幕間・3「この裏切り者ぉぉぉ!!!」
幕間・3
視界に広がるのは真っ白な風景。鼻を通して分かるのはほのかな湯気。耳に入ってくるのは穏やかな水の音。
そして肌に感じるのは、心地よい熱さの、たっぷりのお湯。
「ふぅぅぅ……きもちいいね~」
「身体の芯まで温まります……血行も促進……」
「疲れた時はやっぱりコレよね~」
吹雪、美空、真理の三人は今、温泉に浸かっていたのだ。
* * *
「はぁ、福引?」
「そうデス。商店街で買い物したら貰える福引券デス。期限が今日まででもったいないから、お前らにやるデスよ」
8月某日。本戦大会が間近に迫ったある日。桜が丘第一高校、BDG部部室ではいつも通りのメンバーが集まっていた。
「一枚だけだと心許ないですね」
「それでも引いてみなくちゃ分からないわ~美空ちゃん」
「最終日までに残った三等以上の景品の数を想定、そしてハズレの数から考えて……一発に期待といったところ。マスター、分の悪い賭けになる」
「でもでも、真理の言う通り福引はそもそも引かなきゃハズレもアタリもありませんよっ!」
「ま、せいぜいポケットティッシュが関の山デス。何か当たったらお前らが好きにしていいデスよ。さて、そろそろ日も暮れてきたしさっさとカエレ!デス」
* * *
「それがまさか、当たっちゃうとはねぇ……」
「スパリゾート、その無料券三人分……まぁ、特賞のハワイ旅行や大型テレビよりはこっちが現実的ですし、ちょうど良かったですけどね」
「そうね~ハワイもテレビも要らないわね~」
「……なぜだか真理先輩の言ってる言葉が嫌味に聞こえます……」
「あ~、でも私もハワイはいいかなー。何度も行ったし」
「くっ……吹雪さんまで……!」
一般家庭の中堅どころ、ごくごく平均的なサラリーマン家庭であるところの葛城家にとってはハワイ旅行も壁一面を占有するような大型テレビは夢のまた夢。実は上流階級の愛宕家や、仕事の都合で海外のあちこちへ飛び回っている神代家とは微妙に感覚が合わない時もある。
「それにしてもさ、先生には言わなくてよかったのかな? 福引で当たったこと」
「いいんじゃないかしら~? 当たった景品は好きにしていいって言ってたし~」
「それにチケットは三人分でしたしね。どのみち先生は教員の夏季研修とかで明日から数日はいないという話なので、私達で有効的に活用するべきです」
「それもそうだね! 先生、ああ見えて優しいからきっと笑って許してくれるよね!」
「そうですそうです……こういうちょっとお高めなスパ、私達のような高校生のお小遣いじゃまず来れませんし、十分に堪能しましょう」
「あら~? そうなの~?」
「真理先輩の金銭感覚がたまに羨ましい……」
普段の澄ました顔が明らかに曇ってしまった美空は、そのまま湯船にブクブクと沈んでしまう。そして、ふとその目線が真理の顔から下のほうへとスライドし――――
(メロンがふたつ……)
自分の胸部と、つい比較してしまった。
「はぁぁぁぁぁ…………」
「み、美空?! どうしたの、そんな世界が終わるみたいな顔しながら溜息ついちゃって?!」
「ふ、ふふ……吹雪さん……世の中にはどうしようもなく覆し難い事柄があるんですね……あ、ちなみに吹雪さんは私の仲間なので。コチラ側の人間なので」
そう言って美空は吹雪の肩を掴み、グイと引き寄せた。吹雪はなんの事だか理解していないが、真理はその柔和な表情からどこか悪戯っぽい笑みへと上書きされる。
「うふふ~私ってば、よく肩が凝って凝ってしょうがないのよね~。でも、湯船に浸かっているときはとっても楽なの~」
「くっ……」
「あ、真理センパイ、後でよく効くシップ教えますよ! ウチのお父さんがよく筋肉痛のときに貼るやつで、外国のだけどすっごく効果があるって言ってました!」
「それからね~、アルテミスの武装を作ってるとき足元にパーツ落としちゃったりすると探しにくいのよ~足元はよく見えなくて~!」
「くっ…………!」
「へぇー。真理センパイ、眼が悪いですもんね! ちゃんといつもメガネ掛けてないと駄目ですよ!」
「ふ、吹雪ちゃん……少しお口チャックしててもらえないかしら~?」
「???」
「吹雪さん、もういいです……私たち、持たざる者の負けです……これ以上は惨めな思いをするだけです」
「美空も真理センパイもどうしたの……? あ、それより! 私、最近ブラがきつくなっちゃって、お店で測り直して貰ったらちょっとだけど大きくなってたの!」
「この裏切り者ぉぉぉ!!!」
「ひやあぁぁぁ?!」
「み、美空ちゃ~ん! 落ち着いて~! 私が悪かったわ~!」
* * *
――その頃。
「フレイスヴェルグ、あんたとはいつか『決着』を付けなければいけないと思っていたわ……」
「ふっ……叢雲ごとき、ヴェルグちゃんの敵ではないということを今一度教えてあげなければならない」
鋭い眼差しの叢雲、その視線は真っ直ぐフレイスヴェルグを貫いている。一瞬の後、叢雲はAIの機能を全集中させ、右手の人工筋肉をあたかも引き絞られた強弓かのように震わせた。
「サァーッ!」
「あ、叢雲さんまたネットです。二回連続ネットなので次はヴェルグちゃんさんのサーブですよー」
叢雲たちがやっているのはドールサイズのミニチュア卓球……温泉施設にあるためドール用ピンポンと言ったほうが適切か。ミニチュアサイズの卓球台とラケット、そしてピン球とはいえ、それぞれが専門メーカーが製造してあるため見掛けだけのものではなく、こうして実際にドールが遊べるように作られている。
「だから何度も言ってる。叢雲は弱い」
「この私が……?! 嘘よ、ありえない!」
「もう0-9で、このセット取られたら叢雲さんの負けですよー。というか私もピンポンやりたいですよー!」
「だまらっしゃいアルテミス! この私が負けるなんてこと、あってはならないのよ!」
「アルテミス、次はヴェルグちゃんとピンポンすることを提案。叢雲は隅っこで一人反省会を開くべき」
ドール達はドール達で、それぞれマスターがいない時間を楽しんでいたのだった。
~湯けむり旅情編~
完?
諸事情によって、本編は4月から再開の予定デス!
次回も幕間の予定デスが、もうちょっと待っててくれデス!
あと、出来ればポイントも入れてくれるとすっごく嬉しいデス! よろしくお願いするデス!




