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幕間 sideフィオナ~不思議な部屋~

 私の作品を読んでくださっている皆様、ありがとうございます!

 増えているブックマークや評価を見てうれしくなり、「ありがたやありがたや」とパソコンの前で拝むこともある今日この頃。拙作ですがこれからもよろしくお願いします。


 フィオナちゃんのお話2話目です。

 歌うことは、小さいころから嫌いではありませんでした。聖女様の歌を聴いたり、自分で歌ってみたり……。家族でコンサートに行ったこともありました。でも、魔法のことが発覚してからは、歌うと“うるさい!”と怒られるようになって、あまり歌うこともなくなっていましたが……。

 でも、今はまた、“歌いたい”という思いが芽生えていました。多分、楽しそうに歌っていらっしゃるレオン様の姿を見たからかもしれません。

 その後私は、“歌い手の集い”参加の手続きをしました。“歌い手の集い”は、1週間ほど後に予選があり、それを通過すると3週間後の学園祭3日目に本選があります。まずは予選で残らないと……。

 手続きの際に、予選の課題曲は教えてもらっていたので、予選まで練習をしないといけません。

 私は初め、音楽室を使って練習しようと思っていたのですが、すでにほかの方々が使っていて、入れそうにありませんでした。どうしよう、と思っていた時に私を心配して声をかけてくれたのは、エレンでした。

「フィオナ? 何か悩んでいない?」

「え?」 

「一昨日あたりから、ひとりでいるでしょう? 放課後に音楽室のあたりで見たって聞いて……。それで間違っていたら謝るけど……」

 エレンは、私を窺うように、言葉を続けました。

「もしかして……“歌い手の集い”に出る、とか?」

「!?」

「……それで、アメリアに出ろって言われたりした?」

「……っ!?」

 まさか言い当てられるとは思っておらず、私は目を(みは)りながら、エレンを見ました。

「実は……」

 私は、先日のアメリアさんとのやり取りをかいつまんで説明しました。するとエレンは、「予想はできてたけど……そうきたのね……」とつぶやいて、天を(あお)ぐような仕草をしました。エレンは何か知っているのかしら?

「……よし! そういうことなら私に任せて‼ 練習の場所は用意するから!」

 そう言うとエレンは、私の手を引いて歩きだしました。

「え、エレン……?」

「フィオナ。聞きたいことがあるとは思うけど、まだ話せないの。……でも、私は何があってもフィオナの味方だから」

 エレンの言葉が、いつもより重く感じられました。エレンにも、何か事情があるのかもしれません。

「……大丈夫よ。エレンは、私の大切なお友達だから」

「………ありがとう」

 エレンは、歩きながら言いました。

 エレンが案内してくれたのは、寮にあるエレンの部屋でした。部屋は私の部屋よりも大きくて、エレンが公爵家の令嬢なんだということを改めて認識しました。

 部屋の片隅には、執事のガルム様が立っています。初めのころは怖い人だと思っていましたが、今はそうでもないと知っています。……ただ、時々背筋も凍りそうなほど鋭い目をすることがありますが……。

 エレンが椅子に腰かけると、ガルム様がやってきて、すぐにティーカップを置きました。流れるようにエレンはティーカップを口に運びました。

「……うん。今日もおいしいわ。さすがね」

「それが私の務めですので」

「うん。ありがとうね。フィオナもどうかしら?」

「では、私も……」

 ガルム様がひいてくださった椅子に座ると、ほどなくして私の前にもティーカップが置かれました。カップからは湯気とともにいい香りがしました。一口飲んでみると、さわやかな風味が口に広がりました。……美味しい。

 私が飲み終わると、エレンは「じゃあ、始めましょう」と言って、ガルム様に声をかけました。

「ガルム。お願いね」

「かしこまりました」

 ガルム様がそういった次の瞬間、周りの空気が変わったような感じがしました。

 思わずきょろきょろと見まわしていると、エレンが言いました。

「今この部屋をガルムの魔法で覆ったわ。これなら外に声が響いたり、漏れたりしないわよ」

「はあ……?」

 その後、エレンは部屋の外から私に何か言いましたが、何も聞こえませんでした。私が部屋の外からエレンとガルム様の話している様子を見たのですが、これも何を言っているのかわかりませんでした。

 何はともあれ、エレンとガルム様のご厚意で練習場所を確保できた私は、無事に予選の日を迎えることができました。

 予選の内容は、ひとりずつ音楽室に呼ばれて、そこで課題の歌を披露する、というものです。控室にはたくさんの方がいて、出番を待っています。呼ばれるたびに、誰かが教室を出ていき、そのたびに緊張感が増していきました。

