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勇者が十二人ならクソスキルはバレない〜そして、オレは追放された〜  作者: 綿木絹
第二章 追放された異邦人

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第36話 エルタへの道

 気付いたら飛び出していた。

 そして、勢いのままに駆け抜けた。


 ハッキリ言って、大失敗だった。

 流れに乗せられたまま、エヴァンとシオンに唆された。

 マップ理解とか、絶対必要だったのに。


 最初は良かった。相手がキョドってくれたから。

 だが、馬鹿みたいにいっぱい居た。

 それはそう。敵のアジトみたいなところに突っ込んだんだから。


 なんとか、後退りして、再加速にはこぎつけたけど、

 

 今、オレは大型のゴブリンに追われている。


「なんで、オレ。戦ってんだっけ?」


 レンを出た後、オレはこう思った筈だ。

 レンジャーに、エレメンターに、モンクがいる、と。

 だから、安全だよねぇ!って!


「オレ一人で突っ込んだら、意味ないでしょうがっ!」


 ノワルヴァルトは滅茶苦茶、走りにくい。

 木の根っこという、天然の足掛け罠が、丁寧に落ち葉に隠されている。


「少し減った? これ、なんとかしないとヤバいって」


 俯瞰できるスキルがあれば、栞が居れば。

 木々が密集してるから、蹴鞠がいれば。


 どう考えても、一人じゃ戦えない。


 ギリ、もちこたえているのは、──逃げろ!


「逃げてるって!」


 この逃げるが吉の力だ。

 正面に向かうと、走力が落ちる。

 ある意味で、センサーの代わりにはなる。


「斜め移動ってそういうことかも」


 あの意味不明なアプデ構文。

 こういうことかもしれないと、考え始めていた。


 全身をミニカーだと感じろ。

 斜めに入れるんだ。


 そうすれば──


 すると、半身だけが遅くなる。

 二体の魔物が縦に並んでいた場合、一体に斜めに入ると、その方向に曲がる。

 そのまま駆け抜けて、もう一体の反対斜めに入ると


 Sの字で逃げられる。


「あってるかは、知らんしっ! 何の意味があるか分からないけどっ!」


 分かっている。


 ビームサーベルがあれば、切り裂けてる。

 ビームシールドがあれば、弾き飛ばせている。


 だが、オレには何でも話せる仲間がいる。


「エヴァンっ!」


 全力で駆け抜ける。

 するとそこには意外な人物がいた。

 彼は、棒のようなものを両手で持っていた。

 ゴブリンの脇腹に、躊躇なく叩き込んでいた。


 一撃で倒すほどの威力ではなかったが、大型のゴブリンの体勢が完全に崩れた。


 そこへ、エヴァンが最後の一矢を仕留めとして放つ。


「あれ……。修道士様?」

「すみません。遅れてしまいました」


 やはり、騎士団長と重なる。

 性別も違うし、喋り方も違う。


「勇者様のお役にたてれば、と」

「はい?」


(まあ、助かったけど)


