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19.藁人形

アオイさんの身体を乗っ取った八岐大蛇が立川から去って半月ほど経過した。八岐大蛇は立川を去った後、静岡県御殿場市にある東富士演習場にその身を置いている。八岐大蛇を討伐すべく結成された世界連合軍は駿河湾、相模湾から上陸後そのまま東富士演習場へと進軍するらしい。沼津市、小田原市を含めた13の市町の住民は既に避難が完了している。そして念のために北富士演習場に近い山中湖村、忍野村、富士吉田市の住民の避難を進め現在継続中とのことだ。


そして僕は演習場には下りずに反対側の青木ヶ原樹海で降りることとなった。八岐大蛇と連合軍との戦闘に巻き込まれる可能性があるからだ。輸送ヘリの中で精神を落ち着かせていると八千代さんから通信が入った。


「ナオキくん、そろそろ到着だ。出撃前にも話したが君は樹海に下りた後演習場方面へ向かってもらい富士山の麓で待機、隙を見て八岐大蛇と接触してほしい」


「了解です」


「正直僕も連合軍がどんな作戦でくるかわからない。隙ができるかすらわからない。そして君に任せっきりにしていることを謝らせてほしい、すまない」


「いえ大丈夫ですよ。戦闘要員が僕しかいないんですから...。あの、本当にユウジさんを止めなくてよかったんですか?大事な戦力だったんじゃ...」


ユウジさんはあの後自宅へ帰宅し消息が分からなくなっている。連絡も取れない状態だ。


「確かに、あの時引き留めておけばよかったのかもしれない。ただ、当のユウジくんは完全に対話せずに排除する可能性の方が高い。最悪意見の違いから仲間割れする可能性もあったかもしれない」


「そうですね...」


結局同じか、もしくはそれ以上に最悪な結果になっていたかもしれない。


「なあにそう心配する必要はない。八岐大蛇を説得してアオイくんを取り戻す。そしてユウジくんとまた三人でリープロギア装者をやっていけばいい」


「ええ、アオイさんを連れ戻してユウジさんをたまげさせましょう!」


「青木ヶ原樹海に到着いたしました!」


タイミングよくヘリのパイロットから輸送目的地に到着したことを伝えられる。


「了解です、ありがとうございます」


僕はヘリのスライドドアを開け乗降口に立つ。


「ご武運を!」


僕はパイロットへ敬礼してから樹海へと降り立つ。ヘリは僕が樹海の中を進むのを確認した後飛び去って行った。





ここから東富士演習場までは距離があるがギアを纏って全力で走れば一時間もかからずにつく。僕は樹海の悪路を難なく走破する。


五分ほど走ったころ僕の目の前に見覚えのある人影が現れる。僕はすぐさまその場に立ち止まる。


「ユウジさん!?」


「よお、ナオキ。待ってたぜ」


「なんでこんなところに」


僕はユウジさんの意図がわからず思わず理由を問いただす。


「決まってんだろ?お前を止めるためだよ」


「...........はい?」


意味が分からず聞き返してしまった。


「八岐大蛇を倒したいなら連合軍と一緒に戦えばいいじゃないですか!僕たちが交渉に入る前に殺してしまえば済む話じゃないですか!」


「なんでだろーなぁ、わかんねぇや」


「は?」


いい加減苛立ちを覚えてくる。結局この人は何が言いたいんだ?


