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聖女無双  作者: 水無月 黒
序章

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聖女のいる日常3

 「これは……、いったい何をしているんだい。」

 「アルベルト殿下、おはようございます。」

 呆れたような声で聞くアルベルト王子に対し、問われたユージン騎士団長は敬礼を返してから答える。

 「何をといわれましても、見たままとしか答えようがありません。」

 そこは、王城内の練兵場。最近、優太は毎日この場所で王宮騎士団の者達と共に体を動かしていた。そこまでは良い。そこまではアルベルト王子も知っていた。

 しかし、優太は今、剣を持って戦っていた。相手は王宮騎士団の副団長ハンス=リックマン。

 「どりゃあー、フン、ハ、ホイ!」

 間の抜けた掛け声と共に振るわれる優太の剣は、素人丸出しだった。太刀筋も何もあったものではない。だが、速い。そして力強い。

 「最初は団員達と一緒に基礎訓練を行っていたのですが、ユウタ殿の体力が予想以上だったので、試しに試合をしてみようということになりまして。」

 ここ数日トレーニングマニアとなった優太は急速に身体能力を上げていた。剣の技術は素人同然であるにもかかわらず、パワーとスピードだけで相手を圧倒するのだ。

 現在優太は神殿で習った身体強化系の魔法は一切使用していない。さらに聖女の衣の身体強化の機能をオフにしている。それでこの状態である。

 今副団長が相手をしているのは、既に並の団員では相手にならないからだった。

 だが、パワーとスピードがあっても所詮は素人の剣。ハンス副団長は丁寧に捌いて優太の攻撃を受け付けない。そして一瞬の隙をついて優太の剣を搦め捕り、弾き飛ばしてしまった。

 勝負あった、と思われた瞬間、今度は優太が動いた。自分の剣を弾き飛ばされた瞬間、ハンス副団長の剣の切先が逸れたのを見ると、思い切りよく前へ突っ込んだ。

 虚を突かれたハンス副団長が慌てて剣を引き戻すも間に合わず、優太は懐に潜り込んだ。そして、

 「猛虎硬爬山!」

 優太は気分で叫んでいるだけなので、技名はテキトーだ。八極拳の絶招とかではなく、ただの掌底だった。だがそれでハンス副団長が吹っ飛んだ。とんでもない威力だ。

 倒れたまま起き上がらないハンス副団長にユージン騎士団長が駆け寄るが、

 「『ヒール』。」

 優太の回復魔法を受けて、ハンス副団長は元気に立ち上がった。

 実は優太は王宮騎士団では人気者だ。怪我をしてもすぐに治すし、消耗したスタミナも回復してくれる。既に優太の腕前は、騎士団専属の治癒師よりも上なのだ。

 元気になったハンス副団長がアルベルト王子の方へやって来る。

 「いや、ユウタ殿は強いですね。どうしてあれで聖女様なのでしょう?」

 もっともな疑問だが、お前も優太を聖女らしからぬ存在へと仕立てている一員だぞ。

 「……それで、まだ続けるのか?」

 アルベルト王子の視線の先では、ユージン騎士団長が優太と向き合っていた。

 「ああ、団長が出てきたならこれで終わりですね。」

 こともなげに言うハンス副団長。いつものことらしい。

 アルベルト王子が、そして王宮騎士団員が見守る中、試合が始まる。今回は二人とも武器を手にしていない。素手による戦いとなった。

 最初は手四つの力比べだ。しばらくは拮抗していたが、少しずつ優太が押し込んでいく。力比べでは優太がやや有利か。

 と、ここでユージン騎士団長が仕掛けた。片手の力を抜き、優太の体勢を崩す。そしてそのまま優太を投げ飛ばそうとする。しかし、優太は堪えた。堪え切って、今度は優太が仕掛ける。

 優太、ユージン騎士団長の背後に回り、手足を搦める。これはコブラツイストだ! 優太、コブラツイストでユージン騎士団長を締め上げる。だが、所詮は素人の技、あんまり効いていないぞ。ユージン騎士団長、すぐに優太を振り払う。

 次はユージン騎士団長の攻撃。優太の腕を取ると、優太の頭に足を引っかけ、極まった! 卍固めだ! 何故お前がその技を知っている!

 がっちり固められた優太だったが、肩を回して取られた腕を引き抜いた! 優太、意外と体柔らかいぞ!

 ユージン騎士団長の攻勢はまだ続く。優太の腕を掴み、ぐるぐると振り回してロープへ向かって投げ飛ばした! いや、ロープ張ってないけど。ロープは無いけど、優太、律義に跳ね返ってくる! なんだそのノリの良さは。

 ユージン騎士団長、戻ってくる優太に向かって右腕を水平に構える。これはラリアットの構え! 対する優太も右腕を水平に、いや、肘を直角に曲げている。これはアックスボンバーの構えだ!

