16.神化
西園寺司令はそのまま人命救助を継続し、僕たちは三鷹に突如として現れた巨大な光の柱の元へと向かう。ビルの屋上を跳ねていくこと5分。光柱のふもとへたどり着くと柱の中で宙に浮いている人物がいた。
「ジャンヌか?」
その人物は自身の身体に光を纏い、まるで神を思わせるかのように神々しさを放っていた。
「ん?装者どもか。そうか、マヒロは敗れてしまったか...」
ジャンヌはそう呟くと浮いた状態から徐々に降下してくる。地面に足をつけると同時に光の柱は消失した。
「伝言役の次は神様の成りきり界隈に入ったんすか?」
「いや、神そのものだよ」
ユウジさんはからかうもののジャンヌにあっさりと否定される。
「詳細は省かせてもらうが私は神に成った。君たちではもう止められない」
「説明するのが面倒とかじゃないだろうな?」
ジャンヌの言葉にアオイさんが言葉を返す。
「フッ、それもある。だが、これから意識を奪われる君たちには話しても無駄だと思ったのが一番の理由だ」
やはり意識の剥奪が目的か。僕は短剣の破片をジャンヌに気付かれないように木の葉の中へと紛れ込ませる。シグマの時と同じ戦法で破片を成長させ急襲させるのが目的だ。
「これから三鷹八満大神社を基点とし、世界に術式を張り巡らせる!術式はここから霊脈を通り日本全土、やがては世界を覆いつくす!そこから全人類の意識の剥奪を施行する!喜べ、誰も為し得なかった世界平和が実現する!」
ん?どういうことだ?なんで全人類の意識を奪うことが世界平和へと繋がるんだ?これも「猿の手」てきな感じの話か?
「お聞きしたいんですけどどうして全人類の意識を剥奪すると世界平和になるんですか?」
普通に質問してしまった。
「良い質問だ。実は意識を剥奪した後には続きがある。意識が消失した空っぽの身体に新たな人格を植え付ける」
「新たな人格?」
アオイさんが聞き返す。
「ああ、常に「合理的・協調的・平和的な選択を取ることができる」人格だ。私が造り上げたこの人格を全人類の器に植え付ける。そして新人類が誕生し世界は平和となる」
「回りくどすぎませんかねえ...」
ユウジさんの言う通り、わざわざこんな面倒な方法を取る理由がわからない。
「人間は醜悪だ。それは歴史が証明している。いつまでも学習しない、獣と同じだ。だが私は愛してみせよう。その醜悪さも愛してみせよう」
「なんだこいつ...」
本当になんだこいつ。ジャンヌ・ダルクは異端審問にかけられ処刑された。人間を憎んでいるものと思っていたが。
「エネルギーとなった旧人類の意識は私の元で管理する。最高だろ?」
「調子乗んなよ上位者気取り!」
アオイさんの宣言と共に僕たちは武器を構える。
「仕方あるまい、ジル」
「承知」
ジルは右手に剣を持ち左手には魔導書らしきものを構える。
数秒の沈黙の後、僕たちとジャンヌとの対決が始まった。
僕とアオイさんがジャンヌ、ユウジさんがジルといった形で分断する。
アオイさんの尻尾の先端から熱線がジャンヌに目掛けて掃射される。ジャンヌは光の粒子を集束させ熱線を防ぐ。
「力比べといこうか」
ジャンヌはそう呟くと集束させた光の粒子で熱線を押し返す。ビームとなった光の粒子はアオイさんの尻尾を掠める。
「こいつ!強い!」
「単純なエネルギー量が違うんだよ。今の私は太陽と同等のエネルギー量を持っている」
「太陽?」
ジャンヌは周囲に散らばせておいた光の粒子を自身の頭上へと集め始める。
「私の体内の中で核融合を起こしている。そういう生命体となったのだよ」
ジャンヌは天に向けて指を差す。空中で集めていた光の粒子を圧縮し一つの巨大な光球を生み出す。
「だからこんなこともできる」
光球を圧縮しその中から一筋のビームをアオイさんに向けて放つ。アオイさんは全身に八岐大蛇の金属をまといビームを防ぐ。
「ぐぅぅぅぅぅ!」
そんなアオイさんをよそにジャンヌはビームを掃射し続ける。
「八岐大蛇の鎧だったか?ツングースカの威力でも防げるだろうが、中の人間はどこまで熱に耐えきれるかな?」
「させるか!」
僕はあらかじめ森の中に隠していた剣の破片を成長させる。成長させた短剣を回転させジャンヌの背後から接近させる。勢いづいた短剣はそのままジャンヌの首を刎ねる。
