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聖女無双  作者: 水無月 黒
第一章 死者の谷

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聖女爆走

 「さて、邪魔なアンデッドも倒したし、さっさと仕事をしますか。」

 優太はすっくと立ちあがった。目が回り気分が悪くなったのは、聖女の衣の回復機能ですぐに治った。無茶苦茶便利なのだが、この機能をオンにしておくと、酒を飲んでも酔えないのである。そう聞いた優太は、普段この機能をオフにしていた。

 決死の覚悟で聖女に挑んだバンパイアだったが、優太からすれば、ちょっと頑丈なアンデッドがいたな、程度の認識であった。そして、頑丈そうなアンデッドだから新技の実験台にしたのだった。

 アルベルト王子からは、想定外のことが起こったら引き返すように言われていたが、『死者の谷』にアンデッドがいることは当然なので引き返す必要性を感じていなかった。

 つくづく報われないバンパイアであった。

 優太は『死者の谷』の中心に向かった。そこには真っ二つに折れた聖女の杖があった。そしてその下で作動する魔法陣の強大な魔力の流れ。そこが中心地であることは優太にもすぐに分かった。

 優太は、地面に突き刺さっていた聖女の杖の下半分を引き抜いた。折れて転がっていた上半分も拾い上げる。

 「さすがに、これはもう使えないか。」

 折れた杖は魔法の媒体としてはもう使えなかった。たとえ折れていなくても、劣化してボロボロなのだ。無理やり使ったとしてもすぐに壊れてしまうだろう。

 優太は折れた杖をリュックにしまうと、少し考えた。リュックの中には代わりの杖も用意してある。当時の資料を基に同じような杖を用意してあった。

 組み立て式の杖で、使わないときは分解して小さくなるためリュックに入れることができた。その分強度は落ちるので、打撃武器というよりも魔法の補助としての役割が大きそうだった。

 優太には、その杖が頼りなく思えた。古い杖の折れた個所は、ちょうど杖を組み立てる際の継ぎ目の部分だった。新しい杖でも同じ部分が弱点になるだろう。まあ、後五百年もつならそれで問題ないはずではあるが。

 「こいつでいいか。」

 優太はモーニングスターを拾い上げると、棘付鉄球の部分を『死者の谷』の中心、魔法陣のど真ん中の地面に勢いよく突き刺した。

 そして、リュックから取り出した紙きれのような物をモーニングスターの持ち手の部分に巻き付けた。この紙切れは、この日のために開発された、『封屍結界(アンデッドシール)』を発生させるための使い捨てのマジックアイテムだった。このマジックアイテムを開発する副産物として簡易結界の結界具が開発された。

 そして優太は、魔力を込めて結界魔法を発動する。

 「『封屍結界(アンデッドシール)』!」

 聖女の膨大な魔力を呼び水に、直下の魔法陣から魔力を奪い取ることで結界魔法は発動する。すると、巻き付けた紙切れが燃えて無くなった。このマジックアイテムは結界を発動するためのもので、これで正常動作だった。出来上がった結界は、魔法の媒体、つまりモーニングスターが魔力の通り道となることで維持される。

 神聖魔法以外は素人の優太は、『屍者大行進(アンデッドパレード)』の魔法陣についてはでかい魔力が流れていることくらいしか分からない。しかし、『封屍結界(アンデッドシール)』の方ならば、モーニングスターに大量の聖属性の魔力が流れ、結界が発動していることは理解できた。

 「よし、うまく行った。」

 あとは結界の外に出るだけだった。

 優太は、スタスタとその場を離れ、

 「ここから脱出しましす。一緒に来てください。」

 自分が殴り飛ばした男達に声をかけた。優太は男達が山賊だとは知らないし、自分よりも年配なのでちょっぴり丁寧な言葉遣いだった。


 「あのー、これはいったい何なのでしょう?」

 山賊の頭目が、恐る恐る優太に声をかける。人に恐れられた山賊とは言え、この場ではただの一般人だ。『死者の谷』のど真ん中から抜け出るには優太に頼るしかない。

 男達は今、優太を先頭に一列に並んでいた。そして彼らの周囲をぐるっと一周、男達の手に支えられてロープが渡されていた。

 「このロープは結界だ。この内側にいればアンデッドは入ってこれない。『簡易結界』! ついでに『身体強化(フィジカルブースト)』!」

 優太が魔法を発動すると、ロープに魔力が走り、簡易結界が出来上がった。

 優太一人ならば『領域浄化(ホーリーフィールド)』の魔法でどうにでもなる。しかし同行者がいる場合はそれだけでは不安があった。五人くらいならば魔法の範囲内に入れられるが、アンデッドを完全に無効化できるわけではないし、パニックを起こして飛び出されたら庇いきれない。

