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勇者が十二人ならクソスキルはバレない〜そして、オレは追放された〜  作者: 綿木絹
第二章 追放された異邦人

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第45話 レベルアップとアルンの村

 村に戻って落ち着いてから、こっそりと自分のステータス画面を確認した。


 逃げるが吉 Lv.3

 効果:逃げ速度+75%、斜め移動のカクツキを改善


「渋っ!」


 レベルが上がったのに、倍率が25%しか上がっていない。


「で、またかよ! アプデ修正入りましたみたいな文言は……」


 斜め移動の動作改善。

 言いたいことは痛いほど分かる。アクションゲームでは神アプデだ。

 でも、異世界ファンタジーでの言い方ではない。


 エヴァンが、後ろからひょっこりと覗き込んできた。


「相変わらず読めないな。で、スキルが上がったのか」

「まあな。地味で渋いけど」

「俺たちから見れば、十分すぎるほど凄いがな」


 バンっと俺は羊皮紙を折りたたんだ。

 見せたくないからとか、二人には読めないから、ではない。


「言わせてもらうけどな」

「カペー。怖い。エヴァンがカペーを怒らせた」

「どう考えても褒めてるだろ」

「いや。オレは二人に向かって怒っているっ!」


 メタ目線。

 いや、そんなの関係ない。

 魔物は着実に強くなっているのだ。

 カルネは最初、どうしようも出来なかったのだ。


 即ち、だ。


「おまえらさ……レベル上がってね?」


 現地民の彼らには、このふざけたスキルも強力な力に見えるらしいが。


「俺たちは異邦人じゃないんだぞ」


 ◇


 夜、村外れの空き家で三人で話した。

 結論は早かった。


「男手がいないんじゃ、ここじゃ冬を越せない。カルネに避難させるしかないな」


 問題は、村への愛着と未練がある村人たちへの説得だった。

 翌朝、広場で老人にその事実を告げた。


「しばらくの間、オレたちのいる別の村に移ってもらえませんか」


 老人が、不安そうに顔を曇らせた。


「しかし……息子たちが労働から戻ってきた時、我々がここにいなければ」


 そうなるだろうな、と予想はしていた。

 すると、オレの背中が押された。

 というより、ジーと異世界にあるまじきスムーズな金属の擦過音が鳴る。


 シオンが取り出したのは、手紙だった。


「これ。新しい司祭様から」


 老人が、本気で「は?」という顔をした。

 隣で聞いていたオレも「は?」という顔をした。


「カルネの村にいる『司祭様』が、あんたたちを受け入れてくれます」


 エヴァンが、はっきりと力強く言った。


「だから、何も心配は要らないです」


 シオンが、静かに続けた。


「……分かりました」


 そして、ヴェラの村人は一斉に準備を始めた。


 司祭からの手紙とはそれほど大きな力を持っているらしい。


 日本の中世でも、そうだったかもしれないけれど。


 現代日本感覚だと、信じられないような光景だった。


 ◇


 ヴェラからカルネへの道は、オレたちが来た道をそのまま戻る形になった。

 今度は、男手のない老人と女と子供だけを連れた大移動だった。

 カッセの時より人数が多い。


 不思議なほど誰も弱音を言わなかった。


 子供たちが、オレの奇妙な逃げ足を興味津々で見ていた。

 森の縁で遭遇した小さな魔物を、オレが爆速で弾いた時、一人の子供が目をまん丸にして言った。


「お兄ちゃん、凄く逃げた!」

「うん、逃げた」

「もっかいやって!」

「魔物がいないと、あの動きはできないんだよ」


 すると、子供が「じゃあ呼んでくる!」と言い出して森へ向かおうとしたので、オレは全力で止めた。


 エヴァンが、腹を抱えて笑い転げていた。


 ようやくカルネの村が見えた時、ヴェラの老人が目を細めて呟いた。