「おっ」
巨大な光球は小さな光の粒子となりてまたしても散らばりビームも消失する。
「大丈夫ですか!」
僕はアオイさんの方へ声をかける。
「大丈夫、整った」
「いやはや驚いたよ、完全に予想外だ」
ジャンヌの生首が言葉を話す。。
「いや、予想する必要すらなかったか」
ジャンヌの切断された頭部が元の位置に戻り何事もなかったかのように振舞う
「今の私にとっては些事に過ぎない。大人しく意識の剥奪化を受け入れよ」
僕たちとジャンヌの戦いは再開された。
少し離れた地点で加藤ユウジとジルの戦いが繰り広げられていた。ジルは魔導書から魔物を召喚し使役する。そしてジル自身は剣を用いて加藤ユウジに迫る。加藤ユウジはジルの剣技を躱しつつ魔物を徒手によって駆除していく。
「なかなかやるな、普通の騎士であれば怯えて戦意喪失してしまうというのに」
「あいにくこちらは怪異駆除の専門家なんでな」
「なるほど、ならばコトリバコの怪人を駆除したのも道理ではあるな」
「...」
ジルの煽りに加藤ユウジは黙り込んでしまう。
「なあ?俺と手を組まないか?パレイーズ結社とではなく俺と手を組むんだ」
「断る、怪異を生み出すお前も駆除対象だ」
加藤ユウジは即答する。
「理由ぐらいは聞いてほしいなあ?あのジャンヌを殺してほしいんだ」
「どういうことだ?」
加藤ユウジは困惑する。
「お前たちも予想はできていると思うがあれは本物のジャンヌ・ダルクではない。俺がホムンクルスに「ジャンヌ様を模した性格」を植え付けた人形だ」
「なんでそんなことを」
ユウジは純粋な疑問が浮かび質問する。
「業火に焼かれたジャンヌ様は、逆に民草を虐殺していただきたいと思った。復讐を成し遂げるジャンヌ様こそ真に美しいものだと俺は思った。だが、なんだアレは?人間を愛しているだと?」
ジルは少し俯いたかと思えば突如として叫び出す。
「無知蒙昧な愚民どもに殺されたというのに!!!!!!辱められ処刑されたというのに!!!!!!そんな愚民どもをジャンヌ様が愛するわけないだろ!!!!!!!!!」
ジルは一通り叫んだあと肩を上下にさせながら呼吸をする。
「失礼、つい声を荒げてしまった。つまりだ、今風に言うと解釈違いなわけだ」
「だから殺すのか?」
「ああ、また新しく造ればいいからな」
「自分で殺れよ」
「それができないから困ってるんだろ?アレは神に成ってしまったのだから」
ジルは肩をすくめてユウジに言葉を返した。
「なら俺たちにも無理だ。なんせ神に成っちまったんだから」
「いいやできるお前たちならやれるそんな気がする」
ジルは即答する。
「気がするって...」
「それにな、お前も望んでいるんじゃないのか?」
「何をだ?」
「ジャンヌ様がこの世界を業火で焼き尽くすところを」
「興味ないね」
ジルは少しタメて言葉を発する。
「遠野カエデが生きられない世界なんて本当に必要か?」
ユウジはすぐに反論できなかった。
脳内で、言葉を繋いで、必死に文を作り出す。
沈黙は永久に似て、刹那に終わる。
「俺は、遠野カエデを殺して英雄になったんだ。だからもう戻れない」
「そうか...じゃあ、理想に殉じて死んでくれ英雄さん」
ヒーローとヴィランの戦闘は再開された。
「クソ!キリがない!」
アオイとナオキは肩を揺らしながら呼吸をする。
「どうした?その程度かリープロギア装者」
宙に浮いたジャンヌは余裕の態度で二人に声をかける。
「ナオくんこいつをどう攻略するよ?」
「正直お手上げです」
二人が会話していると加藤ユウジが吹き飛んできた。加藤ユウジは即座に起き上がる。
「ユウくん!?」
二人が驚いていると情報からジャンヌの声がする。
「君たちを管理してやれないのは不義理ではあるが許してほしい」
ジャンヌは上空に巨大な光球を作り出す。
「ならばせめて、苦しまぬよう一瞬で滅してあげよう」
巨大な光球は装者3人に向けて投げつけられる。その光球は地面に着弾した瞬間、核爆発を引き起こす。
ナオキたちは核の炎に包まれた。
「装者と言えど格のエネルギーには耐えられまい」
