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「えー、試合前にちょっとしたトラブルがありましたが……なんとか無事に試合を行えそうです!」
会場のあちこちに設置されたディスプレイにはチーム・ブロッサムメイツとXドラグーンのドール、そしてマスターらが映し出される。本戦大会、その一回戦目とあって観客たちの声援も興奮も最高潮に達しようとしていた。
「それでは、チーム・Xドラグーン対! チーム・ブロッサムメイツ! 第一試合の開始ですっ!」
バトルスタートと同時に会場全体が揺れる。二つのチームを応援する声が反響し合う。その中を、叢雲たちはフィールドを駆けていく。
「さて、天之叢雲剣の初お披露目ね。華麗に勝ってみせるわ」
「疑念。相手はあのドラグーン。まともな試合になる可能性は限りなく低いとヴェルグちゃんは予測する」
「あはは……私もヴェルグちゃんさんに同意です……」
本戦大会でのバトルフィールドは一律で草原と市街地が組み合わさったエリア構成となっている。何も無い草原と、適度な障害物が散在する市街地、どちらもオーソドックスなエリアのため、地形によるアドバンテージを受けにくくチームの実力が顕著に現れると言われている。
そんなフィールドの草原エリアから市街地エリアへと向かうブロッサムメイツ。フレイスヴェルグとアルテミスのセンサーには敵の反応は無く、どこから仕掛けられるか分からない。だが、彼女たちは万全の状態で迎え撃てる自信があった。
『ヴェルグ、そろそろ射出して頂戴』
「分かったマスター。ミーミルの眼、射出」
フレイスヴェルグの腰部コンテナから3つの小型ドローンが勢いよく飛び出す。このドローンは半自律型で、小型カメラ及び各種センサーを備えている。静音性に優れたプロペラを回転させながら三方へとそれぞれ散らばっていくと、フレイスヴェルグは自身のセンサーと同期させた。
以前、黒風白雨の不知火との戦闘時に密かに未完成だったミーミルを使用しその情報収集を行っており、そのセンサー類の性能は折り紙付き。それを美空がステルス性と最大稼働時間を伸ばすことでようやく実戦投入できたというわけだ。
「ふふふ……これでバトルフィールドの半分以上はヴェルグちゃんの監視下に入った……お前たちの居場所はまるっとお見通しだ!」
「この子、時々分からないネタぶっこむから困るのよね」
「叢雲は教養が足りない……そう言っている間に敵機捕捉。一時と十時の方向……??? おかしい、不具合が発生」
『どうしたのヴェルグ?』
「マスター。敵の反応を4つ感知。バトルルールでは基本的に3対3のはず、センサーの故障を提言。 っと、飛翔物も複数感知。こちらへの攻撃と推察」
その言葉にすぐさま反応する叢雲とアルテミス。フレイスヴェルグが敵機を四人分感知したという情報は気になるが、彼女の言う通り誤情報だろう。今はそれより敵からの攻撃に対処するほうが先決だ。
三人は遠く上空を見る。青空に放物線を描くソレは丸っこい砲弾状。だが砲撃音はなく、弾速も遅い。
「グレネードですっ! 皆さん距離を取って!」
いち早くソレが何かを理解したアルテミスは肩の迎撃用マシンガンを起動し、弾幕を張る。上空へと伸びる無数の火線がグレネード弾と交差し、空中で爆発が起きた。
「へぇ、やるじゃないの!」
「私もヴェルグちゃんさんのミーミルと同期してますからねっ! より三次元的に物体を捕捉・迎撃できますよっ!」
「アルテミス、まだ終わっていない」
「ふぇ? あわわ、あんなにたくさん?!」
見れば市街地方面からいくつも放物線を描きながら先程と同じグレネード弾が降り注いでくるではないか。それも一発や二発ではなく、それこそ雨あられの如く。
「こんな量は流石に無理でーす! 一旦退避しましょう!」
空気を切り裂きながら落下してくるグレネード弾。それが一斉に地面と衝突し、次々と爆発と共に無数の子弾を周囲に撒き散らしていった。
「や〜だ、もうおしまい?」
「まだまだ弾薬は残ってるのにね〜?」
市街地エリア、そのビルの屋上に二人のドール。
一人は部長のドール、ワイヴァーン。大きなウイングと大口径ガンランチャー、頭部に生やした角が特徴的な……いや、むしろ扇情的とも蠱惑的ともいえるギリギリな見た目が特徴的な竜人モチーフのドールだ。
