出さない。
「オレが勇者、大介です。よろしく。」
むしろこちらの方が危なかった。挨拶する大介を、頑張って背伸びしている子供を見るような目で見ている人がちらほら。それを感じて不機嫌になる大介。ここでマリエラ王女のように、遠慮なく「可愛い」などと言い出す人がいたら、大介はブチ切れていただろう。
エルアカデミアに設置された世界の危機対策本部では、臨時の会合が開かれていた。勇者と聖女、それにエルソルディアの面々が到着したので顔合わせと現状確認を行うことが目的である。
それぞれ主要な人物の紹介が終わると現状の確認である。第一の危機の対応で忙しかったエルソルディアの人々と異なり、エルマギカ及びエルフィロソフィアでは第二の危機に向けて一月以上前から行動を開始していた。
「ドラゴンゾンビの出現予想地域及びその周囲の戦闘の影響を受けると思われる地域の住民の避難は八割方終了済みサ。あとは今行っている調査の結果と、作戦次第で避難対象範囲の拡大を検討するくらいネ。」
「もう八割も、それはすごい。」
アッカーマン教授の説明に称賛の声を上げるアルベルト王子。エルソルディアでも第一の危機に際して『死者の谷』に近い山村の避難を進めていた。山賊の討伐もその一環だった。だが結局周辺の山村の半分ほどしか避難が進まなかったのである。国も把握していないような小さな村の避難よりも、『死者の谷』からアンデッドを外に出さないことを優先した結果ではあるが、アルベルト王子としては反省すべき点であった。
「いや、あの辺りは農耕に向かない土地だから元から住民も少ないのサ。あの辺りを拠点にしている研究者には、『研究結果がだめになっても知らんよ』と脅してやったら慌てて逃げ出したワ。」
北方山脈の北側の麓は高い山の陰になって日照時間が少ない。元より好んで人が住みたがる土地ではなかった。しかし、自身の命よりも研究成果で脅した方が効果があるあたり、研究者の性である。
「それから、猛毒を振り撒くそうだから、対毒用の装備を開発しておいたよ。」
アッカーマン教授はペンダントのようなマジックアイテムを取り出した。
「避毒アミュレットと名付けた。こいつを首からぶら下げておけば、顔の辺り空気を清浄に保ってくれるヨ。あとは鎧に祝福を施しておけば、大量の毒液の直撃でも受けない限り問題ないだろうサ。」
これがアルベルト王子の求めたものの一つだった。第二の危機では猛毒への対策ができていなければ単なる足手まといになる可能性が高かった。そして、分厚い防護服のような装備では戦闘を行うことはできない。
アッカーマン教授の開発したマジックアイテムは、世界の危機への戦い参戦するための必須アイテムだった。
「解毒薬も作っておきたいところだけど、毒の詳細が分からないと無理だね。ここは神聖魔法に頼った方が良いだろうね。」
解毒薬というものは毒の種類ごとに作られる。だから未知の毒に対する解毒薬は作れない。魔法薬というものも存在するが、汎用に効く解毒の魔法薬は一定以上の強い毒には効果が無かった。
未知の猛毒に対しては、正常な状態に戻すことで治療する神聖魔法で対処するのが手っ取り早かった。
「それから、ゾンビになった元のドラゴンについては、エルフィロソフィアの方で調べてもらっている。ちょっとと遅れているけど、じき到着するだろうから、後で報告を聞こうかネ。」
エルマギカとエルフィロソフィア合同の対策本部であるが、今この場にはエルマギカ側の人間しか来ていなかった。エルフィロソフィアの人員が遅れているのは、アッカーマン教授の魔導列車が原因である。勇者と聖女が向かうことは連絡が行っていたが、ここまで早く到着するとはほとんどに人にとって予想外だったのである。




