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18.覚醒

「クックック、さあ八岐大蛇よ!護国の鬼となりてこの日の本を夷狄(いてき)から守り給え!」


伊吹ヨシヒロの目的は八岐大蛇の力を以て日本から外国人を追い出す、そして日本人だけの日本を取り戻すことが目的だった。第二次大戦で日本が蹂躙され日本を守るという使命感が生まれてしまったのだ。


「まずは埼玉に赴き不法に居座っている土人をみ」


伊吹ヨシヒロの言葉が途中で途切れた。理由は伊吹ヨシヒロの上半身がまるまるなくなっていたからだ。腹部の断面から血液の蒸発する音が聞こえている。八岐大蛇に乗っ取られた伊吹アオイの身体から尻尾が八つ生えておりそのうちの一つが熱線を放ったようだ。


「虫けら風情が、我(オレ)に指図するな」


「いつの間に...」


ナオキはそう口にする。一瞬の出来事のあまりナオキとユウジには認識できていなかったのだ。


「!?っ」


気が付けば大蛇は二人を見つめていた。


「誰が言の葉を紡いでよいと許可した?」


「しまっ!」


二人はは回避行動を取ろうとするも時すでに遅し。大蛇はユウジの目の前に迫っていた。大蛇は貫手(ぬきて)でユウジを貫こうとする。しかしその手は何者かに防がれる。ユウジの目の前には西園寺リョウが立っていた。西園寺は大蛇を蹴りで基地の外へと吹き飛ばす。


「西園寺司令!」


「スバル!、アオイの肉体からは宿儺の呪いがにじみ出ていないんだな!」


「はい、おそらく大蛇として活動するために宿儺の呪いをすべてエネルギー源に回している可能性があります」


西園寺と八千代スバルは無線機で会話をする。


「そういうことだ!お前たち!大蛇の相手は俺がする!」


西園寺はナオキとユウジにそう呼びかけた後、大蛇を吹き飛ばした方向へと跳躍する。



立川にて西園寺と八岐大蛇との戦闘が繰り広げられる。両者の戦闘はもはや災害であった。大蛇は空中で体勢を立て直すも追いついてきた西園寺に再び蹴りを入れられる。大蛇はの全力の蹴りを鎧で纏った腕で受ける。アオイが纏っていた鎧は西園寺の一割の力で砕け散っていたが大蛇の形成した鎧はヒビが入る程度だった。


「ほう、この鎧にヒビを入れる者がスサノオ以外にもいたとはな。我(オレ)を愉しませろ!人間!」


地面を蹴り上げ巡航ミサイル以上の速さで大蛇に追いつく西園寺。大蛇はそれをかかと落としで迎える。西園寺は咄嗟にガードするも思い切りビルの屋上へと叩き落される。西園寺はビルの屋上40階から2階までの床を一気に貫通する。西園寺は一階から跳躍し音速を超えて自身の身体でできた穴を通っていく。再び大蛇に迫ると大蛇は秋吉の頭を目掛けて貫手を繰り出す。秋吉はこれを躱し蹴りを入れる。大蛇は吹き飛びつつも8つの尻尾から熱線を放つ。大蛇は尻尾8本から熱線を吐き全方位に攻撃する。この熱線により上空を飛行するジャンボジェット機が切断され墜落する。熱線を吐きつつ西園寺を取り囲むように熱線の檻が狭まっていく。西園寺は熱線の檻から即座に脱出する。大蛇は檻から脱出した西園寺に一瞬で接近し拳を叩き込む。西園寺は走行中の中央線の列車に突撃し大きく歪む。そのまま脱線し橋下へと落下していく列車に熱線の追い打ちが加わり列車はバラバラになる。


これ以上周囲に被害を出させるわけにはいかねぇ!


