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15.リンフォン

パレイーズ結社の日本支部にてジャンヌとジル、そして一人の男が話をしている。


「急に呼び立ててすまない」


「いえ、大丈夫ですよ。それよりもご用件とは?」


ジャンヌは一呼吸置いた後その男に話を続ける。


「2030年9月13日、三鷹八満大神社にて、大規模作戦を敢行する」


「例の「全人類からの意識の剥奪」ですか?」


「そうだ。人類が成しうることができなかった世界平和だ」


ジャンヌの「全人類意識剥奪化作戦、調和(ハーモニー)作戦は結社の中においてもごく一部の人間しか知りえない情報だ。元々の秘密結社から過激派だけを抽出し統率したのだ。そんな淀みの中で「世界平和」を唱えれば反発されるのが目に見えている。ジャンヌはハーモニー作戦を確実に実行するために不安要素を発生させまいと考えたのだ。


「この作戦は絶対に完遂させたい。だから、陽動を頼めるか」


「御意、ジャンヌ様のご用命であればこの天川マヒロ。命をも差し出しましょう」


「すまない。君には死んでもらうこととなる」


天川マヒロは体内にリンフォンを埋め込まれた融合体。リンフォンの融合によって死にゆく身体となっているのだ。リンフォンの力を使い融合を進ませる。リープロギア装者によって討伐される。どちらにせよ彼は死にゆく運命にあるのである。


「構いません。もう永くない命ですから」


マヒロは地図を広げ都内のある場所を指差す。


「場所は渋谷で問題ありませんか?」


「問題ない。派手にやってくれ」


「承知しました。ですがよろしいのですか?」


マヒロはジャンヌの回答を聞く前に続ける。


「世界が調和(ハーモニー)で包まれるより先に、この世を地獄(てんごく)へと塗り替えてしまうかもしれませんよ?」







僕はとある家庭の宗教2世として生まれた。世界三大宗教の分派。この宗教は「神の使いとなった天使(しんじゃ)が人々を救済する」ことを教えとして活動していた。大層ご立派な教義を掲げてはいるが、晩年では様々な問題を起こし物議を醸していた。


「あなたは素晴らしい子。人々を救う立派な天使になって神様に仕えるのよ」


「お前は私たちの自慢の子だ!必ず神の役に立てるだろう」


僕の両親はどちらも熱心な狂信者だった。


「はい!ぼくはてんしになって、かみしゃまのおやくにたちます!」


無論、嘘。だが、力なき子供では、この言葉が正解である。自分の主張を通そうとしたところで毒親に何をされるかわからない。最悪暴行を加えられ殺されるかもしれない。結局のところ、従順にしておくのが一番だと、4歳の子供ながらに理解していた。






「マヒロくんには悪魔が憑いています」


6歳の頃、神父から家族3人にそう告げられた。しかし、自分や自分の周りにこれといった異常は起きていなかった。


「このままではマヒロくんは数日で死んでしまいます」


「そんな...」


「神父様、お願いします!我が子を、マヒロを助けてください!この子はまだ神の役に立てずに終わってしまいます!そうしたら、私たちは何のために...」


子供を作ったのか?そう、心配事は僕の生死ではなかった。僕が神の役に立てないことを心配していた。最初から愛情なんて注がれていなかった。見ていたのは、教義に従順な道具としての僕。


「大丈夫です。私がマヒロくんに憑いている悪魔を払ってみせましょう」


「おお、ありがとうございます!神父様」


先ほどとは違い父親の声は上ずっていた。


「これからも信心に励んでくださいね。それじゃあ行こうか、マヒロくん」


僕は神父に手を引かれ教会の一室へと連れていかれた。





「私は神から祝福を受けている。君の身体に憑いた悪魔を払うことができる」


神父はそう言いながら部屋の鍵を閉めた。


「私の言う通りにすれば大丈夫、痛くても我慢するんだよ」


「はい、神父様」


感情を殺せ。唇同士が触れ合う。かさついている。感情を殺せ。舌が口の中に入ってくる。口の中に残留していたタバコの匂いで咽そうになる。気持ち悪い。感情を殺せ。ベタベタした手で触られる。顔を、首を、手を、脛を、二の腕を、太ももを、乳首を、股を、お尻を、穴を。気持ち悪い気持ち悪い。感情を殺せ。いろいろな場所を舌で舐められる。お腹を、首を、乳首を、棒を、穴を。気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い。涙が出てくる。胃の中身が吐瀉物になろうと食道を逆流してくる。頑張って堪えた。感情を殺せ。


「これをしゃぶってくれるかい?飴を舐めるように」


大きく反り返った神父様のソレを、舐めて、咥えて、頬張る。顎が外れそうになる。先端で喉奥に触れられる。胃の内容物がこみ上げる。何とかして押しとどめる。気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い。感情を殺せ。


「今から口の中に聖なる液を注ぎます。悪魔の嫌がる神聖な液体です、しっかりと飲み込みなさい」


神父様は捲し立てるように言った。神父様のソレの先端から粘性の高い液体が口の中に注がれた。変なアルカリ性の匂い。頑張って飲み込もうとする。痰のように喉に絡みつく。気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い。感情を殺せ。


