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聖女無双  作者: 水無月 黒
インターミッション

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32/96

王家の食卓2

・2026年4月24日 誤字修正

 誤字報告ありがとうございました。

 「『世界の危機』も大切だが、勇者様と聖女様の護衛も怠るなよ。このところ、怪しい動きをしている連中がいやがる。」

 遊び人のロベルト王子は、世間からは王族内の問題児と思われている。素行の悪い連中との付き合いがあるという噂は間違いではないが、実はそこから社会の裏の情報を吸い上げていたのだ。そういうことは、配下にやらせろよ、という点で問題児であることは間違いない。ただ、周囲が思う以上に家族関係は良好であった。

 「今から動いているとなると、破滅的カルト集団か。厄介なことだ。」

 ヘンリー王が嘆く。通常、勇者や聖女を害する意味はない。それで世界の危機への対応に問題が出れば自分や自分の身近な者にも被害は及ぶし、神の使いである勇者や聖女を故意に害すれば神罰が降ると言われている。確実な破滅を覚悟でそんなことをするメリットはない。

 稀に、勇者や聖女になる以前からの怨恨や、エルソルディア王国に対する破壊活動の一環として勇者や聖女の命を狙う者が現れる場合もあるが、少しでも理性が残っていれば世界の危機が去った後に事を起こす。

 だが、非常に迷惑なことに、世界の危機を顧みることなく勇者や聖女の命を狙う集団が現れることがある。本気で世界の終焉やら人類の滅亡を望む者や、勇者や聖女の存在が世界の危機を呼び込んでいると主張する者など理由はいろいろだが、一括して破滅的カルトと呼ばれている。

 「一番危なかったのは召喚直後だったんだが、これは無事切り抜けたとみていいだろう。」

 勇者も聖女もなった直後は一般人と大差ない。女神から授かった力を使いこなすために訓練が必要となる。特に召喚された者はこちらの世界の知識もないため隙だらけになる。ロベルト王子の言うように、狙われれば一番危険な時期だった。

 優太の場合、召喚直後に緘口令が敷かれた。割とすぐに市井に知れ渡ったが、最初のうちは優太が本当に聖女だと信じていたのは直接優太に治療してもらった人くらいだった。後ろ暗いことを考えている連中にまで情報が伝わるには時間がかかっただろう。

 大介の場合、召喚された時には既に『死者の谷』で世界の危機が始まっていた。『死者の谷』の対応で手いっぱいで、勇者の情報が出回ることはなかった。警備は手薄になっていたわけだが、それゆえ大介が王城から出ることはなかった。

 「普通ならば、真っ先に狙われるのは聖女様なんだが……」

 普通ならば、純粋な戦闘要員である勇者よりも後方支援の聖女の方が倒しやすいだろうし、聖女が無事ならば勇者を瀕死に追い込んでも回復されてしまう恐れがある。だから聖女から狙う方が順当だ。あくまで普通ならば。

 「今のユウタは、勇者様以上に死ににくいだろうな。」

 アルベルト王子が苦笑する。攻撃力こそ最近力を付けてきた勇者大介に一歩譲るが、それでも優太の格闘能力は一流戦士並みだ。その上、下手な鎧よりも防御力のある聖女の衣に身を包み、怪我も病気もたちどころに直す回復能力も持っている。毒や呪いもまず効かないし、最早どうやれば死ぬのだろうと言うレベルだ。

 「その手の連中に雇われそうな小悪党はあらかた潰した。破滅的カルト本体は小規模でたいした戦力はないだろうが、その分何をしてくるかわからん。とにかく用心するしかない。」

 裏社会の大物は、たとえ貴族や王族まで暗殺するような力を持っていても、勇者や聖女に手を出すことはない。世界が滅んで困るのは彼らも同じだからだ。

 金を積まれた程度で勇者や聖女を害する大罪に手を出すのは、将来を考える余裕もないほどに食い詰めた者か、考えの足りない愚か者、つまり小悪党のみだ。

 ロベルト王子はそうした小悪党を排除することで勇者や聖女を狙うための手段を一つ封じた。裏社会に情報を流しておけば、そちらで勝手に始末してくれる。あとは破滅的カルトの人間が直接手を下すしか方法はない。そんな危ない連中に手を貸す者はまずいないのだ。

 しかし、破滅的カルトの人間が直接出て来るとなると、それはそれで厄介であった。相手は身の破滅を覚悟で襲ってくるのだ。自爆テロ的なことをしかねない。さらに、規模が小さい集団なのでほとんど実態がつかめていないのも問題だった。構成員の面が割れていないため、どこに潜んでいるか分からない。

 「……本当に厄介だな、世界の危機に対処している最中に、人間相手にも警戒しなければならないのか。」

 破滅的カルトの目的が世界の滅亡ならば、直接勇者や聖女を狙う必要もない。世界の危機への対処を妨害するだけでも目的は達成できる。敵が漠然としすぎて対応が絞れなかった。

