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30-2

30-2


「ふふふははは! そんな地べたを這いずるお前たちにこのデビルグ様を捉えられることが出来るかな?!」


 漆黒のウイングをバサリと広げたフレイスヴェルグ(デビルグ)は腰部のスラスターユニットを起動し、華麗に宙を舞っていく。


「バトキュア! スプラッシュガーネット!」


「駄目よ、ミラクル! この距離では届かない!」


 マジカルが悔しそうに上空を見つめる。そもそも、空を自在に飛行するフレイスヴェルグへと攻撃を当てるのは難しく、ましてや対空攻撃に乏しい彼女らではどうすることも出来なかった。


「どうした、この程度か! バトキュアの手先!」


 まるでコウモリを思わせるアクロバティックな曲芸飛行を見せたフレイスヴェルグは一度反転し、急降下から二丁のマシンピストルによる強襲を掛ける。


「きゃああ!」


「二人とも、私のバリアに隠れて!」


 マジカルが展開したバリアと弾丸が激しく衝突し、火花のようなものが飛び散る。どうやらバリアの方が出力が高いらしく、全弾防ぎきったようだ。


「でも、このままじゃても足も出ません!」


「一体どうしたら……?!」


「ふははは! 悔しかったらここまで飛んでこい!」


 すっかり悪役(ヒール)の演技がハマっているフレイスヴェルグ。その様子にすっかり観客らからもブーイングの嵐だ。


『おーっとぉ! ここに来てフレイスヴェルグ選手、実はバトキュアの敵だったのかぁー?! 驚きの展開にさしものマジカル☆ミラクル♡フェリーチェも大苦戦! 観客のみんなー! バト子ちゃんと一緒に頑張っているバトキュアを応援してちょうだい! がんばえー! バトキュアー!』


 実況兼解説役のバト子ちゃんもノリノリである。




「み、美空……さん? なんだか凄いことになってる気がするんですけど?!」


「大丈夫……大丈夫ですよ吹雪さん。これも全部作戦のうちですから……!」


「あらあら、もうどうにでもなれって感じだわ〜」


 マスターブースではあたふたする吹雪、黒い笑顔が板についてきた美空、そしてもはや成り行き任せの真理と、三者三様の反応を見せる有様だ。





 * * *




「いやー、フレイスヴェルグのやつ、いつの間にあんな芸を覚えたんデスかねー」


「いや先生、呑気にポップコーン頬張りながらエナジードリンク飲んでる場合じゃないですよ。ブロッサムメイツが完全に悪役と化していますって」


 観客席では先生と生徒会長・成実直子がバトルの行く末を見守っていた。


「悪役で結構じゃないデスか。ただふざけてるように見えるデスけど、葛城とフレイスヴェルグはとても賢い娘デス。何か作戦があるはずデスよ」


「うーん、それはまぁ……そうですけど」


 少々納得がいかない直子はもう一度、バトルフィールドの方を見やる。そこでは妙な高笑いを上げつつ、上空から一方的な攻撃を仕掛けるフレイスヴェルグが。


「どう考えても、悪ノリしてるようにしか見えないわね……」





 * * *






(大丈夫? アルテミス?)


(はい、私はバッチリです!)


(しーっ! 静かに……! 私達が無事なのを気取られちゃ駄目よ……!)


(わわっ! すみません……)


 ビルの物陰に隠れている叢雲とアルテミス。しかしどういうわけか、広場中央にも地面に突っ伏している二人の姿が。


(しかし、案外バレないもんなんですねー。あのニセモノ、よく見れば気づきそうなものですけど)


(十種雲形・高層雲(こうそううん)ね。本来は私の分身を作り出す技なんだけど、倒れてる姿勢ならそこそこそれっぽい姿に出来るわ。流石に完璧な擬態は無理だけど)


 そう、広場に倒れている叢雲とアルテミスは十種雲形が作り出した偽物であり、本体はこうしてこっそりと退避していたのだ。


 エクストリーム・サンシャインを喰らいながらも、叢雲とアルテミスはフレイスヴェルグの持っていた光学迷彩マントを被り、そのまま脱出。その後、フレイスヴェルグが単身で囮となり、叢雲とアルテミスの一斉攻撃により三人まとめて撃破するというのが美空の考えた作戦だ。