「ここはワシの知らない街かい?」


 昔、来たことがあったらしい。

 だったとしたらそうなる。


「カルネです」

「たった数年で、ここまで立派になるものなのか」


 皆の顔が笑顔になる。


「セルヌンティウス様は偉大な方に違いない」


 セルノ?とオレがツッコもうとすると、エヴァンとシオンが止めた。

 過去の司祭の名前らしい。その名前を使うことはよくあるらしい。

 そもそもセルノの名前もそこから取られたものらしい。


 とはいえ、偽物には違いない。

 それでも、ヴェラの村人たちは喜んで、カルネの門をくぐった。

 カルネの村人たちが、笑顔で迎えた。


 オレもその集団に紛れ込もうとしたら、エヴァンにつまみ出された。


「なんだよ」

「あの子」


 するとシオンが指をさす。

 その列の最後尾で、一人だけ、ピタリと動かない者がいた。


 カルネの入り口で、無骨な大盾を抱えたまま立ち尽くしている。

 何歳かは分からないけれど、小柄な少女だった。


 金色に近い色素の薄い髪。硝子玉のように透き通った、薄い色の目。

 抱え込んでいる鉄張りの大盾が、彼女の小さな体よりも明らかに大きかった。


 オレはいち早くそれに気づき、走り寄った。


「カルネ近くだからって 危ないだろ、早く中に入らないと」


 少女が、薄い目でオレを見た。


「戻る」


 感情の読めない、ひどく短い声だった。


「戻るって、どこにだよ」

「ヴェラに」


 オレは、少女の顔をまじまじと見た。

 わざわざ安全なカルネまで来て、またあの村に戻る理由が分からなかった。

 ケート系とラトン系の顔つきの区別はつく。

 ケート人は色素が薄く、ラトン人は褐色か薄い黒色。

 彼女はケート系だから、カッセの村人よりは簡単に行くと思っていた。


 異変に気づいて、エヴァンとシオンが近づいてきた。

 少女の姿を見た二人が、短い目配せをした。

 エヴァンが、オレの耳元で小声で言った。


「ケートじゃないな」

「え、そうなの?」

「アークラド系だね」


 シオンが、少女の正面に向き直って静かに問いかけた。


「アルンの村に、知ってる人がいる?」


 少女の平坦だった表情が、ほんの少しだけ変わった。

 答えなかった。でも、確かに動揺が走った。


「アルン?」


 オレは、エヴァンに聞いた。

 同時にセルノミッションのもう一つの村の名前だと思い出していた。

 いや、名前を変えよう。

 セルヌンティウス・ミッションだ。


「アルンは、北にある漁村だな」


 エヴァンが、油断なく少女を見ながら答えた。


「あっちの沿岸部は、アークラド系の人間が多い」


 オレは改めて少女を見てみた。

 言われたら分かるような、分からないような。

 個人差と言われたら、そうだな、と言ってしまうだろう。


「えっと。アルンに、誰か探してる家族でもいるのか」


 少女はまた頑なに黙った。

 でも、警戒するように構えていた大盾を、少しだけ下ろした。


「良し。一晩寝て、アルンに行こう」


 と、オレは言った。

 するとエヴァンとシオンが目を見開いた。


「カペーどうした」

「駆。何があったのか?」


 めちゃくちゃおかしなことを聞く。


 それはそうだろうに。


「セルヌンティウス・ミッションだ。当然のことだろう」

「それはそうだが」

「うん。いつも、いやいや言ってた」

「いやいやってたの気付いてたのかよっ!」


 少女リーフは一晩寝ることには承諾した。

 その間にオレは急いで服を洗濯して、シオンに預けた。

 シオンは半眼でそれを受け取り、不服そうに自分の家に戻っていった。

 シオンの傍らには、無表情のリーフがいた。


「なんか、いつもと逆だな。でも、セルヌンティウス・ラストミッションだ」


 そう。

 これでカルネ周辺は回ったことになる。

 カッセだけかなり飛び出た形だが、全員引っ越させたんだから関係ない。