「いいや、理屈ではわかるよ?八岐大蛇を説得して伊吹アオイの人格に戻す。そうしたら世界も救えてアオイも取り戻せる」


「だったらっ!」


「でもな?お前らの言ってること、感情で理解できねんだわ」


「....納得してないってことですか?」


感情を殺し遠野カエデさんを殺したこの人からそんなセリフが出てくるとは思わなかった。


「そうですか...でもギアに変身しない生身のユウジさんに負けるほど僕は弱くありませんよ!」


「じゃあこっちはどうだ?」


ユウジさんは背負っているリュックを下ろし、中からあるものを取り出す。ガヴェイルドライバーだった。


「ガヴェイルドライバー!?まさかパヴァリアの連中と接触して!?」


「いいや、これは本部に保管庫あったベルトだよ。お前の父さん、ガヴェイルシグマのな。西園寺さんと八岐大蛇の戦闘で保管庫が半壊していたからな。盗むのは容易だったぜ」


「なるほど、だからとてユウジさん自身は呪いを帯びていない、だから変身はできない」


「わかってねぇな。このドライバーは保管庫からパクってきたんだぜ。そして保管庫には他の呪物もある」


「まさかっ!」


ユウジはリュックから藁人形、五寸釘、金槌を取り出す。藁人形の胴体部分に五寸釘を刺す。そしてそのままゆっくりと自身の腹部に五寸釘をねじ込んでいく。


「なにをっ!」


「あぁ、いてぇなぁ。すげー痛い。でもな、カエデを殺した時の痛みに比べれば全然マシだ」


ユウジは顔を僕の方へと向けてきた。


「俺は呪っ(あいし)てみせるよ、この世界を、人類を、そして俺自身を」


ユウジはドライバーのグリップを握りそのまま捻る。


「....ガヴェイル」

                       」

ユウジから赤い爆炎が生じ周囲の植物はところどころに火が付く。爆炎の中からはガヴェイルシグマにも少しに似て、しかして非なる怪人、赤色の姿をした怪人が現れる。


「ガヴェイルアルファ、変身完了」


ユウジは僕の方へ目をやる。


「っつーわけだナオキ!お前のことも呪っ(あいし)てやるよ」







演習場で八岐大蛇と連合軍の戦闘が繰り広げられている。横一列に隊列を組んだ戦車大隊が八岐大蛇に向けて一斉掃射を行う。八岐大蛇は金属の鎧を形成し敢えて攻撃を受ける。自身を倒しきるほどの威力を出せるか試しているのである。無論戦車の主砲ごときでは八岐大蛇の鎧は貫通できず熱線の薙ぎ払いにより戦車部隊は壊滅した。続いて戦闘ヘリ部隊によるミサイル飽和攻撃、機銃掃射が行われた。結果は効果なし。熱線により一機ずつヘリは両断された。


「さあ出し惜しみは無しだ。もっと寄越せ!我(オレ)を倒すのだろう?」


東からナパーム弾を搭載したF-4が接近し八岐大蛇がいる場所に対してナパーム爆撃を行った。しかしこれも効果なし。はるか上空、B-2爆撃機が接近し絨毯爆撃を行ったがこれも効果なし。B-2爆撃機も同様に熱線で両断された。ナパーム爆撃を行った機体とは別のF-4が八岐大蛇から100m付近に爆弾を投下しすぐさま離脱した。その爆弾は起爆するや否やサリンガスが八岐大蛇を包み込む。八岐大蛇はサリンガスの中で軽度の頭痛とめまいを引き起こしている。無論人間であれば即座に倒れ死亡している。


「これは酒?いや違うな、毒だ。なるほど、我(オレ)の時代では食べ物に混ぜる、武器に塗る、川に流すなどが主な使い方だったが、人類も考えたものだな...だが...」


先程まで頭を押さえていた大蛇は手を降ろす。完全にサリンガスに適応したのだ。


箱根山の木々の中、指向性エネルギー派照射型害獣駆除用狙撃銃を持ったスナイパーと観測手がいた。二人はこのチャンスを逃すまいと照準を合わせトリガーを引いた。


「お?」


大蛇の身体が内部の水蒸気爆発に耐えきれず爆発するかに思われたが、膨張後元の身体に戻っていった。


「外からの攻撃が駄目なら内側から膨らませる。良い試みではある」


大蛇は指向性エネルギー派照射型害獣駆除用狙撃銃の仕組みを解析し、逆に尻尾から掃射してみせる。八岐大蛇のエネルギー派を受けたスナイパーは直ちに肉体が膨れ上がりそして水蒸気爆発を引き起こす。