 そこで、簡易結界でアンデッドを退けるとともに、男達がバラバラにならいように一纏めにしたのである。

 そういう訳で、ふざけているのでも遊んでいるのでもないのだ。見た目がちょっと情けないからと言って笑ってはいけない。優太だって気にしていない。

 おや、優太が小声でなにかぶつぶつ言っている。

 「……ここは異世界……電車なんて存在しない……電車ごっこなんて存在しない……」

 ちょっとは気にしていたようだ。だが、自己暗示をかけ終わると、優太はすぐに気持ちを切り替えた。

 「それでは出発する! 死にたくなければ死ぬ気で付いてくるように!」

 最初の丁寧な言葉もどこへやら。優太はハイテンションで乗り切ることにしたらしい。いきなり簡易結界ごと走り出した。

 優太はさらっとやってのけたが、ここに神官か魔導士がいたら目を剥いただろう。本来、結界魔法は場所に固定して設置するもので、移動型の結界というのは前代未聞だった。幸か不幸か男たちは魔法には詳しくなかったため、その異常性には気が付かなかった。と言うか、それどころではなかった。

 「うわぁっ、ちょっ、速っ、……あれ、体か軽い。」

 男達は焦った。ここで優太に置いていかれたら、アンデッドの仲間入り間違いなしだ。必死になって優太の後に続いて走った。そして気が付いた。凄い勢いで走る優太に問題なくついて走れていることに。

 優太は男達に、脚力を強化するために身体強化の補助魔法をかけていた。大雑把に見えて、優太は意外と気配りのできる男であった。

 しかし、男達の心労はこれで終わりではない。

 「ま、前、前、ゾンビ、ゾンビがぁ!」

 まともな言葉になっていないが、言いたいことは分かる。先ほどバンパイアが嗾け、優太にあっさりと躱されたゾンビの集団。支配していたバンパイアが斃れた後も惰性でそのままゆっくり進んでいた。優太が走り出したため、そのゾンビの集団に追いついてしまったのだ。

 しかし、優太は方向転換も、速度を落とすことすらせず、そのままゾンビの集団へ突っ込んで行った。

 「どりゃぁ、聖女百裂拳!」

 やっていることは、左右の拳を交互に繰り出して行う高速『聖女パンチ』である。だが正直、ゾンビ相手にはオーバーキルであった。優太の拳が顔に当たれば頭が吹き飛び、胸に当たれば大穴が開く。そして残った部分のすぐに崩壊して塵と化すから、たとえ拳の当たった場所が腕であっても、ゾンビはそのまま消滅して逝った。まさに一打必滅。たちまち優太の手の届く範囲からゾンビはいなくなった。これを速度を落とすことなく走りながら行っているのである。周囲のゾンビが優太達に気付いて近寄ろうとしても、既に走り去った後であった。

 因みに、簡易結界のロープは魔力で固定されているので、手を放しても落ちない。

 「無茶苦茶だよ、この人~~」

 優太の後ろで男達が叫ぶ。確かに無茶苦茶だ、だが実は合理的な方法だった。『死者の谷』の中ではどちらに進んでもアンデッドとの遭遇は避けられない。ならば、最短距離を最速で走り抜けるのが一番遭遇率が下がるのだ。

 男達の悲鳴を背に、優太は躊躇せず駆け抜けていった。


 アルベルト王子は優太の侵入して行った『死者の谷』の中心方向をじっと見ていた。自分の立てた作戦であり、十分に可能であると確信してはいるが、心配なものは心配なのだ。

 直線距離ならば谷の中心までそれほど離れているわけではない。しかし、草木が生い茂っているし、地形も平坦と言うわけではない。目を凝らしても中の様子は見通せない。

 しかし、しばらく見ていると谷の様子に変化が現れた。

 「これは! ユウタ、成功したのか?」

 そこへ、ニール隊長が飛び込んできた。

 「『大結界』の発生を確認しました! 『死者の谷』は、再び封印されました!」

 吉報に沸き立つ兵士たち。だが、アルベルト王子はそれを制する。

 「まだだ。喜ぶのはユウタが戻ってきてからだ。」

 少々神経質に思えるかもしれないが、歴史上、稀にあるのだ。己の身を犠牲にして世界を救う聖女が。

 そして再び待つこと暫し。アルベルト王子だけでなく、兵士達も神官達も固唾をのんで見守る中、ついに現れた。土煙を上げて走り来る人影。人影は見る間に大きくなり、『大結界』の境界を越えて飛び出してきた。

 優太、無事に生還である。

 「お帰り、ユウタ。お疲れさま。」

 労うアルベルト王子。

 「おう、ただいま。結界はどうなった?」

 「大丈夫、ちゃんと復活した。『死者の谷』の危機は、無事回避された!」

 「よっしゃぁー!」

 拳を振り上げて喜ぶ優太に、兵士達も神官達も追従する。

 谷は今度こそ歓声で溢れ返った。


死者の谷の戦いはこれで終了です。

ですが、第一章はおまけでもう一話あります。

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