西園寺は大蛇に接近しかかと落としを繰り出す。大蛇は地面へと吹き飛ばされるも上手に着地する。西園寺は大蛇の目の前に現れ拳のラッシュを繰り出す。西園寺の全力のラッシュはユウジがラッシュの一発を叩き込む間に百発叩き込むほどのスピードを持っている。だが、そんな西園寺の拳のラッシュを大蛇は躱していく。


「同じ土俵で戦ってやる」


大蛇は西園寺のラッシュに対抗するようにラッシュを仕掛ける。ラッシュの速さ比べが始まった。西園寺と大蛇のラッシュにより衝撃波が発生し続ける。両者のラッシュは均衡しているようにみえるが西園寺が地味に圧し負けている。


「何が理由で街を壊す!答えろ!八岐大蛇!」


「決まっている。我(オレ)は弱き者をみると虫唾が走るんでな、だから滅ぼす。弱き者が淘汰され強き者が生き残る、それが自然の摂理であろう?」


「強いヤツが弱いヤツを助けねえでどうすんだよ!少なくとも俺はアンタには賛同できねぇ!」


二人はラッシュ比べをしつつ問答を交わす。


「ほう、であればその思い、貫き通してみせよッ!」


大蛇はラッシュ勝負で完全に打ち勝ち西園寺に蹴りを入れる。西園寺は吹き飛ばされる。



街から吹き飛ばされた西園寺は正門前の地面へと叩きつけられる。


「西園寺司令!?」


続いて大蛇が正門前に着地する。大蛇はユウジとナオキを見据えるやいなや熱線の発射シーケンスに入る。


「終わりだ」


大蛇の八つの口から熱線が発射される。ユウジとナオキは躱す暇もなくただ死を受け入れるしかなかった。だが二人の目の前に現れる西園寺。西園寺は体の頑丈さと覇気を纏うことによりなんとか熱線を防いでいる。


