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勇者が十二人ならクソスキルはバレない〜そして、オレは追放された〜  作者: 綿木絹
第三章 十一人の勇者たちとたった一人の勇者

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第74話 追放した者と追放された者の会議(上)

 奏の話が始まる前。

 生真面目な修道士セルノが「場所を変えましょう」と提案し、全員がそれに従った。

 最初に移動したのは、広場の隅だった。

 民衆の熱狂から少しだけ離れた、冷たい石壁の影に隠れるようにして集まる。


 そこで奏は、南の山道で起きた出来事を、包み隠さずにそのまま伝えた。


 エヴァンが、最初に口を開いた。


「死霊の群れ、か」

「野犬と猪だったって言ってたね」


 奏が、淡々と答える。


「潰しても潰しても湧いてくる、と」

「うん。首か魔力の核を断たないと止まらなかったみたい」


 エヴァンが「嫌な話だな」と顔をしかめた。

 シオンが「精霊がひどく嫌がってる」と、見えない何かを払うような仕草をする。


「それで、さ」


 エヴァンが、先を促すように続けた。


「トロルが統制されていた、っていうのはどういうことだ?」

「ヴァルラっていう女がいてね。彼女が怪物の前に姿を現した途端、四体全部がピタリと止まったんだよ」


 エヴァンが「まじかよ?」と目を丸くする。


「まじだね。北欧にでも迷い込んだかと思ったくらいだ。ボクにはエッダは無理だからねぇ」


 奏は、絶対に伝わらない言葉で、ひょうひょうと返した。


 オレは、深く腕を組んだ。

 無限に湧き出す死霊の群れ。

 グールやワーグとも違いそうな感じだった。

 そして、完璧に統制された絶望的な巨怪。

 場所が同じ。間違いなく、ソスピロ山で遭遇したトロル。

 それを遊びのように操る女。

 さっきのネクロマンサー的な少年と合わせて、二人。

 話を聞いているだけで、胃が痛くなってきた。


「なぁ、ヴォルフ」


 オレは、傍らの元帝国兵を上目で見た。


「帝国に、そういう恐ろしいスキルを持つやつがいる。その認識であってる?」


 ヴォルフは、答えなかった。

 答えなかったのではない。

 答えられなかったのだ。

 顔つきが、劇的に変わっていた。

 いつもの、鼻を鳴らして余裕を見せつけるような態度は微塵もない。

 その顔は、青ざめていた。


「ヴォルフ?」

「……そいつらの名前を聞いていないが」


 ヴォルフが、喉の奥から絞り出すように言った。


「その二人の特徴。白金の髪で長身の女と、浅黒い肌をした黒髪の子供みたいな男だったか」

「そう……だね。 知ってる顔?」


 奏が頷く。

 ヴォルフが、ゆっくりと目を閉じた。

 一秒。二秒。三秒の間。


「……ヴァルラと、ヴコルに間違いない」


 その場にいた全員の視線が、ヴォルフへと集まった。


「お前、その二人を知ってるのか」


 オレが問う。


「知ってる、なんてもんじゃない」


 ヴォルフは目を開けた。

 その目は据わっていた。

 いつもの好戦的なそれとは違う、底知れぬ脅威を前にした人間の目だった。


「知らねぇ奴なんていねぇ。そいつらは選帝侯の子だ。二人ともな」


 広場から聞こえていたはずの喧騒が、急に遠ざかった気がした。

 それを気取ったセルノが、オレに向かって頷いた。


 確かに、聞こえて良い話ではない。


「どこか場所を変えよう……か」


 すると舞も同じことを考えていたらしく

 そうだね、と頷いた。


 そして、アルンの隅に半分朽ちた兵舎を見つけ、そこを一先ずの会議室とした。

 移動した途端に、会議の続行。


 舞がヴォルフに聞き返した。


「選帝侯の? えっと選帝侯って……」


 言いかけて、止まった。


「基本は子だ。 クソ強いスキルも持ってやがる。で、そのクソ強いスキル持ち、二人同時に動いてやがる」


 ヴォルフは、重々しい声で言葉を継いだ。


「ヴォルフ。舞がよく分からないって。オレのだけど」


 メタ的にオルエレアという大陸を考えれば、それはそう。

 大陸の中心にエレイナス山脈という背骨がある。

 まだ、左半身しか、話題に出ていない。


 ずっと、神聖ドミナス帝国については語られなかった。


 当初は辿り着くのが目的だったからだ。


「帝国について知らねぇのかよ。ヴァルシア王国とは違って、帝国は基本的には中央集権制だ。で、選帝侯といえば、皇帝の次に絶対的な力を持つ七人を指す。加えて、枢機卿団でもあるから、帝国の中心がそいつらだ」