「我(オレ)が相手じゃなければな」


沼津から上陸したTOS-1は八岐大蛇に向けてサーモバリック弾頭ロケット弾を数発撃ち込む。大蛇の周辺に着弾したロケット弾はそのままサーモバリック爆薬を起爆させる。八岐大蛇は爆炎に包まれる。


「先程の炎とは違うな...周囲の空気を糧とし燃焼を促進させているのか」


閉鎖空間ではないにしろ、サーモバリック爆薬の爆発を喰らってもなお八岐大蛇は余裕をかましていた。


連合軍は最後の手段をとる。太平洋にて待機していた米国の潜水艦から一発のミサイルが射出された。ミサイルは極超音速で飛行し東富士演習場へと向かう。極超音速ミサイルを目でとらえた八岐大蛇は呟く。


「ほう、次はどんなものを見せてくれるんだ?」


大蛇がそう呟いた瞬間、ミサイルは爆発し辺り一帯が閃光と熱に包まれる。核爆弾だ。核による炎は演習場だけでなく周囲の街、森、山などを諸共吹き飛ばす。核の炎が一通り破壊しつくした後きのこ雲ができ終わりを迎える。数分後地面の中から八岐大蛇が起き上がってくる。八岐大蛇は全身に金属の鎧を纏っている。


「小さき太陽か!すばらしい!我(オレ)ですら鎧を纏っていなければ危ういところだった!いい!いいぞ!他にはどんな手でくる!どんな手段で我(オレ)を殺しに来る!?」


大蛇は歓喜のあまり空へと問いかけるが何も反応はない。十分、二十分経過しても何も起こらない。


「なんだ、つまらぬ。やはり人類は滅ぼすべきだな」






「同じ目に遭ってしまえ」


俺たちとガヴェイルシグマが戦っている間、そんな声が聞こえたんだ。誰の声かわからなかったが今ならわかる。あれは俺の心の声だ。


父親を自らの手で殺し、カエデを殺した俺と同じ目に遭ってほしいと。罪悪に苛まれてほしいと。


けれどお前は乗り越えてみせた。父親を殺したってのにケロッとしてやがる。


なんだろな。きっとお前ならこの状況も何とかしてみせると、上手くアオイを救い出して世界も滅亡から救ってみせると。そんな予感がする。



    そうはさせねえよ。



お前をここで足止めしてアオイを連合軍に殺させる。アオイを喪わせてナオキ(おまえ)を俺と同じ場所に引き摺り降ろしてやる。


俺は斬りかかってくるナオキの短剣を受け流す。ドラウプニルのリープロギアは武装がなかったため短剣を避ける必要があったがこのガヴェイルアルファはアームカッター、フットカッターがそれぞれ前腕部、ふくらはぎにかけて生えており斬撃を受け止めることが可能となっている。俺はナオキの短剣を受け流した後即座に手刀のポーズで腕を振るう。ナオキは咄嗟に短剣でガードする。このアームカッターはそれなりに切れ味が凄まじくそこらに生えている木であれば一発腕を振るうだけで切断できる。ナオキのリープロギアとてそれは変わらない。ナオキが防御するのは当然だ。ナオキが斬りかかり俺が防御する、逆に俺が斬りかかりナオキが防御する。どちらも決め手がないため延々と続いていく。だが、これでいい。俺の目的は時間稼ぎなのだから。ナオキが俺に斬りかかる。すかさずアームカッターで受け止める。ナオキが俺に話しかける。


