27ー3
27ー3
「チッ! シッ!」
迫りくる直刃を裏拳の要領で逸らす光龍。その弾いた反動で叢雲の正面へと大型クローを叩き込む。
「っこの!」
それを予期していたのか、片足で踏ん張ることでギリギリ躱してみせる。
一進一退、光龍はほとんど無手に近い状況ながら、剣を振るう叢雲と互角以上に渡り合っている。実際の人間同士でも、ドールのバトルにおいても無手、あるいはリーチの極端に短い側は武器を持つ側よりも不利である場合が多い。しかし、光龍はその差を己の空手のみで埋めているのだ。
「……?」
そんな彼女が思わず攻撃の手を止めてしまう。ブロッサムメイツで唯一、彼女と接近戦でやり合える叢雲が後方へと退き、代わりにフレイスヴェルグとアルテミスが前衛として立ち塞がってきたからだ。
「失礼ですが、あなた達二人は接近戦および格闘戦に向いている武装とは思えません。わざわざやられにきたのですか?」
「やれやれ……ヴェルグちゃんの実力も知らないドールはこれだから」
「た、確かに接近戦は苦手ですけどっ! 真理の為にがんばりますっ!」
『光龍、敵さん何か企んでるみたいっす。速攻で倒して、あの剣使いを仕留めるっす! 可動限界も心配だし!』
「……了解!」
背部の大型ブースターを点火し、一気に距離を縮める光龍。一瞬の踏み込みにフレイスヴェルグとアルテミスは反応も出来ず、彼女の拳が腹部に叩き込まれた。
「……?!」
かに見えた。が、光龍のその拳は何の手応えもなく、ただただ刃物のような爪が空を斬り裂いたに終わった。
「ふふふ……ヴェルグちゃんの分析力を舐めないでほしい」
そこに居たはずのフレイスヴェルグがどこにもいない。この一瞬のうちにどこへ隠れてしまったのか。光龍とマスターの辰子は知る由もないが、フレイスヴェルグは先刻からミーミルの眼による攻撃動作の分析を行い、最初の一撃だけは回避する自信があった。ただし、その後の連撃はどうしようもないので、回避動作にフェイントを織り交ぜ光学迷彩マントを羽織ることを思いつく。
こういう格闘戦を得意とするドールは撹乱や欺瞞系の行動に弱い傾向にある。バトル慣れしているAIであれば即座に対処できるだろうが、一瞬だけぎょっとするのはどんなドールでもなかなか抑えられない反射のようなものだ。
「せりゃあ!」
そこへアルテミスがオリオン・ボウをアーチェリーモードに変形させながら接近していく。こちらのほうが取り回しが良く、万が一の接近戦にも対応出来るのだ。まるで戦国絵巻に登場する女武者もかくや、という奮迅ぶりで次々と射る。
しかし接近戦が苦手なアルテミスではどうしても動作と動作の隙が大きい。そのカバーとしてフレイスヴェルグの攻撃型ドローン、バルドルとヘズが援護射撃を敢行する。背後や頭上といった対処しにくい方向から執拗に狙うが、光龍は意外にもそれらの攻撃を丁寧に捌いていく。
「弓……なかなか面白い」
飛来するビームを片方の手甲で弾き、反対の拳でクローを叩き込む。アルテミスの重厚な装甲に大きなキズが入り、思わずたたらを踏ませた。
「っ、私の装甲はそんなもんじゃ貫けませんよっ!」
「見た目よりも堅い……でも」
大型クローが効かないなら、別のやり方がある。光龍はクローを手甲に反転させ拳を突きだす。そしてナックルパートが強化された拳をアルテミスへとお見舞いしたのだ。
「ぐぅ……! な、なんて重いパンチ……!」
いくらアルテミスの装甲が分厚いとしても、その衝撃までは完全に防ぐことは難しい。ましてや、光龍の空手はそのような重装甲相手を想定した打撃方法も体得していたのだ。
『すっげ、あのドール見た目よりもタフっすね〜!』
『おいコラ辰子ォ! 遊んでねぇでさっさとカタ付けな!』
『ぶちょー、負けたあーしが言うのもなんだけど〜それ後輩へのパワハラぢゃね?』
『うるッせェ! ごちゃごちゃ抜かすな!』
『あ〜も〜、そーいうのが部員寄り付かないゲーインなんだってばー。ウチの部、ゆーれい部員何人いるか知ってんの〜?』
先程まではフレイスヴェルグの「ぶいっ!」に脳髄をヤラれていた部長もすっかり復活していた。辰子は左右からの怒声を聞き流しながら、バトルフィールドを見つめ直す。
(叢雲とかいう剣使いは後方で何してるっす……?)
接近戦に持ち込みさえすれば、フレイスヴェルグとアルテミスは敵ではない。唯一厄介な存在は、あの剣片手に多彩な攻撃を繰り広げる叢雲だけだった。
* * *
「吹雪、あとどれくらい?!」
『もう……20秒!』
「早くしないと、二人が……!」
アルテミスとフレイスヴェルグが時間を稼いでいるが、傍目にはやはり不利な戦いだ。本来であれば、万全な状態のフレイスヴェルグなら有利に立ち回れるのであろう。彼女が得意とする空中戦および分析能力が十全に発揮できれば、光龍のような格闘タイプのドールは文字通り手も足も出ない。
アルテミスにしてもその火力であらゆる敵を粉砕していくのだが、二人共これまでの戦闘で負ったダメージと損耗がある。さらに言えば、光龍は己の得意とする戦場を構築している。つまり、この場を支配しているのだ。
「かはっ……?!」
その時、宙を黒い影が墜ちる。
「フレイスヴェルグ?!」
「うう……ヴェルグちゃんはここまでのよう……あとは頼んだ。きゅう……」
マスターブースに設置されたディスプレイの一つ、美空が見ている画面に大きく撃破の赤い表示が。フレイスヴェルグが撃破されたのだ。
「吹雪!」
『よし! いけるよ、叢雲!』
その場から弾けるに駆け出す。目指すは、光龍の喉笛。
「……?! もうエネルギーが!」
「万全な状態だったら危なかったけど、これでおしまい!」
オリオン・ボウを裏拳で払い除け、アルテミスの懐へと潜り込む光龍。次の瞬間、数発の衝撃がアルテミスの素体を貫通する。そして、ぐったりと彼女は地面へと倒れ伏してしまった。
「こんのぉ!」
「来ましたね!」
一気に振り下ろした刃は、しかして白刃取りで受け止められてしまう。だが叢雲はそのままフリーとなった正面へと蹴りを放つ。
「甘い!」
両手で止めた刃を下方に流すようにいなし、叢雲の体勢を崩す。その代わりに天之叢雲剣を手放してしまった。
『叢雲、作戦通りに!』
「分かってるわよ! 十種雲形!」
刀身が青く輝き、光の粒子が叢雲の全身を包み込みはじめた。