 うん。聞かない方が良かった。

 全然、分からない。中心人物が七人いる。

 それくらいしか、分からないが


「そいつらの血を引く人間が、二人も雁首揃えて国境近くに出てくる。──絶対に普通じゃねぇぞ。よほどの理由があるはずだ」

「その、ヴァルラの持つスキルは」


 玲は理解したらしい。

 彼のスキルが如く、冷静に切り込んだ。


「ヨトゥンマスター。巨怪を完全に統べるスキルだ。トロルも当然、その範疇に入る」

「もう一人、ヴコルは?」


 剛も理解したらしい。

 チーム・ドラグノフは化け物か。


「スキルはネクロマンサーって話だな。死を冒涜し、死霊を自在に操るスキル。無限に湧き出す獣の群れも本来は──」

「そいつの仕業か」

「ああ。そういうこった」


 重苦しい沈黙が落ちた。


 エヴァンが「つまり」と、唾を飲み込んでから言った。


 つまり、だと? とオレは思った。

 理解できていないのは、オレだけかもしれない。


「サムライディメンション、栞のチームは、選帝侯に捕まってるってことか」

「まぁ、そういうことになるな」

「そんな奴らに、勝てるのか?」

「普通にやれば、絶対に無理だ」


 ヴォルフは、冷酷な事実を短く言い切った。


 場が、さらに重く沈み込んだ。

 そこに、ヴォルフが言葉を続ける。


「先に言っておくが」


 全員が、元・帝国軍人の顔を見た。


「俺たち帝国兵に、異邦人の抹殺命令は出ていねぇ」

「え……? それ、どういう意味」


 舞が、問い返す。

 舞はオレ側らしい。


「そのままの意味だ。捕縛しろという命令はあっても、殺せという命令はない。つまり──」


 ヴォルフは一拍置いた。

 チラリとオレを見る。オレはそんなの理解してるけど?という顔をしておく。


「分かったみてぇだな。 帝国は、お前たちを生かしたまま手駒として使う気があるってことだ」

「は? そうなのかよっ!」

「理解してねぇのかよっ!」

「殺さないなら殺さないって言ってくれよ!」

「あ? お前の何処に異邦人って書いてあんだよ。 異邦人に似せた服くらい、いくらでもあんだよ」


 理解していたフリなんて出来なかった。

 舞も……


 あれ。舞は頷いてる。オレは田舎しかいかなかったから……


 そして、漸く明かされる。

 帝国は異邦人を知っている。

 だから、どう見たって異邦人の姿のオレは追放された。

 ルシアとバルド、イネスが何も言えなかったのはこういうことだった。


 気を取り直して、会議は続く。


「ウチたちを取り込む気があるってこと?」

「俺の口から確証を持って言えるのはそこまでだ。あとは自分たちの頭で考えろ」


 舞が、隣に立つ玲を見た。

 玲が、無表情のまま小さくうなずく。


「それと」


 ヴォルフが、黒い法衣の修道士へと視線を向けた。


「俺の知ったことじゃねぇが──セルノ。お前たち教会側に、明確な裏切り者がいるな」


 セルノが「……え」と息を呑んだ。


「わざわざ南部の山道に、あの二人がピンポイントで出てきた。タイミングが揃いすぎてるんだよ。お前たちがどう動くかという情報が、教会のどこかから確実に漏れた」


 セルノは、黙り込んだ。

 一秒、二秒。


「……確かに」


 修道士の声が、一段と低くなった。


「タイミングが、あまりにも揃いすぎています」

「セルノ。外に出て人払いをしろ。特に教会関係者には気をつけろ」


 ヴォルフが、周囲を警戒しながら、本来上司であるはずのセルノを顎で使った。

 セルノは真面目に大人しく従った。


 ここから更に、秘密の会議ということだ。



 ただ先ずは、あの男の話からだった。


「そんな気にしなくても、ロベールが悪者って分かってるんだし」


 そしてエインヘリヤルの少女の眼が見開く。


「ロベール……。生きてるですか……」

「え……うん。知り合い?」

「ロベールは母の仇のようなものです」

「お、お母さんの……。そか、……そのロベールが罠を仕掛けて、ウチたちの仲間を」


 丁度その頃、セルノが戻って来ていた。

 二人の間の空気を察して、少し押し黙る。


 ただ、その空気を破ったのは、ヴォルフだった。


「王国側にも、帝国と通じてる薄汚い奴がいるらしいしな」

「帝国側のアンタが、それを言う?」

「だが、一人で可能か? セルノ、どう思うよ」

「わ、私は……」


 ベンと一音だけ鳴る。


 目立つな、とヴォルフが睨みを利かせると彼は言った。


「ごめん。手を挙げても気付いてくれないから。……で、君の読み通りだと思うよ。教会の中にロベールの協力者がいる」

「天野、貴様。なぜ黙って」

「謎の振り込みって時点でそうでしょ?」


 玲が押し黙った。

 サムライ・ディメンションたち全員が、押し黙った。

