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勇者が十二人ならクソスキルはバレない〜そして、オレは追放された〜  作者: 綿木絹
第二章 追放された異邦人

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第44話 暮らしは豊かにするほど、遠ざかる。

 夜のカルネ村。


 オレは久しぶりの部屋で一人になった。

 オレは、部屋に閉じこもっている。


 魔物たちに囲まれたレンの村を助ける。

 エヴァンとシオンに誘われて、ちょっと行くだけだった。

 囲まれてるらしいから行っただけで、終わったら帰るつもりだった。


 そこで修道士セルノと出会い、エヴァンとシオンが意気投合し、気付いたら三つの集落と二つの村を解放していた。

 セルノは全ての集落、村で、カルネの村に立派な修道士がいると伝えていた。


「うーむ」


 確かにオレの考えは、オレの中の常識は、ありとあらゆる面で甘く、ご都合主義だった。

 岸本美咲が教えてくれた通り、中世レベルでの貯蔵は、恐ろしく高度な技術だった。


 でもさ、どうにかなったじゃん。


 偶々、この地に精霊と話が出来る少女がいた。

 偶々、土の中にイーモンがあった。


「いやいや。こんな偶々はないだろ。 やっぱりダブってるんだよ。現実とファンタジーとが混在してる。思想とかも色々と! っていうか、もういいよね? イーモンってなんだよ!」


 オレ自身がその一人。

 ここに居る時点で、ファンタジーは満たしているのだ。

 拭い難く、気持ち悪さとなって、オレの頭を掻きまわしていた。


 とは言え、今は頭を休める時。


 カッセの村人たちは温かい食事を与えられた。

 新しく借りた場所で泥のように眠っているだろう。

 長老のドワンが、これからの村の食糧事情について、村の古老たちと集会所で遅くまで話し合っているだろう。

 エヴァンとシオンはそれぞれの家に戻った。

 久しぶりの帰還だから、盛大にパーティでもやっているだろう。


「気が重い……。頭が痛い。腹は……減ってない。白いパンだって、チーズだって、肉だって食べて良しだよ。確かにオレが水洗いするけど、その後は精霊様が綺麗にしてくれるんだよ。 もう、十分すぎる——」


 オレがやったことは、ただのキッカケに過ぎない。

 全てはこの国、ヴァルシア王国の内に眠っていた。


 ここには中世にしては、豊かになるポテンシャルがあったのだ。


 だのに——


「改まって話ってなんだよ……。あぁ、気が重い。オレは偽修道士、アイツは本物の修道士」


 この後、セルノと話し合いがあるのだ。


 どう考えても、大事な話。

 どうして、のんのんライフはやってこないのか。


 五億年考えたいが、約束の時間まであと少し。


 オレは仕方なく、星空の下へと歩きだす。

 時間きっかりではなく、ずっと待っていた男がいる。


「駆殿。夜分にすみません」


 最初から、ひどく畏まった声だった。

 何か、覚悟を決めた顔だった。

 そして——


 論破バトルが始まった……かもしれない


「違うんです。あれです。勘違いです。エヴァンとシオンに聞いてください。オレは偽りの修道士を名乗っては──」

「駆殿。お話があります。これは駆殿に先ずすべきと判断しました」


 覚悟をしていたのは、オレも同じだった。

 先に謝る。とにかく言い訳をする。

 こんな日が来るだろうから、あの二人に正直に話したのだ。


 しかも運が良いことに、エヴァンとシオンはセルノの知り合いだ。


「でも、ちゃんと反省してます」

「私は『偽りの司祭』として」

「偽りの修ど……」

「この村に残ろうと思います」

「はい?」


 滅茶苦茶、言葉が被った。

 だから、オレは少し間を置いた。


「え……なんて?」

「駆殿。お話があります。これは駆殿に先ずすべきと判断しました。私は『偽りの司祭』として、この村に残ろうと思います」


 一応、聞きなおしただけだった。

 同じことをもう一度言った。

 やはり、彼は真面目らしい。


「いやいや。セルノは本物の修道士だろ?」

「修道士は本物です。 私が言っているのは、偽りの司祭になろう、ということです」

「偽りの司祭。はぁ……。えっと、その辺は実はよく分からなくて」


 アニオタ、ゲームオタのオレは、なんとなーくしか分からない。

 本当のところ、ほとんど知らない。

 でも、セルノは真面目にこう答えた。


「修道士は修行の身。ただ、祈るだけです。ですが、司祭は神の代弁者です。この地で、エレイン様の叡智を説き、祭事を司り、民を導く役割です」

「叡智を説き、民を導く……。壮大なはなし」

「駆殿は、既に実践されています」


 顔が引き攣った。

 彼に話を詳しく聞く。

 修道士は平社員、司祭はカルネの社長くらいの開きがあるらしい。

 そして、オレは偽司祭の領域にまで足を踏み込んでいたらしい。


「このまま村が大きくなれば、必ず噂や話も中央へ伝わります。異端の村として、実際に審問の司教が軍を連れて来るかもしれません」

「異端の村……って。その前に、オレは簒奪者として、顔を覚えられてんだぞ」

「その時が来るかもしれません。……だから、というのもあります。もし彼らがこの村を、そして貴方を異端として焼こうとしたなら、私が戦います」


 腰が抜けそうになった。

 カルネを出て、約二週間。セルノと会ったのは二日目くらい。

 道中でずっと、考えていたのだろう。

 

