とある山中にて
投稿再開します。
数日前のことである。
山道を進む男たちの姿があった。
「お頭、これからどうしやしょう。」
男たちは盗賊だった。いや、山中を根城にしているのだから、山賊であった。
彼らは山中に点在する寒村を拠点として、山道を通る旅人や、山裾を通る商人の馬車、時には小さな町まで襲撃し、略奪を繰り返していた。
そうして得た戦利品を、彼らは気前よく拠点とする村に還元した。村に害をなさないばかりか利益をもたらす彼らを、村人たちは邪険にはできなかった。
こうして、村人たちを精神的な共犯に仕立てて安全を確保するとともに、村で燻っている若者を見つけては手下として引き入れて行った。
そんなことを、拠点を変えながら幾つかの村で行っていくうちに、山賊団は大きくなって行った。
だが、組織が大きくなることは良いことばかりではない。確かに戦力が増えたことで大きな仕事もできるようになった。しかし、逆に言えば大きな仕事をしなければならなくなったのだ。食い扶持が増えた分稼がなければならない。
そして、稼ぎが増えればそれだけ被害が大きくなるということである。となれば官憲からも目を付けられる。大きな山賊団となれば、出て来るのは軍だ。
ある日、山賊団は軍の急襲を受けて壊滅した。多少人数がいても、所詮は素人の集まり。軍に攻められてはひとたまりもない。何とか脱出できたのは、手下を見捨ててさっさと逃げ出した五名だけだった。
だが、この五人も無事に逃げ延びたとは言えないだろう。背後からは追手が迫っていることは間違いなく、そして山道の先には軍の駐屯地があることを彼らも知っていた。さらに悪いことに、この辺りは危険地帯だ。山道を外れて進むと命にかかわる危険がある。
山賊の頭目はしばし考えると結論を出した。
「ここを突っ切る。」
そう言って、頭目は山道から外れた方向を呼びさした。
「しかしお頭、こっちは……」
「わかっている。だが、あそこならば連中も追ってこれない。なに、どうせ出て来るのはゾンビかスケルトンだ。俺達ならばどうにでもなるさ。」
頭目の指さすその先には、国の厳命による立ち入り禁止区域がある。軍の兵士と言えども、たかが山賊を捕らえるために入ることはできない。
そこにはアンデッド系のモンスターが跋扈していることも知っていたが、彼らは山賊団の中でも古参だ。それなりの修羅場も潜り抜けた強者である。幸い武器も持ち出せたので、ゾンビやスケルトンの一体や二体、倒すのに苦労はしない。軍の駐屯地へ行って、「通りすがりのただの村人です」と言って誤魔化すよりも現実的に思えた。
それに、彼らには選択肢がなかった。そこいらの村から集めた下っ端と異なり、かられは山賊団の幹部なのだ。捕まれば極刑は免れない。それだけのことをしてきたのだ。
軍と戦うくらいならば、魔物と戦った方がまだ勝ち目がある。そう考えた。
山賊たちは、山道を外れて進み始めた。
山賊たちの歩みは順調だった。たまに現れるアンデッドも動きの鈍いゾンビが一体くらいで、五人の連携であっという間に倒してしまった。
それだけの力があるなら、もっとまともな仕事に就くこともできたろうに、というのは酷な話だろう。山賊家業を続ける中で磨いてきた戦闘能力なのだから。
そろそろ危険地帯を進む道のりも半ばに達していた。彼らも馬鹿正直に危険地帯のど真ん中を横断しようとしたわけではない。その端を掠めるように最短距離で反対側の山道に抜けようとしていた。
このまま反対側の山道までたどり着けば、山賊たちは逃げきれるかもしれない。だが、そんな時、山賊たちの背後から声がかけられた。
「おや、これは珍しい。こんなところに人間が入り込むとは。」
山賊たちの反応は素早かった。即座に振り向くと剣を向けた。危険な場所を進んでいるのだ、かけらも油断はしていない。
そこにいたのは異様な男だった。いや、その男の容姿はごく普通だ。黒い礼服に身を包んだその男は、町中で見かけたならば貴族か金持ちかその関係者と思うだろう。だが、そんな身なりの良い男がこの場所にいることが異様だった。
立入禁止の危険地帯にまともな人間がいるはずがない。
頭目は、その男を危険と判断した。見た目で侮るような真似はしない。そして即座に逃げ出す算段を考え始める。だが、それは遅すぎた。
「!」
山賊たちは、自分が動けなくなっていることに気が付いた。指一本動かせない。そんな山賊たちを見つめる男の赤い瞳が爛々と輝く。
「ちょうどよい駒を手に入れました。これで私の野望に一歩近づきました。ハハハハハハ……」
男の哄笑が響き渡る。
その後、山賊たちが山道に戻ることはなかった。
第一章の終わりまでは毎日投稿予定です。




