27ー2
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光龍・アドヴァンスドラゴンモードの鋭い膝蹴りが迫る。
「くうっ!」
直後、蹴り飛ばされた叢雲が草原を二回ほどバウンドし、ようやく止まる。
『叢雲?! 大丈夫?!』
「いつつ……何とか平気よ……」
蹴りを食らう瞬間、叢雲は天之叢雲剣でガードしていたのだ。しかし防御の上からでもそのダメージは大きく、そう何発も耐えられるものではない。
「ふむ……? その剣、叩き折ったと思ったんですが……存外に頑丈ですね」
「フン、この天之叢雲剣をそんじょそこらのナマクラと一緒にしないでもらいたいわね!」
今の一撃で剣もろともに撃破したものと思ったせいか、光龍はそれ以上の追撃をしてこなかった。叢雲も平然とした顔で受け答えするが、しかしその損傷は楽観視できるものではない。
『叢雲、HPはまだ残ってるけど……なるべくなら全部避けて!』
「まったく、無茶言ってくれるわね!」
逃げていてはいずれ負ける、そう判断した叢雲は光龍目掛けて跳躍する。まずは回復したエネルギーで十種雲形・巻積雲を放ち、九つのエネルギー斬撃で牽制した。
「今度はこっちの番よ!」
上方からの唐竹割りに斬り下ろし、着地からの逆袈裟で斬り上げ、さらには高速の勢いで連撃を繰り出していく。流石の光龍も、この一歩退いて丁寧に刃を受け流していく。
「っ……! 流石です、このアドヴァンスドラゴンモードでこうも圧倒されるとは!」
「いちいち嫌味ったらしい言い方ね! 十種雲形・乱層雲!」
手数を増やそうと、叢雲は天之叢雲剣から再度エネルギーを取り込み剣速を上げる。神速にも達する剣戟は無数の太刀筋を生み出し、それら一つ一つを受け流し捌くことが出来ない光龍の装甲表面には傷が時間と共に増えていく。
やはり、と叢雲は確信する。光龍のアドヴァンスモードは攻撃力、防御力が著しく上昇するが、彼女自身の反応速度は変わっていない。だとすれば序盤で乱層雲を使った際、光龍がレイファングを呼び出さざるを得なかったのはこれが原因だ。
恐らく、空手の攻撃モーションやレイファングの制御プログラムに容量を割かれ、こういった瞬間的な判断能力が疎かになっているのだろう。通常であれば空手のワザや受け流しで問題無く対処出来るが、叢雲の握る天之叢雲剣の攻撃速度と手数は完全に想定外なのだ。
「このまま押し切る……!」
「……フンッ!」
光龍の防御を掻い潜り、僅かずつでもダメージが通りだしたその時。彼女の被るドラゴンを模したヘルムが光り輝いた。
「なっ?!」
突然、叢雲の身体を衝撃が襲い、後方へと吹き飛ばされる。しかし、なんとか空中で受け身を取り、クルリと着地する。
「……そういう事ね。さっき、積雲を食らってもピンピンしてるから変だとは思ってたけど」
光龍は空手の型でいう前羽の構えをしつつ、その正面には光り輝くエネルギーシールドを展開していた。レイファングが使用していたものと同じらしく、いや、それ以上に堅固なバリアなのだろう。積雲のビームをほぼノーダメージで抑えられる辺り、生半可な攻撃では突破するのは難しそうだ。
「私の護りは鉄壁です。そして、攻撃も!」
「なら、攻撃する暇を与えなければいい。そう言いながらヴェルグちゃんはアンブッシュを仕掛けたのであった」
叢雲への攻撃動作を開始した光龍に、上空から二条のビームが降り注ぐ。突然の強襲に反応が遅れた光龍だが、そのビームを大型の手甲で弾いた。
「まだまだ! 私もいますからねっ!」
と、タイミングを合わせるかのように遥か彼方から鋭いビームの狙撃が光龍の足元を襲う。弾けた地面に足を取られ、光龍は次の動作が遅れてしまった。
「……別に、頼んだわけじゃないわよ?」
そこにはいない二人のドールに叢雲は話し掛ける。
「全く、叢雲は素直じゃない……そこは感激のあまり泣きながらヴェルグちゃんに感謝の言葉を述べる場面」
「あ、あはは……っと、敵は平気のようですよっ!」
