第三十話「別にいいけど……私達を巻き込まないでよね?」
第三十話
BDG東日本大会、その二回戦目。
叢雲たちブロッサムメイツは、魔法少女風ドール、マジカル☆ミラクル♡フェリーチェの猛攻に苦しめられていた。
「やぁーっ! たたたたたっ!」
ミラクルスターの連続パンチは見た目よりも鋭く、叢雲の装甲ではそう何度も受けきれるものではない。どうにか剣で受け流していくものの、柔軟な身のこなしに翻弄されてしまっている。
「ミラクル、援護するわ!」
そう言って叢雲の背後に現れたのはマジカルスター。前後から仕掛けられては流石の叢雲も対処しようがない。しかし、マジカルスターは何を思ったのか、その場から大きく飛び退った。
「叢雲さん、大丈夫ですか?!」
「助かったわ、アルテミス!」
アルテミスの放ったビーム弾がマジカルスターが居た地点に着弾。相手は互いに連携攻撃を仕掛けてくるが、ブロッサムメイツも互いに連携しあっているのだ。
「ヴェルグちゃんもいる」
特徴的なモーター音を響かせ、フレイスヴェルグの周囲に小型のプロペラを持つ機械が浮遊する。彼女の指示でそれらは一斉に散開し、自らの役割を果たしに行く。偵察用ドローン、ミーミルの眼はそのセンサーで相手ドールや周囲のあらゆる情報を探査するのだ。
「……あのドローン、厄介ですわね」
強い眼差しでドローン群を見つめるのはフェリーチェスター。彼女はミラクルスターやマジカルスターほど積極的に攻めはしないが、そのぶん戦場全体を見渡しているようだ。そして、その観察眼からフレイスヴェルグの偵察用ドローンが各種データを収集していることに気がついたようだ。
「ミラクル、マジカル! 気をつけてください! そのドローンは私達の動きや攻撃パターンを解析しているようです!」
「ええっ?!」
「そういえばあの黒いドールは情報収集が得意だったわね!」
ほぼ無名とはいえ、あのXドラグーンを撃破し一回戦目を突破するだけの実力を持つチーム。マジカル☆ミラクル♡フェリーチェとしては次に当たる対戦相手の分析も怠ってはいなかった。
「まずはドローンを撃破しましょう! いきますわよ!」
すかさず、フェリーチェを真ん中にフォーメーションを組むマジカル☆ミラクル♡フェリーチェ。それぞれの手には専用武装である魔法の杖。基本的には徒手空拳による打撃戦を得意とする彼女らだが、この魔法の杖を振るうことで遠距離攻撃や広範囲攻撃も可能なのだ。言ってしまえば、叢雲の十種雲形と同じ戦闘思想である。
「バトキュア! スプラッシュ・ガーネット!」
三人の魔法の杖から真紅色の光弾が広範囲に発射される。叢雲たちはそれを難なく避けていくが、フェリーチェはあくまで攻撃が目的ではなかった。
「むぅ……ミーミルの眼が……!」
苦虫を潰したような顔で後方へとステップしながら回避するフレイスヴェルグ。彼女の偵察用ドローンは今の攻撃ですべて破壊されてしまったのだ。ミーミルの眼は半自動のため、操縦にAIの処理能力を取られない代わりに複雑な機動は難しい。その弱点を的確に突かれてしまったのだ。
「よし、畳み掛けるわ! マジカルは左、フェリーチェは右から!」
「任せてミラクル!」
「ええ、ワルドール帝国の最後です!」
ミラクル、マジカル、フェリーチェの三人がそれぞれ三角形の頂点になるようブロッサムメイツを取り囲む。このフォーメーションを見た観客らは彼女らが何をするのか一瞬で理解し、テンションがさらに上昇した。
「「「 バトキュア! エクストリーム・サンシャイン!!! 」」」
三人が魔法の杖を天高くかざすと、天から眩い光が降り注ぎ、さらには巨大な魔法陣が現れた。これこそがマジカル☆ミラクル♡フェリーチェの最大の必殺技。
「くっ……! こ、この熱さ……!」
