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聖女無双  作者: 水無月 黒
第一章 死者の谷

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三日目

 朝になった。

 優太の張った簡易結界は一晩何の問題もなくアンデッドを封じ続け、今尚壊れる気配はない。

 本来、大規模な簡易結界というのは長時間持たない。結界が長くなるほど不安定になり、魔力の消費が激しくなるからだ。『浄化柱』は神聖魔法を安定させる効果があるが、それでも結界具だけで『大結界』の周囲を覆えば一晩持たなかっただろう。

 ならば、短く張った簡易結界を並べればよいのではないか? と思うかもしれないが、それは無理だ。アンデッドが通り抜けられないほど簡易結界を接近させると、互いに干渉して一つの結界として動作してしまうのだ。

 優太の張った簡易結界がいまだに消えないのは、一つはそれだけ優太の込めた魔力が大きかったということ。もう一つは、結界具のバラツキを(なら)して結界全体が均一になるように優太が調整し、簡易結界全体を安定化したことが理由だ。どちらも聖女でなければできない所業だった。

 優太の張った結界と、王宮騎士団が見張りを請け負ったことで、兵士達はぐっすりと眠れたことだろう。


 さて、王都から『死者の谷』まで四日間、本来ならばこの日の午後に到着するはずだった優太が、何故前日に現れたのか? その理由もまた優太にあった。

 王都を出発する前から、優太は馬車の中で武器の祝福を行っていた。それはもうひたすらに、黙々と、飽き飽きしてもなお作業を続けた。面倒で死にそうな気分になっても頑張って続けた。

 そして、その日の夜までかけて最初の馬車の武器を全て祝福し終えたころ、優太はついに複数の武器をまとめて祝福できるようになった。誰もそんな方法を教えていないので、優太が新しく開発したと言ってよい。

 優太は楽をするためには努力を惜しまない男だった。

 そこから先は速かった。翌日早々には残る三台の馬車に積まれた武器を全て祝福し終え、手の空いた優太は今度は馬車を引く馬の回復を始めた。

 武具を満載した馬車を引く馬には負担がかかる。無理をすれば馬の脚を痛める。それでも早く到着できるように要所要所に替えの馬を用意していたが、限度はある。

 だが優太が回復することで多少の無理が効くようになった。その上、優太は体力も回復させることができる。ついでとばかりに、優太は馬に筋力アップや速度アップ、馬車に軽量化の魔法など補助魔法をかけまくった。

 その結果、馬車の速度は大幅にアップ。休憩や馬の交代も最低限で済み、これだけで半日は行程が早まった。

 そしてレガリア地方に着くと、優太は馬車を降り、王宮騎士団と道案内用に現地の兵士一人を連れて、馬車の通れないショートカットを駆使して徒歩で――いや、全員に補助魔法をかけて全力疾走で『死者の谷』へと向かったのだ。

 こうして、優太が聖女の力をフル活用したおかげで、一つの危機を乗り越えることができた。

 途中で分かれたアルベルト王子と兵士や物資を搭載した馬車も既に到着している。

 後は、優太が『死者の谷』の中心へ行って『大結界』を張り直せば任務完了だ。今回、『死者の谷』に関しては安全策を継続して、アンデッドの殲滅や魔法陣の破壊までは行わない方針が決まっている。第一の危機にばかり時間をかけているわけにはいかないからだ。

 しかし、まだ一つ問題があった。優太が突入してしまうと、万が一簡易結界が壊れたた時に修復することができない。

 優太の張った簡易結界は、『大結界』のあった範囲を外側から囲む大規模で、しかも持続時間が長いという前例のないものだ。優太が予想しただけの時間持つとは限らない。そして、全体で一つの結界として動作しているので、消える時は全ての簡易結界がまとめて消える。

 全ての簡易結界が消えた状態で、出て来るアンデッドを食い止めるだけの戦力は、現状まだない。王都から来た宮廷騎士団だけではなく、昨日から増援の兵士も五月雨式に到着しているのだが、予定していた兵士が全て到着するまでにはまだ日数がかかる。

 そこで今は、優太の張った簡易結界を分割する作業を進めている。最初にニール隊長がやったように、東西南北に結界の壁を作り、結界と結界の隙間は土魔法で壁を作るのだ。今回は北と南も簡易結界の壁なので、土壁は最小限となった。その分頑丈に作れるし、たとえ破られても四か所の土壁限定ならば現在の兵力で十分対応できる。

 このサイズの簡易結界ならば、結界具の使用で五日持つことは分かっていた。そして結界具ならばアルベルト王子と共に沢山持ち込んでいた。これならば優太に頼らずとも持ち堪えることができる。

