第二十五話「ふ……面白いじゃない。それでこそ、この叢雲の相手が務まるというものよ!」
第二十五話
「ふぅー、ようやく到着したデス!」
「全く、先生ともあろう人が遅刻するなんて……!」
電車の車両から飛び出すように出てくる先生と桜が丘第一高校生徒会長、成実直子。二人が向かっている場所はもちろん。
「お、何か美味そうな匂いがするデス……徹夜明けの空きっ腹に沁み入るデス……」
「ちょっと先生。買い食いしてる時間はありませんよ、もうそろそろ開会式が終わって第一試合が始まる頃なんですから」
「おっと、早く吹雪たちの応援に行かないとデスね!」
先生と直子は急いで吹雪たちブロッサムメイツが激闘を繰り広げるであろう大会会場へと向かっていく。
「あ、でもたこ焼きくらいは……」
「駄目です」
「うう……せめて自販機でエナドリ買わせてほしいデス……」
首根っこをむんずと掴まれた先生は直子に引きずられながら会場入口へと消えていった。
* * *
「真理っ、武装のチェック終了しましたっ!」
「さて、みんな〜? 準備は良いかしら〜?」
大会会場の中央には特設のバトルフィールドが設置されており、その片側にあるマスターブースにブロッサムメイツはいた。
「はいっ! 私も叢雲も準備バッチリです!」
「ちょっと吹雪、はりきり過ぎて変な指示出さないでよ?」
「私とヴェルグも大丈夫です。それにしても……一回戦目の相手はあのXドラグーンですか……」
「うーん、ヴェルグちゃんは猛烈に悪い演算結果しか見えない」
何か思うところがあるのか、美空とフレイスヴェルグはフィールドを挟んだ向こう側、対戦相手の方を見やる。
「あのチーム、この界隈では有名だものね〜」
「真理センパイ、Xドラグーンってどんなチームなんですか?」
BDGを始めてまだ日が浅い吹雪は彼女らについては当然知らず、それを真理たちに聞くのは当然のことなのだが。
「う〜ん……ねぇ? 美空ちゃん?」
「え、えぇ……その、なんて説明したらよいか……」
BDGの事なら大抵の事にスラスラ答えられる二人が珍しく言い淀む。ならばとフレイスヴェルグの方を見るが、彼女も露骨に視線を逸してしまう。
「ええー! 意地悪しないでくださいよぉ!」
「ゴメンね〜吹雪ちゃん。意地悪じゃなくて、あのチームは無茶苦茶で有名、それ以外に説明が難しいのよ〜」
「ん? それって無茶苦茶強いってことですか?」
「いえ、これまでの戦闘データでは累計勝率は三割を超えません。この大会参加チームの中では最下位です」
「Xドラグーンの特徴はね〜? 勝つときは物凄い圧勝なのよ〜。でも、負けるときは……。あ、ちなみに彼女たちが戦った予選ブロックはね〜、奇跡の予選突破って言われてるのよ〜」
「何が奇跡かって、ドラグーンのドールがバトル終盤に引き起こした大爆発で残っていたチームが自分たち含めて全滅、たまたま戦果ポイントの上位に入っていたため本戦進出という有様です」
「た、確かに無茶苦茶だね……」
「……この試合、大丈夫かしら……? それに向こうのマスター、何故かフレイスヴェルグの方を物凄い睨みつけてるわよ?」
叢雲の言うとおり、確かに眼光の鋭いマスターがフレイスヴェルグの一挙手一投足を睨めつけるように見ている。まるで、じっと獲物を狙っている蛇を思わせるオーラすら感じてしまう。
「うう……身体機能の低下を感知……端的に言えばヴェルグちゃんは寒気がする」
――――チーム・Xドラグーン
「……部長、見過ぎっす。相手さんのチーム、めっちゃビビってるっすよ?」
「ハァ……フレイスヴェルグちゃん……カワイイ」
「あー、こりゃダメだわ。ぶちょーがこーなったら頭おもいきりどつかないと正気に戻んないわー」
「うっす。んじゃ部長、失礼します。……セイッッッ!」
辰子と呼ばれたボーイッシュな少女はその場で腰を深く落とし、空手道で言う正拳突きを繰り出す。その拳は疾く、鋭く、そして容赦無く部長の腹部にめり込み、的確に内蔵を破壊する勢いだ。
