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幕間 sideフィオナ~変わりゆく気持ち~

 今回から数話に渡ってフィオナちゃん目線のお話になります。今回は誕生日パーティと、“歌い手の集い”にでるきっかけになったお話です。

「誕生日おめでとう! フィオナちゃん!」

 そう満面の笑みで言ってくださったのはアニエス様でした。

 私が今いるのは、伯爵家のお屋敷にあるサロンでした。テーブルの上にはケーキをはじめとした料理が並んでいて、どれもとてもおいしそうです。

 先日。私は誕生日を迎え、15歳になりました。エレンたちは温かくそれを祝ってくれました。そして、レオン様も。……私の誕生日を知ったレオン様は、わざわざクッキーを買ってきてくださいました。それだけでなく、今日、私のぶしつけな願いを叶えてくれる……というのです。

 レオン様に何をお願いするか考えたとき、真っ先に浮かんだのは、泣きながら歌うレオン様の姿でした。……あの時に聞いた旋律や歌声が頭の片隅に残っていて……。私はもう一度あの歌を聞きたくなってしまったのです。

 断られるかもとも思いましたが、快く引き受けてくださったレオン様が、私とアンナを招待してくださったのです。

 アンナはいつの間にかアニエス様に縋り付いて泣いていました。昨日は、『フィオナを守って見せるから!』と意気込んでいたアンナ。でも、アニエス様のおかげで張っていた気がほぐれたみたい……。

 レオン様は少し言葉少な目でした。相槌を打ちながら、料理やお菓子を手に取っています。……甘いものがお好きなのかしら?

 やがて、アンナがすっかりアニエス様と意気投合して話し込み始めたころ、レオン様が立ち上がって、こちらを見ました。その意味が分かった私は、歩いていくレオン様の後に続いてお屋敷の中に入ります。案内されたのは立派なピアノが置かれている部屋でした。ここでレオン様が歌ってくださるのです。

「じゃあ、今から始めるよ」

 部屋にあるピアノに何か棒状のものを取り付けて、音の響き具合を見てからレオン様が言いました。……今日はピアノを弾きながら歌ってくださるのだそうです。……ピアノを弾きながら歌えるなんてすごい……!

「お願いします」

 何を歌ってくださるんだろうと期待しながら、私は答えました。

 レオン様は椅子に腰かけると、おもむろに指を鍵盤にかけて、弾き始めました。

 静かな旋律から始まったと思った瞬間、部屋にレオン様の声が響きました。やさしさと力強さを併せ持ったような声が体を通り抜けていくようです。脳裏に浮かんだのは、石畳を押しのけて現れた若葉。風にも、雨にも負けずに大きく育ち、花を咲かせる……。レオン様が言っていた歌の名前は、学校の並木に使われている花の名前ではなかったかしら? 毎年春になるとピンク色の花びらを咲かせる花。……心が落ち着く。あたたかなそよ風みたい……。

 2曲目の歌は、レオン様の声がさらに優しくなりました。歌を通して語りかけられているみたい……。脳裏に浮かんだのはエレンやアンナのこと。『ひとりじゃないことの強さ』……私はひとりじゃなかった。知らず知らずのうちに涙が溢れていました。

 3曲目は、今までの曲よりもテンポの速い曲でした。失うことを恐れている少女の姿が脳裏に浮かびました。でも、彼女の心をどんどんと温かいものが満たしていく。……私も、失ってしまうことを恐れていました。見捨てられることを怖がっていました。でも、今は私の心も空っぽではないと感じることができるのです。

 そして最後の曲が、私が聞きたいとお願いした曲でした。最初から聞くのは初めてです。少しもの悲しい前奏の後に、レオン様が歌い始めました。ほとんど覚えていなかった言葉が響きました。伝わるのは別れと、旅立ち。そして、希望。……でも、それ以上に伝わってきたのは、『ひとりじゃないんだ。俺たちと一緒にこれからも過ごそう』というレオン様の思いでした。すべての曲から伝わってきたそれが温かく、私を包み込んでくれたのです。この感じ……。あの時と同じ……。温かくて、安心する……。

