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勇者が十二人ならクソスキルはバレない〜そして、オレは追放された〜  作者: 綿木絹
第一章 十二人の勇者

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第14話 黒焔の剣の一員として

すみません。10話が抜けてました。一つズレます。

 朝の異邦人館の一階。

 メンバーそれぞれが放つ、思い思いの騒がしさに包まれていた。

 食堂へ降りると、すでにテーブルの端で青髪のプロゲーマーが巨大な地図を広げていた。

 朝食のパンを囓るよりも先に、彼女は動いていた。

 物理の地図を見る瞳にデバイスも反射する。

 データを照合しているのか、ルート解析を始める女。

 その隣では、重装甲の巨漢が黙々と硬いパンを咀嚼している。

 リーダーである中二病のゲーマーは、まだ起きてきていないらしい。


「おはよう」


 琥珀色の髪を揺らし、美咲が笑顔で声をかけてきた。


「おはよう」


 オレも軽く返す。


「黒焔は、今日も、北の森か」


 美咲の隣で誠司が椅子を引きながら、真面目な顔で尋ねてきた。

 ただ、その前にオレには言う事があった。


「あのクローゼット、ヤバいな」

「だろ? やっとシャワー浴びたのかよ」

「うふふ。説明されなかったものね」


 爽やかな朝、爽やかなカップル。

 決してリア充なんて低俗な呼び方は出来ない。


「リーダーの方針だし。そもそも、三つのゲートを押さえなきゃなんだろ?」

「まぁな」


 彼ら第二隊は「暁光の槍」として南の森を担当する。

 ただ、シャワーの件で、オレに気をかけてくれている。

 というより、顔ぶれのせいだろう。

 ゲーマー、コスプレイヤー、ガチオタたち。いわゆるフツオタの彼とオタではない彼女。


「左手が疼きまするな……」

「たまんないようにしなきゃ!」


 忘れていた。二人の相棒はあの二人だ。

 パーティのまとめ役をやらなければ、という使命感もあるだろう。


(雄大のヤツ。隣なのに全然、関わって来ねぇし)


