幕間・2「武装強化はロボアニメのお約束で花形デス!」
幕間・2
アルテミス。
愛宕真理のドールで、いわゆる重武装、重装甲系のカスタマイズを施されている。その火力は並のドールを文字通り蜂の巣にし、堅固な装甲は大抵の攻撃を受け止める。
その反面、機動力はイマイチで高機動戦闘は苦手とする。
「う〜ん、更なる武装を追加するべきかしら〜? それとも機動性を上げた方が〜?」
「私はどっちでも構いませんっ! 真理の決めた改造方針に従いますよっ!」
「どっちでもいいっていうのが一番困るのよね〜」
BDG部の部室。そこでは真理が本戦大会に向けたアルテミスの強化案を決めかねていた。長所を伸ばすべきか、短所を補うべきか。
トップクラスのマスターとドールは満遍なく能力を配分している事が多く、あらゆるバトルエリア、様々なドールとの戦いに対応できるようにしている。とはいえ、愚直にパラメータを均してしまうと今度は器用貧乏なドールになってしまい、ここぞという場面で苦戦したり、または自分の戦い方を出来ずに負けてしまう。
「今の武装はオリオン・ボウと背部キャノン、迎撃用マシンガン、ミサイルコンテナ……実弾系に偏らせてるから、ビーム系も入れるのはどう〜?」
「うーん、そうするエネルギー管理が少し難しいですよ、真理。予備のコンデンサパックか外付けジェネレーターでもないと」
「そうよね〜。私、エネルギーの消費と回復割合の計算苦手だから実弾メインで組んでるのよね〜」
二人の言うとおり、ビーム系の武装はエネルギー消費が多く、使いすぎるとすぐにガス欠になってしまう。ただ、時間経過でエネルギーは回復していくので、実弾のように撃ち切ることはないという利点もある。
「武装コストの問題もあるから、簡単に武装は増やせないわね〜」
「今でも結構カツカツですからねっ!」
「これはもう、私たちじゃあ良いアイデアは出そうにないわね〜。美空ちゃんや先生に相談したほうがいいわね〜」
* * *
「ふむ、そういう事なら良いパーツがあるデス」
アルテミスの強化案を相談した先生はポンと手を叩く。叢雲の武装開発を手伝ったり、黒風白雨の戦闘データ解析に忙しいなか、気分転換ということで話を聞いてもらったのだ。
「流石は先生ね〜! それで、どんなパーツなんです?」
「ふっふっふっ……聞いて驚け見て笑え……と、言いたいところデスが肝心のパーツは私の家にあるんデス」
「先生自前のパーツってことですか? 先生もマスターだったんですねっ!」
「あー、まぁ昔の話デスよ。とにかく、明日そのパーツと使えそうなの一式持ってくるデス。あとは葛城に手伝ってもらって調整してみるデス」
「ありがとうございます〜先生! でも、エナジードリンクの飲みすぎは身体に毒ですからね〜」
「あっ、ちょっ、返すデス! 私はそれがないと生きていけない体なんデス!」
ヒョイと先生が飲みかけの缶を奪い取る真理。先生はぴょんぴょんと飛び跳ねて取り返そうとするが、無情にも二人の身長差では叶うことはなかった。
「愛宕! 私よりちょっぴり背が高くて胸がデカイからって調子にのんなデス!」
「あら〜、先生にも別けてあげたいわ〜コレ。こうも大きいと肩が凝って仕方ないのよ〜」
「くっ……夜道を歩くときは背後に気をつけるデス!」
* * *
その日の夜。先生の自宅マンション。
「えーと、この辺に確か……お、あったあったデス」
物置代わりに使っている部屋の隅、いくつかダンボールを開いては閉め、開いては閉めを繰り返すこと三十分。ようやく目当ての箱を見つけた先生はヨッコイショと取り出す。やや色褪せた箱はやけにずっしりと重く感じる。
「……懐かしいデスと、独りで過去を偲ぶのは身勝手デスかね」
誰に言うでもなく、いや、本当は自分の相棒に話しかける先生。
クッション代わりに敷き詰めた梱包材をどけると、そこには純白のロングドレスを模したような装甲を纏った一人の少女――――ドールが横たわっていた。
「今更、お前を起動させても許してくれねーデスよね……」
かつてはマスターの一人として、それなりにバトルとカスタマイズに精を出していたことを思い出す。しかし、いつの頃からだろうか、自然とバトルする機会が減り、彼女を箱の中に仕舞い込んでしまったのは。
昔は「引退」というものに明確な線引きがあると思っていた。進学して、就職して、家庭を持って……そういう何かの節目と同時に距離を置くのだろうと考えていた。
しかし現実にはいつから、というものは無かった。気が付いたら彼女は箱の中だった。
「はぁ、そういや愚痴っぽいのは嫌いだったデスね。独りよがりの感傷に浸るのはこれくらいにして、お前のパーツを使わせてもらうデスよ……レフィオーネ」
慣れた手付きで目的のパーツを外していく。ロングドレスの裾部分に内蔵されたそれを取り外された姿はミニスカート風になってしまった。
