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聖女無双  作者: 水無月 黒
インターミッション

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王家の食卓1

食卓と言いつつ、食べ物も食事の風景も出てきません。

 エルソルディア王国の王城には食事を取れる部屋が何ヵ所かある。

 使用人や兵士達用の食堂、来賓と会食を行う部屋や、パーティー会場にもなるホール、優太や大介が寝泊まりしている客室に食事を持ち込むことも可能だ。

 そんな中、ここは王城に住まう王族が私的に食事を取る場合に使用する部屋になっていた。

 国王ヘンリー=エスト=エルソルディア。王妃ヴァネッサ。

 皇太子エドワード。皇太子妃ティアーヌ。

 第二王子ロベルト。

 第三王子アルベルト。

 第四王女マリエラ。

 なお、マリエラ王女の姉達は既に嫁いで行ってしまったので、王城にはいない。よって、以上七名が王城で暮らしている王族になる。

 アルベルト王子が『死者の谷』戻って来たことで、久しぶりに全員集合していた。

 「ところで、勇者様の様子はどうだ?」

 私的な場なので、ヘンリー王の質問は国王としてではなく父親としてのものだ。しかし、一家団欒の話題であっても、国家機密やら世界の行く末に関わるのは王族ならではだ。

 「ユウタも付いているし、順調ですよ。全力でやれば、もうユージンよりも強いんじゃないかな。」

 すかさずアルベルト王子が答える。下手にマリエラ王女に発言を許すと「とっても可愛いです!」などと言い出しかねなかった。そこに女性陣が乗って来ると、しばらくは男に発言の機会が無くなるのだ。

 「ユウタ殿か。最初は男の聖女様と聞いてどうなることかと思ったが、予想以上に優秀だったようだな。」

 聖女らしからぬ言動の目立つ優太ではあったが、聖女としても、ヘンリー王が唸るほどに優秀なのだ。そして、その聖女らしからぬ部分も優秀で有益なことが証明された。

 「ええ、ユウタでなければ、『死者の谷』の件はまだ終わっていなかったでしょう。」

 優太の優秀な聖女の力と規格外の身体能力。どちらが欠けても『死者の谷』の早期解決は困難だっただろう。

 「『死者の谷』か……、時期が早まったと聞いたときは、責任を取って退位することになるかと思ったぞ。」

 エルソルディア王国は世界の危機への対応を主導する国家として、他国に対しても大きな権限と影響力を持っている。その分、世界の危機への対処に失敗した場合の責任も大きいのだ。

 「父上、退位なさるのは構いませんが、世界の危機が終わってからにして下さいね。」

 エドワード王子は釘を刺した。そんな最悪な状況で王位を押し付けられても困る。しかし、王族の私的な場だからこそできる、部外者に聞かれるとヤバい会話だった。

 「そういう意味でも迅速に解決してくれたユウタ殿には感謝ですね。女神さまもこれを見越してユウタ殿を遣わしてくださったのでしょうか。」

 状況的にそう思ってしまうのも無理のないことだが、エドワード王子は女神イシスを買いかぶりすぎである。いや、女神の役割を誤解していると言うべきか。女神イシスは人の意思に干渉しない。だから未来は変えられる。世界の危機に対して必要な情報と対処するための能力は与えるが、それを活かすも殺すも人間側の問題なのだ。

 優太がいきなり体を鍛え始めたところに神の意志は全く関わっていない。

 「けれど、ユウタ一人に負担をかけてしまった。私は思うのです、もっとやりようがあったのではないかと。」

 「しかしアル、『死者の谷』に関しては最善を尽くしたと思いますよ。時期が早まってからは他に打つ手がありませんでしたし、それ以前はそもそも時期が早まることなど知りようがありません。何を言っても結果論です。」

 今回、作戦を立案し兵を動かしたのはアルベルト王子であったが、そのための予算や人員の遣り繰りにはエドワード王子が大きくかかわっていた。だからエドワード王子は、ある意味アルベルト王子以上に作戦の全体像を把握していたと言ってよい。

 例えば、事前に多くの兵力を『死者の谷』に送り込んでおけば、今回の戦いの初動がだいぶ楽になっただろう。しかし、それではあちこちに無理がかかり、最初の神託通りに推移した場合にトータルの戦力が少なくなってしまうのだ。

 「ですが、最初に立てた作戦は、『神託の通りに危機が発生し、聖女様の手で終息する』ことを前提にしていたと思うのです。『死者の谷』の警備を厳重にしておけば、結界の消失が早まることを防げたかもしれないのに、検討もしませんでした。」

 今回神託の未来が変わったのは、山賊達による人為的なものだ。ならば、人の手で防ぐ手立てもあっただろう。

 「ふむ、我々は少々神託や聖女様に頼りすぎていたということか。ならばアルよ、それを踏まえて次の『世界の危機』にはどう対処する?」

 ヘンリー王もアルベルト王子の言葉を重く受け止めていた。その上で重要なのは、反省をどのように次に活かすかだ。

 「まず、予定を前倒しして現地入りします。そして、『死者の谷』で起こったことを全て公開して作戦を練り直します。」

 これは、かなり大胆な提案であった。世界の危機のためとは言え、自国内で発生した問題の詳細を公表してしまうというのは、本当ならばあまりやりたいことではない。下手をすると他国から軽んじられたり、外交上の弱みになったりする危険もある。

 「第二の世界の危機はエルマギカです。彼の国の技術者に協力を依頼して、王宮騎士団の装備を強化したいと思います。」

 大魔導士の国、エルマギカ。数多くの優秀な魔導士を擁するこの国は、同時に最先端のマジックアイテムを開発する技術大国であった。

 「だが、あの国の技術者は面倒だぞ。そう簡単には言うことを聞いてくれまい。」

 当然だが、ヘンリー王もその辺りは考慮していた。既に交渉済みで幾つかの有用なマジックアイテムも融通してもらうことも決まっている。それ以上のものを出させようとすれば、最先端の開発を行っている魔導士や技術者に直接交渉するしかない。だが、エルマギカで一流の技術者は揃って癖の強い者達ばかり。交渉するにしても一筋縄ではいかなかった。

 「そういうことでしたら、(わたくし)にお任せください。優秀な技術者には心当たりがございます。」

 そこで予想外の人物が名乗りを上げた。マリエラ王女である。アルベルト王子はエドウィン魔導士長の伝手を頼る予定だったので、これには驚いた。

 「マリーのお友達かよ。」

 嫌そうな顔をしたのは、ロベルト王子である。彼はマリエラ王女の趣味を知っていた。エルソルディア王国の第二王子にして遊び人と名高いちょい悪王子、彼は世の中の裏の事情に詳しかった。その流れで世界の裏に広がるサブカルチャーとそこにどっぷりと浸かっているマリエラ王女の存在にも気が付いていた。

 「彼女はとても優秀な技術者ですから、聖女様や勇者様の情報を渡せば喜んで協力してくれるでしょう。」

 聖女や勇者はマジックアイテムの技術者にとっても興味深い存在であり、『聖女の衣』や『勇者の鎧』といったアーティファクトを直に目にすることができるとなれば協力する気になる者もいるだろう。

 マリエラ王女の仲間である以上、興味を引くのは技術的な要素に限らない。ロベルト王子はそのことに気が付いていたが、黙っていた。技術者が仕事をしてくれれば問題ないし、何よりマリエラ王女の趣味に関わりたくなかったからだった。


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