 やがて私の番が来ました。会場に向かう間、心臓の鼓動はドクン、ドクンと体中に響くようでした。

 音楽室のドアの前で、一度深呼吸をします。……大丈夫。

 何度も協力してくれたエレンとガルム様の姿が、脳裏に浮かびました。

 先日、楽しそうに歌っていた、レオン様の姿も。

 そして私は、ドアを開きました。


数日後、廊下に予選通過者の番号が書かれた紙が貼られ、私は予選を通過できたことを知りました。

「「「フィオナ! おめでとう!」」」

「あ、ありがとう」

 エレン、ユーリ、カノンが口々に祝ってくれました。

「フィオナが歌い手の集いに出たことにも驚いたけど、予選を通過できるくらい歌がうまいとは思わなかった」

「わたしも驚いたわ」

「まあ、いいじゃない。予選も通過したし。……そういえば、本選も課題があるんだよね? 何を歌うの?」

 エレンの問いかけに私は少し考えてから答えました。

「課題は、“希望”だったわ」

「希望?」

「希望を謳った曲を歌うように……と」

 予選通過者に告げられたのはまさにそれでした。“希望が込められた歌を聴かせてほしい”と。

「ずいぶんと漠然とした課題ね」

「そういう歌や歌曲はたくさんあるわね。……歌は何を歌ってもいいのかしら?」

 ユーリの問に、私は「歌は何でもいいそうです。自分で作ってもいいようですし」と返しました。

 私が一番驚いたのは、課題曲の自由度の高さでした。自分で作った歌でもいいとまでは思っていませんでした。でも……それを聞いた時、私の頭に浮かんだことがありました。

——それなら、私はあの歌を歌いたい——と。

 私が初めて聞いた、レオン様の歌。私に、希望をくれた歌。もしも、選べるのなら……。

 そう思った私は、「生活魔術学」の授業の後に、レオン様を呼び止めました。私は深刻な顔をしていたのでしょうか。レオン様はわざわざカヅキ君を呼んで周囲を警戒させたのです。……カヅキ君はしっかりとお仕事をしているみたいです。

「それで、……フィオナの話は何かな?」

 レオン様からの名前呼びに、ドキリと心臓が跳ねました。……私ったら、自分でお願いしたことなのに。うれしさと恥ずかしさで頬が熱くなりました。

 それから私は、学園祭の“歌い手の集い”に出ることと、予選を通過したことをレオン様に話しました。レオン様は私の話を聞いて、歌が上手なことに感心していました。歌が上手いことに関心を持たれたのは初めてです。……また私のことを認めてもらえたみたい。

 あとは……あの歌のことだけです。レオン様に促されて、私は自分の思いを伝えました。あの歌を歌いたい……と。

 レオン様は驚いた様子でしたが、了承してくださいました。教えるのは難しいが、練習場所を用意する、と。

 放課後に案内するから、と言われて、時間と場所を決めて、私の相談は終わりとなりました。


 放課後、約束した場所に行ってみると、レオン様はすでに待っていました。待たせてしまったかしら、と申し訳ない気持ちになりましたが、レオン様は気にしていないみたいです。

 そして、レオン様の“他言無用”という言葉に頷いた私の目の前に広がっているのは、不思議な部屋でした。

 壁はクリーム色に塗られ、広さは寮の部屋よりも狭そうです。部屋の中には、細長くゆったりとしたソファと、テーブル。そして黒い色をしたものが置いてありました。……魔道具かしら? でも、あんな形のものは見たことがない……。

 今も、薄暗かった部屋が一瞬で明るくなったのです。魔道具の明かり? でも、こんなに一瞬で明るくなるものではなかったはず……。

「レオン様。ここはいったい……」

 思わず、レオン様にそう問いかけました。よくわからないものに囲まれて、落ち着かなかったのです。

 レオン様の説明によると、この部屋はレオン様のスキルの力で作られた場所だということです。スキルにそんな力があるのですね。本には出てきませんでした……。

 驚いている私の前で、レオン様は手慣れた様子で黒い箱のようなものを動かしました。すると、目の前にあった壁の黒い部分がいきなり明るくなりました。!? な、なに!?

 驚いている間に、その部分に模様のようなものが浮かびました。そしてどこかからか音が聞こえてきたのです。ピアノの音が……。ど……どうなっているの?

 しかし、聞いているうちに、私はその音が聞き覚えのあるものだと気が付きました。そしてそれは、レオン様が歌い始めると確信に変わったのです。

 それは、まぎれもなくあの歌でした。あの時よりもたくさんの楽器による演奏で歌われる歌が、私の心に響きました。

 私を勇気づけてくれるような声に、楽しそうに歌うレオン様の表情。それを見て私は、この歌を歌いたい、とより強く思いました。

 歌い終わった後、レオン様はこの場所で練習したらいいと言ってくださいました。

 それにしても……このような場所がいたるところにあるなんて、どんな世界なのでしょうか? どうやら、かなり発達した文明を持っているみたいです……。

 でも、そんなのはほんの一部分であったと私は思い知らされたのです。

「練習の時はこれを聞くといいよ」

 そう言われて差し出されたのは、小さな板のようなものでした。

 これは何だろう?と思っていると、その板から音が流れたのです。えっ⁉ いったいどこから流れているの?

 そう思っている間に、今度は旋律に乗って人の声が聞こえてきたのです。レオン様とは違う、女の人の声が。

 どうなっているの? なんで音が? この板はいったい……? なんで女の人の声が?

 わからないことだらけです。いったいどうなって……———。

 そして私の意識は、ふっと遠のいていったのです。

 筆者も初めてカラオケルームに入った時は驚きましたが、フィオナちゃんはそれ以上に驚いたと思います。うまく伝わっていなかったら申し訳ないです……。

 次回更新は2月18日(金)を予定しています。

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