核爆発にて生じる光の半球を眺めるジャンヌ。しかし半球の中から突如として熱線が放たれる。ジャンヌは反応できず右腕を吹き飛ばされてしまう。
「なにっ!?」
畳みかけるように数本のソードビットがジャンヌに突き刺さる。追撃に飛来してきた何者かに蹴りを喰らい吹き飛ばされる。地面へと叩きつけられたジャンヌは空を見上げる。視線の先には光を纏い大きな翼を生やした。
「え?なんですかこれ!」
「出力が上がっている?」
「なんでか空も飛べてますよ姐さん!」
装者三人は宙に浮いた状態で困惑している。
「この音声を聞いているということは世界に危機に瀕していることだろう」
怪異対策機動本部のオペレータールームにあるモニターに一人の男が映し出される。
「平野ゲンジュウロウ!?」
「平野元主任が何故?」
西園寺司令と八千代スバルも同様に困惑する。
「この映像はリープロギアのペンダントから装者、オペレータールーム、そしてリープロギアの周囲にいる人物に向けて発信している」
「平野ゲンジュウロウ、リープロギアを作った男...」
ジャンヌは音声を聞きながらそう呟く。映像に写っている平野という男は
「初めまして。わたしは平野ゲンジュウロウ、いや、それは仮の名だ。わたしの真の名はフィラネー。人類の「生きたい」という集合的無意識が産み出した存在だよ」
「集合的無意識だと...」
「平野ではなくフィラネー?」
司令とスバルの困惑をよそにフィラネーは話を続ける。
「私がなぜ今になってこうして現れたか、それは人類が滅亡の危機に陥っているからだ」
「フィラネーさんはジャンヌのことを知っていたのか...」
まるでナオキのその質問を予想していたかのようにフィラネーは語りだす。
「人類がどのようにして滅亡するのかはわからない。だが、人類の生存本能が私を遣わしたのだ」
「生存本能ねぇ...どこまで行っても自分勝手で醜いやつらだ」
「私はリープロギアにある仕掛けを施した、「三つのリープロギアが揃い」かつ「人類が滅亡する可能性のある事象」に相対したときに発動する機能。その名もEXDモード」
「自己証明濃度・極限低下とはまた違った機能だ」
「基本的なスペックの大幅向上に加え、常時飛行可能、そしてなによりリープロギアのEXDモードが持つ最大の特徴、それは...」
フィラネーの映像に耳を傾けている全員が息を呑む。
「EXDモードを発動している間は倒した怪異の能力を使うことができることだ」
「倒した怪異の能力を無負荷で発動できるのか!」
八千代スバルが驚愕する。
「倒した怪異の戦技や能力を自身にリプロダクトさせ戦う。即ち、「戦技継承リープロギア」である」
「おお」
「とんでもないズルだと思うかもしれないが「主人公補正」のようなものだと思ってほしい。さて、リープロギア装者の三人よ。君たちの手で、どうか人類を滅亡から救ってほしい」
平野が録画した映像はそこで終了した。
「そういうわけだ!こっからは俺らのターンだ!」
「邪魔をするなよ装者!人類が求めた世界平和が!遠き理想郷へと辿り着くことができると言っているんだぞ!」
ジャンヌは必死に僕たちに説得を試みる。しかし僕の中で答えは既に出ていた。
「確かに、あなたの人類の意識の剥奪は素晴らしいと思います」
「だったら!」
「でも、それだと、大切な人と喜ぶことも悲しむこともできない」
「それは仕方のないことだ。人類が憎しみあい、殺し合って無駄な命を散らすことの方が忌むべきことだ」
だろうな。そう返されると思った。その返しをされてしまえば何も言い返せない。普通なら。
「だから、どうでもいいんです」
一瞬場が凍り付いたようなそんな気がした。
「は?」
ジャンヌは苛立ちを覚えているようだ。無理もない。
「地球の裏側でどんな酷い戦争が起きていようとお隣の国で子供が飢えようとしても関係ない。僕は自分たちの周りの人たちが幸せならそれでいい」
「...ナオくんさいてー」
「え”?」
「今の言葉でジャンヌ側に寝返ろうかと思ったぞ」
「え"?」
アオイさんとユウジさんから軽蔑の目で見られながら罵られる。もしかして俺、また何かやっちゃいました?というのはさておき我ながら最低な発言だったと思う。
「でも、大方同意かも。最低だけど」