そう言いつつオリオン・ボウを構え直すアルテミス、そして複数のドローンを従えたフレイスヴェルグが叢雲たちの上空で戦闘態勢を取る。
「一人ずつ倒す手間が省けるというものですね。全員でかかってきてください」
「二人共、コイツは私が止めるから! どうにかあの防御を抜いて頂戴!」
天之叢雲剣と大型クローが激しい火花を散らす。二人は同時に飛び出し、そして互いに攻防の応酬を交わし合う。
『アルテミス~、もうライフルのエネルギーが少ないわ~! 正確に射抜いてね~』
『というわけでヴェルグ、あのドールの攻撃パターンを分析。ついでに撹乱して』
『叢雲、ここが正念場だよ!』
三人のドールは返事の代わりに行動で示す。フレイスヴェルグはミーミルの眼を周囲に展開、光龍の動作パターンや攻撃タイミングを観察し、その思考アルゴリズムを割り出していく。ドールのAIは優秀とはいえ、そこには何らかの法則性がある。それを紐解けば攻撃も防御もこちらの思うがままだ。
そしてアルテミスはその場にしゃがみ込み、オリオン・ボウをスナイパーモードのまま狙いを定める。光龍は今、叢雲との接近戦で正面以外の攻撃に対処できないはずだ。僅かな隙を見逃さず、引き金を静かに引き絞った。
「っ……! 嘘、このタイミングでシールドを?!」
だが、オリオン・ボウのビームは例のシールドに防がれてしまった。叢雲の斬撃と同時着弾するよう計算していたが、光龍はなんとノールックでの防御に成功させてしまう。
「何のためにレイファングと合体していると思っているんですか! シャッ!」
「……これはまずい。あのエネルギーシールドはサポートメカ側が制御していると思われる。つまり、攻撃はドールに任せ、竜型のメカは防御に徹するコンビネーションとヴェルグちゃんは推測する」
「それってどういう事?!」
「攻撃と防御で担当が別。隙がまるでない」
「何よそれ! 卑怯……じゃないのよね! もう!」
苦し紛れの一撃を放った叢雲はその反動で後方へと跳躍。一旦間合いを外さねば、光龍の重い連撃は何度も受け流せるものではない。
「くっ……私のミサイルが残っていれば……!」
「アルテミスの全弾発射でもあのシールドは破れるか疑問。ヴェルグちゃん大ピンチの巻」
「なんなのよ、八方塞がりじゃない!」
並のドールであれば数発で撃破する空手、そして鉄壁の防御を誇るシールド。まさに最強の矛と無敵の盾を装備したドールだ。
『武器らしい武器を持っていない事で他の部分にコストを費やしているのね~敵ながら感心しちゃんわ~』
『それにしたってあの火力と防御力は異常です。いや、守りはエネルギーシールドに頼り切っている……?』
『あ、私もそれ思った! たぶん、物理的な攻撃は空手の防御法で防いで、ビームなんかはあのシールドで対処してるんじゃないかな?』
吹雪の直感はほぼ当たっているのだろう。もともと必要箇所しか装甲を纏っていない光龍は、アドヴァンスドラコンモードになっても増加装甲を最低限しか身につけていない。それは彼女のバトルコンセプトが徹頭徹尾、空手による攻撃主体となっているからである。
『ということは〜、シールドさえどうにかなればダメージが与えられるって事かしら〜?』
『いえ、あのエネルギーシールドがなくても、空手をベースにした防御術はかなりのものです。それを無効にするには、ビーム兵器やミサイルなどの飽和攻撃しか手段は……』
とは言うものの、すっかり弾薬を使い果たしたアルテミスに、火力は期待出来ないフレイスヴェルグ。唯一、叢雲の十種雲形ならば可能性はありそうだが、彼女が前衛として光龍を牽制し続けなければ今の均衡は容易く崩れてしまう。
『美空、真理センパイ、少しの間……あの子を抑えられます?』
『……何か考えがあるのね〜? 吹雪ちゃん』
『そうですね、ヴェルグとアルテミスさんは接近戦が不得手……長く見積もって一分といったところでしょうか』
『よし、イチかバチかの方法……試してみよう! まず叢雲の……』




