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聖女無双  作者: 水無月 黒
第一章 死者の谷

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出発準備

 「アルベルト殿下、死者の谷より伝令です! 『結界に異常あり』」

 「聖女様、一大事です! 神託が降りました。『第一の危機の発生が早まった。』と。」

 突然の報告を受けて、城内は騒然となった。


 今回の『世界の危機』は全部で四つ。それぞれの危機の概要、発生場所、発生時期については神託によりだいたい分かっている。

 最初に発生する第一の危機は、『死者の谷』と呼ばれる場所からアンデッドが大量に溢れ出す事件になる。勇者に先駆けて聖女が召喚されたのも、この第一の危機に対応するためだ。アンデッド対策は聖女の得意分野である。

 本来ならば、第一の危機が発生するのはもうしばらく後の筈であった。だが、如何に神託と言っても未来は変えられるものなのだ。人々の努力次第では危機の規模を縮小したり発生を遅らせることもできる。逆に、下手を打てば危機の発生が早まることもあり得るのだ。

 ただ、今回は時期を早めてしまうような心当たりが全くなかったため、完全な不意打ちとなった。原因は気になるが、追及している暇はない。予定が十日以上も早まってしまったのだ。

 アルベルト王子は矢継ぎ早に指示を飛ばす。今はスピードが命だ。

 相手は世界の危機だ、ある程度の余裕は持って計画は立てられていた。神託で示された期日の三日前には『死者の谷』には十分な兵力を配置し、聖女様の仕上がりが遅れても持ちこたえられる態勢で臨む予定だった。

 だが、想定を超えて危機の到来が早まった。今『死者の谷』に展開しているのは、アンデッドを封じる結界を監視していた部隊と、先行して派遣された一部の兵のみだ。これでは到底持ちこたえられない。早急に援軍を送る必要があった。

 「俺は一度神殿へ戻ればいいのか?」

 「いいえ、聖女様はこのまま国軍と共に『死者の谷』へ向かってください。第一の危機に必要な神聖魔法は既に習得されております。」

 唯一の救いは、優太の聖女としての修行が前倒しで進んでいたことだろう。優太が『死者の谷』へ行けば、そのまま即戦力となる。

 「それから、移動中に、簡易で良いので武器の祝福をお願いします。」

 「え゛?」

 武器の祝福と言うのは、武器に魔法や魔力属性を付与するエンチャントの一種である。特に、神官による神聖魔法や聖属性魔力を付与することを祝福と呼ぶ。

 祝福された武器は、切れ味が増したり丈夫になったりするだけでなく、アンデッド特効の武器となる。物理攻撃無効のゴースト系や斬っても即時に再生するタイプのアンデッドにもよく効く。今回の戦いには必須の武器である。

 武器を祝福する方法には、その場で魔法をかけるだけの簡易版と、本格的に儀式を行う方法の二種類がある。普通の神官の場合、簡易版では一時間から二時間、時間をかけて儀式を行っても早ければ十数日で祝福の効果が消える。

 ところが、聖女が祝福を行うと、簡易版でも軽く一ヶ月以上、儀式を行えば年単位で効果が持続する。エルソルディア王家には初代聖女が祝福したと云われる武器がその効果を失わないまま現存するという。

 悠長に儀式を行っている暇がない今、前線に送る武器は優太が聖女の力で祝福してやるのが手っ取り早い。それは優太にもわかっているのだが、

 「あれを、全部?」

 優太の視線の先には、馬車に山と積まれた武具の数々。

 「すまん、ユウタ。同じ馬車が後三台ある。」

 本当に申し訳なさそうに言うアルベルト王子。

 「大丈夫、聖女様ならばできます!」

 自信をもって言い切る神官。優太にはそれができるだけの魔力があった。

 「いや、できることはできるだろうけど、……」

 武器を祝福をするだけならば簡単だ、少なくとも優太にとっては。そして全ての武器を祝福して余りあるだけの魔力も持っていた。『死者の谷』までは馬車で四日はかかるから時間も十分にあった。

