閑話 その後の山賊達
「ところでユウタ、後ろの人達は何なんだい?」
アルベルト王子が優太が連れだした男達に気が付いた。『大結界』の外に出られたのだからアンデッドでないことは確かだが、単独で乗り込んだ優太が人を連れ帰るというのは想定外の出来事だった。
「ああ、『死者の谷』の真ん中辺りにいたから連れて来た。変なアンデッドに操られていたらしい。」
優太にとっては、何故か現地にいた要救助者であり、操っていたバンパイアは変なアンデッドに過ぎない。
しかし、周囲の反応は違った。
「「「何だって!」」」
その場にいた全員の視線が男達に集中した。特にニール隊長以下、『死者の谷』の戦いに最初から参加していた者たちの視線が厳しい。
山賊の頭目は優秀な男だった。頭も切れるし機転も効く。しかし、九死に一生を得て気が緩んだのだろう、ここで痛恨のミスをした。優太が無事帰還し、皆が喜んでいるこの一瞬しか逃げ出すチャンスはなかったのだ。
「その話、ちょっと詳しく聞かせてもらおうか!」
男達は、殺気立った兵士に囲まれ、否応なしに連れていかれた。
「つまり、お前たちは、うっかり『死者の谷』に、迷い込んで、バンパイアらしきアンデッドに操られて、結界壊す手伝いをさせられていたと、そう言うんだな。」
「は、はいっ。」
「それでどけだけ迷惑が掛かっているのか、分かっているのか! 世界の危機だぞ! お前、世界を滅ぼしたいのか、こらぁ!」
山賊の頭目は、他の仲間と引き離され、一人で尋問を受けていた。狭い部屋の中、複数の兵士に囲まれ、何時間も怒鳴られ、小突かれ、何度も同じ話をさせられていた。
それでも、山賊の頭目までやった男だ、頑張った。頑張って山賊だったことだけは自白しなかった。あくまでアンデッドに操られた被害者を装った。
「まあまあ、術で操られていたということだし、彼だって好き好んで世界を滅ぼしたかったわけではないでしょう。」
そこへ、別な兵士が声をかけ、先の兵士をなだめる。
「はいっ、どうしても逆らえなかったんです。」
あくまで被害者を装い、同情を引こうとする山賊。だが、
「しかぁーし、『死者の谷』に入り込んだのはお前たちの落ち度だ。ここが立ち入り禁止なのは、この辺りじゃ子供だって知っている。それがどーして結界の中にまで入ってるんだよ、オラ、オラァ!」
いきなり殴りだす兵士。こちらもしっかりブチ切れていた。
自分達のことを地元の猟師だと言ったのもまずかった。地元の人間ならば『死者の谷』に近付いてはいけないことを子供のころから教え込まれるし、山道をよく知る猟師や樵ならば、いくら迷っても結界の中まで入り込まない。
しかし、追手以外の兵士に遭った場合用に用意していた設定はこれしかなかった。今からでは、仲間と口裏合わせをすることはできない。
「おやおや、いけませんよ。」
その時、部屋に神官が入ってきて、男に回復魔法をかけた。
「神官様! 助けてください。」
山賊は神官に助けを求めた。しかし、神官は男を顧みない。
「死んでしまったら神聖魔法で生き返らせることはできないのですから、気を付けてください。それから、部分欠損は聖女様でなければ治せません。大役を果たしたばかりの聖女様に余計な手間を掛けさせないでくださいね。」
にこやかに笑みをたたえる神官は、目が据わっていた。山賊の頭目は、恐怖した。
ここにいる兵士も神官も、一日目の壮絶な夜を戦い抜いた者達だ。その怒りと恨みは限界突破して男達に向いていた。
「こら! お前達、何をしている!」
その時、また一人新たな人物が部屋に入ってきた。
「助けてください、殺され――ひっ!」
助けを求める声が、途中で悲鳴に変わった。入って来たのはニール隊長だった。その目は血走り、全身から殺気を放っていた。
一小隊の隊長に過ぎないのに、絶望的な戦いの総指揮をやらされた彼は、危機の到来が早まったことによる最大の被害者だろう。
「そういうことをするなら、ちゃんと俺も交ぜろ。」
凄みのある笑顔で言うニール隊長。山賊の頭目はこの時、死を覚悟した。
その時さらに新たな兵士が部屋に入ってきた。
「あ、やっぱり。こいつです。俺達が追っていた山賊。途中で見失ってまさかと思ったけれど、『死者の谷』に逃げ込んでいたんだ。」
彼は、山賊退治に向かった兵士の一人だった。『死者の谷』の状況が切迫したため、山賊の残党の捜査を切り上げて、二日目の朝に合流した一人であった。
頭目の頑張りもむなしく、正体がばれた。これで男達を殺してしまっても何の問題なくなった。だが、ニール隊長は命令を下す。
「絶対に殺すなよ。全世界の人に向かって謝罪させなければならない。」
「ひえ~~」
山賊の頭目は、得体のしれない恐怖に震え上がった。
「お前たちには自分の犯した罪の重さを魂の髄まで叩き込んでやる。今から世界中の人々に詫びる練習をしておくんだな。」
山賊達はその後三日三晩、兵士や神官が立ち代わり入れ替わりやって来て責め続けた。頭目だけでなく、五人の男達全てが同じ目に遭っていた。
『死者の谷』から護送されて出ていくとこには、全員精も根も尽き果てて真っ白になっていたという。
彼等はこれから裁判にかけられる。これまでの経緯からすれば、アンデッドに操られた被害者ではなく、私利私欲から世界を危機にさらした大罪人として扱われるだろう。その上これまでの山賊としての罪も加わる。
極刑は免れないだけでは済まない。見せしめのため、考えられる限り最も残酷な方法で処刑され、死後も晒し者にされるだろう。
そんな運命が待っているにもかかわらず、彼らはむしろほっとした様子で、喜んで護送されていった。
山賊達を護送した兵士達は、『死者の谷』でよほど恐ろしい目に遭ったのだろうと囁き合った。
その予想は正しい。何者によって恐ろしい目に遭ったかは別として。
第一章はこれで終了です。
第二章は鋭意執筆中。しばらくお待ちください。
第二省との間に何話か入ります。




