第10話 異世界の戦闘開始
すみません。10話が抜けてました。一つズレます。
白いニットのセーター。
手は見えておらず、柳のように垂れ下がる。
ワンピースでもあるのか、裾は膝まで伸びている。
「玲と剛がAチームとして、聖騎士と魔法使いのとこがBチーム」
空中ディスプレイが青い瞳の彼女の周りをまわる。
如月栞が、結局は中心だった。
「アタシはその後に決まったチーム」
「わたしたちのとこ?」
「まぁ、ゲームの攻略とかは私も詳しくないけど」
冷たい瞳が、赤黒ツートンの男と緑黒ツートンの男に向かう。
萌え袖は、相沢誠司と村田雄大へと向かう。
「ここだけ。ゲーム知識が低い」
ゲームじゃねぇよっ!と叫びたかったのはオレだけだろう。
ゲーマー二人はさておき、相沢もゲームは軽くやると言った。
そして、オレのことを無視してチームに飛び込んだアイツは、何と言っても自信満々だった。
その一方で三つ目のチームは、スキルを試していないと言った男、奏。
奏についていきたいと、傍から見ても分かる女子二人。
チームの牽引役が見当たらない。
だから気がつくと、オレ以外の全員の行き先が完璧に決まっていた。
Aパーティ:玲、剛、蹴鞠。
Bパーティ:誠司、美咲、舞、雄大。
Cパーティ:栞、日向、凛、奏。
だから残っているのは、一人だけ。
いや、
「速水」
一人が入る場所は決まったようなものだった。
玲が、作業の確認をするかのようにオレを呼んだ。
「何をぼーっとしている。お前はAだ」
それは誘われたというより、ただの事実確認だった。
パズルを埋める過程で余ってしまった一枠に、仕方なく名前を押し込むだけ。
残念ながら時間切れ。
(スヴァントウルフってペットの名前じゃない……よな。てか、討伐って書いてるし!)
オレは迷子犬を探す依頼を見つけられず。
「……ああ、わかった」
余った一人として、Aパーティに入ることになった。
玲も剛も蹴鞠も、決して感じの悪い連中ではない。
反抗する理由もなく、俺は頷くしかなかった。
「さて……」
パーティ編成の頃合いを見て、イネスが壁から背中を剥がした。
ガチャと鎧を軋ませ、軽く肩をすくめる。
そしてイネスは、その黒い瞳を栞に移した。
「こちらが言わなくとも、三つに分かれたのか。それとも」
「北、東、南。三つの門が記される」
女騎士は溜め息を吐いた。
オレは頬を引き攣らせた。
「読み解く……か。その通りだな。西は海で、渡航は不可能と頭に入れておくように」
「どういうことだ?」
聞いたのは誠司だ。
「巨大海洋生物に呑み込まれる。海は魔の領域だ」
「そんな……」
青褪めたのは美咲。
つまり、普通の感性を持つ者たち。
どうして、オレを含めた残りの十人が反応しないか、理由がある。
「二人とも、マップをちゃんと見ろ。 そこには何もないだろう」
「代わりに、門の周りには印があるなぁ」
ゲーマー玲と剛の言う通り。
ただ、それだけだった。
因みにオレは、そのメインミッションみたいなマークの数を、見落としていた。
「三つのパーティ。北と東と南。 民が見ている。期待していいんだな?」
「はっ!」
甲高い敬礼をしたのは雄大。
ちゃんと分かっていた顔だった。
ここから、三方向へ散らばる。
◇
オレは自分の装備を確認した。
大したものじゃない。
ギルドから初心者用として貸し出された、硬いばかりの革の胸当てと、腰の安っぽい短剣だけだ。
「短剣はあくまで護身用……だっけ」
謎のジョブを持った人間が、護身用の短剣一本をぶら下げる。
前を行く一人は己からビームサーベルを出せる。
その隣の男は、ビームシールドを出せる。
オレの隣に居るのは、危険極まりないパニエをしゃなりしゃなりさせる女だ。
「俺達は北だな」
そう。この三人と一緒に、得体の知れない北の森へ行く。
ギルドの前で三つのパーティが顔を揃えたのは、朝日が石畳を赤く染め始めた頃だった。
「じゃあ、ウチらは南から行ってくるね!」
露出度の高い装備を着こなす舞が、明るく手を振った。
一人の男の視線を注意深く見なければならない。
更に隣の男が、美咲に気を使って目を背けている。
「南を最初のルートに選んだのはどうしてでござる?」
「だって、あったかそうじゃん!」
「そ……そうですな!」
誠司と美咲が苦笑いしながらぺこりと頭を下げる。
その隙に雄大が舞の隣のポジションへと素早く滑り込む。
「行くわよ」
一方、スマホで地図を確認する栞は、東へ歩き始める。
その背中を、奏が追っていく。
和風イケメンの背中に、何かが貼られているのか、日向と凜が背中を追う。
「か、奏くん。それって」
「リュート……だよね」
「城の物置に眠ってたやつを借りてきたの。年季入ってて、かえっていい音がするんだよね」
ある意味で南と変わらなかった。
雄大を責めるのは間違いかもしれない。
「弾けるんだ。凄い」
「吟遊詩人……だから?」
「使えるものは使わないとね」
奏は涼しい顔で言い残し、東の空へ向かって歩いていった。
日向と凛も、小声で何か熱心に言い合っている。
そして——
気がつくと、ギルドの前に残っているのはオレたちAパーティだけになっていた。
「俺達も行くぞ」
漆黒の硬質スケイルを纏った玲が言う。
「ああ」
「はい」
剛と蹴鞠も追従する。
「……うん」
オレは誰にともなく短く答え、バケモノのような装備を持った三人の背中を追って、北へと向かった。
◇
北側の森は、ひどく暗かった。
木々が異常に密集しており、朝日が地面まで届いていない。
足元には湿った枯れ葉が分厚く積もっており、踏むたびにがさりと嫌な音が響く。
「ここで止まるぞ」
黒衣の剣士玲が、低く言った。
そこで、剛がピタリと歩みを止める。
「何かしら」
「し……」
玲はそのまま先頭を維持。
剛がその隣で盾を構える。
その様子を察して、蹴鞠が右側面に控えた。
そしてオレは勿論、一番後ろ。
「あの木の奥」
「うむ」
警戒しながらしばらく進む。
そこで、玲がスッと手を上げた。
ゲーム実況でこういうの見た! FPSゲームみたいっ!