 ただ、武器を一つ一つ手に取って祝福してやる必要があった。もっと修行すれば全部まとめて祝福することも可能かもしれないが、今の優太には無理だった。

 すごーく面倒だった。でもやらないわけにはいかない。現場で戦う兵士の命がかかっているのだ。

 優太はげんなりした。


 げんなりしつつも止まったままの馬車に乗り込み、武器に祝福を施し始めた優太を残して、アルベルト王子は次の仕事へと向かった。

 アルベルト王子の役割は聖女様のサポートである。それは、聖女が男であっても変わらない。世界の危機に対して、優太がその力を十全に発揮できるように御膳立てをすることが仕事である。

 第一の危機の現場である『死者の谷』は幸いにしてエルソルディア王国の国内にある。聖女外交を行うまでもなく根回しは済んでいる。優太に聖女外交が務まるかというと疑問ではあるが。

 多くの場合、聖女の仕事は後方支援だ。前線で戦う兵士たちを守り、癒す。それが聖女の役目である。しかし、『死者の谷』で発生する第一の危機においては事情が異なる。聖女である優太こそが危機を収める主役であり、集められた兵士たちは聖女が活躍するための支援役なのである。

 第一の危機を乗り越えるためには、聖女が『死者の谷』の中心まで行って結界を張り直す必要があった。その間、結界の消えた『死者の谷』から溢れ出すアンデッドを軍と神官が共同で対処する、というのが当初の作戦だった。

 しかし、その予定が狂った。十分な兵力が展開する前に結界が無くなれば、溢れ出るアンデッドを抑えきれない。

 特に先行して『死者の谷』に展開している部隊は危ない。放置すれば全滅しかねない。急いで近くの兵を増援に向かわせたが、結界が消失するまでに到着するか微妙なところだった。

 「やはり、王宮騎士団と聖女様の力でアンデッドを抑え込み、兵力が集まるのを待つしかないかと。」

 「……それしかないか。」

 アルベルト王子は緊急招集した参謀たちと計画を練り直していた。

 状況はあまりよくない。既に『死者の谷』で待機している兵と結界を監視している部隊、それからすぐに駆け付けられる場所にいる兵を合わせてもギリギリの数だった。速度優先で駆けつけるように指示しているから、持ち込む物資は最低限、長期戦には向かないだろう。

 その後も逐次増援は到着するはずだが、着いた端から劣勢な場所へ回されるようなギリギリの攻防が続くと予想されていた。下手を打てば一気に全滅もあり得るのだが、そこは現地の指揮官を信頼するしかない。

 そこへ、練度の高い王宮騎士団とアンデッド特効の優太が参戦すれば状況は好転する。安定してアンデッドを抑えることができるだろう。

 だが、それだけでは何時まで経っても終わらない。世界の危機を終わらせるためには、優太を、聖女を『死者の谷』の中心まで送り届ける必要がある。

 アンデッドを抑える兵力が十分にあれば、王宮騎士団は到着次第聖女様を護衛して『死者の谷』に突入する予定だった。しかし、初動で無理に動いた分、優太抜きでアンデッドを押さえきる体制を整えるまでには時間がかかりそうであった。

 世界の危機に対処する戦いは、長引かせて良いことは何もない。特に『死者の谷』では味方が死ねばその分敵が強化されかねない。慎重を期し過ぎて第一の危機が終わらないうちに第二の危機が発生してしまえば目も当てられないことになる。

 可能ならば、『死者の谷』の結界が無くなる前に突入して、世界の危機が発生する前に終わらせてしまいたいところだった。優太の成長が著しかったので、発生時期さえ早まらなければ、それは可能だったのである。実に惜しかった。

 アルベルト王子達は一刻でも早く戦いを終わらせる方策を検討していた。これでも最初に神託が降ってから様々な場合を想定していくつもの作戦を練ってきたのだ。時期の早まり方が想定外で使える作成が無くなったが、部分的には有効なものもあるはず。これまで練り上げてきた作戦を分解して、パズルのように組み合わせる作業を続けていた。

 その時アルベルト王子はふと気が付いた。これまでの作戦は、全て過去の聖女様の能力を基に立てられていた。

 「あっ!」

 だが、優太は色々と規格外だった。聖女としての能力は想定内としても、体力面では尋常ではない。聖女様の体力を考慮して余裕を持たせていた部分を片端からすっ飛ばしたり短縮したりできる。

 アルベルト王子は優太ならではの作戦を思い付き、その詳細を詰めていくのであった。


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