第二十七話「私は……私達は必ず勝つのよッ!」
第27話
フレイスヴェルグ対ワイヴァーン。ワイヴァーンは撃破されたものの、フレイスヴェルグの残りHPは五割強……? 弾薬やエネルギーはさほど減ってはいないみたいっすけど、かといって余裕があるほどでもないっす。厄介なのはあのドローン群。
アルテミス対グレネーデ。互いに最大火力を投射し合った結果、僅差でアルテミスの勝利っすね。ただし、弾薬はほぼ尽きており手持ち火器のビームライフルが残り数発といったところ。装甲が厚く、見た目よりもHPは残っていると見たほうが良いっす。
(部長も副部長もやられたっす……敵チームは侮れない実力!)
チーム・Xドラグーンの最後のメンバー、佐久川辰子は内心、このバトルを楽しんでいた。
(二人共、普段の行いと言動がアレな人っすけど、バトルドールの実力は十分に全国レベル……それが一対一で負けるのは信じられないっすが……やっぱり相手も全国レベルってことっすね)
辰子の評価通り、部長も副部長も筋金入りのマスターであり、ドールのカスタムも歴代優勝チームにひけは取らないほどだ。実際、何年か前の全日本大会などでは彼女らの部活OBが優勝、あるいは表彰台に上がる伝統あるチームだったりする。
その下地があってなお、圧倒される強敵が目の前にいる。それだけで辰子は身震い……いや、武者震いがする思いだ。
「ち……ぃやぁっ!」
突風のような二段蹴り。それを紙一重で躱す叢雲は肝が冷える。
「あ、危なっ! ちょっとアンタ! 今、私の事を殺すつもりで蹴ったでしょ!?」
「せぃ、やぁっ!」
「?! へ、返事くらいしてもいいでしょうが?!」
光龍は聞く耳持たず、といった感じでさらなる連撃を繰り出していく。彼女の手足は小型の手甲とショートブーツ風な装甲のみのシンプルなスタイルだ。だが、その見た目に惑わされてはいけない。
光龍の手足はマスターである辰子特製の強化骨格を内蔵してある。通常の素体よりも強靭かつしなやかに動作する骨格と人工筋肉の組み合わせは人体と同等、いや、それ以上のパフォーマンスを発揮する。その恐るべき身体能力から放たれる空手の一撃は、もはや凶器のレベルにまで達していた。
「チィェストォ!!!」
「ヒィ?! っこの、調子に乗るんじゃないわよ! 十種雲形!」
かすっただけでも致命傷になりかねない逆突きを剣で受け流す叢雲。彼女の性格からして、ただ防戦に徹するのは性に合わない。
「巻積雲!」
後方へのステップで光龍との間合いを広げ、淡く光る天之叢雲剣を大振りに振り抜いた。十種雲形・巻積雲は九つの小さなエネルギー斬撃を正面に放出する技だ。一発の威力は低いものの、回避や防御されにくいのが利点である。
だが。
「レイファング!」
龍のシルエットが九つのエネルギーの前に立ちはだかる。光龍のサポートメカ・レイファングは自身の正面に強固なエネルギーシールドを展開、巻積雲を全て受け止めてしまった。
「くっ……やっぱり厄介な存在ね……!」
先程から同じ事の繰り返しだ。光龍自身は一撃必殺の空手を繰り出し、相手の強力な攻撃はレイファングが防ぐ。さらに完璧な連携で戦闘の主導権を手放さない。これが光龍とレイファングの戦法だった。
「あなた達は確かに強い……が、これはチーム戦。例え他の二人が敗れても、最後に私が勝てばいい」
現状、ドラグーンは光龍が最後のドールとなっており、傍から見ればピンチのハズだ。しかしフレイスヴェルグもアルテミスも、先の戦闘によるダメージと損耗は大きく、まともに戦うのは難しいだろう。それに加え超接近戦を得意とする光龍相手に、二人の相性は最悪と言っても差し支えがない。