「よく出来ました。では、仕上げに入りましょう。四つん這いになってお尻をこちらに突き出しなさい」


僕は従順になって体勢を変える。

穴に指を入れられる。ほぐすように内側から押される。感じたことない痛みで声が出る。涙があふれ出る。鼻水も出てくる。気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い。感情を殺せ。


「痛いですか?ですがこの後の方がもっと痛いです。それでも我慢するように。悪魔を払うためですから」


神父様は指を引き抜く、そして神父様の反り返ったものを穴に入れようとしてくる。穴はソレによって無理やり広げられる。あまりの痛さに僕は声にならない悲鳴を上げる。根元まで入る。初めてを奪われる。


「良く引き締まっていますね、それでは動きます」


神父の腰が素早く前後する。連動して神父様のモノも前後して僕の内壁が擦れる。内壁は熱を帯びる。気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い。感情を殺せ。


「あー出る出る出る!しっかりと受け止めなさい!」


神父様は僕のお尻に腰を密着させる。穴の中で神父様のモノが脈打つ。しばらくその体勢を維持した後、ゆっくりと神父様のモノが引き抜かれる。気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い。感情を殺せ。


「ふう、我慢出来て偉いですよまひろくん。今日は帰っていいですよ。それと、今日のことはマヒロくんと私との秘密だよ。他の人には決しては言わないように、決してね」


神父は念押しにそう言ってくる。


「はい、わかりました」


ここで反抗すればどうなるかなんて目に見えている。だからこう返答するのが一番だ。力のない人間は感情を殺して従順に。それがこの世の摂理だ。


「それと、君に憑いている悪魔だが、完全に祓うことができなかった。だから週1回ここで今日の儀式を行います。最低でも6年は掛かるでしょう。いいですね?」


ああ、この世は地獄だ。





15歳の頃、転機が訪れた。


「マヒロ、あなたに朗報よ!リンフォンの融合体の候補者にあなたが選ばれたの!良かったわね!」


「良かったなマヒロ!融合体になって多くの人を救う天使になりなさい」


リンフォン。そう、呪具のリンフォンである。正20面体の置物であり変形させることで能力を発揮していくものだ。また、リンフォンは「極小サイズの地獄、地獄の門」と称されている。「神を信仰し天使となって人々を救う宗教」が地獄の門を扱うというのはチャンチャラおかしな話だが、もはや考えたところで意味がない。宗教とはそういうもんだ。融合体というのは、呪具や聖遺物を体内に埋め込み一定の融合深度に到達した人間を指す。全くもって倫理観皆無の実験に、親は勝手に僕を立候補した、僕の承諾も得ずに。だが、今更嘆いたところでこの結果はわかりきっていた。拒否はできない。そしたら最後、狂信者に排除されるのは目に見えている。感情を殺せ、従順であれ。




融合体の候補者は僕だけではなかったらしい。

候補者は僕を含め十人。融合体が完成する確率はほぼ皆無であり87%が手術後に死亡、10%が身体に後遺症、そして3%が五体無事であるものの能力が解放できずに融合が進行し死亡。この宗教団体では未だ融合体を輩出できていない。候補者と言えば聞こえはいいが当人たちからすれば「死刑台に赴く死刑囚」そのものである。候補者の中に以前から仲良くしていた友人がいた。志音ルウク。僕と同じ宗教2世で神父に辱められていて今回融合体の候補者として勝手に親に推薦されたなど共通点が多い友人だ。たるととは気の許せる唯一の友人だと思っていた。


「ルウクはね、リンフォン融合体の候補者に選ばれて幸せだよ。もしリンフォン融合体になれればすごい力が使えるんだよ?たるとはその力で神様の役に立ちたい。ルウクが生まれた意味って多分そういうことだから」


手遅れだった。ルウクはもう洗脳されていた。人々を救って神の役に立つ。本気でそれが正しいと思っている。そんなものが正しいわけがない。だから僕はルウクを救いたい。でもどうやって?どうしたらルウクをこの場所から救い出せる?わからない、わからない、わからない。

僕は、何も思いつかなかった。


「必ず生きて帰って神様の役に立つんだぞ」


父親らしきソレはこの期に及んで当の息子に対しての愛など皆無であり、息子という名の信者が神の役に立つことを望んでいる。軽蔑を通り越して尊敬だな。神の役に立つ気などさらさらない。もし神がいても、不幸な自分を救ってくれない時点で、そんなやつを信仰する義理はない。むしろ殺してやりたいぐらいだ。何度も、何度も、何度も。僕が苦しんだ分、報いを受けさせたい。出来たらの話だけど。


「注射をします。数十秒で意識がなくなります」


そう言って腕に注射を打たれる。意識がなくなったら僕の腹は裂かれ、そこにリンフォンが埋め込まれる。87%の確率で死ぬ。正直、現実は地獄だからここらで死んだ方が幸福なのかもしれないな。僕は失敗することを期待する。そして僕の意識は遠のいていった。