 テーブルの向こう側では、雄大がすでに舞の隣の席を陣取っていた。

 昨日も一昨日もそうだった。

 もはやあの位置が、あいつの絶対的な定位置になりつつある。


「舞殿! 今朝のパンのお味はいかがでしょうか!」

「普通においしいよー」

「左様でございますか! 拙者もまったく同意見でござる!」


 オレは自分のパンを無心でちぎりながら、その奇妙な会話を遠くで聞いていた。


 中学からの友人で、コミケの会場で隣を歩いていた陰キャだ。

 中二のまま成人した雄大と、アレが同一人物とは到底思えない。

 アレは俺の腐れ縁のダチではない。

 完全に別の生き物にクラスチェンジしている。


 でも、本人は至極楽しそうに、異世界ライフを満喫しているのだ。


 オレとしては、まぁ、いいか。と思うしかなかった。


 そこへ、和風の着崩し衣装を纏った奏がやってくる。

 こういう感情もあるらしい。男目線でも目のやり場に困る。


 そして、いつものように大事そうにリュートを抱えている。


「おはよ。 言い食べっぷりだね」

「お前な。浴衣じゃないんだぞ」


 すると、ガタッと机が響く。

 艶めかしい男の姿を見た瞬間、隅にいた日向と凛が立ち上がったのだ。


「……おはようございます、奏くん」


 日向が、ふんわりと慈愛の笑みを浮かべて言う。


「おはよう」


 奏が、美しい髪を揺らして涼しく返した。


「おはよう、奏くん……」


 凛が、必死に興奮を抑え込み、平静を装って短く挨拶をした。


 オレはちぎったパンを、もう一口黙って食った。

 今日もまた、それぞれの異世界が始まる。


 ◇


 北の暗い森は、来るたびに少しずつその顔を変える。

 同じ獣道のはずなのに、足元の枯れ葉の積もり方が微妙に違っている。

 木漏れ日の入り方が違う。風の匂いが違う。

 そして何より、魔物の潜んでいる気配のする場所が違う。

 当たり前かもしれないが、昨日の場所ではない。


「クリア!」


 光る剣を握る玲が先頭は変わらない。

 エネルギーシールドを持つ剛が、そのすぐ後ろ。

 森の中に迷い込んだ貴婦人にしか見えない蹴鞠が、その更に後ろ。

 そしてオレが、一番後ろ。


 第一隊「黒焔の剣」の隊形は昨日のままだ。


「クリア!」


 前方の鬱蒼とした木の枝に、昨日はグリスクが屯していた。

 今回はさらに奥へと向かう。


 因みに朝の話し合いでは、「今日はサブミッションを片付ける」と言っていた。


 オレ達のメインミッションはカルディナ山脈の向こうにあるヴァルシア王国の復興だ。

 ファイナルミッションは、帝国にある十次元の魔宝石で、現実への帰還だ。

 道のりは遠いのと、もう一つ別の理由があるから、サブミッションをこなす。


「いたぞ」


 リーダーの声が響く。

 昨日よりも声が出ているのは、「何かやってしまった」くらい強いという自覚があるからだ。


 今日もやはりグリスク。数はまだ見えない。


「ノワルヴァルト……か」


 オレが最後方にいるからかもしれないが、黒い森と呼ばれるが故に視界が不良。

 ノワルヴァルトと呼んだのは、確か目の前の蹴鞠。

 自動翻訳はどうにも曖昧過ぎる。


「静かに」


 玲が剛へ鋭い目配せを送る。

 剛が僅かに頷いた。

 その後ろ。

 蹴鞠は、優雅に膝を落とし、跳躍の構えに入っている。


「——黒焔よ、切り裂け!」


 玲が地を蹴って踏み込んだ。

 寧ろ、赤い光が森の奥に突き抜ける。

 神速の光刃が一閃し、一匹。


「黒焔シールドバッシュ!」


 剛がシールドを前に突き出し、飛びかかってきた魔物をカウンターで弾き飛ばす。

 明らかに、緑の光が森の中を照らした。

 空中で骨の砕ける音が響き、一匹。


 オレは心の中で叫んだ。


 昨日見た!と。


「ビームサ……黒焔の剣で追い詰める!」

「ビームサーベルでいいんじゃないか?」


 神宮寺玲が闇を裂き、大石剛が空間を守る。


 そして——


「行きますわよ。ノワルヴァルトっ!」


 グリスクだよっ!

 なんでもいいけどっ!


