複雑な心
その晩。アイカさん、スー、レンジさんの順に3人が談話室へ戻ってきた。
アイカさんは地上の状況を知るために此処から出て、うろちょろと散策をしていたらしい。今日は良い天気だったとか、魔物達を警察や自衛隊が命をかけて倒しているなど、地下に居ては分からない情報を仕入れてくれた。
スーはと言うと奇妙な鏡を持ち帰ってきた。シロ曰く、あの鏡がクロの本体だということで、鏡が割れるとクロが消滅するかもしれないらしい。そんな写し身の鏡(クロの本体)をスーは談話室に飾ろうとしていたので、ボクは『鏡が割れたら良くない事が起きるから、厳重に保管しよう?』と何とか説得し、ガラスケースの中に厳重に保管させた。
ガラスケースだなんて、どうして都合良くそんなものがあるのだろう?とか思ったんだけど、この地下施設を作った人が残していったんだと無理矢理納得した。色々と科学的にあり得ない事を体験して来ているからね、考えるだけ無駄かもしれないもの。
レンジさんは……親バカならぬスーバカだったよ。何処までスーを探しに行っていたのかは、レンジさんの尊厳のために伏せておくね。ただ、強いて言うなら『紺色の服を来た奴らに、四角い白黒の金属に乗せられて厄介になった』だとか。
うん、レンジさんが警察のお世話になるとは思ってもいなかったよ。
「……ぷぷ、レンジは本当に馬鹿ね」
「馬鹿ですね」
「う、うるせぇな! スーの事だから地上まで探しに行ったのかと思ったんだよ!」
シロとアイカさんが2人がかりでレンジさんを弄ってる。
スーは自分の心配をしてくれたのがよほど嬉しかったのか、レンジさんの背中に抱きついたまま茶色の尻尾をブンブン振っている。
(……スーの尻尾って、コスプレじゃなくて本当に本物の尻尾だったんだ……)
いやうん、スーのステータスを確認した時にさらっと目に通したけどさ、犬の獣人だなんていまいち現実味が沸かなくて……だから、ただ単に変な人間の女の子くらいに考えてたよ。
「でもよ、この写し身の鏡ってやつ? 灰色に曇ってて何も写してねえじゃんか。壊れてるんじゃねえのか?」
「うーん、誰かがこの鏡に姿を写した後なんじゃないかな? だから灰色に曇ってて何も写してくれないとか!」
ガラスケース越しではあるけど、レンジさんとスーが鏡をまじまじと見ながら各々思った事を好き勝手に言っている。
……特にスーは勘が良いね。ボクは思わずドキリとして、心臓が飛び出るかと思ったよ。
「……え、えっとね? 実は――」
――実はもうシロが姿を写してるんだ。
そう言ってしまいたくて、喉元まででかかったその言葉を……ボクは無理矢理押し込めた。
これは、レンジさん達が来る少し前の話――。
『ラティア様。写し身の鏡にシロが姿を写してしまった事、レンジ達には話さないで下さいね』
『……え? どうして?』
ボクは写し身の鏡の事を説明するために、1から10まで説明するつもりだよ?と言おうとしたんだけど、シロの真剣な眼差しを見たら……言葉を引っ込めずにはいられなかった。
『シロはレンジ達3人組――もとい、レジスタンスの3人組をそれほど信用していません。彼らと行動を共にしているのも、彼らがこの世界とラティア様に悪影響を及ぼさないか監視するためなのですし――』
だからボクは――クロの事をレンジさん達にはまだ紹介していない。
いきなりシロが2人になったら驚くと思うから、クロには一旦談話室の隅に積んである段ボールの中に隠れてもらっているんだ。
(……まあ、シロが2人に増えたら驚くと思うからダンボールの中に隠れてもらっている、なんて言うのは建前だけどね。そうでも言わないと、クロは納得して隠れてくれそうになかったからさ。ごめんねクロ)
――本当はボクの部屋で待機してて欲しかったんだけど、シロが『クロをここで監視します』って言って聞かなくて。
「きょ、今日はボクとシロが夕飯を作ろうと思ってね! 3人とも部屋から出て楽しみに待っててよ!」
「うおっ!? いきなり大きな声を出すんじゃねえよ、耳が痛いぜ……」
「……流石レンジね。失礼な事ばかり言う」
もちろん魔力で察知をされないよう、クロは魔力を体の外に漏らさないようも抑えているらしいから、レンジさん達が魔力でクロの存在を察知する事はないらしい。
……ボクにはまだ魔力というものの察知が出来ないから早く出来るようになりたいな……。
「……ラティア? 急に元気が無くなったようだけど、何かあったの?」
ハッと気が付いた時には。アイカさんは無表情を崩さず、心配そうな声色でボクの頭を撫でていた。
いや、それだけじゃない。レンジさん達も鏡の事なんてそっちのけで、ボクの心配をしてくれている。しきりにボクに声をかけ、気付けをしようとしてくれていたみたいだ。
「ううん、何でもない。ちょっと考え事をしてたんだ。……ささっ、夕飯を作っちゃうよ! だから部屋から出て待っててね!」
何でもないよ、平気だよ?という事を伝えるために作り笑いを浮かべ、ボクはレンジさん達の背中を押し――半ば強引に部屋から追い出した。
(何だろう、この気持ち……)
もしかしてボク、シロに対してイライラしてるのかな?
……そりゃさ、昨日の今日会ったような仲だから信用はそこまで出来ないだろうけど……でも、だからと言ってあんなに親切なレンジさん達を信用出来ないだなんて……
いや、ボクが簡単に人を信じちゃうのがおかしいのかな?シロの方が正しいのかな?
ラティアは自分がお人好し過ぎるのか、それともシロが用心深過ぎるのか、はたまたその両方なのか。考えれば考えるほどどつぼに嵌まっていくのを感じた。
『シロがレンジ達を信用していない』とラティアは誰かに話す訳にもいかず、何処にも感情をぶつけられないまま……その後の夕食を無言で終えた。
クロ(ううっ、いつまで箱の中に隠れていれば良いのでしょう……?)
アイカ「……シロと私って、少しキャラが被ってないかしら?」
シリアス(帰ろうかな……)