瞼を開ける。さっき見た天井だ。ああ、そっか。死ねなかったんだな。現実(じごく)から解放されたかったのに。身体を起こしてみる。普通に動く。右手左手。右足左足。首。指などの末端も動く。目も鼻も口も表情筋も問題なく。死亡でも後遺症でもなし、となると能力が開花せずに死亡ってところかな。試しに手を目の前に翳してみる。何も起きない。だが、脳裏にかすかにリンフォンが映し出される。もしかして脳内で変形させろってことか?脳内イメージのリンフォンを初期状態から一部変形させる。その瞬間、床が赤く光り、たくさんの手が床から伸びてきた。


「ヤバイ!」


僕は慌てて脳内のリンフォンを戻す。床は発光をやめ伸びていた手も消えていた。


「今のは、幻覚じゃない...よな?」


右手に違和感を覚える。恐る恐るみてみると右手が熊の手に変わっていたのだ。慌てて元に戻そうとする。幸いすぐに人間の手に戻る。良かった、他の人にばれたら絶対にこき使われる。また感情を殺して我慢する現実(じごく)に戻る。そんなのは嫌だ。僕は役立たずになって廃棄されたいんだ。


「リンフォンの能力が使えるんだね、マヒロ」


血の気が引く音がした。声のした方を見る。ドアにはルウクが無垢な笑顔で立っていた。





「初のリンフォン融合体となったマヒロくんに祝福を!」


ホールに集められ、僕は壇上に立たされた。リンフォンの能力が使える初の融合体を目にして他の信者は歓喜に包まれていた。


「素晴らしい!神がかりだ!奇跡だ!」


「良かった!私も報われる!」


「これまで融合体になれず死んでいった者たちはただの犠牲ではなかった!」


「これでもっと多くの人が救われる!」


壇上から眺めた光景はおぞましかった。こんなにたくさんいる信者の中には、僕以上に不幸な者だっているだろうに。それを現実(じごく)から抜け出そうとせず、変えようとせずにただ思考停止で信心している。頑張って我慢したところで必ずしも報われるなんて保証はないのに。僕はそれが昔の自分と重なって見えて。不憫に思えて、そして現実(じごく)から抜け出して救われてほしいと思った。



「人々を救う立派な天使になって神様に仕えるのよ」



ああ、そうか。


だから僕なんだ。


僕が生き残ったんだ。


僕がリンフォン融合体になったんだ。




だから、殺した(すくった)


捻じった(すくった)潰した(すくった)千切った(すくった)燃やした(すくった)斬った(すくった)裂いた(すくった)抉った(すくった)穿った(すくった)殺した(すくった)


ホールの床が赤く発光し信者たちは無数の手によってさまざまな形で(すくわ)れる。


「いやああああああああああああああああああああ腕が!腕が!」


「なんだよこれは!」


「千切れる!千切れる!」


「やめて!私の赤ちゃんに手を出さないで!」


「アツいアツいアツいアツいアツいアツいアツいアツいアツいアツいアツいアツいアツいアツいアツいアツい」


「アハハハハハハハハハハ!骨がむき出しだ!痛いよおおおおおおおおおおおおおおお」


「ポコォ...ポコォ....」


「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」


すごい光景だ。阿鼻叫喚とはこのことを言うんだろう。しばらく眺めていると足に何かがしがみついてきた。それは下半身が潰れた母親らしきものだった。


「ごめんね...マヒロ...ごめんねぇ...」


別に僕は信者に恨みがあってこんなことをしているわけではない。だから謝られても困る。それに邪魔だし。とりあえず適当に蹴とばしておいた。ソレは無数の手によって床に沈んでいく。


「ごべん"ね"え"え"え"え"え"え"え"え"え"え"え"え"え"え"え"え"え"え"え"え"え"え"え"え"えマ"ヒ"ロ"お"お"お"お"お"お"お"お"お"お"お"お"お"お"お"お"お"お"お"お"お"」


うるさいなぁ。謝るくらいなら最初からするなよ。まあ、とりあえず現実(じごく)から抜け出せて良かったね。


「おいマヒロ!」


後ろから声がしたので振り向いた。そこにはルウクが立っていた。


「何やってんだよ!早くリンフォンの力でみんなを助けろよ!」


「何言ってんの?今みんなを救ってるじゃん」


「は?お前何言って...そういうことかよ化け物が!」


「だけど、ルウクは僕の手で殺して(すくって)あげたいな」


僕は病室でやった要領で全身を熊に変身させる。ルウクへと一気に距離を詰めて腹をぶち抜く。


「...お前は復讐するために...こんなことを...」


「それは違うよ、たしかにこの宗教での生活は地獄だったよ。でもそれは仕方なかったんでしょ?そうして僕や君のような不幸な人間が生まれる。それはかわいそうだなって思った。だからみんなを現実(じごく)から解放してあげようと思ってさ」


「何が救うだよ...狂人が...」


「僕は教義に従ったまでだよ。じゃあね、ルウク」


僕はルウクを放り捨てる。ルウクは無数の手によって地獄(てんごく)へと引きずり込まれていく。





たくさんの返り血で染まったホールの中、僕は立っていた。


「全員殺し(すくえ)たね」


僕を辱めた神父様も、僕をリンフォンの融合体(いけにえ)に差し出した両親も、狂信的なおばさんも、そこまで信心深くないお兄さんも、何も知らない赤子も、僕と同じリンフォンの融合体(いけにえ)に選ばれたルウクも、みんなみーんな殺して(すくって)あげた。でも、まだ駄目だ。もっともーっと殺して(すくって)あげないと。世界中のみんなを現実(じごく)から地獄(てんごく)に送ってあげないと。



