クロ
今日の収穫をレンジ達に伝えるため、ラティア達3人は急いで談話室へ戻った。
……もちろん、ラティアは際どい格好で談話室に戻った訳ではない。あれほどチラチラ肌が見える格好でふらつく事はシロが許す訳もなく、ギャグ漫画のような速さでシロに着替えさせられたからだ。
「ただいまー、って……あれ? 誰もいない?」
「……奥に誰かいるかもしれません。少し探してみましょう」
「だ、誰かを見つければ良いんですね。頑張ります……」
しかし……ラティア達が部屋の何処を探しても人の影1つ見つける事は出来なかった。
代わりに見つかったものと言えば、先ほどまでは人がいたらしい事を訴え続ける暖炉の薪。パチパチと音をたてて燃えてはいるものの、燃え始めてから時間がそこそこ経っているようで、火の勢いはあまり強くはなかった。
偽シロ……うーん何かこの呼び方は嫌だな。後で名前を決めるとして、偽シロこと弱気な方のシロは忙しなく談話室をキョロキョロと見渡し、ビクビクと何かに怯えていた。
「何をそんなに怯えてるの?」
「ひっ!? ラティア様……?」
ラティアに声をかけられた事がよほど驚く事なのか、弱気な方のシロは更に体を縮こまらせ、頭を両手で抱えて震え出した。
「すみません、すみません! もう周りを見渡したりしないので、お許し、ひっく、下さい……」
「ええ!? 怒ってないから大丈夫だよ、安心して? これから君の事をどう呼ぼうか困ってるから、何か呼ばれたい名前とかあるかなー? って聞こうと思っただけだからさ」
こんな調子じゃ、いつ名前が決まるか分からないな……とラティアが考えていた時、意外なところから援護射撃が飛んできた。
「情けないですね……。それでもシロの真似のつもりなのですか? もっと堂々としなさい、クロ」
そう言ったのは他でもないシロだった。シロの偽物の事をクロと名付けたらしく、クロの前に立って腕組みをしている。
その姿はまるで、悪さをした子供にお仕置きをする母親のような姿だった。
「……クロ? ひぐっ、私の名前は、クロ……?」
「そうです。貴女は幸いな事にシロの写し身になれた事に加え、シロの記憶も真似しているのでしょう? ならば、黒狐のようになれるよう努力しなさい」
シロはゆっくりと腕組みを解くと、ボンポンと軽くクロの頭を撫でた。
黒狐って確か伝説上の狐の名前だっような気がするけど、それを目指せって事だよね?その辺の事は良く分からないから後でシロに聞くとして……何だか凄そうだ。
「それで、黒狐から文字を取って『クロ』……か、それにしても、あっさりと打ち解けてくれたみたいで良かったよ」
ボクはシロとクロを交互に見て、改めて2人の容姿を確認する。
2人とも着ている服から顔から声まで全部同じだから、まるで仲の良い双子のように見えた。
ただ1つ、懸念があるとしたら……ボクはどっちがどっちだか勘で分かるけど、他の人は混乱しちゃうよね。性格を抜いて見れば、だけど。
だから2人を簡単に見分ける方法を作らないと――って、シロ?……何で怒ってるの?
シロは僕の前までゆっくり歩き、クロにも聞こえるよう大きな声で言葉を口にした。
「ラティア様。クロが悪さをするかもしれないので、シロは監視のために見張っているだけです。名前を付けたのだって、ただ単にクロの事を呼びづらかったから付けたまでです。大体シロと同じ姿をしている時点で気味が悪いのですから、打ち解けただとか勘違いしないで下さい」
「あ、うん……分かったよ」
ボクは鬼でも逃げていきそうなシロの気迫に負けて、それ以上はなにも言う事が出来なかった。
「リーダー! シロちゃーん! 何処にいるのー?」
私は帰りの遅いリーダー達を探して、ただひたすらに通路を走っていた。
まだまだ私は未熟だから、魔力でリーダー達の居場所を特定するなんて事は出来ない。だけど、足の速さと体力には自信がある。何たって私は犬の獣人なんだからね!
後は自分を信じて走り続ければ、きっとリーダー達を見つけられるはず!
――そう思っていたんだけど……。
「おかしいなあ? 全然見つからないなんて……」
どのくらい時間が経ったのだろう。いくら走り続けてもリーダー達の影すら見当たらなくて、走り疲れた私は近くにあった部屋に入り、休憩をしようとした……んだけど。
「って、この部屋凄い! 私にはよく分からないけど、宝物っぽいものがいっぱいあるー!」
そうなの!かなり狭い部屋なんだけど、代わりに良く分からないお宝みたいなものがゴロゴロしてるの!あっ、これ剣か。真っ二つに折れてて気付かなかったよ!
「お宝を見つけた時のワクワク感を、この世界でも味わえるなんて……嬉しい! 適当に何か持って帰ろうっと!」
スーはあまりの嬉しさに、犬のような茶色い尻尾を左右にぶんぶん振りながら、手近にある物を適当に掴んだ。そして、物を持ち帰るためにいつも腰へ付けている巾着袋へと手を伸ばし……手が空を切った。
「そ、そうだった! リーダー達を探そうとしていたから、アイテムを持ち帰るための巾着袋を持ってきてなかったんだった!」
そう、スーは元々レンジ達を探しに来ていたので、戦利品を持ち帰るための巾着袋を持ってきていなかったのだ。
だから残念なことに、お宝の山を目の前にしながらも持ち帰ることが出来ない。スーはしょぼんと茶色い尻尾を垂れ下げて、せめて価値が一番高そうな物だけでも持って帰ろうと辺りを見渡した。
(あっ!この鏡とか良いかも?!)
そこでスーが見つけたのは、世にも不思議な鏡だった。
円形の鏡面は何も反射せず灰色に曇り、その縁回りにはきらびやかな金の装飾が施されている。かと思えばその装飾は見る角度によって銀や7色にも変わるので、スーはこれが1番価値が高い物だと思い、持ち帰る事にした。
私は鏡面を割らないように両手で鏡を抱え、鼻歌を歌いながら談話室へ戻るのでした。
スーさんはラティアと同い年(15歳)にも関わらず、そこそこ幼い行動を取ります。
どれくらい幼い行動かと言うと、『ご飯あげるからついておいで』と言うだけで尻尾を振りながら誰にでもついていきます。




