28ー2
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「今のチームは強かったわね〜。ドールのチームワークが良いのかしら〜?」
「それもありますけど、私の目には武装の完成度が勝敗に影響したように見えますね」
真理と美空が他チームのバトルを観戦しつつ、その戦いっぷりを評価していた。
既に何チームものバトルが終わったが、そのどれもが全国レベルに相応しい内容の戦いだった。それをしっかりチェックするのは何よりのレベルアップに繋がるし、マスターの指示出しや相手の作戦を見極める能力も大事だ。
「んあ……んー、だいぶ寝ちったようデスね……」
「あ、先生おはようございます、っていうかもすぐ夕方になっちゃうんですけど。お水どうぞ」
「全く、だらしないわね……いや、部屋からしてだらしなかったわね」
「お、吹雪にしては気が利くデス。あと叢雲、黙っておくデス」
ようやく起きた先生はすっかり回復したようで、顔にはいつもの生気が戻っていた。メタルフレームの眼鏡を掛けながら吹雪にもらったミネラルウォーターのペットボトルを一気に半分ほど飲み干し、豪快に手で口元を拭う。
「今日の試合はどこまで進んだデスか?」
「えっとね~? あら、次で終わりみたいね~」
「今日最後のバトルってことは……シューちゃんの!」
「ええ、吹雪さん。次は黒風白雨の試合です」
ディスプレイの向こうにはいつものクールな表情をした秋華が映っていた。そしてその手元には陽炎が。
「あー、言っちゃ悪いデスけど……相手のチームの実力じゃあ手も足も出ないデスねー」
「うーん、私も先生に同意ですね~」
「右に同じ」
黒風白雨の対戦相手は決して弱くはない。ただ、黒風白雨と実際に戦った真理と美空からすれば先生の言葉に納得をせざるを得ない。
「あ、あはは……まぁシューちゃんと陽炎、強いしね」
「フン、以前の私ならいざしらず。次に戦うときはギッタンギッタンのボコボコよ!」
陽炎の顔を見て、怒りを思い出し何故かシャドーボクシングをする叢雲。闘志が挫けるよりはマシではあるが、少々気負いすぎな気もする吹雪だった。
「そういえば神代さん、あなたの幼馴染なんですって? あのチームの娘と」
「ふぇ? あ、はい、そうなんです。八雲秋華っていって、小学校の頃の友達なんですよ、生徒会長さん」
「へぇ……。私も予選大会の試合は見ていたけど、なかなか強いチームじゃない。昔からやっていたのかしら?」
「あー、どうなんでしょう? シューちゃんのチーム、全然公式のデータベースに残ってないし、ネットでも情報が殆ど無いんですよね」
「ふーん? 秘密主義なのかしら? ねぇ、昔の八雲さんってどんな人だったの?」
「む、昔? えっと、そうですね……」
吹雪は突然の質問に少し戸惑いながらも、丁寧に記憶の糸をたどっていく。小学校の、それも低学年の頃の記憶は大抵が曖昧だったりうろ覚えなものだが、吹雪にとって秋華との思い出はどれも鮮明に蘇る。
「あ、シューちゃんはですね、とっても負けず嫌いなんです! 二年生に上がったばかりだったかな? 学校でカードゲームが流行ったんです。で、私とシューちゃんも後から始めてみたんですけど、やっぱり先に始めた子には勝てないんですよ。向こうの方がルールや戦い方をたくさん知っているから」
「あぁ、ああいう戦略が大事なゲームは知識の有無で勝敗に差が出るわね」
「それにまだ小学二年生ですしねー。私も全然勝てなかったけれど、カードのイラストが好きだったから負けても平気でしたけどね。でも、シューちゃんは家で密かに特訓してて……気がつけば学年で一番強くなってたんですよ」
「なるほど、という感じね。BDGに関しても情報が全然集められないというのは、彼女が影の努力家だからかしら」
「はっ?! そうだったんですか?!」
「半分当たり、もう半分ハズレって所デスね。私の見立てでは。モグモグ」
と、吹雪が買っておいた焼きそばを食べながら先生が割り込んでくる。いつもなら注意してくるはずの真理はディスプレイで試合観戦に夢中となっていた。
「先生、半分ハズレとは?」
「うむ、生徒会長。その説明をする前にアレを見るデス」
先生がビシッと割り箸を向けた先には、真理と美空が食い入るように見ているディスプレイが。