「俺も木村の味方だぜ。最低だけど」
泣きました。僕は最低野郎です。
「それに、人類の大多数がアンタのハーモニー計画に拒否したんだ、なら潰すしかないだろ」
ジャンヌの顔がだんだんと憤怒の顔を出力する。人間ってあんな顔が出来るんだな。
「その愚かな利己主義の極み!!!!!万死に値する!!!!!!」
「ワガママになろうぜ!君の人生☆」
アオイさんの何かのセリフに引用を合図に戦いが始まった。
ユウジさんが魔眼の能力によりジャンヌを固定化する。次いでコトリバコの怪人の能力、触手で引き寄せ怪力による拳を直撃させジャンヌを吹き飛ばす。
「ナメた真似をっ!」
僕は口裂け女の走力でジャンヌ元へと迫り妖刀-参式-で右腕を斬り落とす。続いてアオイはメリーさん能力によりジャンヌの背後へと瞬間移動し引っ掻きによりジャンヌを吹き飛ばす。
「猪口才なっ!」
ジャンヌはアオイさんの引っ掻き攻撃によってつけられた傷を再生する。しかし参式で傷付けられた右腕は再生していない。妖刀-参式-は魂をも斬ることができる。魂を斬られた者は形を定義づけられそれ以上の再生ができなくなる。
「ナオくん!その妖刀は鍵だ!」
「トドメはナオキに任せた!」
「了解!」
僕はリンフォンに能力により地獄の門を開き亡者たちによって物量で攻める。ユウジさんは別の魔眼を発動させる。
「ザラルニヤッ!」
ユウジさんはジャンヌの心臓を握りつぶす。アオイさんはテケテケの能力に上半身と下半身を分断する。ジャンヌは自身の身体を光の粒子状にして逃走を試みる。僕とユウジさんはそれぞれクネクネの能力で精神異常化、そして魔眼の能力で固定化させる。僕はEXDの飛行能力で一気に間合いを詰める。
力を貸してくれ、ガヴェイルシグマッ!
「───瞬撃の軌跡を識れ」
僕は妖刀-参式-の柄を強く握る。それに呼応するかのように参式の刃が白色から紅へと変化する。
「喰らいつくは不可避の衝動ッ!」
ナオキによって繰り出される必殺技。防御不可、再生不可の斬撃を超速により回避不能レベルのスピードまであげる。その連撃はまさに必殺と言っても過言ではない。紅の斬撃はなんどもジャンヌへと襲い掛かる。
15秒経過しナオキが攻撃を止めたころにはジャンヌの身体はただの細切れになっていた。
「私の手を取らなかったことを覚えておくがいいッ!近い未来きっと後悔する時がやってくるだろうッ!私は楽しみにしているぞッ!お前たちが絶望へと叩き込まれるその時をッ!クク!フハハハハハハハ!」
ジャンヌの言葉はそのまま途切れてゆきジャンヌを構成していた光の粒子も輝きを失いどこかへと霧散してしまった。
「お前たち!ジャンヌは討伐された!全人類の意識の剥奪も阻止できたんだ!」
西園寺司令からの通信が入る。タイミングを見計らったかのようにEXDが解除され飛行能力を失う。地面へ落下するものの上手く着地する。
「そっか、僕たち。倒せたんだね」
一人の男が路地裏を走っている。
「ハァ...ハァ...あれは反則だろ...倒せるわけがない」
ジルであった。装者たちがEXDモードになった途端勝てないと判断しジャンヌを置いて撤退したのだ。
「だが!これは好都合だ!あのジャンヌを装者どもに殺させて俺は新たにジャンヌを造り出す!理想のジャンヌダるっ」
ジルは何者かに背後から吹き飛ばされ地面を転がっていく。即座に体勢を立て直そうとするも立ち上がれなくなっていた。腹部に大きな穴が空いていたからだ。顔を見上げるとそこには青色の人影が立っていた。
「なんでお前がここ」
その人影はジルが喋り終わる前に首を刎ねた。その人影はガヴェイルネオに変身した遠野カエデであった。装者三人に駆除された後は霊として加藤ユウジに取り憑いていた。そしてEXDの影響により一時的に実体を得ることができたのだ。
「ごめんなさい、急いでいるので」
カエデは首を刎ねたあとでそう呟く。それと同時に遠野カエデの身体は実体から霊体へと瞬時に変化した。実体としていられるのはEXDモードを起動している間だけである。
「良かった、ジャンヌも倒せたみたいですね」
遠野カエデは最愛の加藤ユウジの元へと戻っていったのであった。




