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聖女無双  作者: 水無月 黒
序章

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教国

 今から約五千年前、人の歴史が始まる前の時代を神代と呼ぶ。神代は混沌に満ち溢れ、人が生きるには辛い世界だったという。

 女神イシスは混沌を打ち払い、世界を安定させるために、別の世界から五人の人間を召還した。

 勇者、聖女、聖王、大魔導士、大賢者。神代に遣わされたこの五名を、五聖と呼ぶ。

 神代に女神イシスに直接召喚された彼らは、後代の者と区別するために、「初代」を冠して呼ばれることも多い。

 五聖は見事に混沌を打ち払い、人の時代を作り上げた。

 この五聖に由来し、現代まで続く五つの大国が存在する。これらの国は五聖国と呼ばれる。国名に『(エル)』を冠する国は基本的にこの五国だけである。


 勇者の国、エルソルディア。

 聖王の国、エルハーベスタ。

 大魔導士の国、エルマギカ。

 大賢者の国、エルフィロソフィア。


 だが、初代聖女は国を作らなかった。この世界に召喚される前から初代勇者の恋人だった初代聖女は、勇者と共にエルソルディア王国で過ごしたのだ。

 五聖国の最後の一国、通称『教国』と呼ばれる国は、初代聖女に由来するが、初代聖女が作った国ではない。教国の建国も初代聖女の没後になる。

 教国が建国された場所はエルソルディア王国の西、初代聖女が修行したとされる場所。その場所を聖地と崇め、自らもその地で修業しようと集まった神官たちを中心として作られた国である。


 聖女の国、エルヨシコ教国。


 女神イシスと同等以上に初代聖女を崇拝する者達により建てられた、丸ごと聖女のファンクラブのような国である。


 教国は女神イシスを信仰する宗教組織の中で、他の神殿とは一線を画した影響力を持っている。

 それは、一国丸ごと宗教組織という規模の大きさだけが理由ではない。

 教国の中にある初代聖女の修行場は、今でも神官たちの聖地であり、一度は自分もその地で修業したいと思う憧れの場所である。

 実際に様々な国からたくさんの神官がやってきては修行を行い、そして各国、各神殿へと帰っていくのである。

 だから教国はほぼ全ての国の神殿に人脈を持っている。それも教国への留学生として選ばれるほど優秀な神官に対してだ。

 各地の神殿を結ぶ互助ネットワーク、その中心には教国が存在しているのだ。


 その教国を、トニー司祭長は数年ぶりに訪れていた。

 結局、アラン神殿長に押し負けて、トニー司祭長がやって来ることになったのだが、それは正解だった。優太の成長は著しく、既に神殿長による指導が始まっていたのだ。

 トニー司祭長が教国の中枢、教皇庁に到着すると即座に教皇猊下への謁見が決まった。予め司祭長が向かうことは連絡済みであったとはいえ、これは異例のことだ。

 教皇は教国のトップであると同時に女神イシスを信奉する全ての宗教組織の最高位でもある。非常に多忙なのだ。他国の王族であっても謁見が叶うまで何日も待たされることもある。

 それが一時間もかからずに謁見の間に通されたのである。教皇の予定をいくつかキャンセルまたは延期していることは間違いない。それほどまでに、教国では聖女様のことを重要視していた。

 教国では最も深く聖女様のことを敬愛する者が教皇になる。そんな噂もあながち嘘ではないのかもしれない。

 謁見の間の真ん中で、トニー司祭長は緊張していた。

 アラン神殿長もトニー司祭長も過去に教国で修業している。しかし、トニー司祭長が教皇猊下に謁見したのはこれが初めてだった。式典などで遠目にその姿を拝見したことがあるだけだった。

 そして、自分の報告がもたらすである惨事を思えば、気が重くなるというものである。

 「すでに連絡いたしました通り、聖女様の召喚は無事成功いたしました。ただ、今回の聖女様はこれまでの聖女様とは異なる点がございます。まずは実際に見ていただきましょう。」

 詳しい説明を省き、手にした画像クリスタルを操作するトニー司祭長。言葉で説明しても信じられないだろうから、まずは見せてしまおうとしたわけだ。

 謁見の間の壁に大写しになる優太の姿。聖女の衣を身に纏い、ユニコーンに跨った例の画像だ。

 一瞬で静まり返る謁見の間。教皇猊下のみならず、同席した司祭たちも纏めて固まる。さすがは優太、本人がいなくても問答無用で黙らせた。

 「ご覧の通り、聖女の衣にも聖獣ユニコーンにも認められ、また神聖魔法に対しても常人にはありえない高い適性を有しています。()が聖女であることには間違いございません。」

 淡々と説明するトニー司祭長。変な突込みが来る前に説明を終わらせてしまおうという腹だ。

 「同席した識者によりますと、これまでの聖女様はたまたま女性ばかりであっただけで、本来聖女様となる資格に性別は関係ないのではないかとのことです。」

 トニー司祭長の言葉も聞こえているのか、誰も何の反応も示さない。そんな中、教皇猊下が真っ先に再起動した。さすがは教皇猊下、肝が据わっている。

 「素晴らしい!!」

 えっ、何が?

 「これまで男性神官は聖女様の支援することしかできませんでした。しかし、男性であっても聖女様に選ばれることがあると証明されました。これからはより修業に励むことができるでしょう。」

 教皇猊下の聖女様への敬愛は微塵もブレない。そこはちょっとくらい悩んでもいいと思うよ。

 ともとかく、教皇猊下が好意的に受け入れたことで、優太は教国に受け入れられることになる。それは世界各地の神殿へと伝搬し、そして世界各地で優太が聖女であると受け入れられる下地となっていくのであった。


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