「西園寺司令!」


「グウウウウウウゥゥゥゥゥゥ」


だが地球最強の生物であった西園寺であっても数秒の熱線により皮膚が爛れところどころ焦げていた。


「やはり弱き者を庇うか、その心意気やよし!だが...」


大蛇は瞬時に西園寺の目の前に現れた。大蛇は金属の鎧を纏った貫手で西園寺の腹をぶち抜く。腕は西園寺の胴体を貫通する。


「それが命取りとなる」


「西園寺司令!」



八岐大蛇に胴を貫かれた西園寺は地面に伏している。貫かれた箇所が腹部であったため一命は取り留めている。


「ふむ、我(オレ)の熱線を防ぐとはスサノオ以来の逸材。ここで殺すには惜しいことをしたか?」


倒れている西園寺に対してゆっくりと歩を進める八岐大蛇。


「だが所詮は我(オレ)に敗(ま)けた弱き者ゆえ、死にゆくのは運命(さだめ)よな」


倒れている西園寺の前にユウジとナオキが立ちふさがる。


「邪魔だぞ虫けらども」


「西園寺司令はあなたを倒す唯一の可能性です、ここで死なせるわけにはいけません」


「それだけじゃない、アオイさんを取り戻すためにも、僕は戦います!」


しかし圧倒的強者を前にして二人は及び腰になっていた。


「弱き者は弱き者らしく逃げればよいものを、命を粗末にするでない」


二人は大蛇は互いに睨み合い無音の空間の中微動だにしなかった。


「なンか騒がしくなってきたと思って来てみればとんでもねーことになってンじゃあねぇか」


静寂を破るように現れたのは早乙女アキラだった。


「早乙女アキラ!何でここにいる!」


「ああ、留置室?のドアが西園寺とそこの女の戦闘の余波でぶっ壊れたからよぉ、普通に出てこられたぜ」


早乙女アキラは東京タワーでの事件後、身柄を怪異対策機動本部で拘束していたのだ。


「何勝手に出てき」


「そんなことよりもよぉ!女ぁ...じゃなくて八岐大蛇さんだったかよぉ!」


早乙女はナオキの質問を無視し大蛇に問いかける


「不敬であるぞ虫けら風情が」


「不敬であるのは重々承知!それでもなお不遜を承知で聞くけどよぉ!アンタ強いヤツが好きなんだよなぁ!?」


早乙女の声にはどことなく高揚感が感じられる。


「如何にも、それがどうかしたか?」


「だったら俺が相手してやるよ」


「何?」


その発言にその場にいた者全員が懐疑的になる。


「アンタ正気か?アレは西園寺さんですら倒せなかった相手だぞ」


「知ってるよ、だからてめぇらも手伝え。あとナオキ、妖刀-参式-をよこせ。アレが無いと戦えないからな」


「渡すわけないだろ頭大丈夫か?」


「あの女を助けたいんだろ?」


早乙女アキラの問いに何も言い返せないナオキ。ナオキは少し考えた後、妖刀-参式-を早乙女アキラに渡す。


「裏切ったら状況問わず殺す」


「あンがとよ」


一部始終を見ていた大蛇は高笑いをしたあと三人に向けて話しかける。


「愉快なやつらだのう!気に入った!この我(オレ)に一撃でも攻撃を当ててみせろ、さすればアオイとやらにこの身体を返してやろう」


「本当ですか?」


「ああ、約束は違(たが)えぬ。もっとも当てられればの話だがな」


「どっちでもいいさ、俺の強さを証明してやるヨォッ!

」

早乙女は妖刀-参式-構え大蛇へと接近する。三人と大蛇の戦闘が始まった。



早乙女とユウジは近接戦を挑みナオキは短剣とソードビットによる援護にまわった。早乙女は参式で何度も斬りかかる。大蛇はことごとくそれを躱す。大蛇の蹴りにより早乙女は吹き飛ばされる。早乙女が斬りかかっていた間に大蛇の背後にまわっていたユウジは後頭部目掛けて殴りかかろうとするも大蛇は正面を向いたまま首を傾けこれを躱す。ユウジは拳を突き出した状態からそのまま裏拳を繰り出し大蛇の頭に当てようとする。しかし大蛇は大きくしゃがみ込みそのままユウジの方へと向く。ユウジは拳や蹴りを繰り出すも躱される。大蛇は隙を見てユウジの頭にパンチを繰り出す。ユウジは咄嗟にガードするが勢いで吹き飛ばされる。続くようにナオキの短剣とソードビットが大蛇に襲い掛かる。大蛇は難なく躱しナオキへと迫る。ナオキは短剣を持ち応じるも躱され脇腹に蹴りを入れられ吹き飛ばされる。


「クッ、全く歯が立たねぇ!早乙女!コンビネーションで畳みかけるぞ!」


「テメェらが俺に合わせろや!」


「身勝手すぎんだろ!ナオキ!援護してくれ!」


「了解!」


早乙女の自分本位な突撃に合わせるユウジとナオキ。絶え間なく続く連撃に通常の敵であれば倒されていた。しかし大蛇はなんなく躱してのける。連撃を繰り出し、早乙女が吹き飛ばされ次にユウジも同様に吹き飛ばされる。そしてその次にはナオキが飛ばされる。この一連の流れが8回ほど続き三人の体力は限界に近づいていた。


「ナオキ!コンビネーションは無しだ!とにかく攻撃を当てることだけに専念しよう!」


「了解!」


「てめえらは黙って見てろ!俺の真の強さを見せてやるよ」


「口先だけだったら殺す」


早乙女が啖呵を切りナオキがその言葉に返す。


二人は静観することに決めた。早乙女は自身の間合いに大蛇を捉える。早乙女は自身の体力の限界が来るのを悟り渾身の技を繰り出す。ギアを纏ったユウジやナオキであっても回避不能であろう、人間離れした無数の高速剣技を繰り出す。しかしその斬撃でさえも大蛇は躱してしまう。


