5-5 ダメ男は予選を戦う
幸い、フィオナは30分ほどで目を覚ました。まだ混乱しているみたいだったのでその日は終わりにし、日を改めてまた説明したことで、一応理解はしてくれたみたい。でも、原曲はスマホから流すのではなく、カラオケマシンを通して流すことにした。原曲を聞いて、カラオケを歌う。採点を入れることもできたが、フィオナが嫌がったのでガイドメロディを出すだけにした。歌のうまさを数字で表すのに抵抗があるみたい。
そうやって1週間があっという間に過ぎた。
しかし、俺は一度としてフィオナの歌を聞いていない。なぜなら、「恥ずかしいので聴かないでください」とフィオナに言われたからだ。かなり真剣な顔で頼んできたので、思わず頷いてしまった。むりやり聴く気もなかったので、彼女が練習している間、俺はその近くで素振りなどをしていた。
ひとりでは心配なので、一応中には歌の聞き役も兼ねたサクヤがいる。俺の近くにはカヅキがいるはずだ。……連勤になってるな。休みを調整しないとか? ふたりは昼間に休んでるからいらないと言うが……。う~ん。あ、そう言えば……。
「カヅキ。前に渡した剣の使い勝手はどうだ?」
カヅキには短剣を、サクヤには投げナイフとそれをしまうホルダーを渡していた。どちらも店に行ってふたりに選んでもらったものである。お金は討伐の報奨金で何とか足りた。たくさん働いたのもあって、多めにもらえたのだ。
「……とても使いやすいです。ありがとうございます」
「おう。これからもよろしく頼む」
どこかから聞こえた声にそう答えた時、フィオナがサクヤを連れて“カラオケルーム“から出てきた。
「フィオナ。これが頼まれていた楽譜だ。ピアノで大丈夫だったかな?」
「はい! ありがとうございます。その、今日はこれで……」
「ああ。また明日」
挨拶をして別れる。“歌い手の集い“の本選では、伴奏をする人が必要なんだそうで、明日からはその伴奏をしてくれる人と一緒に練習するそうだ。俺の出す楽譜は制約があるのか出してから2日経つと消えてしまうので、こうして何度か楽譜を渡していた。ちなみに、伴奏の人はエレオノーラ嬢が見つけてきたらしい。
フィオナもがんばってるな。……俺もがんばりますか!
「それでは、始め!」
「「お願いします!」」
礼をしたあと、剣を構えた同級生が突っ込んでくる。思ったよりも早い! 身体強化系の魔法か? でも俺は焦らずにそれを避けて、相手の足を引っかける。突っ込んできた勢いのままこけてしまった相手に素早く近寄り、剣を向けた。
相手の参ったという言葉で、俺の勝利が確定する。相手に礼をしてからその場を離れた。
闘技会の予選である。俺は既にふたりに勝利していた。
予選はいくつかの組の中で上位2名に入ったものを集めて、そこからさらに絞っていく方式だ。期末試験も兼ねているから、皆真剣だ。おまけに、今回は魔法も使っていいから、試合は白熱したものになっている。……む。次の試合だ。
「始め!」
合図と共に、相手が水球を放ってきた。こちらの視界を塞ぐように、いくつも飛ばして来る。俺はそれらを凍らせることで回避し、すぐに移動した。次の瞬間、さっきまで俺のいた場所に相手が突っ込んできた。やっぱりおとりだったのか! 俺はお返しとばかりに氷柱を数本出して放つ。あちらも水でできた槍を出して迎え撃ってきた。激突する氷と水。水が凍りつき、軍配はこちらに上がった。氷柱が相手に向かうが、魔法同士がぶつかった時のわずかな間に動いていたみたいで氷柱は外れる。そのままの勢いで相手は俺の方に向かってくる。が、こっちも準備はできてるぞ!
俺は氷球を投擲の魔法で投げると、足に風を纏わせてその後を追う!
相手は氷球を持っていた剣で払うが、途端に凍り付いた剣に驚いたのか足が鈍った。俺はそれを見逃さず、相手の剣を叩きあげる! 剣は宙を舞い、俺は勝利を収めることができた。
次の相手では魔法はあまり使わず、身体強化を中心に戦った。連戦だから、魔力の使い方にも気を配らないといけないな。使い過ぎると後がきつくなる……。
それを思えば、魔力消費がかなり少なくて済み、色々とできる無属性魔法はかなり便利なんじゃないかと思うんだけどなあ……。
その後も俺は全員をなんとか下し、次の試合に進むことができた。他の組を見てみると、ラシンやシャーロットも勝ち上がってきていた。
ここから先は4つの組に分かれて戦うことになる。それぞれの組の優勝者4人が学園祭1日目の闘技会本選に出場するわけだな。この組み合わせでも、俺はラシンたちとは別の組になった。戦うとしたら学園祭の日になるのかな?
人数はだいぶ絞られている。3回勝てば勝ち抜けかな。抽選で戦う相手が決まり、番が来るまで待つ。……そう言えば、本選には魔術科の生徒とかも出るんだよな。カルロスとかが出るって話は聞いてないけど、どうなんだろ?
