4-11 ダメ男は自分の考えを話す
シリアス回です。
悔しさを抱えて町を出た俺たちは、別のある町へと向かっていた。そしてそこで聞き込みをしてからまた別の場所へ……というのを2日かけて行い、分かったことがあった。それを基に仮説を立てた俺は、領都に帰るや否や、父上の所に足を運んでいた。
「失礼します」
返事があったので入ると、父上は机の上の書類と格闘していた。俺は討伐や巡回の報告者をもって机に向かう。父上はちらっと俺を見ると、書類を見ながら「討伐はどうだ? うまくやってるか?」と聞いてきた。俺はそれに「大きな傷も負わず、何とかやっています」と返す。
「……父上。お聞きしたいことがあるのですが」
そう言うと父上は、「なんだ?」と言いながら手を止めた。
「はい。最近領内に於いて、盗賊等が出たという報告はありますか?」
俺の問に、父上は「うん?」と不思議そうな声をあげた。
「そのような報告は来ていないが……なぜだ?」
「いえ……もしかしたら領内にそれらしきものがいるのではないかと思いまして」
「なぜそう考えた?」
父上はじっと俺を見ている。俺は覚悟を決めると自分の考えを話した。
なぜ俺が、盗賊がいると考えたのか? それは領内の村や町を回って感じた違和感だった。
まず普段はあまり魔物が出ない所で強い魔物だったり、魔物の集団が出たことだ。それだけなら偶然で済ませられるかもしれない。しかし、襲われた村や町は総じて防備が緩く、大きな被害が出ていた。それぞれの場所で生き残った人に話を聞いて回ったが、どこでも普段よりも多い数の魔物が襲ってきたという答えが返ってきたのだ。
2つ目に、襲われた場所だ。どれも過去に魔物の集団に襲われたことがほとんどなく、あったとしてもかなり小規模だったりした。そして、どこも一度しか襲われていないし、襲われた場所が滅ぼされたりもしていない。
魔物に襲われる場所と言うのは、おしなべて何度も襲われることが多い。だからこそ、そう言う場所には防衛設備が作られる。そして魔物が襲ったのは、どこも備えが充実していない所ばかりだった。実際に見て回ったから、これは確かだ。おまけに、町の中にまで魔物に入り込まれているのに、滅んだ場所はひとつとしてないどころか、建物が壊されたという被害もそこまでない。偶然にしては出来過ぎている。さらに、援軍の騎士団が到着する前に襲撃がほとんど終わり、魔物がいなくなっていることもそれに拍車をかけていた。
3つ目に変だと思ったのは、行方不明者が多すぎる——ということだった。
これはあの男の子がいた町で、被害者の数について聞いたときに思ったことだ。襲撃の際に、勿論自警団の人を含め抵抗した人はいただろう。また、町の中にも魔物は入り込んでいた。でも、それを差し引いたとしても、行方不明者の数が多かったのだ。特に女性や子供の。普通ならば、実際に魔物と戦った男性の方に被害者が多くなるはずだ。
実際、回ったどの町でも、子供を探す親であったり、妻や娘を探す男性の姿を見かけた。そして調べた結果、どこにおいても、女性や子供の行方不明者が出ていたのだ。
それに、あの男の子が、こんなことを言っていたのだ。
『魔物に町が襲われているとき、家に帰ろうとしたけど、魔物の他にも変な人たちがいて、怖くて動けなかった』と。その人たちはハンターのような格好をしていて、荷物を運んでいたらしい。
思えば、彼の家族だって、姉と母親については、死体すら残っていなかったという話だったのだ。でも、人を丸呑みできるような大きな魔物が出たという話は聞いていない。
これらの話から俺は、領内に魔物の襲撃を隠れ蓑に人さらいや物取りをしている奴らがいるのではないかと考えたのだ。いや、むしろ魔物を操って村を襲わせているとすら思っている。でも、俺にはそれが可能かが分からないので、父上の意見を聞こうと考えたのだ。
俺の話を聞いた父上は、瞑目して、しばし考え込むように黙り込んだ。そしておもむろに地図を広げると、「被害のあった村の場所に印をつけろ」と言った。言われたとおりに印をつける。