 通常の攻撃ならば光学迷彩マントは即座に破壊されてしまうのだが、熱ダメージを発生させる光の柱を作り出すエクストリーム・サンシャインであれば多少の時間なら十分に耐えることが可能だ。フレイスヴェルグを囮にしつつ二人を隠れさせるプランを美空はいくつか練っていたが、こうまで上手くいくとは内心彼女も驚いていたりする。


(フレイスヴェルグがああいう風に悪役を演じれば、あいつらは必ず釘付けになる……正義の魔法少女の習性を逆手に取った策略って所かしら?)


(ちゃんと調べれば私達の撃破判定出てませんし、相手の注意を逸らす囮作戦は成功っぽいですね。それでも背後から一気に叩くとか、私たち完全に悪者ですよ?)


(んなもん良いのよ、勝ちさえすりゃ悪でも善でも。勝てば官軍!)


 叢雲の言う通りブロッサムメイツはどうしても勝たないといけないのだが、その後の評判についてまでは深く考えていないようだ。


『あとはヴェルグちゃんがあの三人を上手く誘導するって話だけど……どう? 美空?』


『そうですね、理想は相手が一塊になってくれる状態に持っていければいいんですが』


『う~ん、なかなか上手く動くわね~。流石は本戦大会チームってところかしら~』


 フレイスヴェルグが手球に取っているマジカル☆ミラクル♡フェリーチェだが、それでも互いが互いにカバーしつつ上手く散開して戦っている。フレイスヴェルグが高火力・広範囲の武装を持っていないと知っていても、これまでの戦法からして罠や作戦によって一網打尽となる状況を避けるつもりなのだろう。


『となると……無理矢理にでも密集させる必要がありますね。ヴェルグ?』


「了解マスター。ヴェルグちゃん頑張る」






 * * *





「くっ……! このままじゃジリ貧ってやつだわ!」


「でも相手は一人よ! なんとかチャンスを見つけましょう!」


「ふははは! 愚かなバトキュアの手先め! 一気に殲滅してくれるわ!」


 空を思うがままに飛翔するデビルグ(フレイスヴェルグ)の腰部ユニットから二つの影が離れる。攻撃用ドローン、バルドルとヘズが射出されたのだ。二機の固定翼ドローンは推進用プロペラの甲高い音をフィールドに響かせつつ、左右から挟撃するようにビーム弾を連射する。


「またビームですか! フォームチェンジ! フローライト!」


 再びフェリーチェスターがビーム系攻撃を無効化する形態に変身し、バルドルとヘズのビームをかき消す。そしてミラクルスターとマジカルスターはフェリーチェスターを挟んで背中合わせとなり、それぞれ自身の魔法の杖を迫りくるドローンに向けた。


「「 バトキュア! スプラッシュ・ガーネット! 」」


 杖の先端から赤い光弾が無数に解き放たれ、バルドルとヘズはその閃光の渦へと飲み込まれてしまう。先程、偵察用ドローンを撃破された時と同じ展開となってしまった。


「同じ事の繰り返しですわね!」


「でもこれであの子のドローンは全部撃墜したはずよ! 今がチャンスだわ! 浄化を!」


 確かに、フレイスヴェルグの残っている武装は二丁のマシンピストルといくらかの投下用爆弾、それと非常用のナイフくらいなものだ。マシンピストルでは彼女らのバリアを破るには火力不足、爆弾も上空から投下したとしても簡単に避けることが出来る。ましてや、接近戦では並のドールを上回るチームだ。


「ふ……ヴェルグちゃんを倒すチャンス? それは自分たちが倒される()()()の間違い」


 ミラクルスターの遥か頭上、ウイングを広げ腕を組んだポーズで決めているフレイスヴェルグ。彼女がボソリと呟いた声はミラクルスター達には届かなかった。





「十種雲形・積乱雲(せきらんうん)!」


「いきます! 全弾発射(フルファイア)!」



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