勇者召喚
ここからは、第一の世界の危機終結から、第二の世界の危機への対応が始まるまでの間の話になります。
「ユウタ、帰って来て早々で悪いが、ちょっと付き合ってくれないか。」
優太達は王都に戻ってきていた。『死者の谷』では『大結界』を張り直した後、二日間滞在して結界に異常がないことを確認し、それから戻って来た。
帰りは急がないので、馬車で五日かけて王都まで戻って来た。往きの馬車で四日と言うスケジュールも、かなりの強行軍だったのだ。
王城に着くと、アルベルト王子は先に報告に向かった。そして戻って来るなり先の台詞である。
別に、デートのお誘いではない。
「我々が『死者の谷』へ行っている間に、勇者様が召喚されたんだ。一度顔合わせして欲しい。」
優太がアルベルト王子に連れられて王城に一室に入ると、相手方は既に来ていた。
マリエラ王女の隣の小柄な少年、彼が勇者で間違いないだろう。
勇者と思しき彼は、優太が入って来るとぎょっとした。それはそうだろう、巫女服に身を包んだ男が現れたのだ。
もっとも、巫女装束は聖女の衣のデザインの中ではおとなしい方である。言ってみれば単なる和服、細かいところを気にしなければ男女兼用も可能だ。
問題は、「聖女を紹介する」と言われて、明らかに日本人っぽい男が出てきたことだろう。彼は、思わず辺りを見回す。うん、気持ちはわかるぞ。
こうしていても、話は進まない。そう思った優太は口を開いた。
「俺が聖女です。」
堂々と言い放つ。もう、慣れたものであった。
少年は驚きに目を見開くと、優太を指さして叫んだ。
「詐欺だー!」
取り乱す少年に、しかし周囲の目は暖かかった。ある種見慣れた光景である。優太などは、「即座に叫ぶとは、さすがは勇者、他の人と反応が違う。」などと変なところで感心していた。
「マリー、勇者様には話していなかったのかい?」
問いかけるアルベルト王子に、
「はい。直接見ないと納得できないと思いまして。代わりに過去の勇者様と聖女様の恋愛話をたくさんお聞かせしました。」
しれっと答えるマリエラ王女。おまわりさん、こいつが犯人です!
勇者の召喚は、優太が『死者の谷』に到着した翌日、結界を張り直したその日に行われた。
正しく言えば、勇者召喚の準備はもっと前、優太の訓練と並行して行われていた。実際に勇者が召喚されたのがその日と言うことだ。
アラン神殿長やエドウィン魔導士長が『死者の谷』へ同行しなかったのはこのためだ。準備期間ならばともかく、召喚の本儀式にはこの二人が不可欠だった。
本来ならば、ギリギリで第一の危機に間に合うはずだった。状況が許せば、神殿長も魔導士長も、召喚された勇者も揃って『死者の谷』へ向かうことが考えられていた。
『死者の谷』のアンデッドは数が多いだけで雑魚ばかり。勇者の力は必要とされていなかった。だがそれ故に、勇者が最初に戦闘経験を積むにはちょうど良いと考えられた。
しかし、そういった諸々の予定は危機の到来が早まったことで崩れた。危機の到来が早まっても、勇者召喚の儀式を前倒しで行うことはできない。そして、延期することもできなかった。
『死者の谷』の事件は確かに世界の危機だ。しかし、世界の危機はそれだけではない。勇者の召喚は予定通りに行わなければならなかった。
勇者召喚に立ち会った人は、聖女召喚の時とほぼ同じメンバーだ。ただ、王族代表としてアルベルト王子の代わりにマリエラ王女が立ち会っている。
彼らは聖女の、つまり優太の召喚を経験して大きく成長していた。もはや、少々の異常では動じることはないだろう。
だから、召喚陣に現れた人影がずいぶんと小柄だった時も平静だった。女勇者くらいなら想定の範囲内だった。
現れた勇者が、小柄な少年だと分かった時、むしろ拍子抜けしたくらいだ。一部がっかりした者もいたようだが。
だが、この時平静でいられなかった者が一名いた。マリエラ王女だ。
「きゃぁ~、可愛い~~!」
召喚の間に黄色い歓声が響き渡った。ラルフ宰相が言葉を発する暇もなかった。
これが、勇者のコンプレックスにピンポイントでぶっ刺さった。
「誰が小学生にしか見えないちびガキだ! コンチクショウー!」
誰もそんなこと言っていない。そんな突込みもいれられないほどにブチ切れていた。
勇者は荒れに荒れまくった。
このままではせっかく召喚した勇者の協力を仰げないのではないかと、その場にいた皆が危惧するほどに荒れた。
優太が『死者の谷』で世界の危機を対処していたそのころ、こんなところでもう一つの世界の危機が発生しようとしていた。
この時、荒れる勇者をどうにか宥め、協力を取り付るまでもっていった宰相は神懸かっていたという。
もう一つの世界の危機は、『弁舌の騎士』の手により人知れず回避されたのであった。
勇者がここまで荒れたのには理由がある。その理由を知るためには、彼について知る必要がある。と言っても内面深くまで切り込む必要はないのでご心配なく。
彼の名前は青木 大介。身長156センチメートルの小柄で童顔な十八歳である。
そう、低い身長と幼く見える顔から実年齢より低く見えるが、彼は高校三年生だったのだ。優太と比べても二歳しか差がない。
だから、ここで一つ訂正しておこう。彼は「小柄な少年」ではなく、「小柄な青年」と呼ぶべきであった。お詫びとともに訂正いたします。ペコリ。
もう、お分かりであろう。彼にとって、背が低いこと、実年齢より年下に見られること、子ども扱いされることがコンプレックスなのだ。特に、それらすべてを連想させる「可愛い」は禁句であった。
なかなか難儀な勇者が現れたものだ。まあ、男聖女の優太ほどではないだろうが。