───だって僕は、みんなを幸せにする神の使い、天使(マヒロ)なんだから。






ドールズ及びガヴェイルシグマを討伐してから数日が経過していた。


「カズハさんの葬儀、まだやらないんすね」


「まだ遺体に残留した呪いの除厭作業が完了していないからね」


あの後天海カズハさんは殉職し、その遺体の除厭(じょえん)作業、所謂呪いの除去作業が現在進行形で行われている。


「それも理由の一つなんでしょうけど宝条さんの身体もまだ完治してないことも関係してますよね」


宝条ヒトヨシさんは致死性の呪いをなんとか気合で耐え抜いたものの、呪いの影響により一部臓器の機能低下、そして失明といった症状が出ている。


「宝条さん、この後どうするんすかねぇ?」


ユウジさんの問いに僕は重ねる。


「復帰...は出来るんでしょうか?」


僕らの問いにアオイさんが答える。


「難しいと思う。義眼でも埋め込むって言うなら復帰は可能だと思うが...おそらく宝条さんはここで引退だと思う」


「婚約者が死んで自分も両目失明ですからね、よっぽどな理由がない限りは引退っすよね」


トレーニングルームに重苦しい沈黙が流れる。沈黙を破るべく僕は別の話題を出す。


「しかし、ジャンヌは「全人類の意識の剥奪」が目的とは言ってましたけど具体的に何をするんでしょうか?」


「全人類を殲滅するとか?」


「猿の手ですか」


僕は苦笑いしながら返した。


「猿の手」とはW・W・ジェイコブズによって執筆された短編小説である。内容は端的に言ってしまえば「歪な形で願い事を叶えてくれる「猿の手」に関するおとぎ話」だ。


ユウジさんが言いたいのは「全人類を殺してしまえば意識を剥奪したことになるよね?」ってことである。


「だったら意識の剥奪なんて言葉は使わずに 鏖殺だとか殲滅だとかの言葉を使うでしょ。意識の剥奪の鍵となるのが「三鷹八満大神社」にあると思う」


「ここ数日ジャンヌが姿を現わしている神社ですね」


三鷹八満大神社にそんな大層なものが祀られているとは聞いたことがない。


「なんにせよ、その三鷹の神社で張り込んでおけばジャンヌに会えるってことですよね!」


ユウジさんの言葉に答えるかのように突如としてトレーニングルームにサイレンが鳴り響く。


「噂をすればですかねぇ!」


「オペレータールームに行こう!」


「了解!」


僕たち三人はオペレータールームへと向かった。




オペレータールームが開き中に入るやいなやアオイさんが質問する。


「ジャンヌですか?」


「まだわからん。だが、状況は最悪だ」


西園寺司令がアオイさんの言葉に答えた。


「最悪って...」


最悪とは一体どういう状況なのか。その疑問はオペレーターの声によってすぐ解消された。


「リンフォンの反応、さらに拡大中!渋谷全域を覆うものと推定!」


「リンフォンって、あの呪具っすよね?そんな巨大になるんすか?」


ハンドボール程の大きさをした正二十面体の呪具だが、リンフォンに巨大化の能力なんてあっただろうか?


「いや、そういうことじゃない。地獄の門が開かれた。渋谷は地獄の魑魅魍魎どもで溢れかえっている」


つまり、怪異による初の大規模テロ。


「現時点で負傷者は50人を超えている!至急出撃準備をしろ!準備ができ次第変身して屋上に来い!」


「「「了解!」」」




屋上に着くとすでに司令とアオイさん、ユウジさんがいた。


「来たか!緊急事態だ、俺が送ってやる!」


司令は左腕でアオイさんを、右腕でユウジさんを抱える。司令は一体何をするつもりなんだ?


「ナオキどうした?早く背中に掴まれ」


「ヘリじゃないんですか?」


僕は思わず疑問をぶつけた。


「ヘリだったら時間がかかる。此処から渋谷ならこっちの方が早い。いいから早く掴まれ」


「あっはい」


僕は司令におんぶされる形で掴まる。


「口閉じてろよ。間違って舌噛まないようにな!3!2!1!」


司令は3人を抱えたまま一回のジャンプで高度10000mまで移動する。


「──ッ!?」


僕たちは急激な上昇で掛かったGにより気絶しそうになったが持ちこたえる。


「なんだお前たちこの程度で気絶しそうになったのか?たるんでるんじゃないのか?」


「いや、むしろ気絶で済んだだけ褒めてほしいです」


アオイさんが疲弊した状態で答える。正直ギアを纏っていなければ内臓破裂で死んでいたところだ。


「おっ、そうか。すまんな!ガハハ!」


「ガハハじゃねンだわ」


「この人だけ世界観おかしくないですか?」


司令は抱えていたアオイさんとユウジさんから手を放す。僕も司令から離れる。僕たちは自由落下で雲の中へと落ちる。


「俺たちが今いるのは渋谷の街から高度10000mに位置する上空だ。お前たち3人は地上に降下次第すぐに魑魅魍魎共の処理に当たれ。俺は人命救助を優先する、俺の攻撃は怪異に対しては無力だからな」


「人命救助で誤って殺さないでくださいね!」


ユウジさんが司令に注意喚起を促す。


「安心しろ。そんなヘマはしない」


ホントかなあ?