 そしてもう一つ、アルベルト王子の立てた作戦も始まろうとしていた。


 「それじゃいっちょ、やってみますか。」

 優太は朝から元気いっぱいである。昨日は巨大な結界を張ったりと魔力の消耗も激しかったはずであるが、聖女の衣の魔力回復補助もあり、微塵も疲れた様子がなかった。

 優太が今いるのは臨時司令部の前、百メートル弱先には、昨日土壁の穴から出てきて、簡易結界で阻まれたまま放置されているアンデッドが蠢いていた。

 「『領域浄化(ホーリーフィールド)』!」

 優太が魔法を発動すると、周囲に濃厚な聖属性の魔力が溢れ出した。

 「これは、凄いな。」

 傍で見ていたアルベルト王子が感心したように言う。その視線の先では、簡易結界に囚われたアンデッドの動きが目に見えて鈍っていた。優太の実力は神殿より報告を受けていたが、実際に目にするのは初めてだった。

 「確かに、これならば行けそうですね。」

 その隣にいたハンス副団長も同意する。彼は最初、アルベルト王子の作戦を聞いた時に半信半疑だったのだ。

 因みにユージン騎士団長は、この場にはいない。王宮騎士団の一隊を率いて、簡易結界を分割する神官や工兵に同行している。護衛兼周囲の視察をしているのだ。

 優太はゆっくりと歩きだした。この『領域浄化(ホーリーフィールド)』という魔法は、上位の結界系の魔法とは異なり、術者の移動に伴ってその効果範囲も移動する。優太が近付くにつれて、簡易結界に張り付いていたアンデッドはさらに動きを鈍らせ、やがて倒れ伏して動かなくなった。完全に浄化して消滅させるには至らなかったが、一時的に動きを封じることは可能。それを優太は確認した。

 「もう少し、出力を絞っても問題なさそうだな。」

 優太はその場で魔法の改造を始めた。無造作に垂れ流していた魔力を自分の周囲十メートル程度に留め、密度を上げた。さらに放出した魔力を循環させるようにして魔力の消費を抑えている。

 アラン神殿長あたりが見たら目を剥きそうな魔改造っぷりだった。

 「これで良し。」

 魔法の確認と魔改造を終えた優太は、一度戻って来た。

 「行けそうかい、ユウタ?」

 「ああ、任せておけ!」

 アルベルト王子の問いに、自信たっぷりに答える優太。

 「っと、その前に武器が必要だな。」

 優太は大量に持ち込んだ武器を物色する。これらはすべて優太が祝福した武器だった。

 「聖女の武器と言えば、やはり鈍器だな!」

 「どこの世界の聖女様ですか!」

 ハンス副団長が思わず突っ込む。優太に籠手を勧めるような発言をしていた彼だが、さすがに優太基準を聖女一般の標準にはしたくなかったようだ。

 「これからは、この世界の聖女の常識になる!」

 「洒落にならないから止めてください。」

 ハンス副団長は懇願するが、本気で洒落にならないのだ。優太だって最初から鍛え抜かれた戦士というわけではない。召喚されてから短期間で鍛え上げた結果なのだ。女性だからと言って同じくことができない道理はない。

 「よし、このメイスにしよう。」

 優太が選んだ武器を持ち上げた。

 「それはモーニングスターです。」

 すかさずハンス副団長が突っ込む。確かに鉄の棒の先には棘付の鉄球がくっついていた。だが優太は細かいことは気にしない。

 「それじゃ、ちょっくら行って来る。」

 「くれぐれも無理はしないように。何か想定外のことがあったら、すぐに引き返すんだよ。」

 アルベルト王子は装備の入ったリュックを手渡すと、念を押した。

 優太はリュックを背負うと、モーニングスターを手に意気揚々と走り出した。あっという間に簡易結界の手前まで進むと、ひょいっと簡易結界のロープを飛び越えて、さらにその奥へと走って行く。その際についでとばかりに踏んづけて行ったアンデッドが塵となって消えて逝った。

 アルベルト王子の立てた作戦は単純だ。優太を単身『死者の谷』の真ん中まで突っ込ませて、『封屍結界(アンデッドシール)』を張り直させる。

 普通の聖女だったらこのような真似はさせられない。本来なら王宮騎士団が護衛となって聖女を目的の場所まで送る手筈だった。だが人数が増えれば移動速度は下がるし、アンデッドとの戦闘回数も増える。かなり時間のかかる困難な作業になる筈だった。

 しかし、優太は普通の聖女ではない。現在の『大結界』の半径は二キロメートルだった。優太の足ならば、一直線に走れば五分で到着する。それに、優太一人ならば、先ほどの『領域浄化(ホーリーフィールド)』の魔法でアンデッドを寄せ付けない。それでも襲い掛かるアンデッドがいても、優太だったら殴り倒して進むことができる。これまでの聖女には到底できない真似だった。

 ただ、不安もある。単独行動をとるということは、何かあった時に助けることができない。優太には想定外のことが起こった場合、無理せずに引き返すように、とアルベルト王子は念を押しておいた。しかし、予想ができないことが起こるから想定外なのだ。

 「無事に戻ってきてくれよ、ユウタ。」

 アルベルト王子には祈ることしかできなかった。


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