14.父親
「遥か昔、人類が文明を築き始めたころ、地球にある生命体が飛来してきた。その生命体は身体がエネルギーで構成されておリ、心臓となるコアは小型の核融合炉が搭載されていた。摩訶不思議な生命体は自らを「アヌンナキ」と呼び、人類には自身を神と呼ばせたそうだ」
「神、ですか」
深夜の三鷹八満大神社にて、ジャンヌとジルが話をしている。
「そうだ、神話における神の存在の多くはアヌンナキとされる説もある。まあ全部が全部ではないだろうが。ジルの信仰するクトゥルフ神話や私が幼少に聞いた「主の声」はアヌンナキではないだろうな」
「私はただプレラーティから戴いたルルイエ異本で魔物を召喚しているだけですよ。それで、あなたは何を為そうとしているのです?」
少しの沈黙の後、ジャンヌは口を開く。
「アヌンナキの力によって、全人類の意識を剥奪、その後空となった身体に新たな人格を植え付ける」
「?世界を滅亡させるのではないのですか?」
怪訝そうに聞き返すジルにジャンヌは返す。
「気が変わったんだよ。世界を壊すのはやめだ」
ジャンヌは歩き出したかと思えばすぐに立ち止まりジルの方へ振り返る。
「人類が実現できなかった世界平和、私たちで成し遂げようか」
首都圏外郭放水路にて、ナオキは父と相対する。
「なんで...父さんがここに...」
ナオキは一歩踏み出し疑問をぶつける。
「なんで父さんが生きてるんだよっ!」
ナオキは喜びと悲しみと■■■■■■■■などの様々な感情により戸惑いの叫びを発した。ナオキはそのまま地面に伏し涙を流す。
「幼き日に亡くした父親との再会ッ!たまんねえなあオイッ!」
樋口コウスケは興奮のあまり播州弁を忘れ嬉々として語り出す。
「黒田トオルは素体としては魅力的だった。早乙女アキラに殺害を指示、葬儀後に遺体を回収したってわけよ。それがまさか、こんなオモロいことに繋がるとはおもわんかったわ」
樋口は軽快な動きをさせながら続ける。
「わては物語が好きや。野良猫吊るしてバッティングの練習にしたときも、チー牛イジメて自殺に追い込んだ時もなんもオモロなかった。趣味が悪い。これ好きなやつは病気なんやと思うてた。
でもそうやなかった。わては物語が好きなんやって。わては悲劇的な物語が好きなんやって。自覚できた時はホンマにタマらんくて!」
樋口は腕を広げ天を仰ぎ恍惚の表情で叫ぶ。
「やっぱ人生は面白くねえとなァッ!」
突如として短剣が飛翔し樋口は即座に悪霊を召喚、短剣は悪霊に突き刺さり盾として機能する。ユウジがナオキの持っていた短剣を拾い樋口へと投擲したのだ。
「お前空気読めや。オモんないねん。関西ではオモんないやつはイジメられるんやで」
「勝手に自分語りすんなよ。気持ち悪ぃから」
樋口は先程の態度とはうってかわり冷めた態度で黒田トオルに指示を出す。
「シグマ、こいつら殺してええよ」
「了解」
黒田トオル。どこからともなく「ガヴェイルドライバー」を取り出し腰に装着する。
「ガヴェイル」
黒田トオルはガヴェイルドライバーのグリップを捻りそう呟く。直後、黒田トオルの身体は青い炎に包まれ同時に爆風を生じさせる。しばらくすると青い炎は消え銀色の人型が立っている。その人型は無機質ながらもどこか生物的なものを感じさせる。
「リープロギア装者として活躍した黒田トオル、そいつの死体にコトリバコを埋め込んでガヴェイルドライバーで変身した兵器「ガヴェイルシグマ」や」
「ユウくんやるよ、ナオくんに父親は殺させない」
「了解、ナオキの手は汚させませんよッ!」
アオイは尻尾から放たれる熱線で縦に薙ぎ払う。シグマは最小の動きで躱し即座にアオイとの距離を詰める。ユウジはシグマに格闘戦を挑む。ユウジは拳と蹴りを何度もシグマへ叩き込むが躱され受け流される。ユウジは戦法を切り替え拳によるラッシュをシグマに叩き込んだ。しかしシグマはユウジの拳のラッシュを全て受け流し。代わりとしてのパンチをユウジの腹に叩き込む。
「ガハッ!?」
ユウジはその一撃により吹き飛ばされる。アオイはシグマの背後から爪で斬りかかるも躱され確実に正中線へと攻撃を叩き込む。ユウジが背後から頭部に目掛けて蹴りを繰り出す。シグマは蹴りを防御する。ユウジはすぐに反対側の足でシグマの頭部へ蹴りを入れシグマの頭は180度回転する。
「やった!?」
しかしシグマはユウジの足を掴みアオイへと投げる。ユウジとアオイは一緒に吹き飛ばされる。