「えっと、黒風白雨の試合……?」
「あ、陽炎が戦ってる!」
「シャクだけれど、やっぱり強いわね……あの陽炎とかいうドール」
叢雲としてはそう簡単に認めたくはないが、やはり陽炎をはじめとした黒風白雨のドールは強い。今も、対戦相手のドールを各個に追い詰めている最中である。
「って、あれ? この試合ってついさっき始まったばかりじゃなかったっけ?」
「そうよ~吹雪ちゃん。陽炎ちゃんと不知火ちゃん、黒潮ちゃんが散開してそれぞれが強襲を仕掛けたのよ~」
「電光石火の展開ですね。ここまで一方的かつ、迅速な戦いは見たことありません」
試合を最初から見ていた真理と美空は簡単に解説してみせる。それによれば、黒風白雨側は試合開始と同時に敵陣奥深くへと侵攻したらしい。その接近を察知した対戦相手はすぐに迎撃体制を取るも、一気に懐へと攻め込まれ、後手に回る展開を強いられたという。
「一対一の状況だと勝てる要素が見つからないわね。あなた達が予選で負けたのも納得出来るわ」
「くっ……実際そうだったから反論できないわね……!」
「おお、叢雲が成長している……じゃないや、先生、この試合とさっきの話がどう繋がるんですか?」
「あくまで私の考えデスけどね。吹雪の幼馴染が負けず嫌いの影で努力するタイプ……まぁそれは間違ってないかもしれないデス。でも、それ以上に黒風白雨がネットにも公式データにも記録を残さない理由は一つしかないと考えているデス」
「……あ、私、なんとなく分かった気がします」
「あら~、流石は美空ちゃんね~。私は分からないわ~」
「うう、叢雲、なんだと思う?」
「わ、私に聞かないでよ!」
「先生、早く答えを教えてくれてもいいんじゃないかしら?」
「生徒会長もギブアップみたいデスし、教えてやろうデスかね。それは……データを残すことで対戦相手にその情報を解析されるのを防ぐ為、デスよ」
「……???」
「えっと、つまりですね、吹雪さん。黒風白雨の皆さんはバトル内容から武装性能やドールの癖、基本戦術を予測され、対策されるのを嫌っているというわけなんです」
「ああ、なるほど! ……それってまずいの?」
「過去のデータから相手の戦力を測るのは上級者にとって当たり前よ~吹雪ちゃん~」
「だから極力、この大会の日までデータをひた隠しにした……と。それにしては少々気にし過ぎな気もしなくはないですが」
「いやいや生徒会長、それがそうもいかんデス。何故なら黒風白雨のドールは長時間戦うと弱点が露呈してしまうんデスよ」
先生がピッと割り箸を教鞭のように振り抜く。それと同時にスピーカーから大きな歓声が聞こえてきた。バトルの勝敗が決したのだ。
「あ、シューちゃんたちが勝った!」
「試合時間は……私達の時の半分も掛かってませんね」
「まー、あのチームの実力ならこれくらい朝飯前デス。そして、こうまで短期決戦をする理由、それは――――――――だからなんデス。この試合運びを見て確信したデス」
「えー? 本当ですかー?」
「……いいえ吹雪ちゃん、先生の言ってる弱点は案外あたってるかもしれないわ~」
「そうですね、それならば予選大会での行動もある程度は説明できますし」
「へぇ、流石は先生ってところかしら。よく気が付きましたね」
「ふっ……伊達や他に暇で手の空いてる教員が居なかったとかそういう理由でBDG部の顧問をしてるわけじゃないんデスよ……!」ドヤァ
「他に暇で手の空いてる教員が居なかったんですね……」
ドヤ顔をかます先生に吹雪らは黒風白雨の弱点とその対策について話し合う。降って湧いた貴重な情報、これを活かさない手はない。だが、叢雲はただじっとディスプレイを見つめていた。そこには勝者の余裕なのか、それとも先生が言ったように弱点とやらを隠すためなのか、颯爽とバトルフィールドから去る秋華と、陽炎の後ろ姿が映っていた。
「フン、弱点だとかそういうのはどうでもいいのよ。次こそは絶対に勝ってみせるわ」
並々ならぬ決意と真紅の瞳が、ただ真っ直ぐに陽炎を射抜く。
黒風白雨との戦いは決勝戦、ブロッサムメイツはあと二試合を勝ち抜かなければならない。明日の対戦相手はチーム・マジカル☆ミラクル♡フェリーチェ。戦う理由は数あれど、どのチームも優勝を目指すのは変わらないだろう。
勝ち上がったチームと観客の熱気が移ったかのような蒸し暑い夜になる。