 激突する両雄。互いの技をまともに喰らって、二人ともぶっ倒れた。

 二人ともほぼ同時に起き上がり、向かい合う。そして。突っ張り、突っ張り、突っ張り、突っ張り、突っ張り、突っ張り、突っ張り、突っ張り、突っ張り!!

 猛烈な突っ張りの応酬、両者一歩も引かない。

 「聖女様、頑張れー!」

 「団長、負けるな!」

 周りで見ている王宮騎士団員たちも盛り上がっている。

 「何をやっているんだか……」

 アルベルト王子はノリについていけない。まあ、無理もない。どう考えても聖女の行うこととは思えない。

 「やはり、ユウタ殿に剣は向いていないようですね。素手の方がよほど動きが良い。」

 お前は聖女の存在意義をもう一度思い出せ、と言いたいところだが、ハンス副団長の言葉は真面目な話だったりする。

 聖女と言えども、危険な場所へ赴くことがあるため、護身用の武器は必要だ。直接敵と戦う必要はなくても、ある程度敵の攻撃をいなし、味方が駆けつけたり防御用の魔法を展開する時間を稼ぐ、そのための武器だ。

 神官の場合、短剣や杖を用いることが多い。剣が不得手な優太の場合、杖を練習するのがよさそうだが、

 「ユウタ殿の場合、籠手なんかも良さそうですね。」

 確かに優太の動体視力と反射神経ならばインファイトも可能だ。殴り聖女、爆誕か?

 アルベルト王子は頭を抱える。優太が聖女らしくないのは最初からだが、その行動がどんどん聖女のイメージから離れていくのだ。このままで聖女の務めを果たせるのか?

 だが、意外なことにアルベルト王子の心配は杞憂だった。神殿における神聖魔法の修行は予想以上に進んでいる。そして騎士団員たちとの訓練では、要所要所で団員達を回復させたり、怪我をしそうになったら防御魔法をかけてやったりと、実戦で神聖魔法を使う練習になっていたのだ。こんなところでも、優太の聖女としての才覚が現れていた。


 彼らの訓練を陰ながら見守る者がいた。

 王城の一角、練兵場を見下ろす窓際にその人物はいた。

 「聖女様と若い騎士団員が組んず解れつ。妄想が捗りますわー。フフフフフ。」

 マリエラ王女であった。彼女は練兵場を凝視しながら、手にした紙に凄い勢いでペンを走らせる。そして時々画像クリスタルで撮影していた。

 「姫様、いいかげん覗き見するのは止めましょうよ。」

 横から声をかけたのは、マリエラ王女付きの侍女、リコリス=ハーベイである。しかし、

 「正面から取材したら、自然な表情が見られないじゃないですか!」

 マリエラ王女は止まらない。

 「いや、だからその取材? を止めましょうよ。だいたい、そのたくさんの画像クリスタルはどうしたんですか。いつもお小遣いが足りないって言っているのに。」

 画像クリスタルはまだまだ高価なマジックアイテムだ。王族だからと言って、趣味のためにそうホイホイ買えるものではない。

 「創作活動のためには出し惜しみはしません。それに、(わたくし)には世界各国に同志が大勢いるのです。腐腐腐腐腐(フフフフフ)。」

 不気味に笑うマリエラ王女。この人、色々とヤバい。

 「その変態趣味を止めないと、勇者様に嫌われますよ。」

 「誰が変態ですか! 少なくとも貴女にだけは言われたくありませんわ。」

 「リコリスは変態さんじゃありません! ただ純粋に姫様のことが好きなだけです。純愛(プラトニック)です。将来姫様の愛人にしていただければ十分です。」

 この娘もたいがい変態だった。


 「うん、今日もいい汗をかいた。」

 優太が、やたらと爽やかな笑顔でそう言った。

 もっとも、実際には聖女の衣の効果で汗一つかいていない。たとえ汗をかいても、土に塗れても、一瞬で新品同様にきれいになり、汗臭さも残らない。それが聖女の衣だ。体を動かしてストレスを発散した優太は、心身共に爽やかだった。

 そして、一緒に訓練した騎士団員たちも笑顔である。優太が来てからは怪我をすることもなくなり、訓練が終われば体力も回復してもらえる。さらには浄化魔法の応用で、汗も汚れもキレイさっぱり落としてもらえる。実に快適だった。

 平和な光景であった。だがこの平和も長くは続かない。世界の危機は、すぐそこまで迫っていた。

 「アルベルト殿下、死者の谷より連絡です! 『結界に異常あり』」

 「なんだって!」

 駆け込んできた兵士の言葉に慌てるアルベルト王子。さらにそこへもう一人、

 「聖女様、一大事です! 神託が下りました。『第一の危機の発生が早まった。』と。」

 神殿からも、急を告げる使者がやって来た。

 こうして、つかの間の平穏は終わりを告げた。


聖女が無双する準備が整ったところで序章は終了です。

次章から世界の危機に対処する話になります。少し書き溜めてから投稿するので、しばらくお待ちください。

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