「やるじゃねぇか...」


早乙女は息を切らし肩で呼吸する。


「お前も西園寺ほどではないがなかなかにやりよるな」


「俺は繰り出す手数(てかず)を増やしていくスタイルだからな。威力よりもスピードを重視してンだよ」


「ほう、今来(こんらい)の世の人間も捨てたものではないな」


「そして今から繰り出す技が俺の最高速だ。たまげるなよ?」


「よかろう、来るがいい」


早乙女は妖刀-参式-を納刀し柄を握る。


「あの構え、居合斬りか?」


「邪剣-禍夜(まがや)さんですら躱すことに一苦労した技だ!あの技ならもしかしたら...」


無音の空間が広がっている。ただの数秒の沈黙であったが、その場にいた者にとっては幾億年に感じられた。その静寂を破ったのは早乙女だ。早乙女は瞬時に抜刀し大蛇の首を斬るように振り抜く。しかし早乙女の目の前には何もなかった。


「消えた?」


「見事、だがそれでも我(オレ)には届かない」


早乙女の背後から大蛇の声が聞こえた。早乙女は即座に背後にいる大蛇へと斬りかかるも易々と躱される。


「さきほどの居合は見事であった。あの速さは西園寺と同等じゃったのう」


大蛇はそう答えながら早乙女の斬撃を躱していく。


「だからこそ、からかったことに気が付かなかったないのは残念だ。刃と我(オレ)の首との距離を一寸で保ちながら動いたというのに」


「コイツ!」


「余興は終わりだ」


大蛇は早乙女に蹴りを入れる。早乙女は吹き飛ばされる。


「クソッ!」


ユウジは大蛇に殴りかかる。大蛇はこれを躱しユウジに金属を纏った裏拳をかます。


ユウジはリープロギアの機能で高速思考モードに移る。ユウジは周囲の光景がスローになってみえる。




攻撃を当てれば姐(あね)さんを返してもらえると言っていた。だったら!


俺は大蛇の金属を纏った裏拳に対し全力でガードする。


やはりとんでもない力!けれど俺はこの密着した瞬間を利用する!密着した状態で押し返す!これを攻撃と言えるかどうかは賛否両論だが俺は攻撃と言い張る!絶対的にダメージは通らないが今回は攻撃を当てればいいだけの話!


俺は金属を纏った裏拳に対抗し押し返す。しかし時すでに遅く、俺が押し返した先は金属だけが存在していた。大蛇の本体はとっくに裏拳から離れ蹴りの態勢になっていた。


「へ?」



ユウジは大蛇の蹴りに押し返すどころかガードする暇もなく吹き飛ばされる。大蛇は周囲の状況を見渡すと、大蛇を中心としドーム状に金属の檻が形成されていた。その檻の一本一本の表面がチェーンソーの刃のように高速で動いている。また、檻の周囲には無数の短剣が檻に向けて浮遊して待機している。


「これで観念してください。この檻を壊そうとすれば高速で動く刃に触れることとなる。結果として攻撃が当たったことになります」


「なるほど、そう来たか」


大蛇は全身に金属の鎧を纏わせていく。


「全身を金属で纏えば生身には触れてないと言うつもりですか?」


「いいや、そんなトンチは用いるつもりはない」


ナオキは檻を一気に狭め大蛇に攻撃を当てようとする。刹那、大蛇の金属の鎧がはじけ飛び周囲の檻と短剣を破壊する。


「なっ!」

ナオキが驚愕したのも束の間、大蛇の蹴りにより吹き飛ばされる。


倒れていた早乙女が起き上がり大蛇へと向かおうとする。


「俺は弱くなんかねぇ...俺は強いんだよ...だからアイツをぶっ殺して...」


そう呟いた早乙女の目の前に大蛇が現れる。


「いいや、お前は弱い」


大蛇の繰り出した拳が早乙女の心臓を貫いた。









「赤マル買ってこいよ、15分な」


俺がガキの頃、そうやっていつも父親は俺に命令してきた。働きもせずに生活保護で生きている分際で、図体と態度はデカく俺に命令してきやがる。タバコくらい自分で買いに行けと、ガキの頃ながらそう思っていた。コンビニに到着しレジに立っている店員に話しかける。