 すると奏は笑う。


「ゲーマーは顔に出やすいのかな。その顔のままで、修道士セルノに勇者の姿を見せたい、と言えないでしょ?」

「く……。そういうことか」


 そういうことらしい。

 宗教関係者はなぞなぞ婆さんと、真面目なセルノと、情熱的なフィオナしか知らないけど。


「その話、後でいいよね?」


 シオンが呆れたように言った。

 妙な間があった。

 全員が、金髪の少女を見る。

 シオンは、どこ吹く風といった涼しい顔をしていた。


 ヴォルフが息を吐いて、壁に背を預けて腕を組み直す。


「だな。坊主の説教はさておき。一つ聞くぞ」


 男は、舞たちのチームを鋭く見据えた。


「お前ら全員の、その身に宿した理を教えろ。じゃねぇと、連中への対策の立てようがねぇだろ」


 場が、ピタリと止まった。

 今度の止まり方は、先ほどの動揺とは少し違っていた。


「帝国人には」


 舞が、ひどく低い声で拒絶を示す。


「俺は今、お前たちの仲間の話をしてるんだ」


 ヴォルフが、一切の感情を交えずに告げた。


「わかってる。でも」

「でも、じゃねぇ。相手は選帝侯の血を引く化け物が二人だ。味方の手札の情報もなしで動いて、一体どうする気だ」


 完全な正論だった。

 正論だからこそ、余計に言葉に詰まる。

 誰も、口を開こうとはしなかった。


 強固な盾役である剛が、気まずそうに目を伏せている。

 その中で、最初に動いたのは美咲だった。


「私は、言えます」


 全員の視線が、美咲へと集まる。

 顔はまだ青白かった。

 でも、その瞳は決意に満ちて据わっていた。


「誠司を取り戻したい。ただ、それだけです」


 ヴォルフは、小柄な彼女をじっと見下ろした。


「名前は」

「岸本美咲。宿しているのは清く叩くが吉。浄化を伴う神聖な打撃のスキルです。あの死霊のような不浄な存在には、特に効果があります」


 ヴォルフの目が、わずかに動いた。


「……なるほどな」


 美咲が勇気を出して口火を切ったことで、強張っていた場が少しだけ動いた。


「神宮寺玲。魔力を刃に乗せ、あらゆるものを斬り裂く理だ」


 切り裂くが吉って言え。


「特性は」

「圧倒的な速さと斬れ味だ」

「耐久力は」

「普通だな」

「正直だな」

「こんな状況で無駄に誤魔化す意味がない」


 ヴォルフは「ふっ」と短く笑った。


「水瀬舞。踊るが吉。舞踊によって戦場の魔力を操ることができます!」


 舞が、切り替えて、元気よく続く。


「踊ることで、広範囲に干渉できるし」

「範囲、とは」

「敵の動きを鈍らせたり、味方の身体能力を向上させたりできるかな」

「後方からの支援系か」

「そう。でも、単体ではまともに戦えない」

「正直でいい」


 日向が「柊日向です」と、消え入りそうな声で言った。


「祈るが吉。祈りを捧げることで……その、怪我の回復が、できます」

「癒やしの範囲は」

「近くにいる人なら……たぶん、全員です」

「たぶん、か」

「限界まで、まだ試したことがないので」


 ヴォルフは「わかった」と力強く頷いた。


 次に、男の視線は奏へと向いた。


「お前は」


 奏は、背負ったリュートにそっと手を添えた。

 細い指先で、弦を一度だけ弾く。

 澄んだ音が、薄暗い路地に静かに溶けていった。


「これさ」


 それだけだった。

 ひょうひょうと笑っている。


「……音を操るスキル、か」

「うん。だから、後方支援。だから、逃げきれた。だから、音だけで助ける、と伝えてきた」


 ヴォルフはしばらくの間、胡散臭い和装の青年を睨みつけていた。

 それから、やれやれと「わかった」とだけ言った。

 完全にわかっていない顔だった。

 それでも、それ以上深く追求しようとはしなかった。


 最後に、ヴォルフが村田を見た。

 村田は、深く俯いたままだった。


「お前は」


 ヴォルフが問う。

 村田は顔を上げなかった。

 漆黒のパーカーの袖から覗く拳が、膝の上で白くなるほど強く握りしめられている。


「村田」


 舞が、心配そうに声をかけた。

 それでも、村田はピクリとも動かなかった。


 こいつ、何やってんだよ……

 なんて顔してんだよ……


 オレには、痛いほどによくわかった。

 自分の中に抱えたものを割り切れないから、口が開かない。


 ヴォルフは一秒だけ、苦悩する村田をじっと見つめた。

 それから、あっさりと視線を外す。


「……後でいい」


 ただ、それだけだった。

 一切責めることはなかった。


 村田が、張り詰めていた糸が切れたように、わずかに肩を落とした。

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