4-13 ダメ男は領地を巡回する②
昼食を取った後、俺はカイルたちと合流し、再び領内の移動を開始した。目指しているのは、アスラというやや大きめの町だ。途中にある村を経由してから行く。……町に着くのは夕方になるかな。
途中で、別の騎士たちとたまたま合流し、方向が同じなので共に移動することになった。合流した隊は皆若く、リーダーの騎士も20歳ぐらいだった。そして意外なことに、俺に対して好意的だった。……なんでも、ラジオ体操や騎士ドロといった新しい訓練方法を編み出した俺に感銘を受けたそうだ。年上だけど敬語もなしでいいというくらいだった。それから1時間ほど、村に着くまでその話を聞かされることになった。なんか恥ずかしいな。村は土塁に柵を立てたものが村全体を覆っていた。自警団の人に挨拶をしたり、村の様子を見たり、村の人の手伝いをする事約2時間。特に問題も起きていなかったので、村を出ることにした。ここから町までは馬で2時間半ほど。日暮れ間近になりそうだな。
そうして出発しようとしたときに、その声は聞こえてきた。
「ま、魔物だあ‼ 魔物の大群が出たあ!」
その声に、俺たちはすぐに身構える。それからすぐに、ふたりの男性が村に入ってきた。全身汗だくだった。
「おい! どういうことだ‼」
カイルが片方の男性に問いかける。周りには先程の声を聞いたらしい村の人たちも集まってきていた。中には武器を持っている人もいる。
ぜーぜーと肩で息をしていた男性は、恐ろしいものを見たかのように震えながら話しだした。
「お、俺たちは村とアスラの町の間にあるヴィラの森で狩りをしてたんだ」
アスラってこれから向かう町だよな?
「そ、そしたらよう……森の中を魔物が数えきれないぐらい歩いていたんだ‼ アスラの方に‼」
はあ⁉
「詳しく教えろ。どんな魔物がいた‼ 覚えてるだけでいい」
俺が詰め寄ると、男性は面食らったように少し顔を青ざめさせたが、答えてくれた。
「ゴブリンやオークがいた……。あともっと大きなやつもいた。……数は……わからねえ。ただ、少なくとも百はいたと思う……」
「そいつらは本当に町の方に行ったのか⁉」
その問いに、男性は、首を縦に振って答えた。……マジかよ。
「こっちの方には来てないのか?」
村人のひとりが、そう問いかけた。確かにそれもそうだ。ここに来るなら、援軍を呼びつつ迎え撃つ必要がある。
「俺たちは必死でここまで来たが、まったく追いかけて来てないぞ」
その言葉に、村人たちはほっとしたように息を吐いた。やがて男性ふたりは村長と思しき人や、自警団の人にも話を聞かれていた。ふたりはここの村人らしい。
それよりも……多分これはやばい状況だ。アスラの町の人は魔物のことを知らないだろうし、父上たちも知らないだろう。つまり知っているのは俺たちだけだ。
「レオン様‼ 今すぐアスラに向かいましょう!」
騎士のひとりがそう言った。でも、すぐに他の騎士が声をあげる。
「いや、ここはすぐに領都に戻って報告すべきだ‼」
「だが、こうしている間にも……」
騎士たちの間で、意見が割れている。だけど、どちらも間違ってはいない。どうするか……。
俺は先ほどの男性に話しかけた。
「魔物はここからどのくらいの所にいましたか?」
「た、たしか、ここから町の方に30分ほど行ったところだ」
「ありがとう」
それから、町につながる方を見てみる。先の方、やや離れたところに森が見える。道は森を迂回するようにして町につながっているのを地図で見た。振り返ってみると、ここまで一緒に来た騎士たちの姿が見える。カイルたち5人、途中で合流した16人、俺を含めて22人。
俺は合流した騎士たちのリーダーであるマルスの所に行く。
「マルスさん。どうしますか?」
マルスは少し思案してから答える。
「私はアスラに行くべきだと考えます。……実は今、アスラにはレオン様のお母上であるアニエス様が客人の方といらっしゃるのです」
「⁉ 本当か⁉」
つまりはフィオナもいるってことか‼
「はい。……レオン様はどうお考えですか?」
その顔はどうしたらいいか悩んでいるようだった。降ってわいた事態に、困惑しているのかもしれない。俺は、今考えていることをマルスに話した。
「俺は、3手に分かれるのを考えている。ふたりを伝令として領都に、8人を備えとしてこの村に、そして残りの12人でアスラに行く」
「理由をうかがっても?」
「ああ。まず領都の本部に伝えないといけない。ふたり割くのは確実性を上げるためだ。次に、この村に魔物が来た時の備えだ。でも、ここは領都にやや近いし、防備もある。魔物が来ても、援軍が来るまでは持つはずだ。そして最後は、アスラへの伝令と加勢。少しでも数は多い方がいい」
「……分かりました。私はあなたに従います」
マルスは覚悟を決めた顔でそう言った。
「いいのか? 階級はあなたの方が上だ」
「……今、一番状況が見えているのはレオン様です。だからそれに従います。……私には、そこまで考えが巡りませんでしたので」
「……分かった。じゃあ、割り振りを決めて、すぐに出よう」
「はい!」
その後、俺たちは準備を終えるや否や、騎士を分けて出発した。アスラに向かうのは、俺とカイルを含む班員4名と、マルスとその隊の8名だ。街を目指し、ひたすらに馬を走らせる。街道の右手側にはヴィラの森が悠然と横たわっている。あの中を魔物が移動している。だけど、大群な上に、オークやゴブリンの足は遅い。街に着くのは明日の朝方だろう。多分追い越せるはずだ。
走らせ続けること1時間半程が経過し、右手側の森が途切れ、見晴らしがよくなった。そして街道の先にアスラの町が小さく見えた。森と町の間には、草地が続いている。たしか町に近づくと畑があるんだっけか? 見た感じまだ魔物たちは来ていない。そのことにほっとする。
「よし、いったん止まってくれ!」
そう声をあげると、道の端に寄りながら止まる。カイルたちも続いた。俺たちは森の途切れる場所にほど近いあたりで集まる。
「レオン様。アスラにはいかないのですか?」
カイルが不思議に思ったようで、疑問をぶつけてきた。もっともだと思う。でも、理由はもちろんある。
「これから時間の許す限り、ここであることを行う」
「あること……ですか? 何をするんです?」
マルスは、何だかよくわからないが、聞いてみよう、といった感じで聞いてきた。
俺はそれに答える。
「それは……ゲリラだ」
危機襲来! 町へと急ぐはずなのに立ちどまった主人公は何をする気なのか! 待て次回。




