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幕間 ~墜落~

 今回のお話は決勝戦で敗れた彼のお話です。


※胸糞注意です。

 また、この話を読まなくても一応本編はわかるようにはなっています。補足のようなものだと思っていただいて構いません。

「この……恥さらしめがっ!!」

 バシン!!

「がはっ!!」

 父上の拳が自分の頬に突き刺さった。床に投げ出される。口の中に血の味が広がった。

「なんだあの体たらくは! 無様な姿をさらしおって!」

 父上は酷く怒っていた。今までに見たことがないほどに……。いつもは優しく、自分を自慢の息子だと言っていたのに。まるで汚れたものを見るような目で自分を見る。

「申し訳、ありません……」

 必死で頭を下げる。とにかく怒りを鎮めなければ。

「あの場には大勢の観客がいたのだぞ! 中には将来の騎士団員候補を探しに来た者もな! 本来ならあの場でお前の存在を知らしめるつもりであったのに台無しではないか! しかも、ジルベルトの放蕩息子にやられるとは! わしの顔に泥を塗りおって」

 再び殴られる。掌を返したような父上の振る舞いにどんどんと心が冷えていくのを感じた。

「それと、同級生と闘技会参加者に重傷を負わせたらしいな」

「は……はい」

「もう庇ったり、もみ消したりはしないからな。お前のような恥さらしを庇い立てする理由もない」

 その言葉に、自分の中の何かが崩れていく感じがした。

 気が付くと、自分の部屋のベッドの上にいた。殴られたところがずきずきと痛む。おぼろげながら執事が手当てをしてくれたのを覚えていた。それでも痛みはまだまだあった。外は真っ暗で、時刻はすでに深夜のようだった。

 のどが渇いたので、メイドに水を持ってこさせた。それをあおる。口の中がしみた。……くそっ!

 思わずコップを壁に向かって投げつける。ガシャアンと音を立ててコップは割れた。なんで、僕がこんな目に合わなきゃいけないんだ!

 ほとんど眠れぬまま朝を迎えた。空腹を感じて食堂に向かう。出された食事を貪るように食べた。味はほとんど感じなかった。

 朝食後すぐに父上の執務室に呼ばれた。……もしかして、許してくれるのか?

「マルバス。今日からお前はもう侯爵家の嫡男ではない。嫡男は次男のティガにする」

「な……なんと?」

「貴様のような恥さらしを後継ぎにはしておけん。これは決定事項だ」

「そ、そんな!?」

 なんとか言いつのろうとしたが、父上の軽蔑しきった目を前に気圧され、立ち尽くした。

「話は終わりだ。出ていけ」

 そして執務室を追い出された。嘘だろ。なんで……。

 今言われたこと、全てが信じられなかった。

 でも、それから数時間のうちに嫌でも父上の言葉が真実だと知ることになった。屋敷でいつも僕の後をついて回っていたやつらが、僕に見向きもしなくなった。それどころか、憐れむような、馬鹿にしたような目で僕を見る。足をかけられたり、ぶつかられても誰も僕を気にしなかった。耐えきれなくなって屋敷を飛び出し、学園に向かう。だが……

「お前よくここにまた来られたな。昨日あんだけ無様に負けてたくせに」

「今までは強かったから従ってたけど、負け犬に用はねえよ」

 誰も相手をしてくれなかった。その事実に愕然とする。今まで、あれだけ僕にすり寄ってきていたくせに!

 学園の片隅、ひとりで座り込む。……なんでこんなことに。今まで、精いっぱい頑張ってきた。父上に認められるため、将来近衛騎士団長となるため、努力は惜しまなかった。アルグランテ家の後継者として、舐められぬようにしてきたつもりだ。他人を蹴落とし、誰にも負けぬようにやってきたつもりだったのに……。でも、今や父上は僕を見離し、僕にすり寄ってきていた連中もまた離れていった。侯爵家の後継者の座も失った。たった一夜にして、全てがなくなってしまった。僕の今までの努力は、過ごした日々はいったい何だったというのか……。

 不意に、アルバートの顔が浮かぶ。決勝戦で、僕を打ち負かした男。僕に対して謝罪しろと言った忌々しいやつ。放蕩息子だと聞いていたのに、全く違った。

『……お前はその優れた力を、誰かのために使ったことはあるか?』

 奴の言葉が脳裏によみがえる。うう、うるさい!

 頭の中に浮かぶのは、這いつくばって許しを請う姿だけ。感謝されたことなんて——。

『ありがとう。じゃあ私を守ってね』『うん!』

 頭をかすめたのは、捨て去ったはずの記憶。僕を捨てた女の顔。……消えろお!

 近くの植え込みに向けて魔法を放つ。風の刃で植え込みはズタズタになった。……くそっ! 今更、それを思い出したところで……っ!

『騎士の誇りを汚してるのはお前の方だ』

 再び頭をかすめる奴の声。思わず頭をかきむしる。うるさい!

「はあっ。はあっ。……」

 奴の言葉が、頭をこだまする。うるさい。うるさい! さらにかきむしった。それでも、やまない。

 もう僕には、何もない。父上の信頼も。嫡男の地位も。学園で築き上げた地位も、何もかも。僕を必要とした人間ももういない。かつての約束も何の意味もなさない。もう、自分が何のためにここにいるのかさえも。

 ……そもそも、こうなったのは全て、あいつのせいじゃないか。あいつが現れたから、僕はこんなことになった。そうだ。その通りだ。なら……別にイイヨナ?

 僕は、ゆらりと立ち上がって、歩き出す。騎士になりたかった理由。かつては持っていたはずの誇り。その全てから目を背けて……。

 余談ですが、筆者は「幕間」とつくものは本編にも関係があり、「SS]とつけているものは箸休めだったり、本編の裏話のような感じで書いています。あと、文字数が気持ち少なめです。

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