「話を戻すぞ、今回のテロは規模がデカすぎる。警察や自衛隊にも協力を仰いだ。といっても通常兵器じゃ怪異には通用しないから現場封鎖や人命救助に尽力して貰うだろうがな」


「リープロギアの存在が公にバレてしまいますがその辺りはいかがします?」


「こんだけ規模がデカいなら隠し通すのも難しい。リープロギアの秘匿の方は今回は忘れて魑魅魍魎の殲滅に専念してほしい」


「「「了解!」」」


「それと魑魅魍魎相手に装者3人だけでは少ないと思って関東在住の除霊師、陰陽師などに支援要請も送った」


「いえ助かります」


「最後に1つ、魑魅魍魎をすべて処理するのは難しいだろう。だから地獄の門の鍵となっているリンフォンを見つけ次第破壊しろ。それで事態は収束するはずだ」

「「「了解!」」」


僕たちは雲の中から脱し渋谷の街を視認する。


「私は暫く滑空してから地表に降り立つよ」


アオイさんは滑空しながら尻尾の先端から熱線を吐き地表の魑魅魍魎を丁寧に焼いていく。


「怪獣映画かな?」


ユウジさんと同じ意見だ。


「僕も後で地表に降り立ちます!」


僕は背中に剣でできた羽を生やし流体力学を利用してうまく滑空する。僕は自分の周囲に短剣を展開し地表に向けて一斉掃射する。短剣はすべて魑魅魍魎に命中する。




「遠距離武器欲しくなっちゃったけどな~俺もな~」


ユウジは二人を見ながらそうぼやく。


「お前はどうする?」


ユウジは遠距離武器を持ち合わせていない。であれば、選択肢は一つ。


「だったら俺は一番乗りしますよ!司令!俺の合図で思い切り...いや死なない程度に俺の足裏を蹴ってください!」


「なんだお前それでも男かよ?」


「それハラスメントですよ。今です!」


西園寺はユウジの合図で足裏を蹴る。ユウジは巡航ミサイルのように射出される。音速を超えたユウジからは衝撃波が発生する。ユウジはライダーなキックの態勢へと変える。


「一番槍ッ!突貫ッ!」


ユウジはライダーなキックでダイダラボッチとガシャドクロを一気に貫く。着地と同時に何体かも始末する。


「ただいま着弾っと」


ユウジが振り返るとそこには見覚えのある人物が立っていた。


「現世に戻ってこれたょ。今度こそ僕の世界を作り上げるょ」


「お前は!ヒデオ!死んだはずでは!」


「たしかに死んだょ。死んだせいで地獄に送られたけどまたこうして戻ってくることが出来たょ。今度は油断しない。お前たちを小生と交代で地獄に送っ」


ヒデオの話を遮るようにユウジはヒデオの顔面にパンチをお見舞いする。ヒデオは大きく吹き飛ばされる。そしてよろけながら起き上がる。


「痛いんだよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」


「よかった、今回はちゃんと効くみたいっすね」


ヒデオは成人男性にもかかわらず泣きながらユウジに話しかける。


「なんで物理攻撃が効くんだょ...」


「俺が纏ってるリープロギアはな、装者の存在証明濃度を怪異と同レベルまで引き落とすことで怪異側に物理攻撃をダメージとして与えることができる。そしてお前は一回死んで「怪異」となった。あとはわかるよな?」


「あああああああああああああああああああああああもうやだあああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」


ヒデオは絶叫しながらその場から逃げ出した。


「待てやッ!」


ユウジは周囲の魑魅魍魎を排除しつつヒデオの後を追った。






警視庁の捜査会議室にて警視総監が演説を行っていた。


「すでに200名の被害者、35名の死亡が確認されている。そして被害は今もなお増え続けている。これは怪異を用いた前代未聞の大規模テロである。それゆえに我々は対処する術はない。そこで魑魅魍魎の排除を怪異退治を専門とした極秘の政府機関に任せるとして、我々は人命救助に尽力する。諸君らは民を守る盾であり剣だッ!命を盾とし、希望を防人(さきもれ)れッ!」


