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勇者が十二人ならクソスキルはバレない〜そして、オレは追放された〜  作者: 綿木絹
第一章 十二人の勇者

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第2話 魔法陣の描かれた羊皮紙

「異世界召喚?」


 困惑がさらなる困惑を呼び、周囲がざわつき始めた。

 雄大の言いたいことは痛いほどわかる。

 だが嬉し、楽しなその態度は、ツッコまずにはいられなかった。


「お前、こんな時に『閃きましたぞ』なんて言うか? アニメの見すぎだ」

「だって本当に閃いたんだもん」

「もん、って言うな。気持ち悪い」

「でも見てよこれ。石造りの広間にたいまつ、それにフードの集団。どう見ても中世ファンタジーの定番シチュエーションだよ?」


 確かにその通りだ。

 だが、東京の年末、コミケ会場だ。

 アニメやゲームの世界だが、急にそんなことを言われても納得できるはずがない。

「凝った演出じゃないのか」と戸惑う声が上がる。


 そんな中、青メッシュ髪の女が口を開いた。


「可能性としては、あり得る」


 すると場がスッと静まった。

 彼女の両脇の二人の男が頷いたからだ。

 感情が一切乗っていない冷徹な響きが、妙な説得力を伴って耳に届く。


「根拠は?」


 誰かが短く聞く。


「空気が違う。あのコミケ特有の臭いがない。それと──」


 彼女は、石造りの壁に穿たれた小さな窓へと視線を向けた。


「あの窓の外に広がっている景色は、絶対に東京じゃない」


 全員が弾かれたように窓のほうを向く。

 分厚い石窓の向こう側には、高い城壁があった。

 城塞に囲まれた景色は、絵本でしか見たことがない中世ヨーロッパ風の世界。


「……本当だ」


 誰かの呟きが、決定的な現実として広間に落ちる。

 十数人の男女は、呆然としながらも今の状況を受け入れ始めていた。

 かつ、コミケを生き抜く彼らは、特定の情報を処理する能力に長けているらしい。


 故に。


「あの光は召喚魔術か」


 圧倒的な光景を前に、ドッキリや大掛かりなセットだという考えは消えた。

 言い訳を並べる者は、誰もいなかった。


「皆さん」


 すると白髪の老人。

 さっきは海外のコスプレイヤーかと思ったが、男がよく通る静かな声で語りかけてきた。


「遠いところから、よくぞ来てくださいました。私はバルド。このフィニス王国において、宰相を務めております」


 そのファンタジーRPGから飛び出してきたような単語の羅列に、 「王国、宰相」と、雄大が知識を照合するように呟きを漏らしている。


「皆さんには、我が王国の勇者としてその大いなる力をお借りしたく──」

「ちょっと待ってください」


 老人の言葉を遮ったのは、さっきから声を出す青髪女だ。

 その瞳の奥には、どこか冷たい光が宿っているように見える。


「アタシたちを帰す方法は、あるんですか」


 オレは思わず、息を呑んだ。

 彼女の鋭い問いかけに、バルドと名乗った老爺が一瞬だけ表情を曇らせる。


「……それにつきましては、追って詳しく説明を」

「今、ここでしてください」

「つよっ」


 彼女は一歩も引かない強い姿勢だった。

 バルドは小さく息を吐き出すと、観念したように

 しかしあくまで丁寧な口調で真実を口にした。


「召喚に用いた国宝の十次元の魔宝石。それと同質のものが、遠く離れた帝国に存在すると伝えられております」


 雄大の肩が跳ねる。

 少しムカつくが、雄大の大好きな言葉が並んだ。


「……それを用いれば、皆様が元の世界に戻るための手がかりになるかもしれない、かと」

「かもしれない、ですか」

「確証はございません。ただ──可能性としては、残されております」


 少しの沈黙の後、彼女は「あとで詳しく教えてください」と答えて引き下がった。


「あの恰好ってゲーマー? メンタル強すぎないか? ちょっと怖いんだけど」

「怖い……怖い……怖い……」


 オレは怖い。

 雄大の怖いは、何か違う気がしていた。

 そして、誰かが言った。


「でも、こういう状況だとすごく頼もしい」


 それは、まったく同感だった。

 バルドが再び咳払いをし、話を元に戻す。


「では、まずは皆様がどのようなお力を秘めているのかを確認させていただきたく存じます。魔法書記に記録させますので、今しばらくそのままでお待ちを」


