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聖女無双  作者: 水無月 黒
第一章 死者の谷

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死者の谷の伝説1

 今から五百年くらい前、エルソルディア王国の北側に二つの国があった。その国は東レガリア王国と西レガリア王国と呼ばれていた。

 名前からも分かるように、元は一つの国、レガリア王国から分裂してできた国である。

 この二国、元は同じ国なのにと言うべきか、同じ国から分裂したからこそと言うべきか、とても仲が悪かった。常日頃から、自国こそが正統なレガリア王国であり、いずれは相手国を併合すると、どちらの国も同じように主張していた。

 仲の悪い二国であったが、正面切っての戦争を行ったことはなかった。そこには地理的な要因がある。まず、両国とも首都は国の北部にあった。直線距離では意外と近いのだが、互いに攻め込むことはできなかった。両国の間には北方山脈から伸びる大きく険しい山々が横たわっていたからだ。レガリア王国という国は、その国土が北方山脈に食い込むように形で存在していたのだ。山を越えて大軍を送り込むことは不可能だった。

 国の南側は平地が広がっているのだが、そこは両国共に国内最大の穀倉地帯。戦場にするのは躊躇われた。何より、両国の南には強大な軍事大国であるエルソルディア王国がある。この大国を下手に刺激して、介入されることをどちらの国も非常に嫌っていた。

 全面戦争に踏み切れない両国は、代わりに陰湿な嫌がらせに終始した。両国を隔てる山脈は険しく危険だが、少数精鋭ならば越えられないことはない。通り抜けられれば南方を回るよりも速いのだ。両国は山脈を越えてせっせと諜報員やら工作員やらを送り込んだ。

 そんなことを繰り返すうちに、次第に両国を遮る山中の地形が明確になって行った。通行が困難な難所もあれば、少人数なら比較的安全に通れるルートも数多く存在した。そして一ヵ所、重要な場所が見つかったのである。

 そこは、高い山々に囲まれた谷間であり、両国を行き来する安全なルートの八割が通過する要所であった。つまり、敵味方含めて数多くの間者が立ち寄る場所だったのだ。

 また、生えている木々を切り拓けばかなりの広さの平地になることも判明した。その気になれば、結構な数の兵士を駐留させることができる広さだった。

 普通ならばこんなところに軍を駐留しても何の意味もない。駐留している軍をどこにも動かせないからだ。しかし、この場所には戦力を置いておくだけで意味があった。それだけで敵側の間者の大半を一掃できるのだ。一方、自国の間者は送り放題になる。

 逆に相手国にこの地を取られれば、自国の間者は大きく行動を制限され、相手側の間者には好き放題されてしまうことになる。この地を押さえた方が諜報戦で一方的に有利になるのだ。

 この当時、東西レガリア王国は戦力も国力もほぼ同等であり、諜報の優劣がそのまま国の力関係を決めかねなかった。

 そして、人知れず戦争が始まった。

 場所は山奥、一度に送り込める戦力は少数。他国どころか自国民にさえ知られない戦いだった。

 しかし、戦いは熾烈を極めた。国の未来がかかっているのだ、両国とも後には引けなかった。

 それに、この戦い負ければ後がない。一度谷を占拠し、砦を築いてある程度の戦力を常駐させれば、一度に少数しか送り込めない相手国がその地を奪うことはまず無理だろう。

 勝てずとも負けるわけにはいかない。両国とも戦況が不利になると、相手の妨害に終始するようになった。一時的に敵を排除しても、拠点を築き、十分な防衛戦力を揃えるには時間がかかる。妨害工作はだいたい成功した。その代わり、戦争は泥沼化したが。

 優秀な人材が次々に投入されては死んでいった。どちらの国も徐々に消耗して行ったが、止めるに止められなくなっていた。

 普通の戦争だったら、中立の第三国に間に入ってもらい、停戦交渉が進められる状況だ。だがこれは、まともな戦争ではなく謀略の類だった。他国の仲介どころか、政治的な交渉すら行われなかった。

 そうこうするうちに、禁じ手が使用された。死霊術によるアンデッド兵の投入である。

 この世界では死霊術は禁止されていない。実際に研究したり行使したりすることもある。だが、戦死者をアンデッドにして戦わせる行為は倫理に悖る行為として忌み嫌われていた。

 もし戦争にアンデッド兵を用いれば、一時的には戦況が好転するかもしれない。だがその代わり、同盟国が離反したり、中立国が敵に回ったり、下手をすれば国内からも造反者が続出しかねない。そのくらいの禁じ手だった。

 しかし、そこで行われているのはまともな戦争ではない。禁じ手を使ったとしても避難されることはなかった。ただ、相手も真似をするだけだった。

 そして、事態はさらに悪化した。アンデッド兵だけではまともに戦争はできないので、結局生きた人間が送られ死んでいく。結果としてアンデッド兵だけが増えていった。

 既に記録も散逸し、どちらの国が始めたかとか、誰がどのような魔法を使用したかなどの詳細は伝わっていない。ただ、この不毛な戦いの末に何が起こったのかははっきりしている。

 死霊術の魔法が暴走し、誰の制御下にもない、ただ生きた人を襲うだけのアンデッドが大量に発生したのだ。

 こうして小国同士の小競り合いは、世界の危機となった。


 実はこの時、アンデッドの大量発生が起こる前から神託により世界の危機が警告され、聖女も遣わされていた。この時適切に対応できていれば、世界の危機は回避できたのである。

 だが、他国の介入を嫌った東西レガリア王国が揃って白を切り、裏で妨害工策までしたことで対応が遅れ、大惨事となった。

 エルソルディア王国の騎士や聖女が駆け付けた時には、谷は万を超えるアンデッドで溢れ返り、手の付けられない状態だった。

 この事件以降、山中の名もない谷は『死者の谷』と呼ばれるようになった。

 そして、東西レガリア王国は世界の危機への対処を遅らせ、その危険性を拡大したとして世界中から非難を浴びることとなる。

 特に東西レガリア王国の国王は世界を危機にさらした重犯罪者として拘束され、余生をエルソルディア王国で幽閉されて過ごすことになる。

 だが、これはある意味慈悲だったのだろう。東西レガリア王国の国内では、自国に危機を招き、徴兵された多くの兵士を無駄に死なせた国と王家に不審と非難が集まっていた。そのまま国王を続けていたら、自国民の手で血祭りにあげられていたかもしれなかった。

 このことがあってから、どちらの国も急速に王家の権威が失墜して行ったのである。これが、東西レガリア王国が消滅する大きなきっかけとなった。


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