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勇者が十二人ならクソスキルはバレない〜そして、オレは追放された〜  作者: 綿木絹
第三章 十一人の勇者たちとたった一人の勇者

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第57話 交錯する故郷の戦士

 ヴァルシア王国南西部への道。

 前半は、思っていたよりも悪くなかった。

 先ず、レンとの道が出来たのが大きい。

 馬車は通れないが、人が通るには偶に腰を下ろせる切り株が有難い。


「よく考えたら、この先に三つの集落もそうじゃん」


 エルタがヴァルシア王国南部中央なのだ。


 森の狩人エヴァン、森の妖精みたいなシオン、森のヴァイキングみたいなリーフそして、訓練された元・帝国軍人ヴォルフ。


 RPGゲーム!

 並んで歩くと正にソレ。オレだけ違うけど。


 各々がそれっぽい服装だから、コミケ勝負服の普段パーカーがひときわ浮く。


「最初から分かってたけど。 マジで帝国が絡んでたのかよ」

「魔物が全然出ない。 おーのーれー帝国人」

「やめとけ、シオン」


 人が管理していたとなると、景色がガラリと変わる。


「分かってんのかよ」

「大体、気付いてたぞ。 大体、帝国が悪いってな」

「なんだ、そりゃ。 フィニス王国とは揉めてんだから、当然か」


 殆どのオタクなら、これ。帝国が悪いよね、と内心で思っていた。

 帝国がゴールと言われたら、そこで何かあるんだろうな、とか考えていた。


「その紋章、外した方がよくない?」

「嫌だ」

「なんでだよ」

「ドミナス教の戦天使イリアスのシンボルだ。元はエレインの子、イリアスだ。不敬でもなんでもない」


 オレは少し考えた。


「……セルノに言ったら、なんか言いそう」

「言いたければ言えばいい。我らが主はドミナスただ一人。あとは前の神様とかだ」


 オレは再び前を向いた。

 面倒なことや難しいことは、全部セルノに聞けばいい。

 肝心のセルノ本人は、遠く離れたカルネの村にいるわけだけど。


 とにかく、魔物が現れないから、ただの森林浴でしかなかった。


 問題は、その先。

 街道に出たのは、昼過ぎのことだった。


 舗装された道路が突然現れる。

 東西に延びる、馬車道だ。


「人がいる」

「この辺はそのサムラなんとかが解放して、もう数か月経ってるしな」


 解放されたら、魔物が居なくなる。

 帝国軍人がいなくなるからだ。もしくはヴォルフのように捕まえられるか。


「カペー、変装!」

「おう」


 人通りは少ないが、決してゼロではない。

 遠くに、行商人らしい素朴な荷馬車の姿も見えた。


「急いで通り抜けよう」

「日暮れまでに、次の村まで行くか」

「走れば行けると思う」


 エヴァンの問いにオレが頷いた、その時だった。


 馬の蹄の音が聞こえた。

 それも複数。そして、異様に速い。

 規則正しい足音が、街道の向こうから一直線に向かってきていた。


 シオンが、ピタリと足を止める。


「カペー」

「分かってる」


 オレは目を細めた。

 左、つまり東側。

 街道の向こうに、馬の一団が土埃を上げているのが見えた。

 フィニス王国の紋章が描かれた旗が、風に靡いている。

 隊列の中央には、豪奢な馬車が一台。

 その周囲を、武装した騎馬の護衛が隙なく囲んでいた。


 先頭を駆ける人物の、風に揺れる紫の髪が見えた。

 オレの身体が、一瞬だけ硬直する。


 イネスだった。


 ◇


 イネスは、馬を直進させながら鋭く前方を見据えていた。

 ヴァルシアの王都での晩餐会の帰りだった。

 背後の馬車には、女王と宰相が乗っている。


「ロベール・ド・アルンの大破門が決まりました。これでもう何も出来ません。何を言われても——」

「これであの子たちを安心して、帝国に送り出せます」

「いえ、陛下。まだ油断してはなりません。領地を奪われて鼠が、このまま終わるとは思えませぬ」

「大丈夫です。私はイネスを信頼しています」


 左右を固めるのは、近衛の騎士たち。

 イネスは警戒をしつつ、迅速に行動できるよう、単騎で先行していた。


 大破門により、ロベールは領地を失った。

 ヴァルシア王国内での活動も出来なくなった。

 王が戻ったわけではないので、訴えるとしたらエレイン教会しかない。

 領地を壊されただけでなく、通報した女王に強烈なカウンターを喰らった。


 サムライ・ディメンションの活躍と、普段のロベールの素行の悪さも手伝って、見事に完封勝利を手にしたルシア。

 ディメンションズたちはヴァルシア王国の北東にいる。

 狙うなら、ここしかない。


「少し、辺りを偵察してくる」

「はっ!」

 