心の中で、オレは舌を巻いた。
三人で攻略するタイプの3Dシューターものっぽい。
オレは最後尾だから、いわば神視点だ。
「グリスクだ」
全員が足を止める。
前方にある薄暗い茂みの向こうで、何かが動いていた。
巨大変異リスが五匹、木の枝に張り付いている。
まだこちらには気づいていないらしい。
(アレが化け物……。リスではない。 リス、見たことないけど! っていうか、放射能か何かで巨大化したゲームみたいっ!)
何回、ゲームみたいと思えば気が済むのか。
目の前の二人の動きがソレだからだ。
玲が無言で隣の剛と目を合わせる。
剛が小さく頷き、一歩前に出る。
蹴鞠も流石に、二人の動きに気付いて、息をひそめている。
「——切り裂くが吉」
剛に気が付いたグリスクだが、その陰に隠れる男には気付かなかった。
玲が、地を蹴って大きく踏み込んだ。
剣速が爆発的に上がる——っていうか伸びた。
オレの目では到底追えないほどの神速の連撃で、二匹が一瞬で仕留められる。
更には
「突き返すが吉っ!」
「タンクが攻撃しますの?!」
蹴鞠の驚きには、ある意味で共感する。
だが、ビームシールドだって、十分すぎるほどの破壊力だ。
飛びかかってきたグリスクが、緑の壁に激突して弾き、焼かれて飛ばされる。
カウンター判定による強烈な追加ダメージで、一匹が絶命した。
「わ、わたくしも負けていられません、跳ねるが吉ですわ」
蹴鞠が、軽やかに跳躍した。
森の木々の高さを越えるほどの異常な跳躍力。
「な……」
引くほどの高さだった。
そして、オレの驚嘆を置き去りに、前を行く二人が動く。
「剛」
「分かっている」
周囲を警戒し、時には打ち倒し、時には弾き返す。
敢えて、真ん中のグリスクを残して、周辺を安全にする。
そこに
上空から放たれた強烈な踏みつけが炸裂する。
真ん中で、混乱していた一匹が、原型を留めないほどに粉砕した。
「あら。踏んでしまいましたの」
踏まれたいとは思えない破壊力だが、その華麗な落下はスカートの裏側を見せることもない。
研ぎ澄まされたモノだった。
「なかなかやるな。蹴鞠」
「お見事」
そして、オレは瞬時に理解した。
あのイケメン、奏が言ったのってこれか? 違う意味のルール関与かよ。
美しいものは、一か所に集まるより散ったほうが舞台に映える。
奏が言いたかったのは、現地の人達に向けだと思っていた。
それは半分は正解で、もう半分を補っていなかった。
「スキルとは、面白いですわね」
九条蹴鞠。 貴金属のような銀の髪と、宝石のような赤い瞳。
何より、日本人とは思えない目鼻立ち。
後方腕組み視聴者の、オレの目には明らかな、『姫プレイ』がそこにはあった。
「だな」
「良いモノを見れた」
「見せてませんわよ」
「そ、そう言う意味ではない……」
因みにオレは、腰の短剣を抜く暇さえなかった。
短剣の柄に手はかけていたが、一歩前に出る間もなく、強いて言うなら、玲と剛の意図を汲んで、大人しくしていた。
「……で、速水、怪我はないか」
血振るいをしながら、玲が興味なさそうに聞く。
「流石に……ないかな」
会話は、それだけだった。
オレは「役に立てなかった」と落ち込むことはしなかった。
これは、「思わないようにした」というのとも少し違う。
ただ、心のどこかで『こういうものだ』と冷めた理解をしていたのだ。
「確かに、目先のモチベーションは必要か」
栞はもしかしたら、奏のことを買っていたのかもしれない。
だから、Cチームに鞍替えした。
オレだって、ちゃんと考えてるんだからな。
そのうち、オレだって。でも、姫プ……か
オレは三人の背中を、ただ黙って追いかけながら暗い森を出た。
三つある城壁の扉。
北の森での戦いは、最初というのもあって楽勝だった。
なんとかが吉の能力が、とにかく凄い。
衣装までその恩恵を受けているのだし。
「さて。 他はどうだったろうな」
「ふむ。似たようなものだろう。今日のはチュートリアルだからな」
と、謎理論を挟むのを忘れない玲には好感が持てる。
同時に、二人のせいでゲームにしか見えなかった、だけど。
「東と南。 まだ、戻っては——」
重い木の扉を押し開けてギルドに戻る。
だが、玲の計算は外れていた。
すでに二つのパーティが到着していたのだ。
「おかえりー! ウチが一番乗りだからね」
敢えて言う。つまり
「玲。剛。話を纏めるわよ」
オレたちのAチームは、チュートリアルだが、最後尾だった。