「頭が回ってんだぞ!効いてないのか!?」
シグマは自身の頭を掴み180度回転させ元に戻す。
「効いてはいるよ、微弱だが」
「シグマの身体には痛覚遮断処理を施してあんねや、兵器に痛覚なんかいらんやろ?」
「そうかよっ!」
ユウジとアオイ、シグマの戦闘が再開された。
結論から言えばシグマの勝利となった。ユウジとアオイ双方の攻撃を躱し的確にカウンターを喰らわせていた。元々連戦であったユウジとアオイは疲弊しており体力の限界であった。そこにシグマの致命的な一撃により二人ともノックアウトとなってしまった。
「強い...」
「これが...リープロギア装者最強の実力...」
黒田トオルのズバ抜けた戦闘スキルはガヴェイルシグマとなった今でも健在であり、ユウジとアオイに猛威を振るっている。
「マスター、黒田ナオキをいたぶってもよろしいですか?」
「ほぉ~ノリ気やなぁ!ええよ」
シグマは樋口の了承を得ると黒田ナオキに向かって歩き出す。
「ジョワユーズのリープロギア装者、黒田ナオキ」
シグマはナオキの脇腹へ蹴りを入れる。ナオキは吹き飛ばされ地面を転がっていく。
「お前たちの役目は怪異を倒し国民を守ること」
シグマは再びナオキに蹴りを入れナオキを転がす。
「立てよ装者、お前の敵が目の前にいるぞ」
「僕は...父さんを殺せない...」
「甘えるな。お前のそのふざけた決断で守るべき国民を危険に晒すんだぞ?」
「...でも...僕は...」
シグマはナオキの頭を踏みつけながら問答を続ける。
「お前は何のために戦っている?」
頭を踏みつける力が強くなる。
「お前はなんで装者になった?」
「...僕はっ...!」
「───綴れよ、お前の物語を」
記憶、
記憶、
記憶。
遠いかの日の記憶。
三歳の頃の記憶だ。父さんの部屋に入ったとき、壁には沢山の勲章や賞状が飾られていたの覚えている。
「アレはたしか警察官になって3年目で取ったものだよ」
「アレが射撃大会の時の賞状だったかな~惜しかったんだよ~あと少しで1位になれてたのに」
「アレは警察時代最後に取った勲章だよ」
子供のようにはしゃぐ男は僕の尊敬する父さんだった。
「どうだ!パパすごいだろ!」
ドヤ顔で僕に聞いてくる。今思えば、この時の父さんは、過去の自慢話をするおじいさんみたいだな。
まあ、この頃の僕は3歳。父さんはリープロギア装者だったはずだから、もっと凄いことをしていたんだけどね。
父さんの質問に僕は
「パパすごい!」
とだけ言った。
嘘。
本当はその時違うことを思っていた。
無意識に。
何か、薄汚れた感情。
記憶、
記憶。
遠いかの日の記憶。
小学1年生の頃だ。
「親についての作文」を課題として出され、僕は父親のことを書いた。
「ぼくのおとうさんはすばらしいひとです!ぼくもおとうさんみたいになれるようにがんばりたいです!」
嘘。
その時も僕は違うことを思っていた。
無意識に。
何か、濁った感情。
記憶。
遠いかの日の記憶。
父さんの葬式の時の記憶だ。
棺の中でたくさんの花に囲まれて安らかに眠る父さんの顔。
その顔を見て、僕は、大声で泣き喚いた。
だけど、哀哭とは裏腹に、どこか安堵を覚えていた。
無意識に。
何か、ドス黒い感情。
いつもそうだ。
父さんと関わるときだけ、無意識に、別の感情が湧いてきていた。
薄汚れた、
濁った、
ドス黒い。
ああ、ようやく理解した。
今なら言語化できる。
あれは、嫉妬だ。
沢山の勲章や賞状を授与されて、誇らしげに語る父さんに、嫉妬していた。
国民に知られずに、ただ1人リープロギア装者として、怪異から国民を守っていた素晴らしい父さんに、嫉妬していた。
最期までリープロギア装者として戦って、満足げな顔で永眠る父さんに、嫉妬していた。
安堵した理由が「死んでくれたことで追いつくことができるから」というふざけた理由だ。
最低で。
最悪で。
下劣で。
下卑た理由。
でもさ、不思議と悪い気はしてないんだ。
むしろ、僕がリープロギア装者になりたかった理由がようやく理解って清々しい気分だ。
10年間も気づけなかった蟠り。
そして、何の因果か。
目の前には超えるべき敵が立っている。
僕の「父の偉業の凌駕」を阻まんとするかのように佇んでいる。
だったら、僕のやるべきことは一つだ。
お父さん、僕のために、もう一度死んでください。
ナオキはゆっくりと立ち上がる。
「やっとやる気になったか」