「ううむ……」
そう唸った後、父上は俺に、騎士団長を呼ぶように命じた。ここでいう騎士団長と言うのは、伯爵家の騎士団の長である。父上は国の騎士団の長なのだ。ちなみに、伯爵家の騎士団長は俺の叔父さんにあたる人だったりする。
俺は部屋の近くにいた侍従に頼んで部屋に戻り、やってきた叔父上にもう一度さっきのことを話した。仮説をもとにした資料や、地図なども用いてのもので、気分はさながら論文かなんかの発表会のようだった。かなり緊張した。
「……いやはや、手に入れた情報を基に、ここまで考えを巡らせるとは、立派になりましたな」
叔父上はひどく驚いた様子でそう言った。
「おまけにこの資料や報告書もなかなか分かりやすくまとめられているし、将来が楽しみです」
叔父上はそう言って、感心している。……前世の経験が生きてるな。
「ありがとうございます。しかし、これはあくまで推測にすぎません。もし魔物を操ったりできなければただの与太話ですから」
「でも、そう判じたなら儂を呼んだりはしないでしょう? 兄者」
そう言って叔父上は父上を見た。父上は一度うなずくと、こう言い放った。
「魔物を操る方法は、ある」
その言葉に思わず、こぶしを握り締める。つまり今回の襲撃は……。
「まずは魔物を隷属させる魔道具が存在するな。帝国においてはこれを使って馬車を魔物にひかせたり、……魔物を敵にけしかけたりしていた。この国ではあまり使われないが……。それにやや値が張るものでもあるし、そもそも討伐した魔物にそのようなものがついていたという報告はない。……とすれば」
父上はそこで一度息を吐いた。
「……闇魔法の使い手かもしれんな。あれは精神に干渉できる。魔物も操れるだろうな。……事実、人魔大戦の折にはそれにより操られた魔物の猛攻に苦しめられたという」
「では……」
「確証はない。……だが、可能性は高い」
そう言うと、父上は地図を指し示した。俺が印をつけたものだ。
「これは魔物に襲われた村や町だ。よく見れば、魔物の出没場所には共通点がある」
そう言うと、太めのペンで襲われた場所をぐるりと囲んだ。そうすると、襲われている場所には一定の範囲内に収まっていた。そしてその中に含まれている森や山を指した。
「もし賊が潜んでいるなら、この場所のどこかだろう。騎士の数を増やして、このあたりの探索を綿密に行うのだ。騎士が減ってしまうところには、ハンターたちを充ててくれ。新たに報酬を上乗せして人を集めるように。理由については、魔物の数が例年より多いということにしろ」
「はっ!」
父上はどんどんと指示を出していく。あ! これも言っておかないと‼
「父上。よろしいでしょうか?」
視線が向いて、話せという感じだったので続ける。
「魔物に町が襲われる周期ですが、4日から6日程になっています。もしかしたら、明日明後日にもどこかが襲われるかもしれません」
あの町が襲われてから今日が4日目だ。
「そうか。……ではまず、この範囲内に近しい場所に増援を送る。同時に少しずつ隠れられそうなところを潰していくことにしよう」
そう締めくくった父上は、俺を見る。
「レオン。ご苦労だったな。戻っていいぞ。午後からは、引き続き領内の治安維持を行うように」
「はい」
返事をして、ふたりに挨拶をしてから部屋を出る。廊下を歩いていると、何名かの騎士が、先ほどの部屋の方に歩いていった。……報告か、さっきの話をさらに詰めるための人員なのかもしれない。
時間としてはちょうどお昼時だったのもあり、食堂に足を向ける。カイルたちには、遅くなったら遠慮なく食べててもいいと言ったから大丈夫だろう。食堂に行くと、兄上だけがいて、母上やフィオナの姿は見当たらない。アレクに聞いてみると、母上はフィオナを連れて領内を巡っていると答えが返ってきた。……観光してるのか。危険がないといいが——。
なにやら暗雲が経ちこみ始めた魔物討伐。一体どうなるのか!