「私の武器はこれです」


 セルノは、懐から取り出した分厚い聖書を、自分の胸に強く当てた。


「あなたがた異邦人の言葉でいう、私の『スキル』ですね。駆殿」


 組織を離れ、偽りの司祭として民を導く。

 一人で背負って、聖書一冊を武器にしてこの村に残る。

 アウレリウス司祭が消えた。カルネの司祭も消えた。

 誰も責任を取らなくなった場所に、自らの意志で立つ、ということだ。


「つまり、セルノのスキルは『レスバ』ってことか」


 思わず、変なツッコミが出た。


「れすば?」

「なんでもない……です。オレの後始末をして……いただける感じ……ですか?」


 セルノが、ぽかんとして少し黙った。

 真面目な顔のままだったが、少しだけ微笑んだ。


「後始末ではなく、後押しです」

「あ、後押し……です……か」


 オレは、星空を見上げた。


(この場合の後押しって何?! これ以上押される背中はないんですけど?)


 『逃げるが吉』でヘイトを稼ぐだけの無能な男

 聖書一冊で教会の権力と、レスバで戦おうとする真面目な修道士。


「カルネは任せてください」


 修道士改め、偽司祭はそう仰られた。


「ヴェラとアルンの村を、お願いします」


 さっき、司祭と修道士の違いを教えられた。

 だから、オレの頭の中はこうなっていた。


 偽司祭が偽修道士に命令を下した。

 しかし、彼は本物の修道士様でもある。

 そして、オレは偽司祭だったかもしれない。

 これは関係ないかもしれないが、あの騎士団長。

 あのイネスさんの遠縁の方でもある。


 彼のあの真っ直ぐな目を見て欲しい。めっちゃ期待してる。


 もしも、期待に応えられなかったとか、考えて欲しい。


 オレを守ると言った。でも、それってコイツの幻想の中のオレでは?


 期待に応えられなかったら、あぁ、コイツも駄目な異邦人だったんですね。


 偽物らしいし、簒奪者だし、通報か、追放してやりましょう、ってなるヤツでは?


 ——即ち、これは強制ミッションだった。


「い、いってきます」


 オレは、崩れ落ちそうになる膝を抑えつけ、くるりと引き返していった。

 逃げるが吉が発動しかけた。


「お気をつけて」


 終わったらしい。


 オレの安住の地、猫を膝にのせて居眠りする地。


 どうやら、カルネは終わったらしい。



 気を取り直して、強制ミッションに出かけた。


 大変なことになるとも知らずに、最初の一歩を歩き出した。


 セルノの地図でヴェラの村の位置は特定済みだ。

 そのヴェラという村は、エルタとは違う方向にある。

 イメージ的にはレンの村から、更に東へ向かった先だ。

 その村への道はとても細かった。

 獣道に毛が生えた程度の、人がかろうじて通った跡だけが残る、頼りない土の道だ。


「なぁ」


 エヴァンは、油断なく前方を睨んで先を歩いた。


「なんだ」


 シオンは、後方から周囲の気配を探る。


「なぁに?」


 オレは、その真ん中を歩く。


「その地図によるとだけど」


 カッセからカルネの村へ戻り、二日も待たずにヴェラへ行く流れになった。

 だが、そもそもカッセも怪しい。

 オレ的GPSによると、エルタから東へ向かった。


「エレイナス山脈は南西から北東に向かって伸びてる」

「何を今更?」

「何をって。エルタは南。そこから十一勇者が北上する。めっちゃルートじゃん」


 一拍。


「ルートから逸れてる」

「でも、ルートを横切るだろ! オレ、お尋ね者!」

「大丈夫。変装服を持ってきた」


 シオンは用意周到だった。

 エヴァンもニヤニヤとしている。


「なぁ、お前らってさ……」

「見張りもちゃんとするぞ」

「精霊も頑張れって言ってる」


 この二人のやる気も相当なモノなのだ。


(いやいや、分かっているんだよ。十一勇者の進行ルートにカルネはなかったんだ)