 効果的な対応方法がない以上、普通に警備を厳重にして、何かあった時に臨機応変に対応できるように計画に余裕を持たせるくらいしかできることはない。アルベルト王子はそう結論付けた。


 「ところで、エリザベス嬢ちゃんはどうするんだ? また、アルの婚約者に戻すのか?」

 重い話が続いたからと言うわけでもないだろうが、ロベルト王子が話題を変えた。といってもこちらも軽い話題と言うわけでもない。

 宰相の娘、エリザベス=ウォルトンはアルベルト王子の元婚約者であった。もちろん、純粋な政略結婚である。

 「ラルフの娘か……、いずれにしても、世界の危機が終わった後だな。」

 元々、ラルフ宰相とヘンリー王は学友であった。ヘンリー王がまだ皇太子だった頃の話である。王子と弱小貴族の子息、身分の差はあったがそれなりに親交はあったらしい。

 学園を卒業後、ヘンリー皇太子は王の補佐として公務を行い、ラルフは政府の役人として職に就いた。当時まだ男爵だったウォルトン男爵家の子息では政界にたいした影響力はなく、下っ端からのスタートであった。

 その後ラルフは、ヘンリー皇太子の後押しもあって、どんどん出世して行った。

 だが、ヘンリー皇太子は友人のためを思って出世させたわけではなかった。むしろ、親友(ラルフ)のことを思えば、無理に出世させるよりも放っておいた方が良かっただろう。政治的な基盤もたいした後ろ盾もなく地位だけが上がっても苦労するだけなのだ。皇太子が公務の合間に後押しする程度では、後ろ盾としては弱かった。

 それでもラルフを取り立てたのは、その能力を買ってのことだった。学生の頃から見せていた見識と政治的な能力の高さは、下っ端のままで遊ばせておくには惜しかったのだ。

 ヘンリー王が即位する頃には、ラルフも家督を継ぎ、そして地位にふさわしい功績も上げていた。ヘンリー王はすぐさまラルフを自分の側近に取り立てようとしたが、そこで再びラルフの、と言うよりウォルトン家の地位の低さが問題となった。

 ラルフ自身も職務上の功績を上げ、爵位も子爵となって貴族としての力も付けて行ったが、国王の側近となれば周囲は大貴族だ。ラルフにはまだ力及ばなかった。

 そこでヘンリー王は正式に王家がウォルトン家の後ろ盾となることを決めた。そして王家とウォルトン家の結びつきを示すためにアルベルト王子とエリザベス嬢の婚約が行われた。まだエリザベス嬢が生まれて間もない頃の話だった。

 そしてこの婚約が解消された理由もまた政治的なものである。神託により聖女召喚が決まった時に、聖女様のパートナーになれる王子はアルベルト王子だけだった。だからアルベルト王子をフリーにしておく必要があったのだ。

 幸いラルフ宰相は既にその地位を確固たるものにしており、婚約を解消してしまっても何の問題もない。当事者の感情は別として。

 だが、召喚された聖女が優太であったことでまた事情が変わってしまった。いまだにアルベルト王子と聖女様をくっつけようと考えているのはマリエラ王女とそのお仲間くらいなものだろう。

 だから、一度解消した婚約を復活させても問題ないわけであるが、

 「本人にその気があるならば、ユウタ殿に娶ってもらうのも良いだろう。」

 ヘンリー王の言う本人は優太のことを指す。神の選んだ勇者や聖女は神意の代行者であり、国王であっても強制することはできない。逆にエリザベス嬢には拒否権はほぼ無い。国のため、世界のため、それが貴族の務めなのである。

 「しかし、いくら宰相殿でもウォルトン家が聖女様を抱え込むのは、荷が重すぎませんか?」

 皇太子として仕事上でも付き合いの多いエドワード王子は、ラルフ宰相の実力はよく理解している。だが、勇者や聖女は並の貴族では対処しきれないからこそ、王家で引き取るように画策しているのである。特に優太は歴代の聖女の中でも癖の強さは最強だろう。

 「なに、その時は王家が全面的に介入するだけだ。」

 元からラルフ宰相に肩入れする気でいたヘンリー王にとっては、アルベルト王子の妻の実家でも、使命を終えた聖女様に対する支援でも、理由はどちらでもよかった。


宰相の娘、エリザベスは、聖女が優太だったことによる最大の被害者です。次点は「せめて、まともな聖女に斃されたかった」名もないバンパイア。

まともなヒロインとしての聖女が召喚されていた場合、真面目で面倒見のいい性格と空回りする情熱に婚約者を奪われたわだかまりが加わって、ヒロインに厳しく当たる悪役令嬢のポジションになる筈でした。

優太を聖女にしたことで、最初の登場以降エリザベス嬢の出て来る隙がありません。何とか再登場させたいのですが、次章でも出番はありません。

なお、マリエラ王女は「聖女の親友」ポジションです。それは聖女が優太であっても変わっていません(マリエラ王女が一方的に優太を親友扱いしている)。なので、マリエラ王女は恋愛感情抜きで優太と絡みます。

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