「「「「「「了解ッ!」」」」」」」」


警察官たちは民を守るべく渋谷へと向かった。




僕とアオイさんが地上に着地すると一人の男が現れた。


「来たか、リープロギア装者」


「誰だッ!?」


僕はその男に問いかけた。恐らく、ギアの存在を知っているということは結社の連中だろうが。


「僕は天川マヒロ、今回の怪異大規模テロを引き起こした張本人だ」


となるとこいつの持っているリンフォンを破壊すればこの事態は収拾する。


「一応聞いておく、なんでこんなことを?」


アオイさんの問いにマヒロは答える。


「みんなを現実(じごく)から地獄(てんごく)に送る。僕は天使だからね」


「お前頭大丈夫か?」


「同じことを言われたことがあるよ。別にいいさ。それにこれはジャンヌ様からの指示でやっているてのもあるし」


「ジャンヌからの指示?」


「「リープロ装者の陽動を任される」こと。つまりもう勝利条件は達成されたんだよ」


そうか、僕たちはまんまと釣られてしまったわけだ。僕は少し苛立ちながらもマヒロに言葉を返す。


「ベラベラ喋って良かったのか?陽動と分かれば今からでもジャンヌがいる三鷹八満大神社に向かうかもしれないのに」


「ここで罪のない多くの人間を見捨てるのは非道いですねぇ、一般的感性を持ち合わせていない?」


こいつ...。僕の言葉にカウンターで煽ってきやがった。


「だったらお前をここで瞬殺して多くの人間を救う。そしてすぐにジャンヌのところに向かう!」


アオイさんの決意にマヒロは試すかのように返す。


「そうか、なら追いかけっこをしよう。リンフォンは僕の体内に埋め込まれている。」


マヒロの身体は熊へと変貌する。


「幸せを運ぶ天使。捕まえてごらんなよ。でないと、世界を先に地獄(てんごく)へ塗り替えてしまうよ?」


マヒロの言葉が合図となりて、僕たちと天使の追いかけっこが始まった。




マヒロは熊の姿で魑魅魍魎の間を縦横無尽に駆け抜ける。熊は非常に高い走破性を持つ。障害物が多い悪路・斜面であってもその走破性は遺憾なく発揮される。そんな熊にとってただのコンクリートの地面を走ることぐらい造作もない。加えて、リンフォンの能力で近い位置の魑魅魍魎であれば単純な操作ぐらいは可能となっている。二つのシナジーによってマヒロは時速50kmで渋谷の地を駆け抜ける。


アオイは尻尾の先端から熱線をマヒロに目掛けて照射する。マヒロはこれを回避する。アオイは熱線を照射したままマヒロを狙い続ける。対しマヒロは熊の躯体で何度も躱してみせる。


「ちょこまかとッ!」


アオイは跳躍し上から近接攻撃を仕掛ける。爪による引っ掻きを行う。しかしマヒロは突如として振り返り前足による引っ掻きで相殺する。


「くぅ~ビリビリする~2トンのパンチ力でギリギリか~」


熊のパンチ力は最大で約2トンとされている。その2トンの力でようやく相殺できるアオイの爪による攻撃は凄まじく、直撃してしまえば熊の身体と言えどただでは済まない。


「逃げは継続、かな」


マヒロは周囲の魑魅魍魎にアオイを襲わせるように指示する。魑魅魍魎は続々とアオイに飛び掛かる。アオイは両手の爪と尻尾により処理していく。マヒロはその隙に逃走を開始する。


「鬱陶しいッ!」


個々は大したことがないものの物量で攻められているためアオイは苦戦を強いられている。突如として周囲の魑魅魍魎が消失する。ナオキが短剣を掃射し周囲の雑魚を駆除したのだ。


「ようやく追いつきました」


ナオキはアオイほどの殲滅力を持ち合わせていないためアオイにアオイとの距離が離れてしまっていたのだ。


「ナオくんは短剣掃射で私の援護お願いッ!」


「了解ッ!」


「そうでもしないとアイツに辿り着けな...」


アオイは途中で言葉を飲み込む。


「どうかしました?」


ナオキは短剣掃射で魑魅魍魎を処理しつつアオイに問うた。


「アイツの背中からなんか生えてない?」


ナオキがマヒロの姿を目を凝らしてみてみると確かに背中辺りから何かが生えている。


「アレは...翼?」


そう、先端だけではあるものの鳥の翼が生えてきているのだ。その翼は徐々に成長していっている。


二人のヘッドセットに本部から通信が入る。八千代スバルの声だ。


「少しよくないことが分かった」


「なんだ?」


別の場所で人命救助を行っている司令が答えた。


「今回の地獄の門を解析した結果、どうやら今展開されている地獄の門の範囲は第一段階であるということだ」


「第一段階?」


ナオキは聞き返した。


「ああ、リンフォンの変形は熊、鷹、魚の順に変形させることで地獄の門を開くことが可能とされている」


ここで通信を聞いている全員が気付く。


「そうか、三段階に分けた時に今の熊が第一段階にあたるわけか」


「そう、そして解析の結果。第二段階で地獄の門の範囲は日本全域に及ぶということだ」


「「日本全域ッ!?」」


ナオキとアオイは全く同じ言葉を発す。


「ちょっと待て、熊から鷹に変身して空に逃げられればお前たち三人には対処できないぞ!流石の俺も空は専門外だ」


司令の言っていることは正しい。装者には空中戦を想定した装備がないため空に逃げられれば一貫の終わりである。西園寺司令も高度10000mまでは跳躍可能だが足場がないため対処できない。


