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幕間 sideフィオナ~希望の歌~

 皆さんこんばんは。早いものでもう震災から10年以上経つのですね。あの時は筆者も地震に遭い、帰った家では津波の映るテレビの画面にショックを受けました。

黙祷。




 今回はフィオナちゃんの話6話目です。


「フィオナ先輩。どうしたんですか? なんだか、声に張りがないです。それに、今までしていないようなミスもありましたし……」

 ナギさんにそう指摘されて、私はあわてて謝りました。今は音楽室で歌の練習をしていました。今日はエレンたちも見に来てくれていました。それなのに、こんな情けない姿を見せることになるなんて……。

 原因はもちろんわかっています。アメリアさんに言われた言葉が、ずっと気になっていたから……。  

 今のレオン様は、私を大切にしてくださっている。迷惑だなんて思っていない。……そのことはわかっているのです。それでも、どうしても拭うことができない不安。アメリアさんの言った言葉は、誰よりも私が一番わかっていたことでしたから。それを改めて意識してしまい、こんなことになっていて……。

 たくさん練習してくれたナギさんにも、応援してくれているエレンたちにも申し訳ない気持ちになってしまいました。

「ごめんなさい……」

 そうつぶやいた私に、ナギさんは「いえ、全然大丈夫です! 調子が悪い時だってありますよ!」と元気づけるように言ってくれました。

「少し休憩しましょう! 気分転換も大事なことですから」

 ナギさんの言葉に促されて、私はエレンたちのところに向かいました。エレンとユーリは、休憩をすると聞いたからか、椅子に座っていました。そして、ふたりの前にはいつの間にかテーブルが置かれていて、その上では紅茶のカップが湯気をあげていました。

 私も椅子に座ると、近くのテーブルにガルム様が紅茶を給仕してくれました。受け取ったそれを1口飲んで、ほうっと息を吐きます。……知らず知らずのうちに、自分がそれなりに疲労していたことに気が付きました。

無意識のうちに固まっていた気がほぐれてきたころ、エレンとユーリが、私のもとにやってきました。ナギさんは、様子を窺うように少し後ろの方にいます。

「フィオナ……。ひとりで抱え込んでない?」

 最初に口火を切ったのは、エレンでした。続いてユーリも、同意するように「落ち込んでいるように見えるけど、大丈夫ですの?」と心配そうな様子で言いました。

「……エレンには何でもお見通しなのね」

 思わずつぶやくと、エレンは苦笑しながら「いや、フィオナは結構わかりやすいからね」と言い、ユーリもそれに同意しました。ナギさんも納得した感じの顔をしています。……そうなの?

「ふふっ」

 おかしくなってしまって、思わず笑いがこぼれました。少し、心が軽くなった気がしました。

 それから私は、ぽつりぽつりと思っていたことを話しました。レオン様のそばにいてもいいのか、私の存在が迷惑ではないか、不安なのだということを……。

「……そうよね。誰にだって不安なことはあるわよね。特に人間関係は」

「全てが見えるわけでも、わかるわけでもありませんものね」

 エレンとユーリが、共感するようにそう言いました。

「……あ、あのっ! フィオナ先輩の婚約者さんはどうなんですか? 私は最近、おふたりの仲が良くなったって話を聞くことがありますよ」

 ナギさんの言葉に、そんな話がされていたことに驚きました。……もしかして、アメリアさんもその話を聞いて?

 レオン様は……

「私が婚約者でよかったと……。他の人はお断りだと……」

「だったら、まずは信じましょう! 最近、アルバート先輩の評価も結構上がってるんです。物腰が柔らかくなったとか、真面目になったって。私も前の先輩の噂は聞いてましたけど、今じゃ別人のようだって話ばかりです」

「そうね。それもあって前よりも人気が出ているのは皮肉な気もするけど……」

「ああ。前はフォルティアさんとばかりいたから、あまり近づけなかったけど、最近は距離ができているから、今なら……っていう話ですわね」

「それよ、ユーリ。夏休みの魔物襲撃で活躍したって話も流れ始めているし、闘技会も優勝したでしょう? 今はフィオナといる姿が見られるようになったから、様子見みたいなところもあるでしょうけど、これからはどうなるか……」

 エレンの言葉に、私がかつて思っていたことが現実になろうとしていることがわかりました。

「……フィオナ。今、”私じゃ敵わない”とか思ったでしょ?」

 エレンの言葉に、顔がこわばりました。

「前にも言ったけど、フィオナは全然、無能なんかじゃないわ。他人を気遣うことができて、優しくて、一生懸命に頑張れる。フィオナには魅力がいっぱい詰まっているのよ」

「魔法だってそう。フィオナは誰にでもできると思ったかもしれないけど、アスラの町で武器に魔法をかけたわよね?」

「は、はい」

「フィオナが作った剣と魔道具だけど、どのくらい魔法の効果が続いたかわかる?」

「え……? 1日ほどじゃないの……?」

 私の言葉に、エレンは首を横に振りました。

「……5日よ」

「ええ⁉」

 思わず声が出ました。ユーリたちも目を丸くしています。魔法の付与は普通、半日から1日ほどしか持たないはずなのに……。本当に?