「申し訳ございません。未成年の方にお売りすることはできません」


そりゃそうだ。見ただけでもガキと分かる輩に年齢確認をする必要はない。そもそも、タバコ代すら貰ってないのだからどちらにしろ買うことはできない。俺は憂鬱になりながら帰路につく。


「な~んでテメェは簡単なおつかいも出来ねえのかなあ!ええおい!」


父親の全力のパンチが頬に直撃し俺はそのまま吹き飛ばされる。


「なあ?なあなあなあなあなあなあなあなあなあ!」


父親は問いを連呼しながら床に転がっている俺に何度も蹴りを入れる。俺は咄嗟に頭を手で守り体育座りのように丸まる。頭部、そして腹部への暴力は避け背中で受ける。背中が一番防御力が高いからだ。仮に手や足に暴力を受け痣になった場合、外出時に周囲の大人に事情を聴かれ保護される可能性が出てくる。まあ、そうならないために手足の痣が治るまでは外出を制限されるかもしれないが。


「いつもそうだよななんでヤニと酒は買ってこねえんだよざけてんのか!」


少し考えれば年確されることくらいわかるだろ?クソ野郎が。それとも自分はバレなかったから俺に買いに行かせても大丈夫だと思ったのか?


「ちょっとやめてよね~揺れるじゃん~」


金髪でケバイメイクをしている女が気怠そうに俺の父親に呼びかける。その女は俺の母親だ。高校の頃避妊もせずに猿のように性交していたせいで妊娠しおまけにその場の感情で中絶せずに高校中退した。その時にできたガキってのが俺だ。ふざけるなよ。誰が産んでくれと頼んだ?産むんだったら成人するまで責任もって育児しろよ。虐待されてるところを放置して能天気にメイクしてんじゃねぇよ。クソ水商売女がよ...


「タバコ買ってくらぁ」


蹴ることに飽きた父親は出かける準備をしている。


「行ってら~」


気怠そうに返事をする母親。


 殺すか。


思い立った瞬間即座に台所に駆け込み果物ナイフを手に取る。そして玄関でこちらに背を向けて立っている父親の首の頸動脈を目掛けて突き刺す。果物ナイフを引き抜くとその男は多量の血を噴き出しながらその場に倒れ込む。


「龍二?」


女は物音に気付き倒れた男の名前を呼ぶ。しかしその男からの返答はない。俺は次にメイクしている女へ襲い掛かる。女は椅子から転げ落ち俺はその女に飛び乗る。


「ちょ!待っ」


有無を言わさずその女の口に果物ナイフをねじ込む。果物ナイフは喉に突き刺さり女はそのまま息絶える。あっけなく終わった。



俺は悔しかった。


こんなに弱いやつらが、今まで俺を苦しめてきていたなんて。




そうだ、強くなろう。


強くなれば誰も俺を苦しめることができない。


強くなれば誰も俺を邪魔することはない。


強くなれば、俺は早乙女アキラ(オレ)のままでいられる。だから強くなろう。



玄関の扉を開ける。澄み渡る晴天の空、響き渡るセミの大合唱。暑さの煩い、とある夏の日のことだった。




八岐大蛇が早乙女から腕を引き抜くと血振りをし、倒れている西園寺へと歩いていく。残り数mのところで八千代スバルが西園寺を庇うように立ち塞がる。


「どけ、虫けらよ。そこに伏しているのは我(オレ)に敗北(ま)けた者、ゆえにここで死なねばならぬ」


「できません」


八千代スバルは自身の身を危険に晒してもなお、八岐大蛇の前に立ちふさがる。


「弱き者は強き者に淘汰される、それが自然の摂理であろう?」


八千代スバルは一か八かの賭けに出る。


「お言葉ですが...僕は「暴力」だけが人間の強さだとは考えていません!」


「何?」


「人間は弱い存在です。それでも長い間地球の支配者足りえたのは思考し知恵を生み出してきたからです。人間はこれまでの歴史であらゆる困難と対峙してきました。ですが!その度に思考し知恵を生み出し解決してきました!」