 レオン様が歌ってくださった歌はどれも温かいものでいた。何より、レオン様が本当に楽しそうに歌っているのが嬉しく思いました。……あの時は、悲しみに暮れた顔をしていらしたから……。

 歌っているときのレオン様は、感情を溢れさせているみたいです。楽しい、と。普段とは違った印象を受けるその姿に、私はなんだか不思議な気持ちになりました。胸の鼓動が、少しだけ早くて……なんだか温かくて……。

 気が付いた時にはもう演奏は終わっていて、私は拍手をしていました。胸がいっぱいで……素敵な時間でした。

 レオン様は、また歌を歌ってくださると約束してくださいました。“次“がある。そのことが嬉しく感じました。

 ——こんな時間が、もっと続けばいいのに——

 そんな思いが頭をよぎり……気が付くと私は、サロンに戻ろうとしていたレオン様の服の裾を掴んでいました。え……⁉

 レオン様は不思議そうな顔で私を見ています。私……何を……。

「どうかしたのか?」

 レオン様にそう聞かれますが、私にもわかりませんでした。……なんだか、名残惜しい気がして。でも、そんなことを言うわけには……。

 たくさんの考えが頭の中を駆け巡り、私の口から出たのは……。


「私、なんであんなお願いを……?」

 寮の部屋で、私はそうつぶやいていました。私が口にしたのは、「自分を名前で呼んでほしい」ということでした。レオン様は快く了承してくださいました。名前で呼ばれるとなんだかくすぐったくて……。胸がじんわりと温かくなるような感覚がありました。

 でも、なんでとっさにあの願いが出てきたのでしょうか……。

 頭に浮かんだのは、アスラの町の時のこと。私を呼ぶレオン様の声。それと、シャーロットさんのことを名前で呼んでいるレオン様の姿。

 ——また名前で呼んでほしい。シャーロットさんだけじゃなくて、私の名前も——

 浮かんできたそれに、カッと頬が熱くなりました。私ったら……!

 今更ながら恥ずかしくなってしまいましたが、レオン様がそれを受け入れてくれたことを思うと、今度は胸がぽかぽかと温かくなり、嬉しくなってしまうのでした。


 レオン様のコンサートからいくらか経った頃……。

「すいませえん。ちょっといいですかあ?」

 学園の廊下を歩いているとき、不意に声をかけられて振り返ると、そこにいたのはアメリアさんでした。普段は男性の方と共にいることが多いですが、今日はひとりです。

 話しかけられたのはずっと前に伯爵家のお屋敷以来でした。

「は、はい。何でしょうか?」

「ちょっとしたお話ですよう」

 そう言うと、アメリアさんは近くの教室に入っていきました。……少し不気味でしたが、私も教室に入りました。

 教室には誰もおらず、私たちだけでした。教室の中央まで行ったところで、アメリアさんが振り向きました。

「フィオナ様ってえ、最近レオン様と仲がいいんですかあ?」

 ぶしつけな質問に思わず眉を顰めました。……どういうことかしら。

「フィオナ様が、レオン様と一緒にいるところを見たのでえ、そうかなあって思ったんですけど」

 じっとこちらを探るような視線で、アメリアさんが言葉を続けました。

 確かに、学園が始まってからは、レオン様といる時間が増えました。誕生日のとき、「生活魔術学」の授業、廊下で会えば声をかけてくださるし、2回ほどですが昼食もご一緒しました。……私はなんだか緊張してしまって、うまく話せないことが多かったですが……。

「どうなんですかあ?」

「……確かに、最近レオン様にはよくしてもらっています」

 一瞬、責められているように感じましたが、何も悪いことはしていないのだから、と私は努めて冷静に声を出しました。

 “よくしてもらっている”の所で、私の名前を呼ぶレオン様のことを思い出して、思わず口元が緩みました。呼ばれるたびに、胸元が温かくなって不思議な気持ちになるのです。

「……ふふっ。あははははは!」

 教室に響く笑い声。

 突然笑い出したアメリアさんに、私はなんとも言い難い不気味さを覚えました。プラチナブロンドの髪と瞳を持ち、貴重な光魔法を使える女の子。その姿は愛らしくて、誰からも好かれています。