「ゲフぁ?! オイコラ、辰子ォ! テメェいきなり人ぶん殴るとはどういう了見だコラァ! そもそも、オメェの拳は何人もの空手家をブチ殺してきた兇器だってこと自覚してんのか?! ア゛ァ゛?!」
「やだなーコロシはまだやってないっすよ。せいぜい病院送り半年ってところっす。それに、副部長が殴れって言ったからっす。先輩命令っす」
「え゛。いや、ほら、あーしは何も言ってねーし? たっちゃんが勝手にしたことだし?」
軽いノリと言動の黒ギャル副部長は明後日の方を向きながら口笛を吹いて誤魔化す。おおよそ模型製作やBDGとは無縁そうな見た目の彼女だか、よく見てみればその指先には丸い突起のようなものが見て取れる。それがペンダコならぬ、エアブラシダコだということは一部の人間にしか分からない。
「チッ……まぁいい。辰子と副部長のケジメは後にしてやる……そろそろ時間だしな」
恐ろしい剣幕の部長は一瞬にして表情を切り替える。辰子の割と本気な殺人パンチを腹筋だけでガードしてみせたり、|とても堅気の人間とは《まるでヤの人にしか》思えない近寄りがたい雰囲気を醸し出す。
彼女たちこそが、県立龍ヶ島工業高校BDG部。実はバトルドールが世間的に流行する以前から名のある大会には参加している、とりわけ古株の部活チームだ。工業高校だけあって、歴代の部員は総じて工作・技術力が高く、辰子たちも例外ではない。
「それでは皆様! 第一試合、開始の時間が近づいてまいりました! っと、その前に……」
会場の中央に現れた巨大なマスコットキャラクター、バト子ちゃんのホログラムが人間大のサイズになりXドラグーンの方へと浮遊するかのように移動する。
「そこのドール! その武装はレギュレーション違反ですよ! 明らかに制限コストをオーバーしているので、速やかに武装を適正にしてください!」
バト子ちゃんがピピーっとホイッスルを鳴らしてイエローカードのようなものを取り出して警告する。おまけに服装はいつの間にかサッカー審判のそれに変化している凝りようだ。
「……」
「……」
「まーたぶちょーが変な武装取り付けてんのー? もー、いい加減にしてっつーの!」
「いやあの、貴女のドールなんですが……えっと、登録名グレネーデさん」
辰子と部長はやれやれと言わんばかりにうなだれ、バト子ちゃんすら呆れ返っている。ただ一人、副部長だけ気付いていないのだ。
「へ? いやいや、あーしのグレネーデちゃんのどこか違反してるってんの? あー、まぁ確かに? 可愛さは違反級かもしんねーけど? っちょ、マジウケるw」
副部長のドール、グレネーデ。その姿はまるで――――要塞か、あるいは巨大な火薬庫だった。
全身から突き出た砲身とセンサーはまさにハリネズミ。バックパックは背負うというよりも全身に装着、あるいは乗っていると形容出来るほど。そして、まるで複雑なパズルか何かのように貼り合わされた装甲でドール本体は目の部分以外ほとんど見えない有様。副部長が言う、その可愛さとやらは欠片も見えやしない。
「オイコラ副部長。テメェ、そのゴテ盛りはなんだ?」
「あーこれ? めっちゃイケてんしょ! この16連マルチミサイル×2と超高高度バンカーバスター射出装置、それに爆導索とあーしお手製のグレネードランチャー2門、さらには浮遊機雷に気化爆弾、他にも……」
「いやだから、そのアホみたいに盛ってる武装がダメだって言われてるんすよ。もはや遠目から見たらドールじゃなくて意味分かんない前衛芸術っすよ」
「嫌な芸術だなオイ。こんなギザギザなハートじゃ触れるものみんなどころかマスターさえも傷つけちまう。いいからさっさと外せバカ!」
「ええー?! チョー苦労したのにー?! むむむ、グレネーデちゃんも何か言ってやれし!」
「マスター、私からもお願いします〜。この重武装からは火薬の匂いが立ち込めてとっても素敵なのですが、ちょっと重くて……その、一歩も動けないんですの〜」
「あ、にゃるほど。そりゃダメだわー」
「ま、真理センパイ、美空! あのマスター、急に自分のドール?を分解し始めたよ?!」
「やっぱり〜」
「無茶苦茶なチームですね……」