「これはもしかしてマズイ展開じゃないんですか~?!」
「もしかしなくてもマズイ展開だとヴェルグちゃんは分析する」
ブロッサムメイツの三人は巨大な光の柱の中、膨大な熱量によるダメージで動けないでいた。
バトキュア・エクストリーム・サンシャインは三人のドールのエネルギーを結集し、規格外の熱量を生み出す魔法である。この魔法はファン人気が高く、ド派手なエフェクトとここぞという場面でよく使われている。が、エクストリーム・サンシャインの真価はその熱ダメージを発生させるという点にある。
『あっ、これヤバいわね~。これじゃあアルテミスの装甲も役に立たないわ~』
『真理センパイ、どういうことですか?』
『吹雪さん、熱ダメージは装甲の厚さや防御力に関わらずダメージが発生するんです。大抵はバリア系で防げたりするんですが……』
例えば、叢雲の十種雲形・層雲はエネルギーシールドを剣の前方に展開できるのだが、エクストリーム・サンシャインのように広範囲へ熱ダメージを発生させる技は防げないのだ。これに対抗するには装甲自体に熱ダメージを無効化させるような機能を付加させるなどしか手段はない。
「あつ、熱っ! ちょっと吹雪、どうするのよ!」
「真理~このままじゃあ弾薬が誘爆しちゃいます!」
「……マスター、そろそろ例の作戦を発動させるべき。そうヴェルグちゃんは意見具申する」
『そうですね。あまり気乗りはしませんが……これもチームの勝利のため!』
『み、美空?!』
『その割にはなんだか黒い笑顔よ~?』
* * *
「そろそろHPがなくなる頃かしら?」
「油断しないでミラクル、相手は曲がりなりにも一回戦突破してきたチームよ!」
エクストリーム・サンシャインの持続時間が終了し、光の柱は音もなく消え去る。その周囲はあまりの熱を受けたためか自動車はぐにゃりと変形し、アスファルトもぐずぐずに融けてしまっている。その中央、ブロッサムメイツがいた場所は――
「やったわ! これで私達の勝ちよ!」
「ふふん、口ほどにもないなかったわね!」
そこには、ただただ地面に倒れ伏す叢雲とアルテミスの姿が。
「待ってミラクル、マジカル!」
ただ一人、フレイスヴェルグはボロボロになりながらも、どうにか立ち上がっていた。
「ようし、今トドメを!」
「……? なんだか様子がおかしいわ……?」
「ああ、なんということ……バトキュアの力で私を覆っていた闇の力が浄化されていく……」
フレイスヴェルグはよろよろとしながら前へと進む。そして微妙に芝居がかった口調のセリフだが、それを聞いたマジカル☆ミラクル♡フェリーチェの三人は驚きの声を上げた。
「まさか、アナタはワルドール帝国に操られていたの?!」
「許せないわ、ワルドール皇帝!」
「もう大丈夫よ、さあ……こっちにいらっしゃい」
手を差し伸べるミラクルスターにフレイスヴェルグが触れようとした瞬間、彼女の身体がビクリと跳ね上がる。そして背部のウイングをバサリと広げ、一気に上空へと飛翔した。
「ふふふははは……小賢しいバトキュアの手先め……ン我が名はデビルグ! 偉大なるワルドール皇帝の下僕なり!」
デビルグ……もとい、フレイスヴェルグは禍々しい笑みを浮かべ、驚愕するミラクルスターらを見下ろす。もともとブラックカラーの彼女がこうして悪役を演じると、なかなかそれらしく見えるものである。そして、正義の魔法少女である彼女らには覿面に効果が現れたようだ。
「嘘……再び闇の力に呑まれたというの?!」
「落ち着いて、ミラクル。もう一度浄化すればきっと……!」
「マジカルの言う通りです。バトキュアの名にかけて、必ずあの子を助け出しましょう!」
(やっべ、これ楽しい。ヴェルグちゃんはヴェルグちゃんの新しい一面を発見してしまったかもしれない……?!)