「そのおかげで、襲撃の時の被害もその後の魔物の討伐の被害もだいぶ抑えられたそうよ。フィオナに感謝してる人もいるって。……こんなこと、誰にでもできることじゃないわよ。……それに”歌い手の集い”の本選に進めるのだって普通にすごいんだからね?」

 エレンはおどけるようにそういうと、私を真っ直ぐに見ました。

「だから……自信を持って。フィオナだって、曲げられないものがあるから、今こうしてるんでしょ?」

 ……! そうでした。私は、レオン様の隣にいても恥じない自分になりたくて、”歌い手の集い”に出ることを決めました。レオン様は、自身の強さを示しました。今度は私の番です。

「エレン、ユーリ。ナギさんも……ありがとう。もう大丈夫よ」

 しぼんでいた心の灯が、再び強く輝くような感覚がしました。大丈夫。もう見失ったりはしないわ。



「では次の方。ステージの方に移動をお願いします」

 係りの生徒の言葉に従って、本選に参加する女子生徒が控室を出ていきました。いよいよ”歌い手の集い”の本選です。私の順番は、最後から2番目。フォルティアさんが一番最後でした。控室には、私たちの他に、数人の方がいます。この場所にいるのは歌う人だけで、伴奏をしてくれるナギさんは、そちらの方の控室にいました。

 椅子に座って、何度も緊張を和らげようと深呼吸をします。どきどきと胸は高鳴っていて、中々治まってはくれませんでした。ひとり、またひとりと控室を出て、ステージへと向かっていきます。ついに、控室に残っているのは、私とアメリアさんのふたりだけになりました。

 しばらくの間、控室の中を沈黙が支配します。ふいに口を開いたのは、アメリアさんでした。

「昨日、どうでした? 楽しかった?」

「……」

「昨日のあなた、レオン様と不釣り合い過ぎて滑稽だったわよ」

「……」

 それからも言葉は続きましたが、私は一切反応しないようにしました。

「だんまり? ま、どうせ今日で全部終わるんだし、別にいいけど」

 私が全く反応しないのが面白くないのか、アメリアさんは少しむっとした表情になりましたが、すぐに興味をなくしたようでした。

「次の方、ステージへお願いします」

 私の番が来たみたいです。私は立ち上がって、ドアに向かいます。

「せいぜいがんばってくださあい」

 部屋を出る直前、アメリアさんのそんな声が聞こえました。

 係りの方に案内されて、私はステージの脇までやってきました。ステージを覗いてみると、前の方がちょうど歌い終わるところでした。拍手を受けながらその方が退場していき、会場が落ち着いたころ、私の名前が呼ばれました。

 軽く息を吐いてから、足を進めます。徐々に明るくなっていき、ステージの上に足を踏み入れました。

 ステージの前には、たくさんの人がいました。おそらく、100人は下らないでしょう。その視線が、私に向いているのがわかりました。

「それでは、お願いします」

 司会をしている方の声で、私はしっかりと前を向きました。……頑張らないと……。

 ですが、中々演奏は始まりません。……どうしたのかしら?

「あ、あれ? 伴奏の方はどうしたのでしょうか?」

 司会の方の言葉に、思わず振り向きます。そこは、ピアノが置いてあり、ナギさんがいるはずの場所。ですがそこには———誰もいませんでした。

 突然の事態に、頭が真っ白になりました。ナギさんはどこに……? 係の方が確認に走りました。司会の方も困惑しているようです。観客席の方からも、困惑したような声が聞こえました。

 なんで? どういうことなの? 確か、会場に入って、別れるまでは一緒でした。何かあったの?

 どうしたらいいのかわからないまま、時間が過ぎようとしています。このままじゃ、失格になってしまうわ……。

”落ち着いて。大丈夫だから”

 その時、確かに聞こえたのは、レオン様の声でした。これは……風に声を載せる魔法?

 思わずあたりを見回しますが、レオン様の姿を見つけることはできませんでした。どこから……?

「あ! 伴奏の方が来られたようです!」

 その言葉に振り返ると、そこには、ナギさんがいました。慌てた様子で、椅子に腰かけています。……よかったわ。

「それでは、改めてお願いします!」

 その言葉に、私はナギさんに頷きかけました。ナギさんは、小さく頷いて、口を動かしました。私には”楽しもう”と言っているように感じました。

 前を向くと同時に、旋律が流れ始めました。私は心を落ち着かせるように数秒目を閉じて……開きました。そして何度も練習した歌詞を口ずさみました。

 不思議なほど、歌詞が滑らかに口から出ていきます。ナギさんの伴奏も合っていて、歌いやすいです。歌詞を口にするたび、体の中心から思いがあふれ出ていくみたい。温かなものが広がっていくのがわかりました。

 間奏の時、観客席にいるユーリとカノンの姿が見えました。アニエス様の姿も。エレンも、そしてレオン様も、きっと見ていてくださる。

 私は今、毎日が楽しい。そう思わせてくれたのは、エレンたちのおかげ。エレンたちが、私を絶望から連れ出してくれました。アニエス様が、私を受け入れてくれました。そして、レオン様。変わってしまったけど、それでも変わらない優しさが、私に希望をくれました。この歌は、私の”希望”。怖がって、俯いていた私に、前へと進む灯をもたらしてくれました。例え辛くても、目の前が何も見えない闇でも、みんながくれたこの灯がある限り、私は大丈夫。それこそが私の一番の宝物だから———




 歌が終わり、伴奏だけがステージに響いています。やがてそれも終わり、ステージの上は静寂に包まれました。

 少しの間、観客席は静まり返っていました。しかし、どこかで拍手が鳴ったとたん、まるで魔法が解けたみたいに会場は拍手で包まれました。……伝わったのね。私の歌が。思いが……。

 私は拍手に包まれながら、喜びをかみしめたのでした。

 次回は3月18日(金)の更新を予定しています。

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― 新着の感想 ―
[良い点] フィオナちゃんの頑張りがエレンたちという良縁を紡いでいるのがとても嬉しいことですね 一般的な魔法の付与の効果時間の5~10倍の持続力 本来なら半日から1日程度だとすると、現場で本人が時間や…
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