26ー2
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「ミーミルが退いていく……ヴェルグちゃんさんの相手はそれだけ強敵ということですねっ!」
「もし? それではまるで、私との勝負に歯応えを感じていないように受け取れるのですが?」
「あっ、いや、そんなことは……!」
爆音。
破裂音。
そして、破壊の連鎖。
フレイスヴェルグとワイヴァーンの決着が付く少し前、市街地エリアでは今まさに大破壊が巻き起こっていた。
『あらあら~、向こうのドールは凄いわね~』
「ま、真理っ! 呑気なこと言ってないで何か指示をっ! うひゃあ!」
脚部のジェットホバーを最大稼働させながら地面を滑るアルテミス。その周囲をいくつもの爆発が取り囲んでいく。
Xドラグーンの副部長のドール、グレネーデ。彼女の特徴はなんといっても、その火薬庫じみた爆弾系武装の数々だ。試合直前にバト子ちゃんに注意を受け大量の武装を取り外したものの、それでもその火器搭載量は群を抜いている。アルテミスも重武装タイプだが、グレネーデは装甲コストすら削って武器を搭載している有様だ。
「十二連マルチミサイル~いっけぇ~!」
背負った巨大なバックパックから小型の誘導追尾ミサイルが無数に放たれる。それをどうにか迎撃するアルテミスだが、撃ち漏らした一発が至近距離で破裂する。例え、装甲を削ろうともそれで問題ないのだ。圧倒的な火力の前には。
「いったぁ?! いや、ダメージは大したものじゃないんですけど!」
彼女の重装甲では小型ミサイルの一発程度、びくともしない。だが、その手数には辟易させられる思いだ。
『よーしグレネーデちゃん! ガンガンいくし!』
「はぁ~い! マスター! 次はこれ~!」
大量の火器を惜しげもなく撃ち込んでくる。しかもグレネーデの武装は爆発物で統一されているため、大きく回避するか、空中で上手く迎撃するくらいしか対処法がないのだ。
『防戦一方ね~? どうしましょうか~?』
「うぎぎ……でもこのホバー、すっごく速く移動できるので助かりますっ! これなら回避も楽ちんですっ!」
飛来するいくつものグレネード弾を肩のマシンガンで迎撃しつつ、アルテミスは滑らかな機動で回避運動を取る。いくら彼女がタフな重装甲ドールでも、以前までのように徒歩で移動していてはこの猛攻の前にあっけなく撃破されていただろう。
『先生には感謝ね~あのパーツ、だいぶ使い込んであったけどすっごくメンテされてたわ~』
アルテミスはホバーの出力を細かく増減させつつ、自身の体重移動とタイミングを合わせることで氷上を華麗に滑るアイススケーターのような動きで飛来する榴弾を避けていく。それでいて上半身は安定しているので射撃には影響しないという、まさに彼女にうってつけの装備だった。
『と、いうわけで~! アルテミス、攻め手で負けてちゃダメよ~、こっちも全火力をあの子に集中させなさい~!』
「ふぇ?! りょ、了解ですっ!」
真理の指示に驚きながらも、アルテミスはその場で大きく跳躍する。半壊したビルの屋上に着地すると同時に、オリオン・ボウ、全身のミサイルコンテナ、肩のキャノン砲、迎撃用マシンガンを一斉に起動させた。
「いっきますよ~!」
無数のマイクロミサイルが白煙を引きながら飛翔していく。その隙間を縫うようにマシンガンの弾丸、オリオン・ボウのビーム、そして榴弾が追い越していった。それらはグレネーデが発射したミサイル群やグレネード弾と互いにぶつかり合い、ちょうど二人の中間点で誘爆がいくつも巻き起こってしまう。
「うひゃあ!」
「うふふ、すごいですねー。まるで花火みたい。た~まや~!」
爆風と細かい破片がいくつも飛び散り、アルテミスは思わずその場から逃げ出したくなる。が、ぐっとその気持を堪え、掃射の手を緩めない。
「ふんぬ! まだまだ弾薬はあるんですからねっ!」
見る見る間に残弾数を示すゲージが無くなり、そのタイミングを見計らって真理は手元のタッチパネルを操作する。すると、バトルフィールドにいるアルテミスの足元に予備の弾薬パックが現れた。こうやって余った武装コスト分は予備の弾薬や武装として任意のタイミングでドールの下へ送ることが出来るのだ。
その弾薬が詰まったパックをアルテミスは脚で蹴り上げ、それと同時に撃ち尽くしたミサイルコンテナをその場でパージ。身体をクルリと独楽のように回転させて背部に新しいコンテナを換装させた。また、空中にばら撒かれた弾倉をそのままキャッチ、慣れた手付きでオリオン・ボウの空になった弾倉と交換する。
「まだまだまだまだぁ!」
辺りには空になった弾倉やコンテナ、マシンガンの薬莢が積み上がっていく。それでも相手の弾幕は凄まじく、時折すり抜けてきたグレネード弾が近くに着弾する。
「っぐ!」
爆風で空のコンテナが吹き飛ばされるが、アルテミスは少しもひるまない。歯を食いしばり、引き金を引く指にさらなる力を込める。ここで退くと押し負ける。
もう市街地エリアのこの一角は既に廃墟と化し、コンクリート舗装の地面はいくつものクレーターが大小問わずに掘り返されていた。数多くの破片や飛散物は近くの物体を容赦なく穿ち、爆風はその暴力的な圧力でもって一切合切をなぎ倒す。そして耳をつんざく轟音はどこまでも駆け抜け、地を揺るがした。