 蹴鞠が異常な脚力で跳んだ。

 ノワルヴァルトだからこそ、彼女の本領は発揮できる。

 足場さえあれば、再跳躍が可能となる。

 しかも、落下ダメージも軽減される。


 あのドレスとヒールが、巨大な槍となって魔物を狙う。

 鷹のように、得物を捉える。


 残った中央の一匹を、昨日と同じように踏み潰した。


「慣れてきましたわ」

「うむ」

「見事」


 ゲーマー二人が拍手して、九条蹴鞠を讃える。

 オレは一番後ろで、抜いた短剣の柄をただ強く握りしめたまま立っていた。


「依頼はこれで片付いたか。剛、どうだ?」

「同じ動きで問題なさそうだ」

「……同じ動き……ですの?」


 帰り道、オレは前を歩く三人の背中をずっと見つめていた。

 玲と剛の動きは、プロゲーマーらしく完全に計算され尽くしている。

 一切の無駄がない、最適化された物理攻撃の連携だ。


 余裕をもって動いてからの、ゲストへのアシストだ。


 蹴鞠はその完璧な連携の締めくくりを行っている。

 ゲームでも、きっと似たような教育をしているのが伺える。


 ◇


 北の森での探索を終え、オレたちがギルドの前に戻ると、すでに他の二部隊は帰還していた。

 重い木の扉を開けて中へ入る前の、ちょっとした広場。

 そこで、それぞれのパーティが今日の反省会のようなものを開いている。


 第三隊『銀弦の星』の中心では、青い髪の栞が虚空に複数のホログラムウィンドウを展開していた。


「いい? 一四時二二分のエンカウント時、凛のヘイト管理が〇・五秒遅いわ。日向さんは敵のDPSを計算して、前衛が被弾する前にヒールの先行詠唱を始めておくべきよ」


 栞が瞳孔にデータストリームを映しながら、脳内で再生した今日の戦闘データを一つ一つ早口で説明していく。


「でぃーぴーえす……?」

「へいと、管理……?」


 日向と凛が、完全に理解を置き去りにされて戸惑っていた。

 これは、無理もない。

 MMORPGのガチ勢が使うような専門用語を早口で浴びせられて、一般のガチオタ女子たちが理解できるはずがないのだ。


「奏はもっとバフのタイミングを考えなさい。ランダムすぎて計算に組み込めないわ」

「一番美しく響くタイミングで、弦を弾いているだけなんだけどね」


 和風衣装の奏は、栞のガチギレをどこ吹く風と受け流し、涼しい顔で肩をすくめてリュートを鳴らした。

 栞が、心底頭が痛そうに深いため息を吐いている。


(厳し……教育は間違いなく、黒焔の剣の方が上だな……)


 一方、第二隊『暁光の槍』の空気はまったく違った。


「いやー、今日もみんなお疲れ! うちら、けっこういい感じじゃない?」


 相変わらずへそ出し衣装の舞が、底抜けに明るい声で笑っている。

 腹部の魔力痕が、彼女の機嫌の良さに連動するようにキラキラと金色に輝いていた。


「そうだな。舞が明るく盛り上げてくれるから、本当に助かるよ」


 誠司が、肩の力を抜いて穏やかに笑う。


「うん。最初は怖かったけど、このペースで少しずつやれば、きっと大丈夫そうだね」


 美咲も、琥珀色の髪を撫でながら、ほっとした顔を見せた。

 生真面目で慎重なカップルの二人が、舞の圧倒的な陽キャのペースに馴染んでいる。

 深刻になりがちな異世界サバイバルにおいて、あのコミュ力は間違いなく一つの才能だ。


「すべては舞殿の華麗な舞のお陰でござる! 拙者の魔法も、舞殿の応援があればこそ限界を突破できるのでござる!」


 禍々しい魔力痕を左手に宿した雄大。

 相変わらず、気持ち悪いほどの熱量で同調する。


 オレは、その光景を少し離れた場所から呆れて見つめていた。 

 コミケの会場で壁際を歩いていた陰キャの親友が、今や完全に陽キャの輪の中で調子に乗っている。

 ノワルヴァルトに対する、緊張感が欠けている。


「チッ……」


 舌打ちが隣で聞こえた。

 オレと同じ第一隊『黒焔の剣』の三人がいた。

 誰の舌打ちか分からない。

 黒衣を纏った男。戦場ではエネルギーシールドを明滅させる男。

 そして、豪奢な戦闘用ドレスを着た蹴鞠。


「報告を急ぐぞ」


 玲が赤いメッシュ髪を掻き毟る。

 剛は無表情のまま、少しだけ気まずそうに視線を逸らす。


「え……。別に急がなくても」

「いいじゃありませんの。仕事はさっさと片付けるのですわ」


 蹴鞠に至っては、不快そうにパニエを揺らしている。


 効率と結果だけを求めるストイックなゲーマーたちや、プライドの高いパフォーマーにとって、あの『和気あいあい』とした空気は、気に入らないのだろうか。


 オレは気にならない。


 そこに雄大がいなければ、だけれど。


「行くぞ」

「おう……」


 やがて、各自がギルドの中へと入っていく。

 オレは受付嬢への報告の列から少し外れ、壁の巨大な掲示板の前に立った。

 そこには、今日それぞれのパーティが達成したミッションの報告書が、ずらりとピン留めされている。


 オレは、その『達成済』の札が貼られたミッションの数を数えて、ハッとした。


「今日はサブミッション……だよな。っていうか、サブミッションってなんだよ。大体が同じ内容の依頼だろ?」


 だが、気になる。

 彼らがこなした依頼の数に比べて、オレたちAパーティの達成数が、少しだけ少ないような気がした。


(ま……気にしない。蹴鞠への教育の時間だ。オレのせいじゃ……ない)


 嫌な汗が、背中をじっとりと伝うのを感じた。


(これは伸びしろ……だ)


 心の中で、必死に自分に言い聞かせる。


 だが、後退士だ。

 逃げるが吉とおみくじに出た男だ。

 誰に聞かせるわけでもない、薄っぺらい言い訳でしかない。


「こ、後衛だって、大事なんだし。後ろを任されているんだし」

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