「フン、そんな大言壮語はこの私を倒してからになさい。吹雪、エネルギー管理よろしく!」
『りょーかい! 大技ぶっ放しちゃえ!』
天之叢雲剣を正眼に構えた叢雲は一つ深呼吸をし、狙いを定める。剣の鍔部分に嵌め込まれた青く透明な宝石が強く、強く発光しだす。
「十種雲形! 積雲!」
「?! レイファング!」
刀身が砲身代わりとなり、激しい閃光と衝撃を伴った極太のビームが一直線に駆け抜ける。十種雲形・積雲は剣に蓄えられたエネルギーの大部分を消費し、高威力のビームを撃ち出す。それをまともに食らって無事でいられるドールは、まずいない。
やがてビームの射出が終わり、天之叢雲剣はその輝きを静かに失う。光龍のいた着弾地点はもうもうとした土煙に覆われ、彼女の様子は全く窺い知れない。
「……! 嘘でしょ?!」
「正直、驚きました。判断が少し遅れていれば、私の負けでしたね」
ざっ、と一歩を踏み出す光龍。だが、その姿は先程までとは異なっている。
彼女の両腕には大型クロー、胸や脚部には強固な装甲。そして、その頭部にはドラゴンを模した兜が。
『えぇっ?! あの竜とドールが合体しちゃってるよ?! 殆ど無傷だし、どういうこと叢雲?!』
「私に聞かないでよ! 大方、あれが真の姿ってヤツなんでしょ!」
『その通りっす。光龍とレイファングが合体することで、通常よりも戦闘能力を大幅に上昇させた本気モード……その名も、アドヴァンスドラゴン!』
「一回戦目でこのモードになるとは……少々侮っていました。ですが、ここからは私の全力を以て挑みます」
光龍が片足を踏み込んだと思った瞬間、叢雲は咄嗟にその身を屈めた。理屈ではなく、その動きが見えたわけでもない。タダの直感、ドールのAIにあるまじき思考のゆらぎがそうさせたのか、しかしその行動は正しかった。
「セァァァッ!」
なんの変哲もない正拳突き。但し、踏み込んだ地面はあまりの衝撃で砕け、突いた拳はその疾さに音すら追い付けない。
「ちょ……ちょっ! なんて威力なのよ?!」
地面を転がり、続く連撃をどうにか回避した叢雲。だが、その威力、疾さ、総合的な攻撃力は今までよりも段違いのものだ。
『叢雲、一旦距離を取って! 相手は接近戦しか出来ないはず!』
「そうね、その通りだわ!」
後方へ宙返りしつつ間合いを外す叢雲。吹雪の指示は正しく、光龍の戦闘スタイルはどこまでいっても空手そのものだ。それはつまり、飛び道具などの遠距離武器を持っていない事を示している。
『積雲使ったからまだエネルギーが回復してない……もう少し回避に専念して!』
「逃げ回るなんて、私の性に合わないけど……仕方ないわね!」
そのまま追撃してくる光龍を躱すため、叢雲は即座に走り出す。幸いというべきか、叢雲は中程度の装甲の他には武装を身に纏っておらず、その動きは敏捷だ。回避と間合いを離すことに専念すれば多少の時間は稼げる。
だが、光龍にはそんな逃げ回る相手への対策も完璧だった。
『光龍、突撃っす!』
「でやぁぁああっ!」
光龍はその場で助走をつけ、叢雲目掛けて飛び蹴りの体勢に入る。しかし二人の距離は離れており、いくら光龍の優れた身体能力と言えど――――
その瞬間、彼女の背面に備え付けられた大型ブースターが点火する。
「嘘っ?! 何よこの加速は?!」
あれだけ距離があったにも関わらず、一瞬にして光龍の膝が迫る。その先端は電磁ステークが装備されており、直撃すれば大ダメージ、かすっただけでも電撃のダメージは免れないだろう。
『叢雲ちゃん!』