八千代スバルは八岐大蛇を睨んで宣言する。


「今はまだ災害(あなた)の倒し方はわかりません。ですが、いつの日か、人間の強さ(ちえ)であなたを倒してみせます!」


八千代スバルは膝をつき頭(こうべ)を垂れる。


「ですから、今しばらくの猶予をいただけないでしょうか...」


数秒の沈黙の後、大蛇が笑いだす。


「ふっふふふふはははははははははははははは!気に入った!いいだろう!此度(こたび)は見逃してやる!その人間の知恵とやらで我(オレ)を倒してみせよ!だが、ひと月経てども俺を倒せぬ場合は人類(おまえたち)を皆殺(みなごろ)す」


大蛇はそう言い残し基地の外へと跳躍する。大蛇の姿は見えなくなっていった。






国際連合の緊急総会にて各国の代表が忙しなく議論を進めている。


「一刻も早く武力制圧に向かうべきだ!でなければ我々人類が滅ぶのも時間の問題だ!」


「武力制圧と言ったってどうやってだ?」


「戦闘機や戦闘ヘリ、爆撃機やイージス艦による飽和攻撃が主だろうな」


「さすがに過剰戦力ではないか?相手はたったの一人だぞ?」


「お前は監視衛星に記録されていた映像を見てないのか?八岐大蛇が発した熱線でジャンボジェット機が撃墜されたんだぞ!」


「それだけじゃない!あの地球最強の生物であった西園寺が敗れたんだぞ!むしろ戦力としては足りないくらいだ!」


「戦略核の使用も検討しなければな」


「ヒロシマナガサキの悲劇を繰り返すつもりか!」


「そのヒロシマナガサキに原子力爆弾を落としたのはアンタらのところでしょうに」


「貴様ッ!?」


議論は白熱し脱線も繰り返す。数分後、一人の代表の言葉によって風向きが変わる。


「最終的な判断は国連事務総長によってなされる」


「事務総長!ご決断を!」


「事務総長!」


「事務総長!」


数秒の沈黙の後、事務総長が口を開く。


「我々は今人類の危機に瀕している、現世に顕現した八岐大蛇によって。この怪物を排除しなければ人類に未来は無いと言ってよい。よって私は、伊吹アオイないし八岐大蛇に対し、全世界の総力を挙げて武力による制圧を行うことを、ここに宣言する」





八岐大蛇が立川駐屯地から飛び出して2時間ほど経過したころ、司令代理となった八千代スバルに呼ばれ俺とナオキ、そして氷室アカネがオペレータールームへと集まった。今後の方針を話し合うそうだ。


「先程国連から全世界の軍隊へ通達があったそうだ。「八岐大蛇へ総攻撃を行い討伐せよ」と」


乗員515人を乗せたジャンボジェット機が八岐大蛇の熱線によって撃墜され、地球最強の生物と謳われていた西園寺司令も倒された。世界のお偉方は八岐大蛇を脅威と判断し姐(あね)さんもろとも葬り去るつもりだ。だが、それは正しい判断だ。一を斬り捨て多数を生かす。一殺多生。そうしなければ世界が滅ぼされる。だから姐(あね)さんには死んでもらわないといけない。コトリバコの怪人であった遠野カエデと同じように。


「こちらの状況確認だが、西園寺司令は腹部を貫かれたことにより重体、現在集中治療室で治療中だ。早乙女アキラは死亡。今動ける戦力はナオキくんとユウジくんの二人だけだ」


「それでも焼け石に水だと思いますよ。あの西園寺さんですら倒されたんですから、装者二人が加わったところで戦況は変わらない。なんなら全世界の戦力を動員してもあの災害に勝てるかどうか」