 宰相を名乗った男が下がり、フードを被った細身の人物が静かに歩み出る。

 その手には古い羊皮紙と羽根ペンが握られている。

 書記は並んだ十二人の周囲をゆっくりと円を描くように歩き始め、時折目を閉じては何かを感じ取り、ペンを走らせていた。


「誠ちゃん、怖い……」

「だ、大丈夫。だろ?」


 厳かな儀式のような雰囲気が漂う。

 そんな中、緊張感のない自己紹介が突発的に始まった。


「俺は神宮寺玲じんぐうじれいだ。スポーツ選手だ」


 赤メッシュ髪の男が短く名乗る。


大石剛おおいしごうです。その……」


 緑メッシュ髪の大柄な男。


「アタシは如月栞きさらぎしおり。二人とも知ってる、大会で見た」


 青メッシュ髪の女。メッシュが流行っているのかもしれない。


「俺もです。栞さんの配信、参考にしてました」

「そう。ありがとう」


 男二人は知り合いで、女も二人を知っていた。

 スポーツ選手と言ったが、オレには分かる。

 あの三人は、Eがつくスポーツ。プロゲーマーだろう。

 同じ勝負の世界で生きてきた者同士の引力で、あっという間に打ち解けていく。


「しばらくかかりそうだね。では、ボクから」


 それから、何故か異世界に違和感がない出で立ちの三人が軽く手を振った。

 プロゲーマーか、スポーツ選手かなんて迷う必要もない。

 ガチコスプレイヤーの三人組だ。


天野奏あまのかなでです」


 和風ファンタジーの完璧なイケメン姿をした青年が微笑む。

 すると、隣にいたアラビアンナイト風の踊り子衣装を纏った女性が目を輝かせた。


水瀬舞みなせまい! ウチ、ずっと前からフォローしてたよ!」

「ボクもです。舞さんのファンタジー衣装、いつも参考にしてます」

「わたくしは九条蹴鞠くじょうけまりと申します。お二人とも、もちろん存じておりますわ。奏さんの造形は特に素晴らしいと思っておりましたの」


 ベルサイユ風の華やかなドレスを着こなす女。


「ありがとうございます。蹴鞠さんの宮殿スタイル、ボクも注目してました」


 三人はまるで昔からの友人であったかのように意気投合し始めた。

 一緒に召喚されたが、直接的な知り合いではないらしい。

 だけど、SNSで互いを知っていたから、打ち解けは早い。


相沢誠司あいざわせいじです」

岸本美咲きしもとみさきです。よろしくお願いします」


 キレイめカジュアルな服装の青年と、ゆるふわな茶髪の女性が並んで頭を下げる。

 オレが言うのもなんだが、普通の二人だ。

 普通に仲睦まじいカップルだ。


 そして、


 ついに隣の雄大の番が回ってきた。


「村田雄大です! アニメが大好きで──」


 この男は中学からの友人。黒なんとかっていう詠唱を今でも出来る。

 ハッキリ言って、厨二病が治らなかった大人だ。


柊日向ひいらぎひなたです。わたしもアニメ、好きです。推し活……を少々。凛とは友達で」


 シフォン素材のワンピースを着た、ふんわりとした雰囲気の少女が反応する。


黒瀬凛くろせりん。私も……。日向と一緒に、偶々コミケに」


 漆黒のゴシックロリータの少女もそれに続いた。


「お、お二人ともアニメ好きですか! 何が好きですか!? 僕は去年の覇権アニメは全部追ってて──」

「わたし、ずっと推してるキャラがいて。派遣アニメより──」

「私の推しは──」


 オレは目を剥いた。

 あの村田が、水を得た魚に見えた。


 これは流石に、負けていられない。


 見事に居場所を取り残された気分を味わいながら、最後にオレの番が回ってくる。


「……速水駆です。えっと、オレもアニメとか好きで。覇権アニメとかコア向けの」

「同志じゃん!」


 目を輝かせて振り向いた友人が、なんだよという顔をした。

 オレは、思わず乾いた笑いが漏らした。


「お前とはずっと前からの付き合いだろ」

「ここは異世界だよ。もっとテンションあげなきゃ」

「はぁ……。そんなもんか?」


 とまぁ、なんとも偏った自己紹介が終わった頃だった。


 広間を歩き回っていた書記の動きがピタリと止まった。


「この羊皮紙をお持ちください」


 フードの人物の手から、折りたたまれた古びた羊皮紙が差し出される。

 一人ずつ、無言で手渡されていった。


 この不気味な紙が、異世界オルエレアの命運を握ることになる。


 雄大ではないが、オレもそんな気がしていた。

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