『っはー! やるねぃ、あっちのドールちゃんは! それでもウチのグレネーデちゃんは負けないし!』
「はい~! 勝利の花火を打ち上げましょう、マスター!」
無限に続くかと思われたアルテミスとグレネーデの砲撃戦は、しかして突如として終わりを告げた。
「あらぁ、もう弾切れですの?」
『うげ、まじ? うーわ、予備の弾薬も全部使い切っちった。どーしよグレネーデちゃん?』
「もう、マスターがちゃんと残弾の管理してくれないからですよ~? でも、久々にこれだけの量を撃ち尽くしたので私はもう満足ですの~」
『お、グレネーデちゃんもそう思うー? やっぱ火薬はマジバイブス上がんよね! 昔の人も言ってたじゃんよ、爆発は芸術だって!』
弾薬が尽き、攻撃方法が無くなってしまったはずのグレネーデは何故だかやりきった表情を浮かべる。彼女は砲戦に特化しすぎた武装構成のため、常に残弾には気をつけて継戦しなくてはならないはずなのだが、大抵のバトルではその大量の弾薬を使う前に倒すか倒されるかされてしまう。なので、マスターもグレネーデもここまで派手に撃ち合える相手を前に舞い上がってしまっていたのだ。
「そういえば、お相手の方はどうされたんでしょう? 向こうも弾切れでしょうか~? んー、煙で何も見えませんねー」
『そーいやそうねー。それかグレネーデちゃんの爆裂アタックで倒しちゃったかもよ? ヒュー! やるぅ!』
「そんなわけないでしょっ!」
二人の会話を遮るかのように、一条のビームがもうもうと立ち上る土煙の向こうから放たれた。
「きゃあ?!」
「このアルテミス、あなた達のように残弾管理をミスる事などありえませんっ!」
そこにはジェットホバーを吹かしながら一直線に突っ込んでくるアルテミスが。装甲のあちこちはススで黒く汚れ、それなりのダメージを負っているらしい。だが生き残っている武装を使わないところを見るに、彼女も弾薬はほとんど尽きてしまっているだろう。
『おいおい、マジぃ?! っちょ、グレネーデちゃん逃げて逃げて!』
『アルテミス、決めちゃいなさい~!』
「逃しません! 最後の一発! バースト・モード!」
アルテミスは手にしたオリオン・ボウを一息に変形させる。長い銃身が上下に分かれ、アーチェリーのような形状となり、番えたビームの矢がその輝きを増していく。
「はぁ、はぁ……もう、武装が重いんですのっ! マスター、これパージとか出来ませんの?!」
『いやだって、グレネーデちゃんがそんな機能いらないって言うから付けてねーし!』
「あぁーん、そうでしたわー! 私のバカバカー!」
そんな漫才を繰り広げている間にアルテミスはビームの矢を上空へと放つ。放物線の最頂点でビームは無数の小さな矢へと分裂し、よたよた走るグレネーデへと降り注ぐ。
「いやーん! あ、でも今回は自爆せずに済みましたわ~」
『今回は弾薬使い切ったしねー。いつもいつも爆発オチじゃねーし!』
一発一発は小さなダメージにしかならないが、対するグレネーデの装甲はほとんど見た目だけのものだ。過剰な武器にコストを吸われ装甲や補助機能にまで余裕が無い、そう判断した真理とアルテミスはこの一発に賭けたのだ。
「……勝ちました! 見てましたかっ真理!」
『お疲れ様~、よくやったわねアルテミス!』
ぐったりと倒れ込んだグレネーデを背に、ぴょいぴょい飛び跳ねるアルテミス。そんな彼女に労いの言葉をかける真理。
フレイスヴェルグとアルテミスがそれぞれ勝利し、残る敵ドールは一人。まさにブロッサムメイツが王手を掛けた状態になった。しかし、勝ったとはいえ二人共ほぼ満身創痍といえる状態であり、決して楽観視できるような状況ではない。
そんな中、フィールド中央。草原エリアと市街地エリアの境目では叢雲と光龍の激しい戦闘が繰り広げられていた。
「チッ! シッ! はぁあああ!」
鋭い正拳突きが空を切り裂く。それと同時に大きな爪がアシストする。
「くっ、この! 2対1なんて卑怯じゃないの!」
前方からは光龍の空手が、後方には彼女のサポートメカ・レイファングが的確に援護する。そのコンビネーションを叢雲はどうにか捌いていた。
「卑怯も何も、この子は私の友達。あんたのとこのドールだって、ドローンいくつも使ってるじゃない」
「……そういえばそうね?」
改めて考えると、別にルール違反でも何でもないこの戦法にナルホドと思わず手を叩く叢雲。だが、そんな隙も逃さないとばかりに光龍はハイキックを繰り出してきた。
「ちょ! あっぶないわね!」
「……これを受け止めるなんて……あなた、私と私のマスターと一緒に空手やらない? 今ならドール用特製道着のお金タダにするから」
「ぜっっったいに嫌よ! 十種雲形・巻層雲!」
叢雲はその場でくるりと独楽のように回転、天之叢雲剣から伸びたビーム刃がまるで回転ノコのように周囲にあるもの全てを切り裂く。だが、レイファングが光龍の前に割り込み、展開したエネルギーシールドで巻層雲を防いでしまった。
「まぁいい。さっさとあなたを倒す。レイファングと、この私が!」
「フン、私達がこんな一回戦で負けるはずないでしょう? 身の程を思い知らせてあげるわ!」
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