シグマは立ち上がったナオキにそう声を投げかけた。
「ああ、足による頭皮マッサージのおかげかなぁ、原点を思い出せたよ」
「それはよかった。ふむ、頭皮マッサージの特許でも出願するか」
ナオキはシグマの冗談を流して続ける。
「シグマ、一つ聞きたいことがあるんだけど」
「何かな?」
「早乙女アキラに貫かれた心臓部分にコトリバコを埋め込んでるんだろ?そのコトリバコの呪力を動力として死体を動かしている、違うか?」
「その認識であっている」
シグマは素直に答えた。
「それだけわかれば問題ない」
答えを聞いたナオキは短剣2本を逆手で持ち構える。
「さあ、最高の殺し合いをしよう、父さん」
「戦いは効率的であるべきだ。効率的に処理してやる」
両者が互いに相手を見据えて構える。数秒の沈黙の後、先に動いたのはナオキだった。
ナオキが右手の短剣で斬りかかるもシグマの拳によって即座に粉々に砕かれる。ナオキはすかさず左手の短剣で斬りかかる。同時に右手側に短剣を生成する。左手の短剣を粉砕され先ほどと同じように右手で斬りかかり左手で生成、これを交互に繰り返し、隙を生じさせぬ猛攻を繰り返していた。
「いつもよりキレがいいっすよ...」
「けど、全部防がれてる...」
アオイとユウジは床に倒れ込んだ状態で親子の戦闘を見守るのが精いっぱいだった。
何度か連撃を防いだ後、シグマは後方へ大きく下がる。
「47回、短剣を砕いた。こんな非効率なやり方が人間の戦い方なのか?」
ナオキは肩で大きく息をしながら喋る。
「非効率的なのが人間なんだよ。お前みたいな死体とは違ってな」
「実にくだらないな。戦いは効率的であるべきだ。 一撃で終わらせてやる」
シグマはドライバーの左グリップを捻る。
「ナオくん避けてッ!」
シグマはナオキの頭を目掛けて右足で勢いよく蹴りを入れる。
肉の砕ける音がした。吹き飛んだ身体の一部が地面に落ちる。
吹き飛んだのはシグマの右足だった。
「何ッ!?」
シグマは片足だけで後退しナオキを見据える。シグマだけでなくアオイ、ユウジもその光景を見て絶句していた。そう、ナオキの首から剣が生えていたのだ。その剣は体の内側から生えており、首から血が流れ出ている。ナオキの蹴りはこの剣に勢いよく当たってしまったために逆に足が切断される形となった。
「これ、次に来るファッションだから」
ナオキはサムズアップした手の親指で剣を差して軽口を叩く。
「さて、もうそろそろかな」
瞬間、シグマの身体から無数の剣が生えた。
「な、にッ!?」
シグマは自身の体内から次々とは言えてきている事態に驚いている。
「ペアルック、仲睦まじい親子だね」
さらにナオキは剣が生えているシグマをよそに続ける。
「さっきの猛攻、アレは短剣で斬りつけることが目的じゃない。短剣を砕かせることが目的だったんだ。粉々になった短剣の破片をアンタの身体に付着させた。その破片たちを密かに体内内部へと侵入させ突き進ませた。あとは破片が全身に回ったころを見計らってすべての破片を急激に成長させ体内から剣を生やさせた」
「そうか、短剣が砕け易かったのはそのためか」
「そ。そしてこの作戦は普通の人間に対しては有効ではない。皮膚から侵入させた時点で激痛が生じるからな」
「痛覚遮断を逆手に取られたッ!?」
親子の戦いを遠くから見ていた樋口はそう叫ぶ。
「チェックメイトだ」
「シグマッ!撤退だッ!」
樋口の命令によりシグマは撤退を試みる。シグマは残された左足に力を入れようとするも侵入した破片が成長したせいで筋組織がズタズタにされており思うように動かなかった。ナオキはその隙を見逃さず、妖刀-参式-で心臓の役割を担っていたコトリバコを突き刺す。
「さよなら、父さん」
そうして、前ジョワユーズ装者と現ジョワユーズ装者、父と子の戦闘の幕は下りた。
参式を引き抜くとシグマの変身が解除された。
「大きくなったな、ナオキ」
動力源を失った父さんは僕へともたれ込む。
「...母さんに「ごめん」って伝えてくれないか?」
「自分で言いに行きなよ」
「いじわるだなぁ、ナオキは...」
父さんはこときれついには何も発さなくなった。僕も気が緩んだせいか父さんを支えきれず二人一緒に倒れてしまう。
「ナオくんッ!?」
アオイさんはなんとか身体に力を入れて立ち上がってこちらに走ってきた。
「なんであんな無茶するのッ!?死んだらどうするのッ!?一緒に生きるって約束はどうなんのッ!?」