 セルノはその後、暫く黙ってついてきた。

 集落に辿り着くと、彼はいくつかを話して、何度も頭を下げられて、その度にオレを指さした。


 オレは二人に話が合ったから、セルノが何を言ったのかは知らない。


「全体をばーって教えてくれ」


 オレが引きつけて、シオンが感知して、エヴァンが射る。

 今回は、セルノが加わって崩していた。

 でも、これではダメだ。


 だって、オレが危険すぎる。


「シオンが全体を感知して、エヴァンが射る、だ」

「カペーは?」

「その後で走る」

「ん? 違いは?」


 次の集落に辿り着くと、セルノはまた同じく、何かを言っていた。


「ほら。三体くらい、ラッキーで倒せただろ」

「その後、同じだった」

「同じじゃねぇよ。 オレが危なくないだろうが」


 三つ目の集落も同じ。

 彼はいくつかを話して、何度も頭を下げられて、その度にオレを指さした。


 オレはやはり二人に話が合ったから、セルノの話は知らない。


「今回はアンラッキーだったな」

「カペー、運がない」

「射手はエヴァンだろ! いや、悪くなかったぞ。 こういうのが、ルール理解か」


 予定していたのは、道中の三つの集落での出来事だ。


 こんな話をしていたから、オレは重要な何かを忘れていた。


 考えるのを忘れていた。



 木々の間から差し込む光が、濃い橙色に変わっていた。

 足元の影が長く伸びていた。


 セルノが、オレの横に並んた。

 そのまま並走して、語り掛けてきた。


「一つ、聞いてもいいですか」

「質問? 異邦人について?」

「あなたは、剣が使えますか」

「はい?」


 オレにとっては、唐突な質問だった。


「使うというのがスキルって意味なら、使えないかな」


 するとセルノは考え出した。

 魔物の気配はなかったので、気にせずに歩いた。


「それでは、弓は」

「使えたら良かったけど」

「うーむ。それならば、魔法は」

「く……。魔法の話だけは……」

「ま、魔法の話。 つまり大魔法使……」

「違うって! 左手が疼いたりしないってば」


 つい、誰かを思い出して、大きな声が出た。

 セルノも少し、びっくりしていた。


 すると、あの二人が会話に参加した。


「カペーは色々あった」

「過去をほじくり返すのはやめろ」

「過去……?」


 セルノが足を止めた。

 オレも止まった。

 エヴァンとシオンも止まった。


「なぜあなたは、あの異常な速さで動けるのですか。それだけが、明らかに普通ではない」


 オレは首を傾げた。


「逃げるが……」

「教会の古文書に、記述があります」

「ん?」


 セルノはそのまま続けた。

 感情の平坦だった声が、少しだけ熱を持っていた。

 真面目な修道士としての顔だった。


「異邦人のスキルは、一点に極端に集中すると。通常の人間はどれほど優れていても、能力はなだらかな曲線を描く。得意があれば苦手もある。しかし全体としてのバランスは保たれる。ところが、異邦人のスキルは違う。一つの方向に向かって、あり得ないほど異常に尖る。その代わり、他は──」

「セルノ、キモイ!」


 シオンが物理的に割って入った。

 きっと伝わらないが、セルノのソレは多分、語るが吉。

 そう思うくらい、めっちゃ早口だった。


「コホン。失礼しました」

「いや、別に。シオン、気にしなくていい。早口には慣れてるから」

「そ?」

「そうなんだよ。で、その通り。オレは逃げる時だけ足が速い」


 ヴァルシア王国に入って感じた、嫌な感じがちょっとだけ分かった。

 セルノが嫌な感じ、ではなく


「つまり、駆殿。あなたは逃げる時だけ、人ではない速さになる。それ以外は、どこにでもいるただの人間ですね。古文書の記述と、一字一句、一致します」


 風が吹いた。草が揺れた。

 オレはしばらく黙っていた。


「……異邦人ですから」

「はい。 言い伝えの通りです」


 そう。

 これは当たり前のことだ。

 オレがいる時点で、決まっていること。


「じゃ。オレからも質問いい?」


 セルノはまた少し間を置いた。


「も、もちろんです」


 真っ直ぐな目だった。


「古文書の記録は、どれくらいある?」


 すると、その目が泳ぎ始めた。

 禁忌の術と呼ばれているのだって、そう。


「……曖昧にしか残っていません。それに私が学んだのも写本ですので」

「かなり昔ってことか。 前に召喚の儀。禁忌の術が行われたのは」


 十次元の魔宝石と呼ばれた何か。

 神聖ドミナス帝国にも、ソレがあるらしい。

 

 オレは、オレ達は、なんで呼び出された?


 いや、そもそも。


「スキルってなんだ?」


 セルノは泳ぐ瞳を止めた。

 真っすぐに向き直った。


「分かりません。ですから、共に行かせてください」

「……はい?」

「先ずは、エルタへ。エレイン様の教えが、古い教本があると思います」


 オレはエヴァンに視線を流す。

 エヴァンは前を向いたまま、小さく肩をすくめた。

 シオンは何も言わなかったが、同じく肩をすくめた。


「エルタ……。あれ……?」

「……道案内、いたします」


 セルノは深く頭を下げた。

 そして、小高い丘が見えてきた頃、足を止めた。


 夕日が沈みかけていた。

 ここから東を向くと、アルプスのような巨大な山脈が見える。

 西を向くと、丘の稜線──のように見えるが、エレイナス山脈がでかすぎるだけ。

 まごうことなく、カルディナ山脈だ。

 それなりに標高が高いから、時間より早くに日が落ちていく。


「この先にあるのが、古き大教会が残る、教会都市エルタです」

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