 その時、前方に小さな人影が見えた。

 得体の知れない五人組だった。


 イネスは目を細めた。

 その中の一人。帝国軍人の影が見えた。


「馬車を止めろ。 陛下、少しお待ちを」


 凛とした声に、護衛の騎士たちが一斉に手綱を引く。

 馬車もまた、静かに停車した。


 イネスは一人、馬を前へと進み出させる。


「ロベール。帝国との繋がりがあるという話だったか」


 馬を走らせる。


 すると五人の視線が、こちらを向いていた。

 ほんの一瞬だけ。


 次の瞬間、彼らは弾かれたように背を向け、走り出した。


 イネスは無言で馬の腹を蹴る。

 街道を外れ、脇の草地へと踏み込んだ。


「逃げる。しかも南か……」


 南に目をやると、エレイナス山脈が見える。

 大陸斜めに走る背骨の向こう側、そっちは帝国領だ。


「待て! 帝国人!」


 五人の影が、木々の間を縫うように走っている。

 信じられないほど、速かった。

 いや、単純な脚の速さではない。


 だが、南へ続く細い道は単騎なら馬も走れる。

 馬で追いつけない速さではない。


 が。


「ヴォルフ! これ着ろ!」

「今更かよっ!」


 一人の男が外套を自らから剥がし、帝国人に投げつけた。


 イネスは目を剥いた。


「駆……!」


 灰色のフードが跳ねる。

 いろいろとパッチワークされているが、流石に二か月も見てきたんだから分かる。


「何故、帝国人といる。 駆っ!」


 今更変装した帝国軍人を追うか、それとも速水駆を追うか。


 迷う理由はなかった。


 国の簒奪者にして、帝国のスパイ。

 異邦人十一人が、あいつは知らないと言った。

 イネスが頭をこね繰り返しても意味はない。

 異邦人が知らないと言った以上、異邦人ではない。


 ロベールの主張は、十一人が違うと言ったから、棄却されたのだ。


「貴様をここでっ!」


 その時、男は軽く飛んで、翻った。

 そして、正面に見据える。


 間違いなく、速水駆だった。


 陽光が僅かに零れ落ちる森の中に、


 カチカチカチカチカチ…………


 軽薄な機械音が鳴り響く。


「イネス……さん……」


 鋭い眼光だった。

 あの時とは違う顔をするようになった。


「カルディナを越えられなければ、ただの簒奪者……」


 イネス自身の役割の外で、強い顔をするようになった。


「カルディナを越えて、なお生きるは……」

「あの時は……」


 異邦人に告げてはいなかったが、あの魔物は帝国が使役していた。

 生き延びた。そして今、帝国軍人といるという事は、


「——帝国人がっ」

「——ごめんなさいっm(_ _)m」


 一瞬で、見失った。

 でもそれは、目の焦点が追い付いていないだけだった。


 すれ違う。


 そして、言葉の意味が耳朶に響く。


 よく分からない、謝罪の言葉も含まれていた。


 ぺこりと頭を下げたような気がした。


「何?!」


 急いで振り返るが、在り得ない速度で背中が遠のいていく。


 やがて、イネスはゆっくりと手綱を緩めた。

 四人は見失った。

 たった一人を追いかけていたから。


 その一人も見失う。


 彼女はしばらく、その場にじっと止まっていた。


 アイツ、と呟く。


 このような辺境で、何を企んでいるのか。

 彼らが向かっていたのは、南西の方角だった。

 地図が正しければ、ヴェルナの地まであと半日ほどの距離。


 でも、今のはなんだとも胸がざわついた。


「異邦人が……異邦人を追放した? いや……そんなことは」


 イネスは静かに馬を返し、街道へと戻った。

 馬車の傍らへ寄り添うと、小さな窓が音もなく開く。


 宰相バルドの、皺だらけの顔が覗いた。


「何がありましたか」

「……魔物がうろついていたので、排除しておきました」


 バルドの濁った瞳が、一瞬だけイネスを射抜く。

 しかし老人は何も言わず、窓は再び静かに閉ざされた。


 イネスは前を向く。


「参ります」


 号令と共に、豪奢な馬車が再び動き出した。


 ◇


 鬱蒼とした木々の中で、オレたちはようやく足を止めた。

 全員、肩を上下させて息を切らしている。

 オレはたまらず、膝に手をついて荒い呼吸を整えた。


「速い。なんで馬より速いんだ」


 エヴァンが、信じられないという顔でこちらを見ている。


「あの逃げる力が、また一段階強くなったみたいでさ」

「また理不尽な力が上がったってことか……」


 シオンが、疲れたように太い木の幹へ背中を預けた。


「あれ、フィニスの騎士団長?」

「うん」

「駆を狙っていたな」

「うん」

「物凄い執念だったぞ」


 オレは少し考えた。


「あぁ……だから。 前も言ったろ。 オレ、めちゃくちゃ足引っ張ってたから」


 シオンが、不思議そうに小首を傾げる。


「今でも信じられないけど」


 息を整えたヴォルフが、静かに腕を組んだ。


「流石にヤバかったな」

「だいたいお前のせい」

「ていうか、プライドはどこいったんだ?」

「怖ぇだろ! それにフィニスの騎士団長は、帝国南部の血を引く」


 オレは磨り減ったスニーカーから、土を落とした。

 それはそう、と溜め息を漏らした。

 マジッククローゼットは使えないのだ。


「イネスさんたちって、南部。 ラトン人って南の生まれってこと?」

「あぁ。古代文明から続くラトンの血だ。 エレイナス山脈の南。帝国の南領は日差しが強く、褐色の古い血が混ざる土地だ」


 イネスの紫の髪と、美しい褐色の肌を思い出す。

 なるほど、やはり。そういうことか。


 リーフが、どすんと音を立てて大斧を地面に置いた。

 どうやら、そのまま座り込む気らしい。


「追ってきませんね」

「追って来られたら困る。 マジで簒奪者って言われたし」

「逃げ切りましたか」

「帝国のスパイとも言われたし。……ってか、どうやったら忍び込めるんだよ」


 エヴァンが、柔らかい草地の上にどっかりと腰を下ろした。


「神出鬼没だからな。魔物ってのは」

「けっ」


 オレも、座り込んだ。

 葉擦れの隙間から落ちる木漏れ日が、草地の上にまだらな模様を描いている。

 遠くで、名も知らぬ鳥の声がした。

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