 下手したらカルネはオレが来る前のままで止まってたかもしれない。

 大きくなったら魔物が出て、また寂れた廃村に戻るかもしれない。


 それを押し返すことが出来た。


 地元民がヴァルシアを取り戻す為に立ち上がった。

 ケルト人チックだし、イメージはこれか。


「アーサー王的な?」

「王? 王ならとっくに」

「し……。精霊が何か言ってる」


 そしてまた、村を救おうとしている。

 先頭のエヴァンが、立ち止まらずに低く言った。


「鳥の声がまったくしない」


 オレは、足を止めて耳を澄ませた。


 やがて、木々の隙間から村が見えた。

 カッセの村ほど、廃れてはいなかった。

 家々の建物はしっかりと立っていた。

 手入れは行き届いていないが、畑も一応ある。

 でも、何かが足りなかった。


 いわゆる生活音が聞こえない。

 農村なのに、土を掘り返すような農作業の音が一切しなかった。


 エヴァンが、身を屈めて小声で言った。


「人はいる。でも、誰も外に出てない」


 シオンが、目を細めて村を見つめた。


「精霊が怖がってるって言ってる」

「精霊が怖がってるって言ってるって、誰が言ってるんだよ。頭痛が痛いみたいな」

「ん-? 人の人の気配を、怖がってる」


 オレは、静まり返った村の入り口に立った。


「すみません、通りがかりの者です」


 声をかけてから、しばらく重い間があった。

 やがて、近くの家の扉がギィと細く開いた。

 隙間から、老人の警戒する目がこちらを覗いた。

 それから、怯えた女の目。不安そうな子供の目。


 屈強な男の目は、一つもなかった。


 広場に集まってきた村人を見渡した。

 老人が数人。女が十人ほど。子供が七、八人。

 働き盛りであるはずの男が、本当に一人もいなかった。


 食料の備蓄について聞くと、女たちが一様に暗く目を伏せた。

 それで、すべてが分かった。


 代表らしい老人が口を開いた。

 修道士っぽくない格好のオレを一瞥した。


「修道士様」


 オレじゃなくて、後ろに立つエヴァンを見ていた。

 エヴァンが「違います」と短く首を振る。

 シオンが慌てて、俺の外套を引っぺがした。合成繊維のパーカーがまろびでる。

 すると老人が、気まずそうにオレに視線を移した。


「うちの息子たちは、お役に立っておりますでしょうか」


 オレは、息を呑んで固まった。


「役に?……どういう意味」

「勇者様たちの、輝かしい聖戦のお役に立てているかと思いまして」


 別の女が、すがるような声で続けた。


「まだ、息子は戻らないのでしょうか」


 エヴァンが、オレの肩に顔を寄せて小声で耳打ちした。


「エルタで言っていたな。十一勇者は北ルートを使う。物資の補給に川を使ってるんじゃないか?」


 川沿いの街セレーヌ。そしてヴァルシア王国王都リュデア。

 更に北まで川が流れる。幅が広くて、日本のそれとはイメージが違う川。


「そういうことか」


 大きな川を使った、北への広大な兵站ルート。

 その整備のために必要な、大量の木材。


 即ち、インフラ整備だ。


 過酷な労働に必要な人手。


「なら、カッセも……」


 この村の男たちは全員、十一勇者の進軍のために、労働力として根こそぎ駆り出されていた。



 日が傾いてきた頃、森の方角から嫌な音がした。

 魔物だった。


 カッセの村で見た奴ほど大きくはない。

 でも、群れとしてみれば大きかった。

 獲物を探すように、無防備な畑の方へ向かっている。


「カッセの男たちは死んでいなかった。なら、オレたちを狙ってるんじゃないのか?」

「細かい話は後だ。行くぞ」


 エヴァンが、静かに弓を構えた。


 オレたち三人で、薄暗い森に入った。

 戦術はいつも通りだった。

 エヴァンが遠距離から正確に削る。

 シオンの精霊術が敵の足止めをする。

 オレが飛び出して、ヘイトを集める。


「数が多いぞ」

「なら、またボーリングするか」

「ボーリング……」

「エヴァン、シオン。なるべく一か所に集められる?」


 その為に、正面を見据えて後退する。


「態と追い込むってことか」

「臭いで集めてみる」


 カチッ。


 踏み込んで、敵を弾く。


 カチッ。


 また、踏み込む。


 でも、オレの体感で、何かが明らかに違った。

 なんていうか、溜まりが速かった。


 自分でもはっきりと分かるくらい、以前よりも格段に速かった。

 体の奥で鳴るゼンマイの音が、一段と重く響く。


「カペー?」


 エヴァンが、次弾を番えながら驚いたように言った。


「溜まった」

「もう?」


 シオンが、目を閉じて精霊に確認した。


「精霊が、キモさがさらに加速してるって言ってる」

「完全にただの悪口じゃねーか!!」


 それでも、群がっていた魔物は見事に蹴散らした。

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