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日本の変化に想う  作者: 逢場学
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11/20

第11回|軍隊化は拍手の中で始まった

【連載】

あの時、日本はどう動き、どう変わったのか?

― 自衛隊の軍隊化と国家転換への歩み ―

【連載】

― 自衛隊の軍隊化と国家転換への歩み ―



※本稿は連載形式で週2~3回程度の更新を予定しています。


後年、一部論者は2028年前後の日本を「熱狂の時代」と呼んだ。

しかし少なくとも、私の記憶にある当時の空気は、もう少し静かだった。

疲れていたのである。人々は長い麻痺に消耗していた。


その疲労の中で生まれた感情は、ナショナリズムでも軍事崇拝でもなかった。

もっと単純で、もっと切実なものだった。


「頼むから、誰かが決めてくれ」


これが、当時の社会の本音だったと思う。


『皐月事変』以後、日本の企業社会は奇妙な状態に置かれていた。

現場には仕事をしたい人間がいる。機械もある。物資もある。

だが誰も「これをやれ」と言えない。

なぜなら「やれ」という根拠を確認する回線が死んでいるから。


上司に聞けない。

本社に確認できない。

契約書の照合システムも動かない。


結果、有能な人間ほど止まっていた。

動いて後で責任を取らされるのが怖かったから。


2028年夏、政府与党は参議院選挙で歴史的勝利を収める。

当時の新聞見出しを振り返ると、そこには「安全保障」や「国家主義」より:


「社会を動かし続ける」


「判断できる政府」


「確認待ちをなくす」


といった言葉が並んでいる。これは重要な点だ。


当時の支持構造は、旧来型ナショナリズムとは少し違っていた。

人々は「強い国家」を求めたというより:


「決定を引き受けてくれる国家」


を求めていた。


本紙保存の地方遊説記録を見ると、当時の街頭演説でも最も拍手が大きかったのは、憲法論そのものではない。

むしろ:


「現場が動いていいと言える仕組みを、国が責任を持って作ります」


という言葉だった。


軍隊化受容もこの文脈で理解する必要がある。

人々が自衛隊の拡権を受け入れたのは、軍事力への期待ではなかった。

「判断を引き受けてくれる組織への負債感覚」だった。


当時、多くの現場では自衛隊車列が日常風景化していた。

そして人々が見ていたのは、武装した軍隊ではなく、


確認なしに動いてくれる人間

「やります」と言える人間

決定を誰かに押し付けない人間


だった。


私は当時、この言葉を何度も聞いた。港湾労働者から。自治体職員から。配送業者から。


「あの人達がいなかったら、私達は今も確認待ちのままだった」


思想は違っても、皆そこだけは共有していた。

つまり2028年の軍隊化受容は、理念の勝利ではない。

「判断の空白」が続いた後の、疲れ果てた安堵だった。


私は今でも、2028年参院選後の夜を覚えている。

テレビでは与党圧勝速報が流れている。だが店内は、熱狂というより安堵に近かった。

誰かがこう言った。


「これで少しは、動いていいって言ってもらえるかな」


その瞬間、私は少し寒気を覚えた。

なぜならその言葉には、もう「元へ戻る」という発想が存在していなかったからである。


軍隊化は、叫びの中ではなく、拍手の中で始まったのである。


本稿執筆にあたり、本紙政治部資料、2028年参院選地方遊説記録群、神戸港湾地域聞き取り資料の提供を受けた。ここに感謝を記したい。

【次回掲載予定】

第12回「父は帰ってこなかった」

「判断を引き受ける」という役割は、家庭からも人を奪っていった。

「お父さんは、みんなに安心してもらう事をしてるんだって。」

歪み始めた「社会の構造」とは、何だったのか。


HG首都新聞にて先行公開中

https://holygrace.jp/hgcn/

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