「おっと、もうこんな時間デス。さっさと今日の分の仕事片付けとかないと明日が面倒デス!」
そう言うと先生はドールを相変わらず散らかっているテーブルにチョイと置き、そのままノートパソコンに向かい始めた。
(……………………)
* * *
「それで、ヴェルグちゃんはどうカスタムする予定なの〜?」
「そうですね、時間もあまり無いことですし……前から作っていた装備を完成させてみようかと思います」
翌日。先生が来るまでのあいだ、真理は美空と自身のドールカスタムについて意見交換して時間を潰していた。
「あら〜、それは楽しみね〜! 美空ちゃんのことだから、きっと凄いのを考えてるんでしょ〜?」
「ふふる……前々からアイデアは温めていたんですが、あの3Dプリンターの導入でようやく製作の目処が立ちました」
葛城美空のドール、フレイスヴェルグは飛行可能な支援機としての役割が強い。そのため、強力な武装は持っておらず一対一のような戦闘では他の二人に劣っていた。
「本当は出来れば、数少ない制空能力をもつヴェルグの長所を活かしたり、近接戦の弱さを補なえるようなオプション装備も作りたいんですが、そっちはちょっと時間が足りないですね。残念です」
「マスター、ヴェルグちゃんは接近戦弱くない。ちょっと苦手なだけ」
マスターと同じく表情の薄いフレイスヴェルグがややむっすりとした顔で抗議する。実際、彼女はそのデータ収集力と持ち前の解析能力を駆使することで近接格闘戦を水準以上に戦うことは可能だ。だが、例えば叢雲のように接近戦に特化したドール相手では少々心許ないというのが実情である。あくまでそれなりに戦える、という程度なのだ。
「あらあら、ヴェルグちゃんは負けず嫌いね〜」
「うー……私はやっぱり接近戦苦手です……」
「アルテミスさんはAI構成からして射撃戦に特化してますからね」
「マスター、ヴェルグちゃんも叢雲みたいな大きい剣が欲しい」
「え? でも大剣は重量が嵩むし、なにより専用のモーションをインストールしなくちゃ……」
「ヴェルグちゃんも、もっと派手に暴れたいお年頃」
「あっ、それなら私みたいにミサイルやキャノン砲装備しましょう! 派手派手ですよっ! こう、ドカーン!ズバーン!って感じですっ!」
「……それはなんか違う、地味。ヴェルグちゃんはもっとこう、SNS映えする武装がいい」
「ガーン!」
「大丈夫。ヴェルグの期待するような派手さや映えとは違うけど、たぶん気に入ってくれる武装だから」
「う〜、マスターがそう言うなら我慢する。ヴェルグちゃんは我慢できる子」
「ヴェルグちゃんは聞き分けの良い子ね〜。アルテミスも見習うのよ〜?」
「ま、真理! それじゃあ私がワガママっ子みたいじゃないですか?!」
「おいーすデス。いやぁ、危うく寝坊するところだったデス」
部室の扉を開けて入ってきたのは、やや寝癖なのか元々の癖っ毛なのか分かりにくい先生だった。
「先生〜もう10時ですよ〜? また夜遅くまで仕事していたんでしょう〜?」
「おはようございます、先生。夜ふかしは美容によくありませんよ?」
「フッ……まだまだお前ら10代の肌にゃ負けねーもちもち感舐めんなデス!」
確かに先生の肌は年齢の割に若々しい……というより、知らない人物からすれば美空らよりも先生の方が幼く見えるのではないか。そんな事を思いつつも、二人ともそういう余計な事は言わないだけの分別はあるのだ。
「それより愛宕、例のパーツ持ってきたデスよ。ホレ」
「わぁ〜ありがとうございます〜!」
「……これは。なるほど、先生の考えが読めました」
「流石は葛城デス。ひと目見ただけで私のプランを見抜いたデスね?」
「アルテミスさんの性能とこのパーツ形状を考慮すれば自明の理、というやつです。真理先輩、私も調整をお手伝いしましょうか?」
「いいえ、美空ちゃんは吹雪ちゃんの方を手伝ってあげて〜? ほら、そろそろ特訓も一区切りしそうだし〜」
ちらりとバトルフィールドの方を見ると、吹雪と叢雲が今日も特訓に励んでいる。相手はバーニングフレアの面々で、バトルのエフェクトよりもマスターの怒号の方が騒々しい。
「そうですね。天之叢雲剣はもう完成間近ですし……先生はどうします?」
「んじゃ、私は事務仕事を片付けたら愛宕の手伝いしてやるとするデス。パーツの加工は任せるデスから、細かいセッティングを見てやるデス」
「うふふ、なんだか楽しくなってきたわね〜!」
「それはそうですよ。これがバトルドール・ガールズの醍醐味ですし」
「うむ、葛城の言うとおりデス。武装強化はロボアニメのお約束で花形デス!」
本戦大会までもうわずか。ブロッサムメイツは少しでも強くなろうと足掻いている。打倒、黒風白雨。目指すは優勝。
夏はまだ、始まったばかりだ。
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