「ここで逃したら一貫の終わりってことですよね?」


「そうだね、しかも翼が生えてきているときた」


二人が見つめるマヒロの背中には巨大な翼が6割ほど生えてきていた。


「ナオくん、作戦変更。アレを使う」


「ッ!?アレはまだ調整中なんじゃ」


「だからぶっつけ本番で行く。ナオくんは援護でお願い」


「了解!ボヤいてる場合じゃないですもんねッ!」


「行くよッ!限定解除・獣性狂化リミテッド・バーサークッ!」


アオイの全身が八岐大蛇の金属によって覆われていく。怪獣を彷彿とさせるフォルムを模した後、咆哮を発する。その咆哮を合図となりアオイによる魑魅魍魎の殲滅が開始された。高速な機動と強力な攻撃により魑魅魍魎は次々と殲滅されていく。


「すごい!これが八岐大蛇の力!」


ナオキは縦横無尽に駆け巡って魑魅魍魎を殲滅する姿に驚いていた。だが、それもすぐ終わる。マヒロは立ち止まり熊から徐々に巨大な鷹へと変貌していく。それと同時にマヒロを中心に魑魅魍魎が溢れていく。それは群れではなく、濁流であった。圧倒的な濁流にナオキとアオイは飲み込まれる。それでもアオイは狂化によって濁流の中を豪快に逆行する。


「まずい!」


濁流の中でナオキはマヒロが完全に鷹へと変貌したのを見た。ナオキはすかさず短剣を掃射する。しかしマヒロの翼による羽ばたきによって発生した突風によって全て落とされる。マヒロが羽ばたきによって徐々に高度を上げていく。アオイはマヒロが元いた地点へと辿り着きそこから跳躍する。そのままマヒロを目掛けて腕の爪で斬りつける。しかしアオイの攻撃は10mm及ばず虚空を斬る。マヒロは何事もなく空へと羽ばたき、アオイはそのまま地面へと落下していく。


ナオキとアオイは、鷹となって羽ばたくマヒロを見て、ただただ絶望していた。


    



街は魑魅魍魎で埋め尽くされている。百鬼夜行とはこのことを言うのだな。そんなことを考えながら獲物に隙が出来るのをただひたすらに待つ。


時は少し遡る。


「この大規模テロを引き起こしている人物を見つけ出し射殺せよ」


これが俺たち二人に命令された任務だ。首謀者はリンフォンという呪具を用いてこの災禍を引き起こしているらしい。この時代に呪具なんてものが通用することが信じがたい話だが、この渋谷で魑魅魍魎が跋扈している。信じるしかないのだろう。狙撃ポイントに到着し観測手と駄弁りながら狙撃の準備をする。


「リンフォン、ソフトボールほどの大きさをした正20面体の呪具。複雑な仕掛けが施されており、変形させることで動物の形を模すことができる。といったものですね」


「ほー、それでその呪具はどうやってこの事態を?」


俺は興味なさげに聞き返す。


「ちょっと、作戦の内容ぐらいちゃんと聞きましょうよ!」


全く、マジメだなぁ。適当でいんだよ適当で。それに俺が作戦内容を真面目に聞かないのは訳がある。


「中でも熊、鷹、魚と順に変形させることによって地獄の門が開かれるとのことです」


「じゃあリンフォンをルービックキューブみたくガチャガチャやってるやつを撃ち殺せばいいってわけだな!」


「言い方が最悪ですけどその認識であってます」


「なら話が早い」


俺はスナイパーライフルのスコープをのぞき込む。そこには不可思議な光景が広がっていた。青色のパワードスーツを着た人影が熊と戦っているのだ。


「おい!お前も見ろ!」


観測手にも視認を促す。


「なんですかねアレ?青い方はパワードスーツ?ですか?」


「俺に聞くな」


「あとあの熊は...」


「ああ、リンフォンと何らかの関係があるだろうな」


通信機に有線接続していたイヤホンに通信が入り込む。


『こちら怪異対策機動本部、司令の西園寺だ。まずは警視庁所属の狙撃班である君たちの助力をいただけたことを心より感謝する』


怪異対策機動本部?なんだその現代に似つかわしくない名前は。


「この通信は...」


「恐らく警視総監に狙撃班配置を指示した連中だな」


『君たちには、青いパワードスーツを装備したこちらの班員が相手している「熊」を狙撃していただきたい。ヤツは今渋谷を魑魅魍魎で埋め尽くしているテロの首謀者だ。ヤツを止めることが出来ればこの事態は収束する」


あの熊を撃ち殺せばすべて終わるってことか。単純明快でわかりやすい。そして通常のスナイパーライフルではなく対物ライフルが配備された理由も頷ける。熊を殺すには対物ライフルほどの威力でないと殺しきれない。


『私たちは人類滅亡の危機に瀕している。どうか戦ってほしい、人類の未来のために』


「大袈裟ですね、人類滅亡だなんて」


「まあな、だが仕事はきっちりこなさないとな。お前が観測して俺が狙撃」


「ですね」


そして狙撃のタイミングを待ち続けて今に至る。


「あの熊動き回ってなかなか狙いづらいですよね」


「そうだな。熊単体なら何とかなりそうなものの周りの魑魅魍魎やたまにあの青いやつが射線に入って邪魔なんだよな」


そうボヤキつつもスコープ越しに注視しタイミングを待ち続ける。また、不可思議な現象が起きた。熊の背中から何かが生えてきたのだ。


「あれは...鳥の羽?」


鳥の羽。たしかリンフォンは熊、鷹、魚の順に変形させることで地獄の門が開くと聞いていたが...