 カッセもヴェラも、大人の男がいない村だったが、理由も判明した。


 勇者たちのインフラ作り。


 十一勇者がヴァルシア王国の復興を果たしたら、戻って来る。


「ということで、オレの追放ノンノン生活が始まるっ!」


 こんな感じにオレは足を延ばして寝た。



 翌日の朝。

 そういえば、子供たちは起こしに来なくなった。

 悲しい意味ではなく、エラもガウもルンも忙しい。


「カペー」「カペー」「カペー」


 と起こしに来る余裕はなく、整理された農地と牧場の歯車の一つになった。

 歯車の一つと言うと、大変そうだが、三人ともちゃんと笑顔だった。


「カペー」「カペー」「カペー」


 おかしい。幻聴か?


 いや——


「カペー。いつまで寝てる。服、出来た」


 そういえばコミケ服を預けたままだった。

 それに——


「パッチワークされてる」

「うん。穴が空いてた」

「あり……がと」


 マジッククローゼットはないから、完全修復は出来ない。

 だけど、やはり嬉しい。


「おし。今日も頑張るか」

「うーん。おかしい……」


 オレたち三人は、少女と共に北のアルンを目指すことになった。

 カルネを出発し、歩き始めてしばらくして、オレは隣を歩く少女に聞いた。


「で、君。名前は」

「リーフ」


 短い返事だった。


「オレは駆。こっちの人にはカペーって呼ばれてるけど」


 リーフが、横目でオレを見た。


「どっちが本名」

「駆」

「じゃあ、駆」


 ひどくあっさりしていた。

 後ろを歩いていたエヴァンとシオンが、揃って苦笑いしていた。

 カルネの二人がオレをカペーから駆と呼んでくれるまでには、それなりに長い時間とすったもんだがあったのに、この子は初日の数分であっさりと本名を呼んだ。


 エヴァンが自己紹介をした。

 シオンが自己紹介をした。

 リーフは、それぞれの顔を見て短く頷いただけだった。


「その重そうな武器、本当に一人で使えるのか」


 エヴァンが、彼女の背負う大盾と腰の無骨な斧を見ながら言った。

 相変わらず失礼でぶっきらぼうな聞き方だった。

 だが、エヴァンはいつも狩人として実力を測るためにこういう聞き方をする。


「使える」

「どのくらいだ」


 リーフが、歩きながら少し考えた。


「あたしが戦えないなら、リーフはとっくに死んでる」


 一人称と自分の名前が、奇妙に混じった言い方だった。

 自分を客観視しているような、不思議な重さがあった。


「なるほどな」

「それは頼もしい」


 エヴァンが納得したように言った。

 シオンがふわっと笑った。


 そして同時にオレを視線という矢で射抜いた。


「お前、やっぱおかしいぞ」

「カペー。なんでやる気?」


 オレは、その傷だらけの大盾をまじまじと見た。


「もしかして……。シオン、精霊に」

「うん。精霊が……あれ……。カペーは幼女趣味じゃないって言ってる」


 リーフの背丈よりも、明らかに大きくて分厚い。

 でも、革の持ち手の握り方や、歩く時の重心の取り方が、完全に板についていた。


 出た。その言葉。

 いや、精霊さん?


 オレは二人を睨み返して、こう言った。


「ジャパニーズ浪漫。分かる?」

「じゃぱ?」

「ロマンがなんだって?」

「はぁ、固有名詞は分からないのか。まぁいい。いいか。小柄な金髪少女が大盾構えて斧を振り回す。 普通にありえないだろ?」


 そこで一拍の沈黙。


「リーフはそうじゃないと生きていけなかった」

「本人がそう言ってるんだぞ」

「カペー。やはり」

「いやいや。 普通の人間は物理的に……」


 頭カーナビ・魔物に打ち勝つ射手、エヴァン。

 精霊の声を聞き、精霊術を巧みに操る、シオン。


「物理的に?」

「……なんでもない」


 どうなってんだよ、この世界っ!

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