そんなことを考えている間に試合は進み、俺の番がやってきた。相手は、男子生徒である。
試合開始から少しの間は、お互いに動かなかった。俺も相手が動かないので、じっと立っていたのだが、すぐにその場を飛びのいた。次の瞬間、風の刃が通り抜けていくのを感じる。——あっちも風魔法を使うのか!
次から次へと風が飛んでくる。相手は剣に風を纏わせて飛ばしているようで、剣を振るたびに刃が飛んでくる。……今使ってるのは訓練用の剣だから魔法を纏わせるのは大変だろうに、苦でもないとばかりに刃は飛んできた。俺はそれをいなし、避ける。……逃げているばかりじゃ埒が明かないし、こっちも仕掛けますか!
俺は自分の前に魔力を流して固定する。空気を固めて防壁を作った感じだ。とたんに相手の風の刃が防壁に当るが、びくともしない。ま、分厚くしたからな。
俺は防壁に強度があるのを確認すると、その壁に手をつく。そしてそのまま、前に押し出す!
防壁は空中を滑るように前進した。この防壁は地面から生えてるわけじゃないからな。こうやって移動させることもできるんだ! そのまま相手の方に押し出す。相手からすれば、壁が迫ってくるようなものだ。それを相手も察したみたいで、壁をよけるように動いた。その拍子に攻撃が止まる。……止まって集中しないとできないのかな。とにかくこっちの番だ!
お返しとばかりに氷柱を生み出して相手に放つ。それらは避けられたり剣でいなされたりしたが、その間に俺は相手との距離を縮めて剣で斬りかかった。そのまま近距離での剣の応酬になる。相手は再び距離を取ろうとするがそうはさせないとまとわりつく。そのまま何とか押し切り、勝利することができた。
次の試合までの間、休憩しつつもうひとつの会場の方を見てみる。誰が戦っているのかは分からないが、中々白熱しているみたいだった。
次の試合の相手は、開始早々に剣を構えてこちらに向かってきた。スピードが速いのは身体強化だろう。俺もまた身体強化をして相手と打ち合う。
何度も打ち合ううち、何だか嫌な予感を覚えた俺はその場を飛びのき、相手と少し距離を取った。その予感はあたりだった。空ぶった相手の剣が地面に当たった瞬間、激しい炎が生じたのだ。……もしかして炎属性の身体強化か⁉ 属性魔法のやつは攻撃にも属性をつけるものがあるしな。俺は使いこなす前に“魔力制御”や“纏”を手に入れてしまったからあんまり使ってなかったけど……。
でも危なかった……。もしあのまま打ちあってたらきっと大ダメージだった。
相手は躱されたことに驚いたみたいだったが、すぐにまた攻撃を仕掛けてきた。でも、普通に打ちあえば黒焦げなのが分かっているから、俺も下手に応じたりはしない。この剣だと難しい……か。なら!
俺は剣を持って相手に向かって行った。相手もまた剣を振り下ろして来る。もう隠す気もないのか、剣からは炎が漏れ出ていた。でも、狙い通りにはさせない!
「でえええい!」
掛け声とともに俺は持っていた剣を相手に向かって思いっきり投げつけた!
剣は回転しながら向かっていく。これには驚いたのか、相手も振り下ろそうとしていた剣でガードする。今だ!
“纏!”
魔力を纏って加速した俺は、そのまま姿勢を低くして相手の横をすり抜ける。そしてすぐに反転し、持っていた剣で相手の足を思いっきり払った。後ろからの攻撃に耐えきれず、相手は背中から倒れる。その喉元に剣を突きつけ、俺の勝利となった。
今回の試合、というか闘技会においては、剣を取り落としても負けにはならない。そうじゃないと剣を持たないであろう魔術科の生徒が出られないからだ。だから俺は敢えて剣を投げつけておとりにして、相手の意識をそらした。そして瞬時に風魔法で剣を作って足払いをかけたのだ。氷の剣でもよかったが、炎属性の身体強化をしている相手には威力が落ちるかもと思ったので、風魔法を使った。
その次が最後の試合だったのだが、結構あっさりと勝ってしまった。……どうやら今まで戦ってきた相手が優勝候補だったらしい。もうひとつの方では、激しい戦いを制してシャーロットが勝ち進んでいた。ラシンもまた別の組で勝ち残ったようだった。
「……やっぱりあの戦いを経験できたのが大きかったわね。あんなの戦った後じゃあ、同級生の攻撃なんて霞んで見えるわ」
「確かに。あれは中々できない経験だったな」
「経験云々(うんぬん)については否定できないけど、被害を受けた側としては笑えないんだが……」
領地での魔物や盗賊との戦いがいい経験になったと言うふたりに、俺は苦言を呈する。
あの時、数は少ないが、死傷者も出ていたのだ。確かアスラの町でだって、俺が魔力切れで寝込んでる間に葬式をしたと聞いた。
不機嫌になったのが伝わったのか、ふたりはすぐに謝ってくれた。
ひとまずこれで学園祭の日の本選に出ることが決まったわけだな。下級生にもかなり強い生徒がいるというし、魔術科などから出場する生徒もいる。俺はどこまでやれるんだろうか……。
これからは闘技会があるので、戦いのシーンが多くなっていきます。筆者はあんまりそのあたりの描写が得意ではないので、わかりづらいところもあるかもしれませんが、精いっぱい書いていくので、どうかよろしくお願いします。