 私もそんな風だったなら、家族に愛されたかもしれない。そう思ったこともありました。

 でも、今私を見るアメリアさんは、私を憐れむような顔をしています。そしてその瞳には、私を馬鹿にするような輝きを纏っていました。

「本当におかしい! ……ねえ、もしかしてちょっと優しくされたからって勘違いしちゃったの?」

 今までとは違うとても軽薄な声でアメリアさんは言いました。勘違い?

「あのね、レオン様は優しいから、かわいそうなあんたに同情してるだけなの!」

「え?」

「レオン様が愛してるのは私なのよ。あんた、邪魔だから早く消えてよ。このモブ同然の悪役令嬢が」

 私にはアメリアさんが何を言っているのかわかりませんでした。どういうことなの?

 呆然としている私に、アメリアさんはさらに言葉を重ねます。

「いい? レオン様はねえ、これからもっともっと強くなって、いずれは騎士団長にだってなれるんだから。そんなレオン様の隣には、私みたいな才能あふれる人間が必要なの。あんたみたいな無能じゃレオン様の足を引っ張るだけ! 全然釣り合わないのよ!」

 アメリアさんの言葉が私に刺さりました。無能。レオン様に釣り合わない……。

 そんなこと、私が一番わかっています。それでも……。

「とにかく、レオン様は私のものなの。あんたみたいな女がいても、レオン様の迷惑なのよ! さっさと消えて!」

 アメリアさんほそうまくしたてて、私に近寄ってきます。……怖い。

 きっと以前の私なら、恐怖と羞恥のあまり逃げ出していたでしょう。でも……。

「……嫌……です」

「え?」

 私は自分を奮い立たせるように拳を握り締め、背筋を伸ばしました。

「嫌です。レオン様が望んでくださる限り、私はあの方の婚約者です」

 そう言って、真っ直ぐにアメリアさんを見つめ返しました。

 私の反応が予想外だったのか、アメリアさんは驚いたような顔をしました。

「はあ!? 何言ってんの! 話聞いてた? あんたじゃダメだって言ってんの!」

「ダメかどうかはレオン様が決めることです」

「……!?」

 こんなに強く、自分の思いを主張したのは初めてな気がします。どうしてかはわかりませんが、レオン様の隣にアメリアさんがいる、その光景が酷く嫌だと思ったのです。

 今のレオン様は何もできない私を認めてくださった。同情なんかじゃなくて、“私“自身を見て、それでも私が必要だと言ってくださった……。

 そんな、温かくて、優しい、私の大切な場所を……渡したくなんか、ない。

「そう……なら、“歌い手の集い”で決めるのはどう?」

「え?」

 突然の言葉に、戸惑う。

「学園祭の歌い手の集いで、より多くの人を感動させた方が、レオン様と一緒にいる。どう? わかりやすいでしょう?」

「そ、そんなこと……」

「自信がないなら、逃げてもいいのよ?」

 アメリアさんは歪んだような笑みを浮かべて、言いました。

 戸惑ったものの、私の答えは、もう決まっていました。……私は、強くなりたい。レオン様の隣で、胸を張っていられるように……。

「わかりました。歌い手の集いに出ます」

 私は覚悟を決めて、アメリアさんにそう返したのです。

 歌のイメージに関しては、主人公のスキルが影響していると考えてもらえれば……。


 いろいろともまれる中で、フィオナちゃんも少しずつ変わったり、成長したりしてます。

 次回更新は2月11日(金)を予定しています。

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― 新着の感想 ―
[良い点] フィオナちゃん……強くなってとても嬉しい 頑張れフィオナちゃん!レオンが、皆が付いてるから! [気になる点] おどりゃあアメリア!何してんじゃ! なんか「学歴は良い無職が職に就いてる社会人…
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