「目を覚ましてください!こんなことして何の意味があるんですか!」


「目が覚めてるからこんなことしてんだろうが!」


俺はナオキを押し返しすぐさまフットカッターでの後掃腿でナオキの足を狙う。ナオキは後退したため態勢を変えアームカッターで斬りかかる。


「それに意味ならあるぜ」


「どんな!」


「正義だ!」


俺はアームカッターで短剣を思い切り押しのける。短剣は切断されナオキは後退しすぐに新たな短剣を形成する。


「怪物(いぶきあおい)が多くの人間を殺そうとしている。みんながあの怪物を怖がっているんだ。だから俺は正義の味方になって怪物を殺す。そんだけだ」


ナオキは大きくため息をついた後吐き捨てるようにこう言った。


「...アンタには"""自分"""ってのが無いのか?」


「...何?」


癪に障る言い方だな。


「正義の味方は他人の顔色を窺って戦う風見鶏しかいないのかって聞いてんだよ」


「...へぇ~結構なちくちく言葉を言ってくれるじゃんか」


俺は諭すようにナオキに語り掛ける。


「それに大事なことだぜ?長い物には巻かれろ、最大多数の最大幸福。正義の味方ってのはそういうモンだ」


そうだ。


クラスで空気の読めないヤツはいじめて矯正してやればいい。

調子こいてる移民も迫害して追い出しちまえばいい。


ああ、日本に産まれて良かったよ。

美しい国日本。

陰湿村社会(クールジャパン)最高!


準備運動は終わりだ。俺は踏み込んだ後一気にナオキのいる前方へ跳躍する。ナオキを目の前に捉え拳のラッシュを叩き込む。


「これが陰湿村社会(クールジャパン)だああああああああああああああッ!!!!!!!!!」


ナオキは防御することしかできない。


「今までアームカッターとフットカッターの二つしか使わなかったのはガヴェイルアルファの性能を確かめるためだ!そして今から!全力でお前を叩きのめす!」


実はガヴェイルアルファとドラウプニルのリープロギアの性能はさほど変わらない。ただアームカッターがついていることが防御で役に立つくらいだ。俺は樹海の中でナオキを翻弄する。ナオキを嬲り続けて数分後、ナオキは耳の通信端末に耳を傾ける。八千代スバルと通話しているのだろうか?


「戦いに集中せんか!」


後ろから殴りかかろうとしたところで俺は横からの衝撃によって吹き飛ばされた。





目を開けると、異様な光景が広がっていた。同一方向になぎ倒される木々たち。燃え行く草花。一部赤熱した地面。


大規模な爆発か?俺は気がなぎ倒された方向とは逆の、恐らく爆心地であろう方向へと向かった。


数分後、開けた場所へと出る。そこには丸裸にされた山、倒壊した建物、焼ける木々、そして異様な熱気が立ち込めていた。


「なんだよこれ...」


核だ。直感で理解した。八岐大蛇の討伐で核が使われたんだ。たった一匹の怪物を排除するために核が使われたんだ。


その瞬間、あの記憶が脳裏に過(よ)ぎる。俺の呼吸は早くなる。

12年前の震災で、土砂崩れを起こした山の斜面、倒壊した俺の家、俺を責める家族の幻影、呼吸はだんだんと早くなる。


「アンタが何がしたいんだよッ!加藤ユウジッ!」


ナオキが俺を責め立てる。


「...俺は...」


俺は助けられなかった。


父親も、母親も、弟も、そしてカエデも。


「..俺はぁっ....」


俺は悪くない。


俺が救助されたときにはみんな死んでたって!

どうしようもなかったんだよ!


カエデだって、あの時殺さないと多くの人が犠牲になってた!

だから殺すしかなかった!


遠野カエデの幻が現れる。カエデが俺を睨みつける。


その眼差しは、俺の存在を許さないと、まるで楔のように、俺を罪悪で貫き通す。


   「あなたが私を殺したんでしょ?逃げないでよ、加藤ユウジ(ヒトゴロシ)」


「俺はあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」


俺の叫びを遮るように、心臓に何かが突き刺さった。



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