聖女のいる日常2
午後になると、優太は神殿に戻り、神聖魔法の修行を行う。
魔法の無い世界からやって来た優太は、これまで魔法を使ったこともなければ、この世界の魔法知識もない。座学も実技も初歩の初歩から始めることになる、わけだが。
「さすがは聖女様、呑み込みが早いですね。」
座学はそこそこだが、神聖魔法の実技に関しては優太は覚えるのが早かった。既に初歩の魔法に関しては全て使えるようになっていた。
「いや、聖女の衣がお手本になってくれるので分かり易かったんですよ。」
笑って答える優太。聖女の衣に付与された能力は、その多くが聖女の使う神聖魔法を再現したものだ。魔法の効果のイメージを得るお手本にはなるだろう。だが、普通はマジックアイテムを使っているだけで、その元となった魔法が使えるようになることはない。
聖女だからか、聖女の衣との相性が抜群に良いからか、それとも優太自身の資質のためか。いずれにしても、優太は次々に神聖魔法を習得していった。
「それでは、次は実戦訓練に行きましょうか。」
神殿が社会的に果たす役割や仕事というものが幾つかある。
子供を集めて簡単な勉強を教えることもある。特別な式典を主催する場合もある。アンデッド系のモンスターが現れたときは、その処理を依頼されたりもする。
だが、庶民にとって最も重要なのは、病気や怪我の治療を行う病院としての役割だろう。神聖魔法は治療に向いたものが多くある。
特に流行り病が蔓延したり、大きな事故や災害が発生すると、多くの人々が神殿に殺到することになる。そこは、神官にとっての戦場となるのだ。
「おや、肉屋のおじいさん。今日はどうしました?」
「いやー、腰を痛めてしまいまして。」
まあ、普段はこんなものである。たまに急患とか来ることもあるので油断はできないが。
「はい、ヒール。」
「おお、やはり聖女様の魔法はよく聞きますなぁ。」
「もう年なんだから、無理しちゃだめですよ。」
そして、この治療行為こそが、ユウタが聖女であることを知られる原因であった。
実は、『聖女の衣』や『勇者の剣』、『勇者の鎧』はたまに一般公開されることがあるのだ。だから、優太の着ている巫女服が聖女の衣であると知っている人も多い。
ならば、聖女の衣を神官服のデザインにしておけばよいのでないかと思うかもしれないが、聖女の衣が変えられるのは女性用の神官服に近いデザインなのだ。男性用の神官服とは明らかに違うので、そんなものを着ていたら優太が変態扱いされてしまう。
結局、聖女の衣の外見を変更することを諦めた優太が巫女服のまま過ごしていたため、速攻で聖女とばれたのだ。それでも好意的に受け入れられたので結果オーライである。
「聖女様、急患です。お願いします。」
「これは酷い。ヒール!」
神殿の神官たちは既に優太が聖女であることを隠していない。聖女が治療に当たると聞けば、患者も安心するのだ。というか、優太は既に主戦力扱いになっていた。聖女の力は簡単な回復魔法でも効果が大きいのだ。
患者の治療が一段落すると、優太は神聖魔法の修行に戻る。いや、患者の治療も修行の一環ではあるが。
優太は初歩的な魔法は一通りできるようになったので、より高度な魔法技術を学習することになった。予想される世界の危機において必要と思われる魔法を優先的に覚えることになる。ここから先は、講師にアラン神殿長も加わることになった。
「次は、『領域浄化』を覚えましょう。この魔法は、一定の範囲を聖属性の魔力で満たすことで、毒、瘴気、呪い等をある程度無効化できます。それぞれ特化した魔法の方が効果は高いのですが、この魔法ならば何にでも効きます。」
この世界には魔力と呼ばれる力が満ちている。その魔力を体内に取り込み、制御して行使することでさまざまの現象を引き起こすのが魔法である。
だが、実は人間は、自然界に存在する魔力をそのまま取り込むことはできない。一度その人の扱える形に加工・変質させることで初めて体内に取り込むことができるようになる。
魔力をどのように変質させれば体内に取り込めるようになるかは人により異なる。そして、変質した魔力は自然の魔力にはない性質を持ち、使用する魔法にも影響する。この変質した魔力の性質を、魔力の属性と呼ぶ。
例えば、魔法型の勇者に多く見られる、地水火風といった元素関係の属性は、該当する元素に関連する物理現象を引き起こしやすい。このため、強力な攻撃魔法を扱いやすい。
一方、聖女や神官に多い聖属性の魔力には、不自然なものを自然な状態に回復したり、有害なものを無害化する性質がある。この性質を利用して回復魔法や各種補助魔法に応用するのが神聖魔法だ。
聖属性の魔力にはそれ自体に有害なものを無害化する性質がある。だから自分の周囲を聖属性の魔力で満たすことで安全を確保することができる。それが『領域浄化』の魔法である。
「本来は範囲を限定して聖属性の魔力の密度を高めるのですが、最初は範囲を指定せずに行ってみましょう。」
アラン神殿長の指示に従い、優太は魔法を発動する。
「『領域浄化』。フン!!」
気合一発、魔力を放出する優太。この魔法、範囲指定もしないと本当にただ魔力を放出するだけになってしまう。だが、最初にこれをやっておけば、どの程度の範囲をどれくらいの時間、聖属性の魔力で守ることができるかの見当が付くのだ。
並の神官ならば自分の周囲、手の届く程度の範囲を十分程度守れば魔力が尽きる。この魔法は本来、危険の正体を調べ、対応する専用の魔法を使うまでの一時的なつなぎとして使用されるものだ。
だが、優太がこの魔法を使用すると……
「……さすがは聖女様、ということですか。」
優太の放った聖属性の魔力は、修行をしていた神殿の中庭いっぱいに広がり、さらにその先まで届いている。しかも、三十分経っても周囲を満たす魔力は小動もしない。
優太は、本人の意思とはかかわりなく、聖女としての地位を着実に固めて行ったのだった。