「さっきの西園寺の言ってたこと、あながち間違いじゃないかもな」


「それはどういう?」


「今の熊の状態で渋谷全域が魑魅魍魎で溢れかえってる。そして次に鷹に進化したらそれ以上になるんじゃないか?」


「たしかにそれはヤバいですね」


「そして空を飛ばれたら俺たちに為す術はない、空自の戦闘機かヘリしか対処できなくなる」


「だから飛ばれる前に」


ここで決める。俺たち二人は狙撃に集中する。この機を逃せば人類は滅亡する。スコープで縁取られた視界の中に異常な軌道で動く銀色の物体がいた。


「なんですかあの銀色の動き!」


「構うな!今はあの熊に集中しろ!」


いや、もはや熊と鷹を合わせたキメラになっている。ヤツは動いていないのに周りの魑魅魍魎が邪魔で狙撃できないのがもどかしい。熊と鷹のキメラはキメラに進化し終え、夜空に羽ばたこうとしている。


「今のうちに狙撃環境の確認急げ!」


「了解!」


観測手にそう指示し俺は引き金に指を掛ける。鷹は高度を上げていく。銀色の奴が壁を蹴り上げ鷹へと肉薄するも攻撃は当たらず落下していく。銀色の奴と鷹の距離が離れていく。


「距離972、右からの風プラス1度。コリオリ力、重力の影響ともに誤差範囲内!いつでもどうぞ!」


「了解!」


鷹に狙いを合わせ引き金を引く。瞬間、時の流れが緩やかになった。そうだ、俺が作戦内容に耳を傾けないのには理由がある。俺は今まで狙撃手となって立てこもり犯の狙撃にあたることが多かった。狙撃の前に立てこもり犯の情報が開示される。ときたま思うことがある。俺はそれを聞いてしまうと犯人を撃ち殺すことが出来なくなるんじゃないかって。どんなに残虐なやつでも、悲しい過去があって、それゆえに同情して、撃てなくなってしまうかもしれない。だから俺はそんな情報に耳を傾けない。淡々と、犯人を撃ち殺すだけの狙撃ロボットになる。そして今も、この鷹に変身した人間がどんな過去を送ったかはわからない。関係なくロボットになって狙撃する。


銃口から弾丸が射出される。弾道は右からの風により少しだけずれる。弾丸は鷹の羽の根本に着弾し、鷹は態勢を崩し落下していく。


「命中を確認!」


さて、撃ち殺すことはできなかったが、あとは頼んだぞ、怪異対策機動本部。人類の未来のために。





鷹に変身したマヒロが体勢を崩し落下していく。


狙撃!?いったい誰が!いや、このチャンスを逃すわけにはいかない!


僕は地面を蹴り前方へと跳躍する。僕は顔にたくさんの札を張り付けた悪霊に接近するも跳躍時の勢いを殺さずに身体を横方向に回転させその悪霊の顔を斬る。そのままの勢いで6体ほどの悪霊を回転斬りする。僕は地面着地と同時に地面を蹴りまたしても前方へと跳躍する。


着地する時間すら惜しい。少しでも早く、辿り着くんだ!


僕は空中で乱れ斬りながら魑魅魍魎たちを屠っていく。2回目の着地と同時にまた前方へ跳躍。今度は縦方向の回転で乱れ斬りをしながらマヒロの元へと迫っていく。






マヒロが地面に落下し即座に起き上がる。


クソ!空に逃げればこちらの勝ち確だったのに!どこから狙撃しやがった!


だがマヒロが狙撃手を探すよりも早くアオイがマヒロにタックルを繰り出した。マヒロは壁に叩きつけられアオイは暴走状態で爪を何度もマヒロの鷹の頭に突き刺そうとする。だがマヒロは全力でこれを回避する。マヒロは隙を見て翼による風圧でアオイを引きはがす。続いてマヒロがアオイにタックルを仕掛けアオイを自身の反対方向に位置するビルの壁へ吹き飛ばす。アオイの身体は重力に引かれ地面へと落下する。


早く空に上がらなければ!狙撃されないほどの高さへ!


マヒロは羽を大きく羽ばたかせ徐々に上昇していく。5mほど上昇したころ、マヒロの目の前に緑の人影が現れる。その人影は刀身が白く輝いた刀を今にも振り下ろさんとしている。


緑の!しまっ!


「終わりだ、───堕天使」


ナオキは巨大な鷹となったマヒロの身体をリンフォンごと縦に真っ二つにする。ナオキは地面に着地するも勢いにより地面との摩擦により火花を散らしながら滑る。ナオキの背後でまひろの遺体が落ちる音がする。赤く発光していた地面が徐々に発光をやめていく。同時に魑魅魍魎たちが地面へと沈んでいく。


「リンフォンの反応消失を確認!同時に魑魅魍魎の反応も消失!」


ナオキのヘッドセットに本部からの通信が入る。その次に司令の声も流れてくる。


「お前たち!地獄の門は閉じた!作戦は成功したんだ!」


その瞬間、三鷹八満大神社が位置する方向にて、大きな光の柱が現れた。



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