アオイさんが僕に対して涙ぐみながら捲し立てる。可愛いなぁアオイさん。
「可愛いっすよアオイさん」
「こんな時にふざけないで」
アオイさんは僕の頭を軽く叩く。だが、その小さな衝撃により意識が飛びそうになる。
あ、ヤバイ。ガチ逝ク!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
そのままアオイさんの声が遠くなっていくのを感じ、僕は気を失った。
「ざけんなや、ざけんなやざけんなやざけんなや!ざっけんなや!!!!!」
樋口は暗闇の中走ってている。シグマが敗北したことにより逃亡を余儀なくされたのだ。
「こんな結末認められるわけねえだろ!わての最高傑作が負けるはずないやろ!」
樋口は息を切らしながらも全力で喚き散らす。
「それもこれも全部あの黒田ナオキとかいうクソガキのせいや!絶対許さへん!次会うたら真っ先に殺したる!報いを受けさせt」
樋口は何かに躓き勢いよく転倒する。
「なんやぁ...一体」
足元を見るとそこには長髪が絡みついていた。
「あんのクソアマぁッ!」
樋口は髪の毛を取ろうとするも上手く取れずに苦戦しており、ついには腕の方にも絡みついてしまった。樋口は絡みついた髪を悪霊に除去させるために悪霊を召喚する。
「おいカスども!さっさとこの気色悪い髪を何とかせんかい!」
樋口が指示するも悪霊たちは動く気配がない。
「聞こえてへんのかカスども!さっさとこの髪をほd」
悪霊は樋口の腕を折る。
「イギィ!おまおまおまおまおまお前らぁ!わての命令聞いてへんかったんかぁ!髪をほどけってm」
別の悪霊が樋口の足を折る。
「あがぁ!お前ら悪霊ごときが人間様に楯突くなや!」
悪霊たちが樋口を睨む。悪霊たちは樋口にゆっくりと迫っていく。
「待ってくれ!話せばわかる!わてらは言葉通じるんやから!私たちは分かり合うことができる!」
悪霊として使役するためだけに一家惨殺し、その上こき使ってきた仇である。復讐の機会を伺っていた矢先に仇が無防備な状態で助けを乞うている。
「あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”!!!!!」
悪霊は問答無用で樋口を襲う。2時間後、樋口は無惨な姿で発見されたのであった。
一人の男が暗闇の中を歩いている。身体は呪いに侵され、それでもなお身体を動かす。暗闇のせいなのか、それとも呪いのせいか。男の視力は極限まで低下していた。
「宝条さん!無茶しちゃダメだ」
その男に寄り添って声をかけたのは加藤ユウジであった。シグマとの戦闘が終わり歩けるまでには回復したのだ。
「カズハは...カズハのところに案内してくれないか...?」
「わかりました」
ユウジは天海カズハがもう永くないことを理解しており、ならばせめてと、最期ぐらいは二人一緒にいさせるべきだと、宝条の救護よりも天海カズハの場所へ案内させることを優先した。
「こちらです」
そう言いながらユウジは宝条ヒトヨシと天海カズハの手を繋がせる。ユウジはそのまま手の力加減などにより宝条をしゃがませるように促せる。宝条は地面に膝をつきカズハの顔がある方へと目を向ける。
「よかった...最期に...ヒトヨシさんの顔が見れて...」
天海カズハはもう永くない。腹部の藁人形を取り除く際の攻撃によって腹部は損傷、出血量的にもう助からない段階まで進んでいた。
「ごめんなさい...あなたを傷つけてしまって...」
「気にすんな、飛び切りのDVってことにしとくから」
「そっか...ケホッコホッ」
天海カズハ少し笑ったあと血の混じった咳をする。
「じゃあさ...お返しとして...私のこと強く抱きしめて...?」
「うん...うん!」
宝条は涙ぐみながらも答える。宝条はカズハの身体を起こし抱きしめる。
「強くって...言ったじゃん...」
宝条は呪いにより瀕死の状態であった。そんな状況下では腕に力を入れることもままならない。だが、それでも宝条はカズハの身体を力の限り抱きしめる。
「カズハ...愛してる...愛してる!」
宝条は涙を流しながら愛を謳う。
「はい...私も...愛してます」
天海カズハはそっと宝条の背中に手を添える。
「破滅でも美しいはずだ」と誰かが言った。
この別れが、美しいかどうかはわからない。
───ただただ世界は、二人を、その場所へと置いていった。