氷室アカネは悪態つくようにぼやく。


「そうだね。確かにアレはどうしようもない強さだ。二人には悪いけど今の人類には八岐大蛇という災害には誰一人勝てないだろう。それを踏まえた上で二人に聞きたい、君たちはどうしたい?」


どうしたいかなんて聞く必要があるのか?国連が全世界に大蛇を倒せと命令したんだぞ?だったらそれに従うしかないだろ。


「今なら逃げるのもアリだ。ここで逃げても僕たちは君たちを糾弾しない。全世界の戦力を以てしても人類が滅ぼされる確率の方が高い。敵前逃亡の罪に問われようが人類が滅んでしまえばどうしようもない」


第2次大戦時じゃないんだから銃殺はされねえだろ。まあでも、逃げるという手もある。


だが、俺は逃げない。

カエデを殺した日から、俺は英雄になったんだ。

英雄は人類を救うために戦うものだろ?

それは父親を殺したナオキも同じはずだ。


「僕は...アオイさんを助けたいです」


一瞬、ナオキが何を言ったのか理解できなかった。いや、想定していた回答と違って困惑したと言った方がいいか。


「あっ、お前さぁ、状況わかって言ってんのか?姐(あね)さんは人類の敵になったんだぞ!お前が言ってんのはアイツと一緒に人類の敵になるってことだぞ?」


「八岐大蛇が人類の敵であってアオイさんは人類の敵ではありません」


「一緒だろ、八岐大蛇が姐(あね)さんの身体使って顕現してんだから。それに救うとか眠てえこと言ってんな?ああなった以上救うのは無理だ。だったらせめて人類殲滅の罪を背負わせる前に俺達で殺すのがスジってもんだろ」


気持ちワリい。主人公みたいなセリフを吐いてんじゃねえよ気色悪い。その脳内お花畑な思考が世界を滅ぼすんだよ。世界はそんなに甘く出来ちゃあいない。ガキの我儘は大人が矯正してやんねえとな。


「まだ何も試していないのに決めつけないで貰えますか?」


「試さなくてもわかんだろ」


俺とナオキは沈黙しつつも睨み合いが続く。ナオキからは今までにない気迫を感じる。


「そうだね、僕もアオイ君を救いたい」


「...........................は?」


今度こそ理解できなかった。合理的な判断を行う研究者であるはずのアンタが何言ってんだ?


「アオイ君の人格を引きずり出して主導権を握らせればあるいは...とりあえず説得が必要になるかな」


「それが一番確実ですかね~」


待てよ。なんでアカネまで賛同してるんだよ。お前はあの時カエデを怪物として見ていたじゃないか。なのに伊吹アオイは怪物じゃないってか?


「まっ、待ってくださいよ。姐(あね)さんの人格が消失してる可能性だってあるんですよ。そうなったらもう無理じゃないですか」


「確かにその可能性はある。だがやってみないことにはわからない」


「そうですよね、八岐大蛇と戦闘するよりも説得する方が勝算はあるかもしれないですし」


「なんで姐(あね)さんが良くてカエデはダメなんだよ!」


胸の内にため込んでいたものが口から紡がれていく。


「今遠野さんのことは関係ないですよ」


「カエデも姐(あね)さんも同じ人類の脅威じゃねえかッ!そこに何の違いがあんだよッ!」


「ユウジさん!」


「なんで...」


やめろ。それ以上口にするな。認めたくない事実を口にするな。


「なんでカエデは死ななきゃいけなかったんですかッ!!!!!!!!!!」


俺がその事実を叫んだ瞬間、数秒の沈黙が流れた。答えははじめからわかりきっていた。


姐(あね)さんとみんなにはこれまで培ってきた絆があって、カエデにはそれがなかった、ただそれだけの話。


姐(あね)さんは仲間として、カエデは怪物として。


俺は沈黙を破るかのように宣言する。


「申し訳ありませんが今回の作戦には参加できません。有休をいただきます」


俺はリープロギアのペンダントをテーブルの上に置きオペレータールームを飛び出した。



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