彼女はフレイスヴェルグと同じく背中のウイングで飛行可能なドールなのだが、スペック上では最高速度、加速度共にワイヴァーンの方が上回っている。なぜならば、限界まで削り込んだ装甲はもはや装甲として機能しておらず空力カウル、あるいはファンタジー世界のビキニアーマーとでも評される代物なのだ。
そしてもう一人、副部長のドールであるグレネーデ。先程のグレネード弾による先制攻撃は彼女が仕掛けたもの。
その重武装……というよりも火薬庫をそのまま引っ張ってきたかのような火力偏重スタイルは一種の美意識さえ伺える。とにかくミサイルやボム系の爆発物を装備し、マシンガンやライフルはおろか、ナイフの一本も持たないのは困惑を通り越して関心してしまう。
「あらー? でもどうやらあの爆発を切り抜けたようですよ、ワイヴァーンさん」
「へぇ……どうやったのかは分からないけれど……おねえさん、ワクワクしてきたわぁ?」
見れば、爆発の煙がもうもうと立ち込める少し向こう、そこには土煙を上げて高速移動する物体が確認出来た。
「どうっ! ですっ! かっ! これがっ、真理のっ! 作ってくれっ、たっ!」
「分かったから! 分かったから少しは減速しなさい!」
「……なかなかに快適。ヴェルグちゃんはこのままスリープモードに入ってもいい?」
そこには新装備であるジェットホバーで高速移動するアルテミスと、彼女の背中にしがみついている叢雲とフレイスヴェルグがいた。
先生から貰ったというドール用ジェットエンジンをホバークラフトのように改造し、機動力に難のあったアルテミスに装備したのだ。このホバーのお陰でアルテミスは重武装でありながらも高速移動が可能となった。
「っ! 二人共、敵機接近ですっ!」
ワイヴァーンとグレネーデがいる方向とは別から一人のドールが高速で真っ直ぐ突っ込んでくる。それを察知した叢雲とフレイスヴェルグは咄嗟にアルテミスから離れ、戦闘態勢に入る。
「ッやあぁぁぁ!」
「うわわっ?!」
突っ込んできたドール――――辰子のドールである光龍は、黒髪ポニーテールを風になびかせながら一直線に殴る。武器らしい武器は持っておらず、最低限の正面装甲と拳や肘、膝に取り付けられた打撃用アーマー、それに突進用のブースターしか装備していない。
アルテミスは両腕を交差させそのパンチを受け止めるが。
「な、なんて重い一撃……!」
重装甲を誇るアルテミスの装甲がミシリとたわむ。叢雲の大剣、天之羽々斬ですらギリギリ耐えうる装甲ですら止めきれない衝撃力。
「退きなさいアルテミス! コイツの相手は私が引き受けるわ!」
そう言って飛び掛かる叢雲。手にした片手剣、天之叢雲剣が青白い軌跡を残しながら光龍へと迫る。
「チッ! チッ!」
鋭い斬撃がいくつも重なる。しかし光龍は両の手甲を巧みに使い、太刀筋を上手く逸していくではないか。その体捌き、呼吸のようなものを鑑みても、彼女は恐らく空手のモーションを独自にインストールしているようだ。
「叢雲、そちらは任せる。ヴェルグちゃんの相手は……!」
不意にバサリ、と空中を何かが舞う音がする。と同時にフレイスヴェルグは腰部スラスターを全開にして空中へ飛翔すると、さっきまで居た地面が大きく爆ぜた。
「近くで見るとかわいいわねぇ、お嬢ちゃん? おねえさんとイイコトしない〜?」
「……その発言は犯罪者のもの。ヴェルグちゃんは犯罪者と遊ぶ気はない」
「うふふ、そんな事言われちゃうと〜? おねえさんは楽しくなっちゃう!」
右手に持ったガンランチャーを連射するワイヴァーン。放たれるのは大口径故に、一発でも致命傷になりかねない徹甲弾だ。
「ヴェルグちゃんの装甲では防ぎきれない。ならば、全て回避するだけ」
スラスターと大型翼を自在に操り、迫りくる銃弾を躱していくフレイスヴェルグ。そしてコンテナパックから別のドローンを射出する。
攻撃用ドローン、白のバルドルと黒のヘズ。この二つのドローンは偵察用ドローンであるミーミルの眼とは異なり、固定翼機であるため速度と旋回性が高く、機体下部にビームガンと小型空対空ミサイルを装備している美空のお手製だ。
高速で空を切り裂きながらビームガンを交互に連射するバルドルとヘズ。これにはワイヴァーンも一度は退避しなくてはならなかった。
「へぇ、面白いオモチャを持ってるわねぇ。それならオトナの遊び方……教えてあげましょうか?」
「発言がいちいち不適切。ヴェルグちゃんは目標を検閲対象と認定」
次の瞬間、フレイスヴェルグとワイヴァーンは同時に加速、さらにバルドルとヘズも追随し、またたく間にフィールド上空は荒れ狂う戦場と化してしまった。




